モブのゲーム
さてと、今日は何をしようか。
いつも通りギルドに行き、理不尽に喧嘩に巻き込まれ、泣きそうになりながらもギルドから脱出してきたわけだけど。
……はい、そこ。俺を泣き虫とか言わない。
泣いてないから。泣きそうになっただけだ。
それでも疑うってなら、逆にそれで泣くぞ? 今ここで。
プライド?
あると思うか、俺に?
まぁ、とにかくだ。
今日こそは有意義な時間を過ごそうと思っているのだが、最近忙しすぎたせいか、休みの日に自分が何をやっていたか思い出せないのだ。
自由なはずの冒険者がなぜ社畜まがいのことをしているのか?
甚だ疑問だ。
何気なく周りも見渡してみると、今日も俺の周りは平和だ。
……俺とは違ってな。
でも、ここ最近が特別なわけで俺は主人公じゃない。
平凡な毎日を刺激する事柄はそうそう起きるものでもない。
こういうときだけはモブであることに感謝できなくもないな。
ありがたや、モブ教様。ソルド教だけには負けないでほしいぜ……。
それにしても、本当にどうしようか?
飯を誘って食う相手もいないわけだしな。
……前にも言ったが、友達がいないわけではないぞ。
ちゃ~んといるさ。心の中に。
……その目、やめてくれません?
もし、人の心を読むことができる魔法を持つ人がいるのなら、俺の頭は決しておすすめしないな。
絶対変人だと思われるだろうし。
「ふわぁ……」
意味もなくあくびが出てしまうほどに暇だ。
何かないだろうか?
「暇つぶしにゲームでもしてみるか」
ゲームって言ったって、そんな子どものやるようなちゃちな遊びじゃないぞ?
大人だからこそできる、いわば『大人のいけない遊び』ってやつだ。
もちろん、エロいことでもない。
俺は健全な二十代後半だぞ?
ルールは簡単!
そこら辺の俺の同類……もとい、町のカップルの後をつける。
そして、カップルの行動を独自に解析して、どのくらい相手の好感度が上がったか想像する。
俺はこれを『リア充爆ぜろゲーム』と呼んでいる!
屑と呼ばれようが今さら気にするタマでもない。
屑もモブも、そこら中にある、っつう点ではどっちも変わんねぇよ。
さて。
まずカップルを捜すところから始めないといけないが。
……お? あれでいいかな?
珍しく早くも見つかった。運がいいぞ、今日の俺。
今回!
俺が目をつけたのは、黒髪のイケてない男と、こちらも黒髪でイケてない女のカップル。
いい感じのターゲットだ。
俺の前で別れてくれるならなおさらにいい!
俺の好感度がグンと上がるぜぇ?
さっそく、つけますか。
それではゲームスタート!!
男はまず、自分で調べたのであろうお店へ行くことにした。
(女)好感度 35 up!!
女はうれしくて男に笑顔をみせる。
(男)好感度 40 up!!
男が案内した店はアクセサリーショップだった。
彼女が以前欲しいと言っていたアクセサリーを彼女に渡した。
(女)好感度 46 up!!
女は照れながらそれを受け取る。その仕草が男の心を掴む。
(男)好感度 43 up!!
早めに昼食ということで男が喫茶店に案内するが、運悪く女友達と出くわす。
(女)好感度 41 down
椅子に座るとき焦りからか、男がつまずく。
(女)好感度 38 down
男がすすめる料理を食べると、女は幸せそうな顔をする。
(男)好感度 48 up!! (女)好感度 44 up!!
昼食後、服屋に入り女が試着するのを男が見る。
(男)好感度 57 up!!
しかし、彼女のお気に入りの服がなかなか決まらない。
(男)好感度 51 down
そんな男を見て、女は不機嫌になる。
(女)好感度 39 down
――――――――――――――――――――――
はい!
と、いうわけで結果の発表といきましょう!
俺の見立てでは、あの二人の最終結果はっ!
ダァァァァン!!
男の好感度は63! 女の好感度は41!
結果的に男は振られてました! このシーンは必見でした!
拍手~~~~!!
やはり女性は細かい仕草が気になるようで、そこら辺でポイントが下がっていましたね。
それに対して男性はなんてバカなんでしょう!
純粋と書いてバカと読みたい!
よくあんな気まずい中告白しようと思ってたもんだ。
さすがの俺も驚いたぜ!
まぁ、今回のことを活かして、次こそはものにしましょうね!
それではこれにて。
ゲームセット!
……いや、なかなか楽しめたな。
それにあそこの喫茶店のデザートが美味しいったらなんの。
今度一人で行ってみよう。
そんなことを考えながら俺は家へと帰宅した。
ゲームをしていたおかげで、今日は久し振りに楽しい一日だった。
ふと気付けば、もう二十時か。
だが、寝るにはまだ早い。
そんなとき、いきなり俺の家の戸を誰かが開いた。
「はいはい」
こんな時間に一体誰か、と家の戸を開けてみるとそれは意外な人物だった。
「ココガオ前ノ家カ」
昨日会ったばかりのヘイゲルじゃないですか。
「どうしてお前がここに?」
そう尋ねると、ヘイゲルは俺を親の仇のように睨みつけてきた。
「……オ前、俺達ノコト、ギルドニ伝エナカッタダロ」
「……あ」
そういえば、伝えるの忘れてた。
昨日はあれから【紫鮫】とソルドの価値のない試合を見て、そのまま帰っちまったからな。
「オ前ト一緒ニイタ女ガ代ワリニ説明シテクレタソウダゾ」
……あぁ、シルヴィか。
「それは悪いことしちまったな……」
最近はシルヴィに迷惑かけすぎてねぇか、俺?
これはマジで反省しないと。
「オカゲデ昼ニ俺達ハ、ギルドトシテ認メラレタワケダガ」
「おぉ、それはよかったじゃないか」
「オ前ニ文句ヲ言ッテヤロウトダナ。オ前ヲ捜シテイルト、オ前ヲ見ツケタワケダ」
さすがだな。
やはり傭兵としては申し分ない実力を兼ね備えている。
しかし、もしも昼からつけていたとすると、俺がゲームしているときになるが、大丈夫だっただろうか。
もう次からはやめた方がよさそうだ。
俺の性格の悪さがバレちまうし……。
「ソレニシテモ、オ前、趣味ガ悪イナ。アンナノガ楽シイカ?」
……うん。もう絶対やらないわ。
誰だよこんな悪趣味なゲーム考えた奴……。
「いや、ほら……。なんていうの……? あまりにも暇でよ。……反省はしていない」
「シロヨ」
魔物に『人』の恋路で遊ぶな、と言われるはな。
俺っていつからこんな醜い人間に成り果てたのか。
……いや、こんなにも自分で自分が嫌になった、ということは、俺にもまだ善心があるということだ。
俺はまだ醜い人の子ではない。
「マァ、今日ハソレヲ言イニ来タダケダ。ジャアナ」
「あ、あぁ……」
そう言ってヘイゲルは帰って行った。
まだ二十一時になっていなかったが、俺は起きていられるほどの(精神的な)体力が残っておらず、少し早いが寝ることにした。
いろいろな反省と後悔で結局寝たのは、時計が二つの針が真上を差したときだった。
ま、このくらいでへたくれる俺でもない!
自分で書いててもエリクの屑さに引きました。
ちなみに皆は暇つぶしに何をしますか?
私は基本的には読書か寝ます。
2018/03/11 改稿




