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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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本編という名の裏の裏話Ⅳ

 ジン達がフミからの情報を頼りに、森へと向かっている最中のことだった。



「……ジン」

「ん?」



 ミーシャがジンに話しかけると、ジンは聞こえやすいようにとミーシャへと顔を寄せた。



 そのときミーシャの顔が少し赤くなったのにも気付かずにジンは。



「どうかしたのか?」



 と尋ねた。



 ミーシャは長い髪で自分の顔を少し隠すと、後ろの方に目を少し向けて言った。



「……あの人は誰?」

「……あぁ」



 ミーシャが目を向けた先にいるのは、見た目は普通の人にしか見えない一人の女性だった。



 カレン=キュリアム。



「彼女は傭兵ギルドの副ギルドマスターだ」

「……綺麗な人ね」

「そうだな」

「……」

「え? なんで急に黙った?」



 突然不機嫌になったミーシャはジンの脇腹を軽く突くと、チラリとカレンを見た。



「……どうしているの?」

「いや、だから出る前も言ってただろ」

「……聞いてなかった」

「えぇ……」



 ジンはミーシャに呆れる様子を見せながらも、ここに来る前のことをミーシャに説明した。



 洞窟に突入するタイミングとラルカを襲撃するタイミングは一緒でなければならない。



 そのために、洞窟班とラルカの捕獲班の二つに分けることにし、ジン達は捕獲班、傭兵達は人質救出班を。



 ここまではミーシャも大丈夫なはずだ。



「そのタイミングを教えるのが彼女の役目だ」

「……あ、そう」

「えぇ……」



 せっかく説明したというのに、ミーシャはまるで興味なさそうにカレンをジッと見つめていた。



 その見られているカレンも、話は聞こえているはずなのに、まるで気にしていないとばかりに黙って後ろを歩く。



 冒険者達もカレンの美貌に僅かながら見とれているにもかかわらず、誰も彼女には近づこうとせず、遠目からジッと彼女を見続けていた。



「ミーシャも警戒しているのか?」

「……警戒してはいるけど、今は少し意味が違う」

「……?」



「どういうことだ?」とジンが尋ねる前にミーシャはカレンへと歩み寄った。



「何でショウカ?」

「……」



 国を出て初めて口を開いたカレンに、ミーシャは顔をジッと近づけると、



「……やっぱりおかしい」



 と言った。



「何がデスカ?」



 カレンは急に睨みつけるように目を細めると、すぐに目の間に皺を寄せた。



 しかし、ミーシャのように口には出さずにジッとミーシャを見つめ返すと、ミーシャはカレンの全身を眺めてからこう言った。



「……混ざっている?」

「……」



 そのとき、カレンの動きが僅かに止まったことにジンだけが気付いた。



 何か秘密にしておきたいことがバレてしまったかのように。



「あなたも私を忌み嫌いマスカ」



 一体何の話をしているのか、ジンが立ち止まる二人に近づこうとしたところで、



「見えてきたぞ」



 戦闘を歩いていたカタリヌが振り返ってそう言った。



 しかし、カタリヌもすぐにその異様な雰囲気を察したのか、



「何かあったのか?」



 とジンに尋ねたが、ジンは首を横に振って答えた。



 ミーシャがカレンの何かを知ってしまったことは確かのようだが、それが一体何なのかまでは知らない。



 スッとミーシャはカレンから離れると、再びジンの隣に立った。



「カレンがどうかしたのか?」



 ジンがそう聞くと、



「……ジンは知るべきにはまだ少し早い」



 とミーシャが言ったことに、何よりも驚いたのはカレンだった。



 隠すとは思っていなかったのだろう。



 ジンは不思議そうに首を傾げたが、今は人の事情に踏みいる余裕はないな、と区切りをつけると「そうか」と素直に頷いて、そのことに追求せずに話を切った。



「よくわからないが大丈夫、でいいんだよな?」

