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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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モブの洞窟の謎

 仕方な~く家を出て、その攫われた奴らがいると思われる洞窟に向かっている間、俺はずっと言いたかったことをヘイゲルに言ってみた。



「ていうか、俺は一応冒険者なんだぜ? 普通、他の冒険者達と同じように犯人捕獲班に入るもんじゃねぇの?」

「ソモソモ貴様ハ、コノ作戦ニ参加シヨウトシナカッタダロウガ。ドノクチガソンナコトヲ言エルンダ?」



 どの口って俺の口ですけど? 何、悪いの?



 誰が悪いことって決めたんだよ。



 大体、俺は参加する気もないのに参加させられたんだ。



 俺の少しの言い分くらい通ってもいいとは思わないのかい?



 すると、ヘイゲルは俺の顔を黙って見つめてくる。



「やめろ、その顔。気持ち悪い。お前と噂されるのは死んでもごめんだ」

「何ヲ言ッテイルノハワカランガ、考エテイルコトハナントナクワカル」



 何を言っていやがる……、そう言おうとしたところで、ヘイゲルは懐の写真を俺に見せてきた。



「薄々知ッテイルカモシレナイガ、俺ノ他二モ、人ノ言葉ヲ話セルノハ二人フタリイル。……ドウイウコトカワカルヨナ?」

「この悪魔っ! 人じゃねぇな!」

「人ジャナイナ」



 コイツ……。



 ここぞとばかりに俺を脅してきやがる。



 人と仲良くしたいのなら、まずは人を脅すのをやめた方が絶対にいいからなっ。



「……はぁ。まぁ、いいや。それじゃ今回の作戦について教えてくれ」



 カタリヌの説明を聞く前にギルドを出てしまったおかげで、作戦がわからない。



 なんとなくわかってはいるのだが、念には念を入れる。



 聞いておいて損はないだろう。



「今カラスグ南門カラ出テ、俺達ハ洞窟ノアルトコロマデ行ク」

「うん、それが今の状況だな」

「ソシテ、捕マッタ奴ヲ助ケル」

「ざっくり過ぎる! もっと何かねぇのかよ!」



 このタイミングで奇襲を仕掛けるとやら。



 何時までに救出するとか。緊急時の連絡方法やいろいろ。



 あるだろ、なんか!



「特ニナカッタ」

「嘘つけ!」

「本当ダ! 本当二何モナカッタンダ!」



 ヘイゲルの表情をジッと見るが、確かに嘘をついている気配はない。



 まだ、付き合ってから日はまだ浅いが、そこらの冒険者よりはずっと信頼している。



 ドラゴンのときもそうだが、俺と戦ったときからわかっていた。



 コイツは俺達のギルドの奴らよりも頭がいい。



 ここで変なことをする奴ではないことは俺の目が見極めている。



「おいおい。もしかして、アイツもランク『A』じゃねぇのか?」



 いやいや。そんなわけがない。



 佇まいも何もかもがランク『A』だったはずだ。



 となると。



「まさか、いつもはパーティのリーダーに引っ張られているタイプのランク『A』か」



 何でまともな奴を呼んでこないんだよ、ジンの野郎。



 お前って全然役に立たねぇよな?



「それで? お前はどうするつもり?」



 ならば、この班のリーダーであるヘイゲルに聞くしかあるまい。



 まさかお前までもが考えていない、なんてことはないだろう?



 そういう意味も込めて尋ねてみると、ヘイゲルは真面目なトーンで。



「貴様ヲ俺ノ魔法デ敵ノ中心二飛バス」

「却下!」



 お前、ゲスト出演された俺を敵地の真ん中に飛ばすとかどんな神経していやがる!?



 もう一回言うぞ! お前、マジで人じゃねぇ!



 だが、ヘイゲルはそれの一体何がダメなのか、とでも言いたそうな顔をしてくる。



「一番手ッ取リ早イダロウ?」

「俺を殺す方法としてはな!」

「イヤ、ソレデ死ヌノナラ、俺達ダッテ苦労シナカッタンダガ?」



 物理的に死ぬって意味じゃねぇよ! 俺の精神的に!



 なんでまた俺ばっかり苦労しなきゃいけなくなるんだよ!



