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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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モブと紫の騎士

 ヘイゲルと握手を交わすと、申請のために一度戻ることにした。



「ソレジャ、頼ンダゾ」

「任せとけ」



 そう言って、ヘイゲルらと別れた後、俺達は王都へと引き返したのだった。



「いろいろあったけど、今日は楽しかったわ、エリク」

「そうか」



 俺は苦労ばっかで全然楽しめなかったけどな!



 そんな俺の心の内を知らないままにアイシアは孤児院へと帰り、俺とシルヴィはギルドへ戻ることにした。



 それにしても大丈夫だよな?



 今回のクエスト内容はヘイゲル達をなんとかしてくれ、という依頼だ。



 傭兵ギルドを建てることにはなったが、これでもちゃんと金は支払われるよな?



 信じていいよな? 払わなかったら闇討ちでもしてやる!



 そうしていると、



「それでは、私はこの辺で……」



 そう言ってシルヴィはギルドの裏口から入るために俺と別れた。



 仕事を投げ出してきたこともあるのに、よくギルドに帰れるな。



 俺なら逃げてるぜ。



 とりあえずとギルドの中に入ると、ギルド内が何やら騒がしい。



 これはまた面倒くさいことが起こりそうな予感がするぞ、なんて思っていると女性の叫び声が聞こえた。



「いるはずなんだ!」



 ピーピーと騒ぐ奴は誰だ。迷惑だ。



 騒ぎの中心に顔を覗かせると、見覚えのない女性が何やら男性と口論していた。



 ……見覚えがないって言っても、ここの奴らのこともほとんど知らねぇけどな。



 その女性は全身紫という特徴的な鎧を着ていて、さらにはその長い髪もは紫であった。



 紫好きすぎるだろ。どんだけ紫にこだわってんだよ。



 少しは色のバランスを考えろ、と言いたい。



 胸は……うん。



 鎧で隠してはいるが、ありゃダメだ。



 むしろ鎧の胸の形で大きさを誤魔化しているレベル。



 あ、諦めなければきっと成長するって!



「だから、さっきから言っているであろう。ここにはすごい奴がいるはずだと!」

「いや、だから……」



 ほう、どうやら人を探しているらしい。



 であれば、なおさら静かに待っているべきではありませんかねぇ。



 こんな騒ぎの中、その探し人だって行きたくねぇよ。



「どうしたんですか?」



 男の冒険者が困っているところにジンがやってきた。



 さすがは主人公特性を持つ者。



 困っている人のところにはいつでもどこでも駆けつけます!



 ……冒険者なんかやめて宅配業でもやったらどうですかね?



「あ、ジン、いいところに来た。お前このギルドで剣の達人と言われたら誰を連想する?」

「……どういうことですか?」

「まぁ、とにかく答えてみな」



 剣の達人? このギルドでか?



 ……いないだろ。



 俺以外みんなランク『B』なんだから。



 もしかして達人って『ランク『B』にしては』っていうハードル下げて考える系の達人?



 うはぁっ。だっせぇ!



 俺が口元を隠しながら笑っている中、ジンは真剣に考え始めた。



 そして、自分の思ったことを素直に言った。



「やっぱりソルドさんじゃないですか? このギルドの中で一番強いわけですし」



 ねぇよ、バ~カ!!



 あんなたかが【アーマーソルジャー】の雑魚にやられる奴が達人なわけあるか!



 達人というなら、むしろ俺だろうが、カス!



「ほらね。だから、言ったじゃないか」



 その様子だと、そこの男もそう言ったみたいだな。



 可愛そうな奴らだ……。



「だが、そのソルドというのは、ランク『B』なのだろう?」

「えぇ、そうですけど?」



 残念なことにランク『B』という弱さですね!



「……ということは本当にガセだったということか?」



 その女性はどうやらランク『B』を探していたわけではないようだ。



 となるとランク『A』ということになるが……ん?



