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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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本編という名の裏の裏話Ⅱ

「も、元ランク『A』の冒険者!?」



 ソルドの予想外の発言に、ジンを初め、ギルドの中が騒然とする。



 その中でただ一人だけがそれに黙って聞いていた。



「【無限のラルカ】……彼女のことは私も深くは知っているわけではないが、かつては相当の魔術師だったらしいな」

「相当、なんて話じゃないですよ!」



 ソルドが珍しく焦った様子でカタリヌに訴える。



「王国史上最大の魔術師とも呼ばれ、魔術研究の第一人者でした。彼女が行方不明になったのは確か二年前。それ以来、魔術研究が大幅に進んでいないって話もあるくらい、彼女は王国にとって価値のある人だった」

「それほどの人物がなぜ行方を眩ませた?」

「それがわからないんです」

「わからない?」



 カタリヌの質問に答えられないのが悔しいのか、ソルドは顔を顰めると、顎に手を当てて独り言のように呟いた。



「……それほどの人物が行方不明になったにも関わらず、王国は彼女を捜そうとしなかったんです」

「なんだって?」

「いえ、少し言い方が悪かったですね。捜すには捜したんですが、そのクエストを任せられたのが俺達ランク『B』だったんです。……まぁ、だからこそ、憶えていられたわけですが」

「……」



 確かにおかしな話だ。カタリヌもそう思う。



 国の最重要人物と言ってもいいほどの人物をなぜランク『A』ではなく、ランク『B』に任せたのか?



 手の空いているランク『A』が誰一人いない、なんて状況があり得るだろうか?



「なにやら胡散臭い匂いがしてきたな」

「どういうことですか?」



 先ほどから話についていけてないジンが、ようやく口を開いた。



「国が何かを隠している気がして仕方がない」

「国が?」

「あくまで可能性の話ではあるが、今回の件に国が何か関係しているかもしれない」

「隠蔽……ってことですか?」

「可能性としての話だ。確証はない」



 何かを隠蔽するために今回の事件を起こしたのか、今回の事件の裏に何かがあるのか。はたまた、それとはまったく無関係なことが起きようとしているのか。



 とにかく、この件について、一度国と対話した方がよさそうだ、とカタリヌは考えをまとめると、ゆっくりと息を吐いた。



「とりあえず、今は仲間の救出の方が先か」

「……大丈夫でしょうか?」

「何を言っている、ジン?」



 それは、仲間を助けに行くこと自体が罠で、誘導させられているかもしれない、ということへの不安だろうか。



 だとすれば、当然、救出に行っても罠が仕掛けられているかもしれない、という不安もあるかもしれない。



 だが、カタリヌはそんなジンの不安を鼻で吹き飛ばす。



「例え罠であろうが、仲間の命を助けないなんて選択肢はこちらにはない。仲間を助けずに国を守ろうと考えるのも決して間違いではないが、それでは一生ランク『A』にはなれない」



「ランク『A』は誰よりも欲張りでなければならない」とカタリヌは言う。



 ランク『A』は誰よりも欲張りであるから、策略を立てて確実な勝利へと導く。すべてを得ようとするから、失敗は許されず、また、愚行を許さない。



 ランク『A』は純粋な欲張り者でなければなることはできない。



「仲間も国も守る。それができてこそのランク『A』だ。どちらか一方、なんて考え方をしていては二流だよ」

「な、なるほど……」



 ジンが思わず頷いてしまうほどに、自信に満ちた顔をカタリヌは浮かべていた。



「それに安心してくれ。この国の護りは城下ギルドが持ってくれるはずだ」

「すいません。お手をさらに煩わせてしまうようで」

「気にするな。こっちが勝手に巻き込まれただけだ」



 そうは言うが、今回の件に関してはカタリヌがいなかったら、ブレーカーを担う人物がおらず、何の策もなく相手の罠にはまるところであった。



 助けられているのは間違いなく、ジン達のギルドだ。



「自分達が今すべきことだけに集中するんだ。私達が今すべきことはどうやってラルカを倒すか。それだけだ」



 余計なことを考えている余裕は今のお前達にはない。そう言われたのだ。



「では、ラルカの居場所なんだが――」

「はいは~い! 呼ばれて出てきたフミちゃんだよぉ!」



 カタリヌがその先を言おうとしたところで、場に似合わない元気な声がカタリヌの後ろから飛び出してきた。



 一瞬だけ「カタリヌはその声を出したのでは!?」と思い、ギョッとした一同だったが、彼女の後ろからひょっこりと猫の耳が顔を出した。



「その先は私から言ってもいいかな!?」

「フミさん?」



 やけに面白そうに笑う女性従業員フミは自身の慎ましい胸をドンと叩くと、誇らしげに言い放った。



「今回、ラルカの居場所を特定したのは実は私だったりする!」

「そうなんですか?」

「彼女の魔法は【位置特定】といってな。何でも、捜したい相手の顔を見ることでその居場所を特定できるものらしい」

「ちなみにだけど! 転移された者達の居場所を特定したのも私だからね!」



 さぁさぁ、私を褒めるんだ!



