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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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モブの推理

 森を抜けた時にはもう夕暮れ時だった。



 そして、俺達の心も一緒に日が沈むような思いだった。



「結局、獲物獲れなかったな……」



 森に行って【ホーンラビット】を見つけたものの欲張ってしまったことが悪かったのだろうか。



 それよりも、さらに群れを見つけてからも欲張ったのがいけなかったのだろうか。



 俺達は三体のドラゴンに捕まり、必死で脱出を試み、その後も獲物を見つけることができなかった俺達の心身は、これ以上なくボロボロだった。



「仲間達ニ、ナント言エバイイカ……」

「そりゃ、まぁ……。素直に言うしかないんじゃねぇの?」



 すると、ヘイゲルは俺の服の裾を掴んで、揺らしてきた。



「貴様ッ! 他人事ダト思ッテ! 貴様モ悪イトハ思ワンノカ」

「い、いや。確かに悪いとは思っているけどさ! お、俺とお前は他人だろ!?」

「貴様モ何カ考エロッ!」



 そんなこと言われても、俺にはどうすることもできないのだからしょうがない。



 というか、いい加減早く手を離して。



 頭を揺らされすぎて、今マジで吐きそうだから……。



「……ソウカ!」

「うぁ?」



 いきなりヘイゲルの手が止まったので不審に思っていると、



「イイ方法ガアル……!」



 と「何とも妙案だ!」とでも言いたそうに両手を打った。



「ほう、そりゃよかったな。で、どうすんだ?」

「オ前、奢レ」

「……は?」

「奢レト言ッタンダ」



 いや、何言ってんの?



 奢る? 誰が? 俺が?



 いやだよ。



 あ、今のテンポなかなか好きだ。



 まぁ、そんなことより。



 なぜ俺がこいつらに奢らなければいけないみたいな話が出てきた?



「今回ノ戦闘デオ前ハ俺ニ借リガアルダロ?」

「いや、まぁ……。そりゃそうだけどさ……」



 それにしたって三十人の飯を俺一人で奢るのは無理があるだろ。



 まぁ、払えない訳ではないけどさ。



 だが、それとこれとでは話が違うだろ。



「俺に奢れってのは、そりゃないだ――」



 ――ろ、そう言う前に、ヘイゲルは一枚の紙を見せてきた。



 なんだ? 写真か?



 そこには、やけに見覚えのあるカップルらしき二人の後をつけている男の姿が写っている。



 しかもこれ以上なく気色悪い笑みを浮かべている。



 誰だ?



 俺だな。



「――だろうと思わないこともないかな? うん。というか、ぜひこちらからお誘いしようと思っていたところだったんだ。安心しな!」

「……フン」



 ヘイゲルは勝ち誇ったような顔をしていた。



 ……何、こいつ。



 魔物程度で収まっている奴じゃねぇぞ。



 悪魔か?



【リザードマン】から悪魔にでも変わろうとしてんの?


















「……それ。マジで後で処分しろよ?」

「……サァナ」

「はぁ!?」
















 と、いうわけで。



 俺は【リザードマン】らに飯を奢る羽目となり、貯めていた金の三割ほどが消し飛んだ。



 さらに酔ったヘイゲル達の面倒を見ることまで背負わされ、気付けばギルドに行く時間となっていた。



 眠いこと以上にやはり。



「俺の……。俺の金が……一瞬で……」

「イツマデソンナコトヲ気ニシテイルンダ」



「お前達の所為だよっ!」と言う気力もなく、弱々しい目をヘイゲルに向けた。



 ヘイゲルは夜更かしが慣れているのかピンピンしている。



 それが更に腹ただしい……。



「おはようございます、エリクさん。って、え!? どうしたんですか、その目!」

「おはよう、シルヴィ。ごめん、ちょっとここで寝てもいい? 家に帰る気力がないんだ……」

「エリクさん……本当に大丈夫ですか?」

「うん。まぁ……」

「あっ! エリク~~~~!!」

「むっ……」

「えぇ……」



 ……今回だけはマジで勘弁してほしい。



 今にでも倒れそうなくらい疲れているのに。



 この二人の喧嘩を止めるエネルギーは俺にはもうねぇよ……。



「ヘイゲル。後は任せた……」

「? 一体何ヲダ……?」



 俺はフラフラとテーブルに酔ってもいないのにヨタヨタと歩いて行くと、すぐに眠りの体勢に入った。



 その直前にアイシアとシルヴィが喧嘩を始めるが、そんなことにも気にせずに眠りにつく。



 ヘイゲルが二人の喧嘩を困ったように見ているのが最後に見えた。



 いいざまだ……。



 そう思いながら俺はぐっすりとお休みになったのだった。












 昼近くになって、俺は目を覚ました。



 ケガはまだ治っていないが、疲労はだいぶ取れている。



 心なしか体が少し軽い。



 しかし、人が集まって何やら騒いでいるのが残念だ。



 起きたばかりの人の前で騒ぐなとあれほど言っているだろう?