 周りの冒険者らが「やっと納得したか……」と頷く中、俺は一人嫌な予想を立ててしまっていた。



 いやいやまさか。



 そんなわけあるまい。



 そういうのを『傲り』というのだと俺は知っているからな。



「……それで一体何の話をしてたんです?」



 ジンがそう尋ねると、紫の女性は、



「うむ。実はこのギルドにかなりの使い手の剣士がいると聞いたものでな。話によるとランク『A』ということでな」



 おかしな話をする人だ。



 ここにランク『A』がいるわけないじゃないですかぁ。



 俺? 俺は……名もなき旅人ですよ。



「少し手合わせを願いたいと思っていたのだが……どうやら噂ほどの者ではなかったようだ」



 ……うん。噂ほどのものではないんだよ、きっと。



 だから、大人しく帰ってください。



「なっ!? アンタ、ソルドさんを馬鹿にすんなよ! どこの誰かは知らねぇが、ソルドさんを甘く見てもらっちゃぁ困るな!」



 なんでお前がソルドのことなのに自慢気なんだよ。



 お前ソルドにどんだけ心酔してんだよ。



 宗教でも始める気か?



 ソルド教。ソルドを崇め奉る宗教、か。



 気持ち悪っ!



「ん? 俺がどうしたって?」



 どうやらその神様が現れたようだぞ?



 がんばれ、エセ神様!



「ソルドさん! この人がソルドさんを馬鹿にしたんです!」



 子供かっ!



『せんせ~い! AくんがBくんのことをいじめました~』とか。



 人を幼稚化させる力でも持ってんの、ソルド教?



 ソルドは男の隣にいる女性を見た途端、腰を抜かした。



 腰抜かしちゃったよ、神様なのに。



「ア、アンタってもしかして……!?」



 だが、さすが神様。



 この女性のことをお知りのようだ。



 この様子からするとソルドが一方的に知っているだけで、女性の方はまったく知らないようだが……。



「【紫鮫むらさめ】じゃないですか!」



 紫、鮫……だと!?



 ……………………………知らん。



「フム……、その名で呼ばれるのはなんか恥ずかしいな……」



【紫鮫】と呼ばれた女性の顔が赤くなった。



「えっ? ソルドさん、知ってるんですか?」



 ジンがそう尋ねると、ソルドは「当然だ!」と目を輝かせた。



「彼女は城下ギルドの者で、ランク『A』だ!」



 城下ギルドのランク『A』か!



 こいつかどうかはわからんが【エレスタ】ではよくも残党を残してくれたな!



「その剣筋はとても早く、紫の剣から放たれる紫の斬撃が【紫鮫】と呼ばれる所以ゆえんでな」



 それだけじゃないだろ【紫鮫】の所以。



 これだけ全身紫にしてまだ剣を紫に染めるとか。



 呆れを三周通り越して、普通に引くわ。



 あと、ソルドにも現在進行形で引いてます。



 まだ語ってるんだけど。



 神様、キモっ。



 そう思ったのは俺だけではなかったらしく、その【紫鮫】本人もだいぶ顔が引きつっている。



 ちゃんと話を聞いてる奴って言ったら……ソルド教信者が何人かいる。



「ま、まぁソルドさんこの辺で」

「ん? あぁ、そうだったな。つい」



 おぉ、さすが、ジン。



 よくやってくれた。



 褒美に何が欲しい? 金か権力か?



 あげる気はないが聞いてやろう。



「おっと。それで? 俺がどうしたんだ?」



 ソルドが当初の目的を聞いた。



「あ、あぁ。このギルド最強と言われるあなたの実力が知りたいと思ってね……」



 そうだな、最強はソルドだな(笑)!



