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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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モブと友達

 覚悟を決め、俺はリンのいる場所へと駆け出す。



 だが、もちろん。その間には邪魔くさい壁達が立ちはだかる。



 一度これを突破したときと同じように足の裏を爆発させる。



 だが。



「飛んでこない?」



 ヘイゲルも冒険者も、誰一人空中に飛び出してこない。



 何のつもりだ、ヘイゲル?



 そう疑問に思ったときには、もうその意味の答えが明らかになっていた。



「なっ!?」



 気付けば俺は、地に・・足をつけていた・・・・・・・



 驚く俺の耳に、誰かが着地するような軽い音が聞こえた。



 そういうことか……。



 ヘイゲルだ。



 空中に一人飛び出した俺はさぞかし視界に映りやすいだろう。



 俺と仲間を入れ替えることで、頭上を飛び越えることを禁じた。



 しかも、俺は敵地のど真ん中。



 洞窟に入る前に言ったことを本当にやってくれるとは。



「伏線屋でもやったらどうだよ?」



 ここまで密着した場所では、剣よりも体術の方が活かせる。



 剣をすぐに仕舞って、体術で周りの奴らを吹き飛ばす。



「チッ!」



 すると今度は俺から距離を取って、剣を振るってくる。



 多方からの複数の剣を、たった一本の剣で防ぐことは当然できない。



 体捌きでいくらか躱そうと試みるも、全部とはいかなかった。



 俺の腕や足に赤い線が滲み出る。



 相変わらず、上手い戦い方を知っていやがる。



 俺よりも多人数の戦い方を知っているヘイゲルは厄介だ。



 ヘイゲルを先に倒したいところだが。



 あの野郎。



 俺から距離を取って、いち早く自分だけ安全地帯に逃げやがった。



 ヘイゲルの魔法を考えると、正攻法なのはわかっているが、実際にやられたらここまで腹立つもんなんだな。



 そうしている内にも傷はどんどん増えていき、このまま受け続けるのは危険と判断し、俺は地面を蹴る。



 飛び越えるのはヘイゲルのおかげで不可能となった。



 であれば、敵の中を力尽くで突破する以外の方法はない。



 つまり、強引に突破する。



 ヘイゲルに邪魔されないように死角となる場所を探すが、そうゆっくりとしている時間はない。



 一瞬の油断でヘイゲルによって戻されてしまうのだから。



 ヘイゲルもヘイゲルだが、他の奴らも思った以上に厄介なのがちらほらいる。



 実を言うと、冒険者や【リザードマン】らそうでもないのだ。



 それよりも、最も厄介なのが、何でもない一般人だ。



 彼らは当然ながら鍛えているわけではない。



 老人なんかその最たる者だ。



 だからこそ、少し手加減する程度じゃ殺してしまう危険がある。



 一般人相手には相当な手加減をしなければならないのに、その直前でヘイゲルが一般人と冒険者達を入れ替えてくる。



 つまり、一瞬手加減したところに攻撃役を出されるということ。



 それだけでやられるわけではないが、精神的にはやはり疲れが溜まってきて仕方ない。



 かといって、入れ替えることを前提に、手加減せず攻撃して、万が一彼らに何かあったらと思うと、イライラが募っていく一方となる。



 他に、頼れる奴はいねぇのか!



 でも、今ここにいるのは俺しかいないわけ。



 どうせなら、一人で来れば良かった。



 特にヘイゲルは連れてくるべきではなかったな、と今頃になって反省する。



 ……というか、俺がいなかったらこの作戦成功してなかったんじゃないか?



 いや、まぁ。こんな状況じゃ、俺がいても成功するかどうかもわからんが。



「くっ……」



 そんなことを考えながらも、俺の服には赤い染みが増えていく。



 前も後ろも敵だらけ。



 ただの敵ならまだしも、敵であり味方でもあるから余計にタチが悪い。



 相手を殺さずに突破するのは、さすがのランク『A』でも難しいっての。



 リンのところまでの道が長すぎる。



 どうやったらこの状況を突破できる?