 心の中で。



「だから。見たんだよ! 仲間がいきなり消えるところをよ!」

「アンタ、少しは落ち着けって。焦る気持ちはわかるけどよ」

「落ち着けるわけあるか! 仲間が目の前で消えたんだぞ!?」

「いや、だからな――」



 この話は確か前にシルヴィが言っていたやつではなかろうか。



 ……起きたばかりで、まだ完全に把握はしていないが。



 これはつまり。



 人がいきなり消えたところにその仲間がたまたまいたってことか?



「起キタヨウダナ」



 そう言われて横を見ると、フードを深くかぶったヘイゲルがいた。



 ま、大方。



 冒険者達に見られると騒ぎになると思ってかぶったのだろうが、尻尾も隠そうな?



 丸見えだから。



「俺が寝ている内に何があったんだ?」

「想像通リノコトダ。人ガ突然消エチマッタンダトヨ」

「これは……あれか? 行方不明者がここ最近増えたこととなにか関係があるのか……?」

「ムシロ、ソレソノモノダロ」



 しかしそれだと少し疑問が残るんだよな。



 前までは何の情報も入ってこない、あるかどうかもわからない噂程度のものだったのに。



 今は明らかに情報があり、確実的な話となっている。



「俺達も少し調べてみるか?」

「俺ハ傭兵ダ。傭兵ハ情報屋デハナイ。調ベタトコロデ何モ出ナイノナラオ断リダ」



 お前はホントにいい度胸してるな……。傭兵としての才能ありまくりじゃねぇか。



 ということで、俺一人でやることになったが実際どうしようか。



 また、人の噂を頼りに町でもブラブラしてみるか?



「……行クノカ?」

「まあな」

「ソレジャ、俺モ帰ルカ。特ニスルコトモ無イシ」

「じゃあな」

「アァ」



 そういえばやけに疲れたような顔をしていたが、何かあったのだろうか?



 ……ま、これも大体予想つくけどな。



 少しご機嫌な気分で町に出ると、町は数日前とは違って、やけに噂が蔓延はびこっていた。




「昨日、いろんなところで人が消えたらしいぞ」

「あぁ、聞いたぜその話。怖いよな……」



「ねぇ、聞いた? あの話のこと」

「人が突然消えたって話かい?」

「そうそう。私、その目撃者なのよ」

「えっ! そうなのかい! 大丈夫だったかい!?」

「えぇ。私はなんとも……。でもその消えちゃった人、すごかったわよ。いきなりパァッて光って――」



「なんだっけ……? あれだろ。人の足が光ったらその人が死ぬってやつだろ。そんな迷信、誰が信じんだろうな」

「お、お前! 足が光ってるぞ!?」

「うえぇ! マジ!?」

「嘘だよ。お前、信じてんじゃねぇか……」

「ち、ちげぇし!」




 ……よし、大体わかった。



 これらの話を合わせて推測すると、ある一つの可能性が出てきた。



 それは、人が消える正体は間違いなく人であること。



 そしてそいつの能力は【転移】ってところだろう。



 あらかじめ転移陣を仕掛けていたところに人が通ると、その人が転移……つまり消えるわけだ。



 はじめは人通りが少ない場所で行われていたのだろうが、噂が人を呼んだおかげで、どんどん人がまた消えていったってところだろう。



 そして、一瞬にして広まっていった。



 こんなところだろうか。



「よし……。この情報をギルドへと伝えるとしよう」



 この答えが本当に合ってるかどうかはまだわからないが、仮説を話してみるだけでもきっと意味があるはずだ。



 そう思っていたのだが。



 ギルドへ着くと、またもや騒がしいではないか。



 今度は何だ?



 顔を覗かせてみると、案の定、その騒ぎの中心人物はジンであった。




2018/03/14 改稿

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