「……他にいい案は?」

「……陣形ヲ崩サズニ前進スルシカアルマイ」

「なんでだろうな? 当たり前のことを言っているはずなのに、すごいことだと思っちまったよ、今」

「貴様ガ馬鹿ダカラジャナイカ?」

「うはぁ。殺してぇ」



 コイツ、わざと俺の逆鱗に触れることを言っているのではないだろうか。



 一方的に俺が弄られていると、目的の洞窟の前に着いた。



「いったん喧嘩はやめて、帰ってきてから続きをやろうじゃねぇか?」

「……無駄ダト思ウガナ」



 絶対に言い負かせてやる、そう決意のもとに洞窟の中を一度覗き込む。



 こんな洞窟、いつの間に作られていたんだろうか。



 自然なものではなく、人の手によって作られているのだとすぐにわかるほど、きれいに整備されている。



「……あからさまだな」

「ソウダナ」



 誘っていることがバレバレだ。



 やけに静かすぎる。



 入ってみなければわかりませんよ、と訴えているのがよくわかる。



 洞窟の中は当然ながら狭い。



 人が多ければ多いほど動きにくくはなるが、少なければ、それはそれで一気に押し寄せられたときに危険だ。



 シンプルながらベストな作戦だ。



 こっちの作戦とは大違いだぜ、まったく。



「本当に何にも作戦ねぇのかよ?」

「アッチノ戦闘ガ始マッタラト聞イテイル」



 やっぱりあったんじゃねぇか。



 何が「特にない」だ。



 ……戦闘が始まったら?



「……いつだよ? それって」



 俺からはこの近くで戦っているような音は聞こえないのだが?



 もしかしてまだ始まっていないのか?



「知ラン。戦闘ハモット遠クデ行ワレテイルラシイカラナ。聞コエルワケガナイ」

「マジでどうなってんだよ、この作戦!」

「ダガ、俺達ハ遅レテココニ来タワケダシ、モウ始マッテイルダロウ」



 最初からグダグダしかねぇなぁ作戦!



 何のための作戦会議だったのか、マジで問いただしたい!



「……で、もう入んの?」



 もはや呆れるしかない俺に、ヘイゲルはコクリと頷いた。



 まぁ、それ以外ねぇもんな。他にやることなんて。



「お前も気付かなかったのか? この作戦のグダグダ感に」

「気付イテハイタ。ガ、アッチガ聞ク耳ヲ持ッテクレソウニナカッタ」



 なんとなくわかっちまうのが余計に悲しいな。



 ヘイゲル、お前にも少しだけだが同情しちまった。



「終ワッタコトヲ後悔シテモ意味ハナイ。行クカ」

「だな」



 覚悟を決めると、俺達はゆっくりと洞窟に吸い込まれるように入っていった。















 しばらく歩いていた頃だった。



 ジャリ――。



「「ッ……!?」」



 洞窟の奥から砂利の音がして、全員で戦闘態勢に入る。



 こういうときはきちんと止まることが大事だ。



 何が起きてもいいように心構えだけはきちんとしなければいけない。



 ザッ……ザッ……。



 足音を聞く限り、一人ではない。



 予想はしていたが複数人。



「ちょっと待ってくれ」



 俺は小さくそう言うと、遠くから歩いてくる何かの温度に敏感なる。



「……なんて数だ。数十人くらい、か?」



 さらに遠くにいる者まではわからないし、熱なんて曖昧なものでは、この狭い洞窟の中すぐに充満してしまって、正確な数まではわからない。



「とにかく、かなり多い数だってのは間違いないな」

「気ヲ引キ締メロ、貴様ラ」



 ヘイゲルのその言葉に【リザードマン】らの気配がさらに変わる。



 リーダーであって、いい意味でグッと引き締まる。



 門前ギルドのカス共にも見せてやりたい気分だ。



 しばらくそうしていると、暗闇の中からゆっくりと彼らは姿を現わした。



「……なんだ、コイツら?」



 いい装備をしている者もいれば、みすぼらしい格好をしている者もいる。



 たくましい若い男もいれば、細すぎる老人までいる。



「ドウナッテイル?」



 ヘイゲルも俺と同じことを思ったようだ。



 共通点がまったくないようにも見える彼らだが、一つだけ同じことがある。



「まるで【ゾンビ】だな」



 目が虚ろだ。



 歩き方もどこかぎこちなさを感じる。



「待て」



 だが、俺達をはっきりと見た途端、動きを止めた。



「……来る!」



 今までの遅い動きからは予想もできない速さで走ってきた。



 老人はその体から早くは動けないが、若い男達は武器を構えて、襲いかかってくる。



「邪魔だ!」

「陣形ヲ崩スナヨ!」



 俺とヘイゲルがさながら切り込み隊長のようにその敵の中に飛び込んでいく。



 その他の【リザードマン】達は、俺とヘイゲルが取りこぼした敵を片っ端から無力化していく。



 殺しはしない。



 それを彼らは望んでいない。



「ひゅう! 優しいねぇ!」

「無意味ナ殺生ヲ好マナイダケダ!」



 日頃から人を襲ってはいても、殺しはしてこなかったことがうかがえる。



 当然だ。



 でなければ、俺にクエストを依頼する人がいないのだから。



「少しペースを上げるぞ!」

「大丈夫ダ!」



 そうして突き進んでいると、突然、状況が一変した。



 ガンッ!