 一つだけ方法があるといえばあるのだが……。



 しかし、これはかなり危険な方法。



 一歩間違えれば本当に死ぬかもしれない、イチかバチかの賭けだ。



 だが、その躊躇ためらいが隙を生んでしまう。



 いつの間にか、ヘイゲルがすぐ側にいた。



「まずっ……!」



 ヘイゲルの剣を防ごうと、剣を構えたところで、上から【リザードマン】が襲いかかってくる。



 だが、それすらも囮。



 本当の目的は焦りによって生まれた一瞬で、目を離してしまったソルド教の男。



 後ろからの攻撃に思わず剣を掴む力が緩み、追い討ちをかけるようにヘイゲルによって剣を弾き落とされた。



「嘘だろ、おい!」



 剣を拾おうとしても、まだ上からの攻撃が残っている。



 拾っている暇などありはしない。



 上からの攻撃を躱すためにヘイゲルの腹を蹴る。



 どのみちこのままじゃ死んじまう! やるなら今しかねぇ!



 覚悟を決め、俺は敵の群れへと突っ込む。



 ヘイゲルの前に小さな爆発を起こし煙幕を起こし、目くらましする。



 その間に、俺は痛みを覚悟して敵の間をくぐり抜ける。



【リザードマン】や冒険者達の攻撃を必死に我慢する。



 俺は自分の体に傷ができるのを無視してひたすら駆け抜ける。



 ……足を止めるな。限界を越えてまでも走れ。



 ある意味で【ファイナルアーマー】戦よりも死を間近に感じている気分だ。



 重い一撃で殺される恐怖ではない。



 この内の一発の当たり所次第では、死ぬかもしれないという恐怖が俺の足を引っ張る。



 数多の切り傷や打撲を受けつつも、数多の恐怖を感じながらも、それでも俺は駆け抜ける。



 足を止めたときが本当の死であることを俺は知っている。



「ぜぇ……。ぜぇ……」



 ちょうど俺がすべてを出し切り、倒れるとそこは――



「ど、どうして……?」



 ――リンが俺を怯えた表情で見下ろしている。



 もう立つ体力もなく、倒れながらも、リンを見上げる。



「い、いや……」



 怯えているリンに、俺は痛みを堪えて、それでも強引に笑顔を作る。



「やっと、着いた……。今度は、もう逃がさねぇからな」

「こ、来ないで!」



 来ないで、と言われても、俺はもう歩くこともできない。



 俺の体はもう動けない。



「俺は、リンに、話があるんだよ」

「い、いい。いらない……」



 いらないじゃねぇよ。俺がここ最近、どれだけ発言と取られてるか、リン。知ってるか?



 ……知るわけねぇよな。



「いいから聞け。……はぁ、はぁ。いいか? 俺とリンは、友達じゃない」

「やめて!」



 耳を塞ぐリンを、それでもまっすぐに見つめる。



 いい加減、俺の話を聞いてもらわねぇとな。



「やめねぇよ。……いいか? なんで俺がリンと、友達じゃないって言ったか、わかるか?」

「聞きたくない。わたしは……。わたしは……」



 聞きたくない、じゃない。



 これだけははっきり言っとかねぇと、意識を失うにも失えねぇ。



「それはな――」

「聞きたくない!」



 いいか、よく聞けよ。








「――だって、俺がまだ自己紹介してないじゃん?」








「…………え?」



 リンは初めて俺に会ったときと同じように目を見開いた。



「いいか? お互いに、自己紹介もしていないのに、友達になれると思うか……? 俺はそうは思わないぞ。俺はリンから、自己紹介してもらったから知ってるが、リンは俺のこと知らねぇわけで。……俺がないってのも不公平ってもんだろうよ」



 できるだけいつもの明るい口調を意識してはいるのだが、果たして上手くいっているのだろうか。



「リンの能力はな。相手が君のことを知りたい。そう思ったときに、相手を操ってしまう。そういう魔法なんだよ」

「っ!!」



 安心してきたせいだろうか。



 意識が失いそうになるのを、必死に堪える。



「俺はな、リンのことを知りたいと思う前に、リンのことを知ってしまった。だから、俺は操られなかった」



 あぁ、ヤバい。



 もう視界もぼやけ始めてきた。



 まだ意識を失うわけにはいかないのに。



 最後に、最後にこれだけは言わなければ。



「俺は、シノイ=エリク、ってんだ。よろしく……リン……」

「ま、待って……!」



 ゆっくりと意識が遠ざかっていく。



 そんな中でも、俺の目と鼻の先で、誰かの魔力が爆発的に上昇するのだけは感じる。



「あああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!」



 聞こえてきたのはリンの叫び。



「な、なんだ!?」

「気を付けろ! すさまじい魔力だぞ!」



 だが、安心して眠ってよさそうだな。



 主人公と、あと……あの……【紫鮫】の名前は確か――



 ――力強い二人に後は任せて眠るとしよう。




2018/03/15 改稿

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