モブの情報収集方法
「昨日はすみませんでした……」
「エ、エリクさん!?」
これで何度目だろうか。
冒険者がいない朝のギルドでシルヴィに頭を下げたのは。
今日は孤児院が珍しく忙しいらしく、アイシアがいないので今いるのは俺とシルヴィの二人だけだ。
正確に言うなれば、ギルドの奥には何人かいるそうなので、厳密には違うのだが、俺からしてみればここには俺とシルヴィしかいない。
「ほら、ヘイゲル達のこと……」
「……あぁ、いえいえそれなら全然」
シルヴィはいつも優しいからな。
すぐに許してくれるが、今回ばかりは俺が俺を許してはいけないだろう。
なんだって、傭兵ギルドを提案したのは他でもない。俺なのだから。
「別に構いませんよ。もともと私から言おうと思っていましたし」
「でも、話を持ち出した本人が何もしないっていうのはな……」
シルヴィは全然構わないと首を横に振るが、やはり俺自身が腑に落ちない。
そんな俺にまたしても気を遣ってか、シルヴィが「本当に大丈夫ですから」と微笑んでくれる。
本当にいい子やなぁ。
ジンになんかあげたくねぇよ。
二十代にして、子を出す親の気持ちがわかっちまうぜ……。
……おい。
今、まさかと思うが俺が二十代ってこと忘れてなかったか?
「そうだ。エリクさん、最近この辺で人が行方不明になっているのはご存じですか?」
「いや、まったく」
初耳だ。
何? またなの?
「一応冒険者様達に気を付けるよう呼びかけているんですが……」
行方不明、か。
どうも先日の事件を思い出して仕方ねぇ。
この世界はどれだけ人を攫えば気が済むのやら。
「前の事件と何か関係しているのか?」
また魔法師を狙っているとすれば、今度は大事になる前に解決しなければならない。
先日の一件、俺以外の奴らは楽観的に捉えているが、あれは奇跡だった。
もう一度同じ事件が起こったとすれば、今度こそ世界の終わりかもしれないのだから。
だが、シルヴィはそんな俺の考えに首を横に振った。
「それはないと思います。アデラントは今動くことができない状態ですので。別の人による犯行ではないかと考えています」
それを喜んでいいことなのか、悪いことなのか。
良く言えば、危険な香りが薄まった。
悪く言えば、手がかりはなしってわけだ。
「……わかった。俺も少し調べてみるよ」
「無理だけはしないでくださいね」
俺がこのギルドの中で一番強いのに無理しないでどうすんだよ。
別にこれまでの仕事もおざなりにしていたわけではないが、このギルドのランク『A』が俺しかいない以上、俺が頑張らねぇといけないだろうに。
「善処するよ」
そう笑って返すと、俺はギルドを出て早速調査に乗り出すことにした。
こういうのを『早起きは三文の得』って言うんだっけ?
いや、違う。これはあれだ。
そう、たしか。
「善は急げ、だったな」
と、いうことでギルドを出たものの。
「さて、どう調査を始めるとするか」
よくある作り話ではこういうとき、行きつけの情報屋から何かを教えてもらうところだが。
俺がそんなカッコイイ存在に見えます?
何だったら、俺がその情報屋的な役回りを押しつけられているレベルだぞ?
当然、仲間もいないし。独自に情報を収集しなければならないわけだ。
まぁ、手っ取り早く町の人に聞くのが一番だが、いかんせん俺のメンタルはビックリするほど弱い。
そうだな。例えば、
「最近人が消えているそうですが、何か知りませんか?」
と聞いたとしよう。
それに対して相手に、
「知るわけねぇだろ。こっちが知りてぇんだよ。さっさと調べやがれ」
とでもまさに正論を言われてみろ。
泣くぞ、俺が。
赤の他人に冷たい態度された時点で、俺のガラスの精神は砕け散る。
それ以降他人と話さなくなるかもしれないレベルだ。
ということで、俺流の方法に出ることにした。
人と話さずに情報を得る方法。
コミュ障の人も明日から使えるテクニック!
やり方は簡単!
ただ耳を澄まして歩くだけ! 簡単でしょう?
