モブ脱出する
しばらく洞窟の天井を意味もなく見上げていると、ヘイゲルが口を開いた。
「……ナァ」
「どうした? なんかこの状況を抜け出せるいい方法でも思いついたのか?」
俺達は今三体のドラゴンに捕まり、身動きの出来ない状態にある。
物理的に動けないのではなく、動いてもいいけど殺されるかもしれないよという状態だ。
「上手クイクカドウカハ微妙ダガナ」
おぉ、ここに来て優秀な傭兵さんらしき働きをしてくれるのか。
この危機的状況を切り抜ける方法を思いつくとはな。
伊達に人に追いかけ回される魔物として生きているだけはある。
「この際何でもいい。その方法は?」
「ドチラカガ囮トナッテ、ソノ間ニ片方ガ逃ゲルトイウ方法ダ」
………………。
「囮役は?」
「……オ前ダ」
なるほどね。俺があのドラゴン三体を引きつけて、その間にお前だけが逃げる。
お前だけが無事に逃げ切れ、俺だけが食される。
うんうん。なるほど。
「却下」
「何デモイイト言ッタノハオ前ダゾ?」
「それで囮をやる奴がどこにいる! 潰すぞ!」
「バカッ! 静カニシロ!」
バカはテメェだ!
と叫びそうになったところで、ドラゴンがグルリと首をこちらに向ける。
慌てて死んだふりを再開すると、しばらくこっちを見ていたドラゴンだったが、何事もなかったかのように首を戻した。
……セーフ。
「でも、このまま何もしないと死ぬのも間違いないな」
「ダカラ、今ソレヲ考エテイルノダロウ?」
そうなんだよなぁ……。
さっきからずっと考えているけど、まったく何も浮かんでこないんだよなぁ。
他に一つ何かあれば、なんて考えたところで何も出てこないし。
「やはり、やるしかないのか?」
「ヤルシカナイダロウナ」
そう。『殺る』しかなさそうだ。
ヘイゲルも同じ考えに達したのか賛同してくれる。
なんだかんだ言って、俺とヘイゲルは考え方が似ているようだ。
「ソレナラドウスル?」
「まず、三対二という状態がまずいだろ。二対二ならまだしも、三体となると逃げるタイミングが見つからない」
最終手段として考えていた『ドラゴンを倒そう作戦』だが、隙があるのなら逃げるのも手だ。
思いっきり何かをするには、何か安心できる材料がないといけない。
可能性という保険がなければ、俺達は本気で戦えない。
俺達は互いに案を出し、否定し、素早く作戦を整えていく。
ここから逃げるという選択肢より、こちらの方が俺達としてはかなり現実的で、どんどん案が上がっていく。
「よし、それなら最初にあのドラゴンを倒した方が――」
「イヤ、待テ。アッチノ方ガ――」
話し合っているうちに俺達は、気付かないくらいに声が大きくなっていたようだ。
三体のドラゴン達が一斉に振り返った。
しまった。見つかった!!
「「「VAAAAAAAAAAAA!」」」
「「クッ……!」」
三つの雄叫びが狭い洞窟の中に響き渡り、思わず俺とヘイゲルは目を閉じる。
だが。
「ヘイゲル!」
「ワカッテル!」
ドラゴンの一体が入り口を塞ぐように口を膨らませているのが、一瞬だけ見えた。
ブレスだ。
この狭い洞窟でそれを防ぐ術なんてあるはずがない。
俺とヘイゲルは緊急事態と察し、持てる限りの速さで洞窟の入り口まで走る。
作戦はまだ作りたてだが、俺達の機転に任せるしかない。
「ッVBAAAAAAAAAAAAA!!」
間一髪のところで洞窟から飛び出し、ブレスが洞窟内を焼き尽くす。
こちらにまで届いてくる熱気。
直撃していたらと思うとゾッとする。
だが、今は止まっている場合ではない。
すぐに俺は黒いドラゴンへと走り、股をくぐり抜けると同時に片足に剣を振るう。
当たる数コンマ前に剣が熱を帯び、肉の焼ける音が聞こえた。
いい匂いだ、なんて言っている余裕もない。
「GAAAAAAAAAA!!」
黒いドラゴンは悲鳴をあげるが、立てないほどの傷にはならない。
怒りを顕わにしてドラゴンは足を高く上げる。
その足の影が俺を覆い尽くす。間違いなく避けられない。
だが、俺の目に死は映らない。
「ヘイゲル!」
そう叫ぶと、突然ドラゴンの色が黒から赤へと突然変色した。
直後になぜか森が揺れる。
「GYA!?」
赤くなったドラゴンは何が起こったのかわからない様子だ。
「気を抜いたときが命取りってな!」
驚いている間に、俺は自分の足下を爆発させ、ドラゴンの背中へと大きく跳躍する。
「さて、こっからが本番だ!」
オレンジの剣を背中に深く刺すと、ドラゴンが痛みによって起き上がる。
すると、先ほどまであった背中という足場がなくなり、重力によって上から下へと落下する。
当然、背中に剣を刺したままで落下すれば、背中はパックリと割れていく。
「GYAGYAAAAAAAAAAAッッッ!!」
耐えられない、とドラゴンが悲鳴をあげる。
俺が着地した途端、赤いドラゴンがまた黒へと変色して、あらぬ方向を向いていた。
「VA!?」
またしても驚きの声をあげるドラゴン達。
そろそろ気付く頃だろうか。
人の言葉を話せない彼らだが、俺達以上に頭がいいとされているドラゴン。
気付くのも時間の問題だろう。
さっきからの変色はすべてヘイゲルの魔法によるものである。
ヘイゲルの魔法は【交換】。
視界に写る二つのものの居場所を入れ替える魔法。
その魔法によってドラゴン達を交換し、相手の攻撃を外したり、不意打ちを与えていたのだ。
一見、微妙そうな魔法だが、使い方次第では何よりも厄介かもしれない。
だが、この能力の弱点として、三体以上の敵がいる場合、どれか一体が、ヘイゲルの死角から攻撃されてはどうしようもないということだ。
だから。
「モウ一体ガ戦闘ニ入ル前ニ早ク倒セ!」
洞窟にブレスを吐いたドラゴンが参戦する前にどちらか一方を片付けなくてはいけない。
そこまでは俺達で考えていたこと。
なら、どうやって倒すかを話し合う前に俺達は気付かれてしまったわけだ。
面目ない。
「とは言え、こっちの刃が中まで入らねぇんだよっ!」
剣は根元まで入っているが、ドラゴンの内側にまで剣が届いていない。
ダメージとしてはいいかもしれないが、そうすぐに倒せる相手ではない。
だからもっと話し合うべきだったんだ!
