表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
40/149

本編という名の裏の裏話Ⅵ

「いいデスカ! 地面に足をつけないで戦ってクダサイ!」



魔術が襲いかかった途端に、カレンが叫んだ。



「地面に足をつけた時点で飛ばされます!」

「【ウィングラビット】!」



ジンはアメ玉サイズの魂をかみ砕くとドームから走って飛んだ。



「アッ!」

「……大丈夫」



悲鳴をあげたカレンを安心させるかのように、ミーシャは動きそうになった彼女を手で制すと、向かってくる魔術を見つめた。



「……イグシュイット」



そう呟くと同時にミーシャの腕が大木へと変わり、ニュルニュルと伸び、降ってくる魔術に応戦した。



「何者デスカ?」

「……妖精?」

「いや、ざっくりすぎ!」



遠くからジンが空を駆け回りながらミーシャにツッコんだ。



ジンは何もない空間を蹴ると、次々襲いかかってくる魔術を躱し続けていた。



まるでそれはラルカが言っていたとおりのダンスだ。



「変わった魔法ね」



ラルカもジンとミーシャを見て、率直な感想を述べていた。



しかし、その手を緩めることはなく、次から次へと魔術を展開して飛ばしていく。



「でも、ここからが本番よ」

「なっ!?」



ラルカが口元に笑みを浮かべた途端に、動き回っていたジンが驚きの声をあげた。



「ジン!」



何事かとみると、ジンが空中を瞬間移動していた。



それがジンが起こしたものではないことは表情からすぐに読み取れた。



そして、ジンだけじゃない。



魔術もあちらこちらを行ったり来たりと、不規則に瞬間移動しジンを襲っていた。



ぐるぐると変わる視界と、どこからともなく現れては消える大量の魔術。



ジンの頭が、集中力が切れるのはすぐだった。



「があぁっ!」

「……ジンっ」

「あら、余所見をしていいのかしら?」

「……っ」



今度はあなた達の番とばかりに魔術が多方面から出現した。



「……しまった」



両腕から木を生やしたところで、結局は一度に対処できる方向と数は決まっている。



同時に魔術を仕掛けることができるラルカにとって、ミーシャの攻略は簡単すぎる。



「私に捕マッテ」

「……?」



カレンに言われ、とりあえずミーシャはカレンの服の裾を掴むと、



「【交換・・】」



その瞬間、つい先ほどまで隣にいたミーシャと、浮いていたはずのラルカが入れ替わった。



「……は?」



そこで初めて驚いたラルカの横腹に衝撃が起きた。



それがカレンからの肘鉄だと気付くと同時に、危険を察知した。



今、ミーシャを攻撃したのは自分の魔術だ。



そのミーシャと自分が入れ替わったということは、先ほどの魔術はすべて――



「しまっ――



――た、と言う前に自ら放った魔術がぶつかった。



大きな爆発がそこを中心に起きる。



「……カレンっ」

「大丈夫デス」

「……え?」



いつの間にかカレンはミーシャの隣に立っていた。



「……どういうこと?」



ミーシャは信じられないものを見るかのようにカレンを見て、それに対して、カレンは安心させるように微笑みを返した。



次に気付いたのは自分が空中で立っているという事実だ。



浮いているような感覚があるのに、なぜか立っているという変な感覚だ。



「……やるわね」

「っ!!」



ラルカの声がして、少し離れた場所を見ると彼女は服を少し汚れさせていながらも、五体満足で立っていた。



「少しタイミングを間違ってしまいましたカ」

「そのようね。おかげで間一髪よ」



今まで自分が上から見下ろしていた相手が、今は自分の上にいる。



たったそれだけの事実にラルカは頭に血を登りそうになるのを抑える。



大丈夫だ。相手は格下だと自分に言い聞かせる。



「驚いたわ。まさか私と同じ空間を操る魔法を持っているなんて」



今の手はもう使えないだろう、とカレンは考える。



同じようにミーシャとラルカを交換できるかもしれないが、一度使ってしまえば、手の内を晒してしまったも同然。



交換するタイミングに合わせて、転移魔法を使えば、交換は無意味と化す。



そして、ラルカも今きっと同じようなことを考えている。



ランク『A』を侮ってはいけないことを、つい最近会ったばかりのあの男・・・から学んでいる。



『セッカク理性ヲ得タ魔物ナノダ。ドウセナラ人ヨリ賢クアレ』



昔、ヘイゲルに言われた言葉をカレンは忘れたことはない。



(彼女はきっとこれも考えているハズ。私達が浮いている理由ヲ)



そうなれば彼女はこの結論に達することだろう。



カレンの魔法は二つあって、その内の一つが【交換】だということ。



そしてもう一つは。



(飛翔、固定、はたまたまったく別の魔法。その系統だと考えるハズ)