「おぉっ! それはこちらから頼みたいぐらいだ。ぜひ!」



 ものすごく目を輝かせているところ悪いんだが、性犯罪者にしか見えねぇよ、神様。



「う、うむ」



 と、いうことでソルドと【紫鮫】とやらの決闘が始まるわけだが。



 どちらが勝つかなんて予想するまでもない。




☆★☆




 ギルドの闘技場を借りて、ソルドvs【紫鮫】の決闘が始まろうとしていた。



 俺は別に狙ったわけでなくたまたまそうなっただけだが、ジンとミーシャが座っている席から後ろに三つ、左に二つの席に座っていた。



 俺だって別に近くになりたいわけじゃねぇよ。



「さてさて。どうなることやら」



 俺の隣の冒険者がかっこつけてそう言っていたが、こいつはおそらくソルドが勝つと信じて疑ってねぇな。



 世界が狭すぎなんだよなぁ。このギルド。



 とは言っても、かく言う俺も実は楽しみにしているのだが。



 実際問題、他のギルドのAランカーの実力がいかがなものか確かめたい。



 戦いの決着なんてどうでもいい。見る前からわかることだ。



 問題はどのような戦い方をするのか。



 何か学べることがあるかもしれない。



「……おっと」



 そうしていると、後から闘技場に姿を現わした【紫鮫】の気迫に会場が静まった。



 ソルドの時は有名人を見つけた時みたいに大騒ぎだったが、それとはまさに逆の反応だ。



 さすがだな。気迫が違いすぎる。



 能ある鷹は爪を隠すというが、戦闘前になるとやはり爪が出てくるもんなんだな。



 ここにいる何人の人がこの差に気付いているのだろうか。



 ……誰もいねぇか、と思っていたがどうやらジンは気付いているようだ。



 この短期間でどんだけ実力をあげたんだよ。



「それじゃ、行きますよ」

「全力でかかってこい」



 ソルドが剣を構え【紫鮫】は鞘に剣を収めたまま審判を挟む。



 静かな睨み合いの後、審判の、



「それでは。両者構えて……始めっ!」



 という合図をもとに、決闘の幕が上がった。



 のだが。



 うっわぁ……。



 それはもはや同情の域だ。



 全力で大剣を振るソルドに対して【紫鮫】は力の二割も出していない。



 ランク『B』と『A』の絶対的な差。



 ランク『C』がランク『B』に勝つことはそう珍しくないが、ランク『A』には一切の奇跡とか偶然が通用しない。



 ほんの少しの小細工なんて当然。



 何年もの戦略を練ったところで、勝てるはずがない。



 それがランク『A』だ。



 ランク『B』の人がいつまで経ってもランク『A』に上がれないのは、その壁を乗り越えることができないからの単純明快な答え。



「……やはり、ダメだな」



【紫鮫】も心底残念そうに呟いた。



 これじゃ【紫鮫】の戦い方なんて何もわかりやしない。



 ただの基本の動きだけしかしていないのだから。



「終わらせるぞ」



 結局【紫鮫】は剣を一度も鞘から抜かずに、一撃でソルドを気絶させた。



☆★☆



 つまらない試合だった。



 そう言わざるしかえない内容だった。



 つまらない時間を過ごした、と家に帰っていると誰かが後ろからつけていることに気付いた。



 あらかた予想はついているが。



 俺が足を止めると、その追跡者が姿を現わした。



【紫鮫】だ。



「貴様なのだろう? ランク『A』というのは」



 やはりバレていたか。



 まぁ、あの気迫に物怖じもしない奴がいれば当然か。



 俺は振り返って【紫鮫】を見た。



 ――だが。



「えっ? な、なに? お、俺がランク『A』?」



 ここはシラを切らせてもらう。



「貴様以外に誰がいる」



 知らない知らない。



 俺はランク『A』じゃない。



「あ、あの~? 本当に俺知らないんだけど」

「フン……。白々しいな。いい加減白状したらどうだ?」

「いや、だから……。本当に違うんですけど?」



 言葉以上に態度で表す。



 嘘をつくときに大事なのはうまい言葉でも、合理性のある説明でもない。



 俺は本当に知らないんです、というその態度だ。



 そして、俺はそれを自由自在に操る。



 俺呼んで!



 嘘のウルトラスーパートリックスターテクニシャン!



 略して『うす汚ぇ手で触ってんじゃねぇ』!



 決まったぜ。……決まってねぇか。



「まさか……本当に違うのか?」



 ちょろいぜ!



「す、すみません」

「すまん! 人違いだった!」

「は、はぁ……」



【紫鮫】は顔を真っ赤にするとどっかに走り去ってしまった。



 ランク『A』が惨めだねぇ。



 けど、これからは気迫に対しても気を付けた方がよさそうだ。



 今日学んだことはそれしかねぇな。よし!



 俺はモブを極め、世界一のモブに俺はなる!!














 ……そして、ヘイゲルの約束を帰ってから思いだした俺であった。



 ちゃんちゃん。




今回モブはほとんど喋っていません。心の内で自己完結です。


2018/03/09 改稿

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