名付けて『壁に耳ありモブにも耳あり作戦』だ。
一般人達の間で広まっている噂は外れることも多いが、ときどき的を射ていることがある。
超機密情報などを噂だけで国民が独自に推測して、俺達でも考えなかった結果を導き出すことがある。
これがときどき当たっているのだから、あながち馬鹿にできないところだ。
しかし、外れることも多々あるので、慎重に噂から情報を切り取らなければいけないが。
と、まぁ。
こんな感じで、人と話さなくても情報を入れようと思えばできなくもないのだ。
俺はランク『A』の冒険者だ。
これくらいは当然できる。
相手を知るならまずモブから、っていう言葉もあるしな!
見直したか、この野郎!
これで昨日の件はチャラといこうぜ!
……なんか『作戦』みたいだな。
ガンガンいこうぜ、的なやつだ。
……。
チャラといこうぜ!
――――――――
『おい、聞いたか? あそこの店結構うまいらしいぞ』
『そんなことより俺はあの店のデザートの味が忘れられないぜ……』
『ねぇ、聞いてよぉ。最近私不幸なことが起きているのよぉ』
『へぇ。例えばどんな?』
『お金を落としちゃって拾おうとしたらぁ、猫がそれを咥えて行っちゃってぇ』
『マジかよ。それは災難だったな』
『この前なんかぁ、目の前に花瓶が落ちてきてぇ。ビックリして転んじゃったのよぉ』
『それは不幸よりかは運が良かったようにも聞こえるけど……』
『ソルドさんは本当にすごいんだ! なんてったってギルド最強だからな。あの人は今にでもAランカーになって、あの【紫鮫】だってきっと倒せるぐらい強くなるんだからな!』
『お前はホントにソルドを尊敬してるんだな』
『当たり前だ! あの人はな――』
『もうわかったって……』
――――――――
……ダメだ。全然情報が入ってこない。
昼まで粘ってみたがみたが、どうでもいい情報ばかり耳に入ってくる。
どっかの店の飯やらデザートやらが美味しいとかどうでもよすぎる。
ソルド教の布教が一番どうでもよかった。
特に、このソルド教の奴。
あれは、ギルドでジンと話していた奴だ。
怖いわぁ。
目がこれ以上なく生き生きしていたぞ。
さながら【紫鮫】を語るソルドだ。
やはり神と似たり寄ったりする奴が集まるのか。
「さて……。まったく情報が入ってこないがどうしたもんかな」
今回に関しては、全く情報が入ってこないから調べようがない。
行方不明になった奴がいるのは間違いなくとも、どこで行方不明になったのかも不明。
気が付けば、ってことではあるらしいが。
「いったんギルドに帰って、いなくなった奴らが誰なのか調べてみるか……」
念のためだ。前のこともあるし、調べておいて損はないだろう。
というわけで、一度ギルドに戻って、シルヴィから行方不明者のリストをもらった。
ギルドでは対策ということで、常日頃から二人以上で行動するようにと、義務づけられた。
俺のパートナーは誰だって?
いないよ。誰も俺のこと見えてなかったし。
知ってるかい。
無視より見えていない方が精神えぐられるぞ。
ちなみにジンは、ミーシャは当然として、なぜかわからんが【紫鮫】と組んでいた。
なんでいるんだよ、とツッコんだのは俺だけだ。
当然のように受け入れていた皆の頭は大丈夫だろうか?
そうしていると、俺はある重大なことに気付いてしまった。
そういえば【紫鮫】の名前、知らねぇな。
ものすごく今更な気がするが、そんなことを気にする俺ではない。
まぁ、別にどうでもいいからいいんだけどさ。
またギルドを出て、朝と同じように人の会話に耳を傾けていると……
「オ前、イイトコロニ来タナ」
この話し方は、と思い後ろを振り返ると、昨日の夜に見たフードをかぶったヘイゲルがいた。
「オ前、ドウセ暇ダロウ。ドウダ? 俺達ト少シ行カネエカ」
「行くって、どこにだよ?」
「狩リニダ。マダ仕事モナイノニ何ヲ食ベテイケト?」
そう言われてみればそうだ。
たった一日だけで仕事がある方がおかしいよな。
俺の方もどうせこのまま考えてもわからないし、少し体でも動かしとくか。
「わかった。ギルドの創設の件では悪いことをしたし、協力させてもらうよ」
「ナラ、俺達二人ダケデ行クノハドウダ?」
「……ほう、面白い」
「決定ダ」
そう言って、俺とヘイゲルは門を出て二人で三十人(体?)分の獲物を狩りに行った。
真面目な話はまだ書きたくない……
2018/03/12 改稿