「……は?」



 気付いたときには、地面に顔をつけていた。



 その後に後頭部の痛みに気付く。


「? どういうことだ?」

「バカ野郎ッ! 早ク躱セッ!」



 ヘイゲルの声に顔を上げると、仲間のはずの【リザードマン】が俺の首を斬ろうと剣を振りかざしているではないか。



「何しやがる!」



 剣を振りかざす前に蹴りを入れて、すぐさま立ち上がる。



 どうやら俺は仲間の【リザードマン】に後ろから殴られたようだな。



「どうなっていやがる、ヘイゲル!」



 裏切る気か!?



 とは言わない。言ったはずだ。



 ヘイゲル達は俺達を裏切るようなことをするはずがない。



「俺ガ知リタイグライダ!」



 ヘイゲルも驚いた様子で仲間達の剣を防いでいた。



「クソが!」



 何が起こっているのかまったくわからない。



「何らかの魔法か!?」

「ソレ以外アリエナイダロ!」



 何の魔法だ?



 考えられるとすれば人を操る魔法だが、とすれば。



「こいつら転移された人達か!?」

「オソラクナ!」



 なら俺やヘイゲルが操られないのは一体なぜだ?



 特定の条件を満たしていなければ、人を操るのは不可能なはずだ。



 【リザードマン】は人じゃない気もするが、今はそんなのどうでもいい!



「トニカク、コノ人数ヲココデ倒スノハ無理ダゾ!」

「そんなこと言われても、前も後ろも塞がれているんだぞ!?」



 逃げるか、前に進むかの二つしかない。



 止まるは論外。



 であれば、とお互いにすぐに目配せすると、奥へと駆ける。



「こうなったら元を倒す方が早い!」

「……奥ニ誰カイルゾ!」

「誰が出てくるのかねぇ?」



 ヘイゲルに言われて目を凝らしてみるが、俺にはまったく見えん。



 どうやらヘイゲル達は夜目が利くらしい。



 ……なんか、魔物ってチートじゃありません?



 固い鱗も持っている時点で反則だっていうのに。



「アレハ……子ドモ、カ?」

「子ども!?」



 子どもまで操るとか最低じゃねぇか。



 ショタなのか、ロリなのかはわからんが、犯罪だぞ!



「待テ! 何カ言ッテイル!」



 いや、まったく聞こえねぇけど?



「ッ!」

「……おい?」



 突然、ヘイゲルが動きを止めた。



 ……あっ。このパターンには見覚えがある。



「う、嘘でしょぉ?」



 そう言ってゆっくりとヘイゲルから距離を取る。



 依然、ヘイゲルはまったくもって動かないが、その口は僅かに動いているような、いないような。



「――ヲ、――ケル」

「な、何だって?」



 冗談っぽく尋ねてみるが、ヘイゲルは俺の方をまったく見ずに何かを必死に呟いている。



 キモいキモい。怖い怖い。



 ピタッ。



 すると、ヘイゲルの口も完全に止まった。



「あ、あの~? ヘイ、ゲルさん?」



 どことなく怪しい雰囲気をかもし出したヘイゲルの顔を窺ってみると、



「殺ス!」

「だと思ったんだ、バカ野郎!」



 突然のヘイゲルの攻撃を躱すと、入れ替わるように誰かが間に割り込んできた。



 コイツ、確かソルド教の――!



 コイツもやられていたのか。



 ……うん、どうでもいいな。



 容赦なく斬り伏せると、ヘイゲルを見る。



「――チヲ――ナイト」

「何言ってるかっ、わかんねぇよ!」



 ぶつぶつと呟いている魔物なんてみても何にも面白くない。



 コイツも斬り伏せてやろうか、と思ったが。



 ……ほら、なんだ。友達だからな。やめておこう。



 とにかくだ。よくわからんが、子どもの声を聞いてあんな感じになったんだろ!?



 となれば間違いなくその子どもが原因!



 やることがわかったのなら、やるだけだ!



 周りを完全にとり囲まれているが問題ない。



 俺は足の裏を爆発させ、人を飛び越えようとする。



 しかし、それをヘイゲルは許さない。



 仲間の【リザードマン】の肩を借りて、俺を落とそうと剣を振るってくる。



 だが、それも甘いぜ、ヘイゲル。



 それはドラゴン戦で経験したことだ。



 ドラゴン戦での失敗を無駄する俺ではない。



 空中で更に足下を爆発させ、俺はヘイゲルの攻撃を空中で躱し奥へと進む。



 すぐに追いつかれるだろうが、その一瞬で決めてやる……!



 数多の人を飛び越えると洞窟の奥へとたどり着く。



 そこにいたのは――














 ――可愛い可愛い少女だった。




2018/03/15 改稿


シリアスのときほど、ギャグで場を上手く和ませたい。

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