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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第二章 ~モブと愉快なお友達~
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モブのふとした疑問

 ギルドで合流した後、俺達はすぐに草原へと向かうことにした。



 その間も当然、二人は喧嘩をやめない。



 途中からは注意するのもわずらわしくなり、無言で二人の後をついていくことにした。



 もちろん、警戒はその分怠らないようにしている。



 だが、こうして三人で歩いていると、いかにも俺がハーレムしているみたいで、悪くない気分だ。



 これで二人が喧嘩さえしていなかったら完璧だったのに。



 といっても、実際のところ。



 二人の意中の相手は睡眠妨害野郎で知れ渡るジンであって、俺ではないのだから。



 俺ってそんなに救われちゃいけない人なんですかね?



「へ~、王都の近くにこんなところがあったとはね~」



 そんなことを考えながら歩いていると、アイシアが空気を味わうように深呼吸した。



【エレスタ】の周りは自然であふれているが、王国の近くの自然といったらここしかない。



「広い草原に来ると深呼吸したくなるのはなんででしょう」



 シルヴィもそう言ってと深呼吸をした。



 ……今の深呼吸でわかったんだが、胸の大きさではアイシアの勝利だな。



 い、いや、決して見ようとしたわけではないんだぞ。



 目が勝手に動いてしまったんだ。



 俺は悪くない。



 大体、男ならそれくらい普通だろ?



 ないとは言わせない。白状しちまいなっ!



 そんなくだらないことを考えていると、



「それで、問題の襲撃があったところってどこなの?」



 と、アイシアがシルヴィに聞いた。



「……えっとですね、ここから三キロ歩いたところですね」



 すると、シルヴィも緊張した様子で答えた。



 そろそろ緊張感というものを感じ始めたってところか。



 うんうん。いいことじゃないか。



「ふ~ん、よし! エリク行きましょ!」

「えっ、おい!?」



 急にアイシアが俺の手を掴もうとしたところで、シルヴィがその手をパチンと弾いた。



「痛いわね」

「エリクさんはゆっくり行きたいんです。それと、どさくさに紛れて手を繋ごうとしないでください」

「やるじゃない?」



 なるほど。



 まず自分が一瞬の油断を見せることで、相手の油断を誘う。



 そして、油断したところを狙い撃つ。



 ……こういってはあれだが、たかが恋愛にどんだけ勝負の駆け引きをしてんの?



 普通に冒険者をやった方がいいのではなかろうか、この二人。



 というか、なんでこんなにも俺は気まずい空間にいなきゃいけないのかね。



 ジンがいないところで争ってる時点でもうおかしいよね。



 そうしていると、五〇〇メートルほど先に【コボルト】が群れで行動しているのを見つけた。



「そういえば」

「「?」」



 どうして【コボルト】を見て思い浮かんだのかはさておき、二人に聞いておきたいことがあった。



「二人の魔法ってどういうやつ?」



 魔法は誰もが必ず一つは持っている。



 たまに魔法を二つ以上持っている者がいるが、そういうのはやはりレアだったりする。



 一人で何通りかの戦い方ができるのだ。やっぱり便利だ。



 俺だってできれば欲しかったが、欲しいからといって手に入るものでもない。



 生まれつき二つ以上備わっている者もいれば、突然使えるようになることもあると聞く。



 勘であるが、おそらくジンは後者だろう。



 俺の知り合いにも何人か二種類魔法を持つものを知っているが、そいつも後天的に手に入ったという話だ。



 それはさておき。



 シルヴィの魔法はいうと。



「私は【調合】という魔法です」

「調合?」

「はい。前にエリクさんを傷を治すために飲ませた薬がありましたよね」



【ファイナルアーマー】戦のことを言っているのだろう。



 そういえば、あのときの傷はかなりのものだったはずだが、あの薬を飲んでからは早く治った。



 あのときは、俺がギルド最強だという事実に驚いていて何も考えてなかったが、大した薬だった。



「覚えているけど、あれってもしかして」

「はい! あの薬、私が作ったんですよ」



 おおっ! それはすごい!