そうしている内に、もう一体のドラゴン体勢を整え、尻尾で俺へと攻撃してきた。
「チッ! そう来たか!」
どうやらドラゴン達は面倒くさい魔法を使うヘイゲルを倒すのではなく、直接的な攻撃を担う俺を狙ってきた。
確かに俺がやられてもこの作戦が使えなくなるのは間違いない。
「やべっ!」
ちょうどこの体勢では躱せない!
「クッ! 交換!」
ヘイゲルの叫び声と共に、尻尾を振るってきたドラゴンと赤のドラゴンが入れ替わった。
俺の方には何もないが。
「グゥ……ッ!!」
「ヘイゲル!」
俺の代わりに尻尾の攻撃を受けたヘイゲルは、勢いよく遠くへと飛ばされていく。
マズいマズいマズいマズいッ!
この状況でヘイゲルを深追いなどしない。
ヘイゲルを吹っ飛ばしたドラゴンは深追いせずに俺の方へと寄ってきた。
つまり、今俺は三体一で戦わなければならない。
ヘイゲルの魔法には他にも弱点があったようだ。
魔法で交換できるのは二匹だけ。三体がいれば、二匹の攻撃を相打ちすることができても、もう一匹の攻撃は防げない。
「はっはっはっはっは!!」
もはやここまでくると笑いしかおきねぇよ。
「「「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」
相手のドラゴン達は怒り狂っていた。
そりゃそうだ。
自分たちの餌が自分たちを騙し、なおかつひどい傷まで負わされたのだ。
これで怒らない生物など存在しない。
「「――――スゥ」」
二匹のドラゴンの口が大きく膨れあがる。
体の中のエネルギーを口から放出するときの動作。
ブレス。
俺は急いで自分の足下を爆発させて飛び越えようとする。
ブレスを行う直前はドラゴン達は他に何もできなくなる。
だが、ブレスを行おうとしているのは二匹だけ。
ドラゴンの頭を飛び越そうとした俺の体を、もう一体のドラゴンは尻尾ではたき落とす。
……やべぇ。これは死んだかも。
「「ッVBAAAAAAAAAAAAA!!」」
二匹のドラゴンが俺に向けて、ブレスを放出する。
咄嗟に俺の前に炎の盾を張って防ごうとしたが、炎の盾は五秒も待たずに消滅する。
炎属性の耐性を体に付与するが、あのブレスにどこまでの効果があるか。
「……じゃあな」
俺の別れの言葉すらもブレスの音によって消された。
ブレスの後に残っていたのは真っ黒なただの燃えカスだけだった――。
その、少し遠く離れた場所では。
「た、助かったぁ……!」
「危機一髪ダッタナ」
心臓をバックンバックンと打ち鳴らしている俺と、やけに冷静なヘイゲルがいた。
「こ、今回ばかりはマジで死ぬかと思った……」
緊張が抜けたように地面に寝そべって、遠くのドラゴン達を見守る。
ドラゴン達はその後、ゆっくりとどこかに飛んでいってしまった。
また新しい獲物でも探しに行くのかもしれない。
俺達に向けた最初のブレスで食料すべて灰と化しちまったもんな。
そう思うと同情せざるもできなくない。
「お前さ。その能力を使えば、もっと早く逃げれたんじゃないのか?」
「無理ダ。俺ガ逃ゲラレナイ」
ここら辺でいい加減ネタばらしするとしよう。
ヘイゲルはドラゴンによって吹っ飛ばされた後、わずかな時間で俺が見える場所へと移動した。
そして、俺がブレスに当たる直前に【交換】によって、俺と近くを通った魔物を入れ替えたのだ。
もちろん、俺は最初からそうなることがわかっていたわけでない。
あのときの別れの言葉だって、今ならドラゴン達に向けて放たれたものになったが、あのときは本当に別れの言葉だった。
その魔物には感謝してもし尽くせないぜ……。
「コノ能力ハ自分ニハ使エナイ。ナゼナラ、自分ヲ見ルコトナンテデキナイカラナ」
「それでも、今みたいな作戦とか立てれただろ?」
「ソレヲ、オ前ガ却下シタンジャナイカ」
「はぁ? 俺がいつそんなことを――」
ん?
なんだろう。思い当たる節が一つだけある気がするのだが……。
しかもその後、バカって言ったような気も。
「……すいませんでした」
「マッタクダ」
でもさぁ。
言葉足らずというか、説明足らずのお前も悪くね?
ドラゴンの鳴き方がわからない……
2018/03/14 改稿