「はい、大丈夫デス」



 カタリヌがおずおずと聞くと、カレンは何事もなかったように眉一つ動かさずに答えた。



「それより、目的地はここデスカ?」



 ジン達とカレンが怪訝な顔をして前を向くと、そこには何の変哲もない森が続いているだけだった。



 カタリヌの話ではラルカのいる住処は魔法によって隠されている、という話だとは聞いてはいたが、それを考慮してもまったくそこに何かがあるとは思えない。



 思えないし、何も感じられない。



「ランク『A』の実力を持っている者だ。これくらいできて当然だよ」



 カタリヌでさえ言われなければ気付かないほど。それどころか、正直疑っているくらいだ。



「ランク『A』というのは一つの答えのような存在だよ」

「……?」



 どういう意味かわからないジン達に、カタリヌは「どう言えばいいのか……」と顎を押さえて、



「ランク『A』の冒険者は一つの極致にたどり着いた者と言えばわかるか?」

「極致、デスカ」

「ああ。何か一つに特化した者と言った方がわかりやすかったか?」

「ああ、いえ。大丈夫です」



 ジンはどこか他人行儀に聞いていたが、カレンだけが少し思いあたりがあるように遠い目をした。



 そして、ハッと思い出したように冒険者達の顔を見ると、



「イナイ?」

「ん? 誰がだ?」

「いえ、こちらの話デス。気にしないでくだサイ」

「そうか?」



 カレンの言葉に少し疑問を持ったカタリヌだったが、とりあえず冒険者達を集めて、最後の確認を始めた。



「これから先はすべての指揮を執らせてもらう。そこに異論がある者はいるか?」

「いや、大丈夫だぜ。カタリヌさん」



 ソルドがそう言うと、他の冒険者達も頷いた。



「まず、戦闘は私に任せて欲しい。ランク『A』の戦いに下手な手出しはあまりに危険だからな」

「私達はあなたのサポートをするだけでいいわけデスネ?」

「あぁ」



 ラルカが一人でいるのか、仲間といるのかまではわからない。



 もし仲間がいたときはその対処をする。それが今回のジン達の役目となる。



「準備はいいか?」

「いつでも大丈夫だ」

「よし」



 冒険者達の覚悟を決めた顔を見たカタリヌはゆっくりと立ち上がると、腰に掛けてある紫の鞘に手をかけた。



「何をするつもりだ?」

「まぁ、見てな」



 ジンが眉を細めると、ソルドが安心させるように言った。



「彼女の剣は特別性のものでな。彼女の剣は魔法を切り裂くことができる」

「切り裂く……?」



 その瞬間だった。



 カタリヌの鞘からカチャリと剣を抜く小さな音が鳴った。



 だが、すぐにカチャリと鞘を仕舞う音が響いた。



「なっ」



 驚くジン達と同じように、気付けばその空間に多数の斬撃の跡が生まれていた。



 パリン。



 というガラスにも似た音が鳴ったと思いきや、空間の一部が窓のように割れ落ちた。



「……まったく見えなかった」

「同じくデス」



 だが、そのときだった。



「っ!? マズい!!」



 カタリヌが突然焦った声を出した。



 そして次の瞬間――



「――逃げ



 カタリヌが跡形もなく消えた。



「……は?」

「おいおいおいおい!!」



 呆然と固まる冒険者の中でソルドがいち早く動いた。



 その次に動いたのはカレンだった。



 彼女はカタリヌがさっきまで立っていたすぐ手前に歩み寄るとしゃがみこんだ。



「やられましたネ」

「え?」

「転移の魔方陣が描かれてイマス」



 それはジンとミーシャにだけ聞こえた。



「……わかるの?」

「えぇ、マア」



 カレンはゆっくりと立ち上がると、戸惑う冒険者達を見て、何かを言いかけようとして首を横に振った。



 きっと自分の言うことなど誰も聞いてくれないだろう、と思ったからだ。



 だが、そのカレンの側にミーシャは歩み寄ると、



「……大丈夫だよ」

「すいません。私は彼らを信じることができませんノデ」

「……なら私は信じられる?」

「……」



 カレンはミーシャを見つめ返すと、ゆっくりと頷いた。



 まだ完全に信用したわけではないが、今一番信頼できる相手なのだろう。