しかし、そのどれもが間違いだ。



カレンの魔法はもっと単純で、それでいて扱いの難しい魔法だ。



「…………」



それを知らないラルカは警戒の目でカレンと睨み合う。



「……カレン」



互いに目を逸らさない中、ミーシャがカレンに話しかけた。



「……ジンがピンチ」

「……さあ、知ったことではありまセン」



今は一瞬でも気を逸らしてはいけない、という気持ちがある。



けれど、心の底から出た言葉でもあった。



しかし、ミーシャの暗い顔を横目で見てしまっては、さすがのカレンも少し妥協をせざるを得なかった。



「あれくらいなんとかできるようでなければ勝てまセンヨ。この相手ニハ」

「……でも」

「目を逸らしてはいけまセン」



転移魔法の使い手の最も厄介なところは、一瞬で攻撃を仕掛けられること。



こちらの先の動きを読まれたら、間違いなく死角を突いてくるに違いない。



「やっぱりあなたは他とは違うようね。魔物さん」

「戦いは生きるか死ぬカ。私達はそういう場所で生きてきましたカラ」

「手強いわね」



実力は間違いなくランク『A』であるラルカの方が強い。



ランク『A』とは、ランク『B』以下の者達がどれだけ知恵を振り絞って勝とうとしても勝てない存在。



それを自覚していながらラルカは思う。



油断のならない相手だ、と。



「あなたに敬意を込めて、ここからは全力でいかせてもらうわよ」

「ッ!」



ラルカが何かしようと動く前にカレンがいち早く殺気を感じ取って周囲に警戒を向ける。



「……?」



何も起こらない……。



そう思った瞬間だった。



「ぐふッ!?」

「……カレンっ」



突然カレンは腹部を押さえて、口から血を吐き出した。



ミーシャが隣から心配そうに見つめるのにもかかわらず、カレンはあくまで冷静に周りを確かめるが何かが変化した様子はない。



では、一体なぜ自分はこんなにも苦しんでいるのか。



「転移……マサカ?」

「あら、気付くのは早いようだけどもう遅いわよ?」

「ッぶふ」

「……カレンっ」



じわじわと身体が壊れていくような感覚。間違いなかった。



「内蔵に毒の魔術を入れラレタ」

「正解よ」



あまりに見所のない戦い方ゆえ、ラルカ自身もあまり好むやり方ではないが、最も確実に相手を仕留める方法。



転移することができるのは何もない空間のみ。



巨大魔術では人の体内に転移はできないが、今ラルカが使ったような毒ガスの魔術なら直接身体全体に染みこませることも可能となる。



「保って数十秒、といったところだけど」



さすがに毒の魔術だけを置き去りに、自分とラルカを交換できないだろう。



空間魔法の極致とも言える【転移】を使うラルカができないことを、他のものでできるとは思えない。



さすがに勝負ありだろう。



そう思ったときだった。



「ッぶ!?」



()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「は……?」



さすがにそれにはラルカも目を見張った。



「なぜ私に毒ガスが?」



冷静に毒ガスを転移で取り除き、身体の隅々まで転移で浄化した後、改めてカレンに目を向けた。



「……どうなっているの?」



数十秒で死ぬはずで、残り僅かな命も満足に使えないはずのカレンが、多少苦しそうな表情をしつつも、しっかりと空中に立っていた。



「ありえないわ」

「そう、デショウネ」



ラルカの呟き程度の声に、カレンはあくまで冷静に答えた。



「魔法を二つ以上持っている者はランク『A』ともなれば珍しくないとは思いますが、私のようなイレギュラーが持っているナンテ。あなた達からすれば珍しくないでショウネ」

「ここまでくれば二つどころじゃない気もするわね」

「そうかもしれまセンネ」



ラルカは目を細めてゆっくりとカレンを観察する。



そして今まで起きたことを素早く頭の中で整理を始める。



まず、カレンの魔法の一つは【交換】である。それは間違いないだろう。



次は空中で立っていられる魔法について。



風魔法というのも考えられた。



だが、それではなぜ先ほどからカレンは攻撃魔法を使ってこないのか。



攻撃してこないということは、言い換えれば、攻撃できないのではないか。



例えば、攻撃に使える魔法は一つも持っていない。彼女の本職は支援型なのか。



そう考えてラルカは首を横に振った。



であれば、そもそもこの場所に来ていることがおかしい。



自分と戦うのだ。



例え米、いや砂粒程度の力だとしても、多少は戦力の高いものを連れてくるはず。



思い返してみれば。



【交換】した直後に撃ってきたあの肘鉄。



あれはどう見ても近距離を生業としてきた者の撃ち方だった。



ではなぜだ。



近距離を得意としている者が、どうして近づこうとしてこない。



なぜ攻撃の意志を見せない。



例えばだ。



例えば、彼女が何かを隠そうとしているのならば。



何かを隠しているのなら。



「……あぁ、そういうことだったのね」



そこまで考えが至ったとき、ラルカは口元に笑みを浮かべた。



「あなた、傭兵より詐欺師に向いているかもね」

「この短時間でバレてしまった時点で、詐欺師になることは諦めマシタ」

「ふふっ、そうね」



余裕を取り戻したラルカはカレンに向けて言った。



「あなたの魔法は二つなんてものでもなければ、ましてや複数あるわけでもなかったのね」

「ハイ」



カレンは素直に頷くと、自ら答えをバラすことにした。



「私の魔法は【複製コピー】私に触れた者の魔法の一つを私も使えるようになりマス」



ただし、一度上書きされればその前の魔法は使えなくなりマスガ……。



と、カレンが目を閉じると同時に、



「……余所見は禁物」



いつの間にか空高く上がっていたミーシャの両腕の巨大植物がラルカにへと降り注いだ。




2018/06/27 割り込み


長い……。長いよ、裏話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