 あの薬を作れるとは。



 シルヴィはギルドより薬剤師の方が適職ではなかろうか。



「その薬はどうやって作ったのよ?」



 アイシアがそう聞いた。俺も気になる。



 冒険者たる者、いろいろなものに精通していた方が良い。



 何でもないことでも、大事なときに役立つことなんてよくある。



 シルヴィは少し考える素振りを見せた後に、



「特薬草・回復剤・マインドレイン・精神安定剤・微少の睡眠剤・人の細胞ですね。睡眠剤は睡眠薬でも大丈夫ですけど……」



 と、言った。



 だが、それを聞いた俺とアイシアは顔を真っ青にした。



 ほ、本当にそれで合ってんのか? 毒薬の間違いじゃねぇのか?



 四つはまだわかる。



 特薬草と回復剤は回復に使われるのだろう。



 精神安定剤と睡眠剤は痛みを和らげるものであることも知っている。



 しかしだ。



 他の二つはいろいろとまずいだろう。



 マインドレインは超がつくほどの劇薬で、飲んだ者に幻覚を見せる物だ。



 ん? ……ま、まさかと思うが、その幻覚を抑えるための精神安定剤か!?



 そして、人の細胞って何だよ……。



 あ、おい、やめろ、アイシア。



 そんな目で俺を見るな。



 俺が一番怖いんだ……。



「そ、その……人の細胞って……?」

「爪もしくは髪であれば問題ありませんよ?」



 呪いの一種ですか?



 これってまさか、毒をもって毒を制すってやつじゃねぇか?



 というか、俺は呪いの道具になった気分なんだけど大丈夫か。



 やめろ、アイシア! 俺から少しずつ離れていくな! 



「え、えっと……。その……。つ、つかぬ事をお聞きしますが……。俺に使われた薬の、爪もしくは髪は一体誰の?」



 これが今はもう死んだ冒険者のものだったら、俺マジやばい。



 そこらのおっさんの髪とかだったら、精神的にヤバい。



 せめて可愛い女の子でお願いします!



 すると、シルヴィは少し顔を赤くして、



「わ、私のを……」

「……え?」



 あ……。や、やったー!



 なんか今までの物がどうでもよくなるくらい安心した!



 むしろ、ちょっと感激している!



 可愛い女の子なんてレベルじゃねぇ! 



 怪我してよかった!



 そう思っている俺マジやばい!



「ッチ!!」



 って、ちょっと!! アイシアさん!? 何で舌打ちしてんの!?



 どこぞおっさんだったら、本当に精神が狂ってたからね、俺。



 アイシアは不機嫌そうな顔を顕わにすると、俺の足を力強く踏んできた。



「イ゛ッ……!」



 なんで!?



 ってか、マジで痛い。



 足の力どうなってんの。



「それじゃ、私の魔法ね」



 俺の涙目を当然のごとく無視して、アイシアは自身の魔法について話し始めた。



「私の魔法は【応援】という魔法よ」

「いてて……。で、その応援ってのは?」

「簡単にいうと、仲間の身体強化よ」



 まぁ、それは簡単に推測できる。



 問題は。



「どうやって今日かするんですか?」

「その相手に手を向けて魔力を込めるだけ。それだけよ」



 なるほど。でも、それではまるで。



「【応援】というより【支援】っていう違う魔法の気がするんだが」

「……」

「ちゃんと全部話してくれないと仲間とは認めませんよ?」



 シルヴィがそう言うとアイシアは苦虫を噛み潰したような顔をして、



「――と――のよ」

「えっ? 何だって?」

「大きい声で言ってください」



 ここぞとばかりに、シルヴィは力強く聞く。



 お、思ったよりドSなんですね?



 すると、アイシアは顔を真っ赤にしながらも叫んだ。



「だから! 踊ると、複数の人に能力をかけられるのよ!」

「……なるほど、ね」



 アイシアの性格ではそりゃ、踊りづらいだろうな。



 だが、ここでもまたシルヴィが追い討ちをかけた。



「実際に踊ってみてもらえません? 実感が湧きませんし」



 ひ、ひでぇ……。



「するわけないでしょ!?」

「そうですか。なら、仲間と認めるわけにはいきませんね」



 今日のシルヴィ、やけに攻めるな。



 いつもはアイシアが主導権を握っているはずなのに。



 ……女って怖い。



「はぁ!? そもそもアンタを仲間だと思ってないけど!? 私の仲間はエリクだけよ!」

「私だってあなたを仲間とは思っていません!」



 はい、繰り返し。



 また二人で喧嘩を始めた。



 こういうときに関わるとまた泣かされるので、俺はしばらく座って時が過ぎるのを待つとしよう。



 あぁ、今日もいい空だ。




シルヴィの魔法が書いてて怖くなってしまった……


2018/03/08 改稿

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