 と、言わんばかりの態度を取るフミだが、周りからの目はどうも冷たい。



 素直に感心の目を向けているのは、ジンとミーシャ、そしてカタリヌだけだ。



 他の者達はどうもどこか納得していない表情だ。



「な、なんで褒めてくれないのさ……?」

「いや、そりゃぁお前――」



 ソルドが複雑な顔をしながら言ったのは、



「――普段は寝ていて全然働いてねぇからだろ」

「んにゃ!?」



「そうなんですか?」ジン達がソルドにそう聞くと、周りの冒険者達が揃って頷いた。



「いつも堂々と受付で寝て、何度もギルマスに怒られているんだよ」

「ちょっとばかり働いたからっていい気になられても……ねぇ?」

「それも正確には、受付の働きじゃねぇしなぁ……」

『うんうん』

「何さ!? なんなのさ!? みんなしてひどくない!?」



 そう言うなら普段からもちゃんと働いてくれ、と冒険者達が呆れるような目を向けると、フミは痛いところを突かれたと一歩退く。



「い、いいもん! だったらラルカの場所教えないからね!」

「カタリヌさん。どこですか?」

「あ、あぁ。それは――」

「ああぁぁああ!? ごめんなさい! 喋りますから! 私の唯一の活躍の場を取らないで!?」



 だからお前の活躍の場はここじゃねぇだろ、と声を揃えた冒険者達。



「うぅ……。最近の冒険者達がひどくて泣きそうな件」

「いや、そういうのもいいから早く言ってくれ」

「はいはい! わかりましたよ! 言えばいいんでしょ!」



 半ば逆ギレのようにフミは声を荒げると、その場所を伝えた。



「転移先の洞窟を越えてもう少しした場所。小さな森があるんだけど、その中に比較的新しい建物があって、そこにいるよ」

「新しい建物?」



 ソルドがその場所を頭に思い浮かべるが、思い当たる建物どころか、そこら辺には建物すら見たことがなかったはずだが……。



 だが、カタリヌが「おそらく」と補足するように口を開いた。



「何らかの魔法によって隠されているのであろう。そこがラルカの隠れ家に違いないだろうな」

「だとしても、これまで気付かなかったその建物を、俺達は見れますかね?」

「そういう魔法は大抵一人が視認すれば他の者達も視認できるようになっている」

「なるほど」



 その一人は言うまでもなくカタリヌになるだろう。



 幻覚や隠匿系の魔法への対処方法はシンプルで習得してしまえば楽なものだ。



 どちらも目を欺かせる魔法。であれば、目に頼らなければいいだけの話。



 ランク『A』が目先の情報だけにとらわれる者達ではないと、そろそろ説明しなくてもいいだろう。



「だが、やはり相手の本拠地ともなると、罠が仕掛けられていて当然だろうな」

「どうします?」

「相手の考えを読もうとするのは場合によってはただ愚策だ。無駄な読みは逆に突然の対処を捨てるようなものだ」



 要するに臨機応変に動き回れと言うことだろう。



「まぁ、作戦という作戦はないが、ラルカ攻略の対策は練っておこう。例えば、相手の魔法はもう知っているのだから、自分であればどういう風に攻撃してくるか。それを推測してみるとか、な」



 とにかく自分の考えられる攻撃パターンを推測し、その避け方を皆と共有する。



『読み』と『対策』



 似ているようだがまったく別のものだ。



 大方の話もまとまったところで、カタリヌは「よし」と満足そうに頷いた。



「後は傭兵ギルドを信じるしかない。しかし……そうだな。人質を戦闘に巻き込むのもこちらの不利。彼らと同時に作戦を始めるとしよう」

「合図は?」

「なに。空に魔法でも何でも撃てばいいだけさ」



「他に何か気になることは?」そうカタリヌが最後に尋ねると、彼らは首を横に振った。



「では、今の話をあちらのギルドにも伝えるとしよう」



 カタリヌがそう言って反対のギルドに向かおうとしたところで、



「待ってください。カタリヌさん」



 ジンがどこか納得していない様子で呼び止めた。



「……どうした?」

「僕もついていきます」

「そ、そりゃそうだろう?」

「いえ、そういう意味ではなく、ギルドに行くという意味です」



 本来、傭兵ギルドを見張り、かつ共存しようと意欲的に動くべき者は門前ギルドのはずだ。



 にもかかわらず、どうしてカタリヌがその仲介を担おうとしているのか。



 そうジンは思ったのだ。



 ジンの言葉に意味に気付いたカタリヌは、フッと笑うと。



「あぁ、そういうことなら構わないよ」

「ありがとうございます」



 ただただ真っ直ぐな目が懐かしい。



 経験の浅い者だけが持てる目の輝き。



 自分にもそういう時期があったのかと思うと羨ましくなる。



「君はいつまでその目を持っていられるかな?」

「え?」

「いや、何でもないよ」



 我ながら変なことを聞いてしまった、そう思った。



「では、行くぞ」

「は、はい!」



 返事をしたジンはカタリヌの背中を早足で追いかけた。


2018/04/17 割り込み


書いているときに気付きましたが、フミが登場人物紹介に出ていなかった……。

ここも修正の余地あり、と。

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