 二人の何が共通しているのかまではわからないが、ジンはその二人にとって悪くないことだけははっきりと遠目からでもわかった。



 カレンがミーシャに顔を寄せて、何かを伝えるとミーシャはコクリと頷いた。



「……おそらくこの結界の周りに転移の陣が張られている」



 ミーシャがカレンの言葉を代弁すると、冒険者達はそれをミーシャからの言葉と受け取った。



「どういうことだ?」

「……罠ってこと。ランク『A』以外をここに残すため」

「それってまさか」

「……そういうこと」



 バカ真面目にカタリヌと戦う必要はない。



 カタリヌだけがラルカと戦う力を持っているのなら、彼女だけを飛ばしてしまえば、自分と戦える者はいなくなる。



 簡単なことだ。



「待ってくれ。それって少しおかしくないか?」



 冒険者の内の誰かが言った。



「ここに来るのは俺達しか知らないはず。まさかずっと来るかどうかもわからない魔方陣を仕掛けておくか普通?」

「……実際そう」

「いやいや。俺から言わせればだな」



 そう言って意味ありげな目線をカレンに向けようとしたとき――



「っ……!?」

「ミーシャ!?」



 ミーシャの魔法である先の尖ったツルの根がその冒険者の首下まで伸びた。



 慌ててジンがミーシャを見ると、彼女の怒った顔を初めて見た。



「……それはありえない」

「っ……」



 ミーシャの本気の殺気に誰もが汗を掻いた。



 それはジンも例外ではなかった。



 今のミーシャなら、きっとジンが彼と同じようなことを考えていただけで攻撃を向けてくる。



 そして、そのとき本気の彼女に自分は絶対に負けるとそう悟った。



「……カレンは敵じゃない」

「あ、あぁ……」



 絞り出すように声を出した冒険者の首下から根を離すと、ミーシャは安心させるようにカレンを見た。



「……ね?」

「あなたはすごいデスネ」

「……ん」



 嬉しそうに口元に笑みを浮かべたミーシャとカレンをジンは黙って見ることしかできなかった。



 それが何よりも恥ずかしかった。



 だけど、今はそんなことをしている場合ではないことに誰も気付いてはいなかった。



 カタリヌが転移された時点で、すべきことは誰かを疑うことでも、ましてや自責の念に囚われることでもないのだ。



「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああっっっっ!!」

「なんだ!?」



 後ろの方で悲鳴があがった。



 そこでは冒険者達が宙を舞い、あらゆる空間から魔法を打ち付けられていた。



「なんだか邪魔するようで悪いけれど、邪魔をしてきたのはもともとはそちらなのよ?」



 どこからか女の声が聞こえた。



 カレンは慌てて通信機を取りだし「聞こえマスカ!! ヘイゲルさん!!」と叫んだが、返答は返ってこなかった。



「無駄よ。通信機の電波は彼らには届かない」



 女の声が笑った。



「音は振動で、振動は空気を伝えるもの。そして空気は物質。私が転移できないはずがない」



 すべては筒抜けだったのだ。



 音を転移させてしまえば、それは一つの盗聴器。



「電波も同じ。電波も波なのだから、転移してしまえば届くことはない」



 すべては誤算だったのだ。



 森の中に結界があるとカタリヌは言っていた。



 だがそれは結界の話で、転移陣はもっと大きく作られていた。



「森の中の情報は、森の外には絶対に届かない」



 ランク『A』同士の戦いでは、いかに相手より有利な戦場を作れるかが鍵になる。



 そして今回軍配が上がったのは言うまでもなくラルカだったのだ。



「さて、本当はもう一人いる想定だったのだけど、さすがに全部が全部上手くはいかないようね」

「何を言っている!?」



 ジンの叫びを気にも止めず、女の笑い声はだんだん強くなる。



「さて、思う存分死んでちょうだい」



 その瞬間、頭上から大量の魔法が降り落ちた。




2018/06/23 割り込み

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