プロローグ
「行くなってどういうことですか!? ここで大人しく待ってろってことですか!?」
ジンは行く手を阻むように立つ二人に対して叫んだ。
「別に行くか行かないかはジン、お前次第だ。だが、お前一人が向かったところで、待っているのは死だけだ」
紫の鎧を着る女性は虎視眈々と言う。
「お前一人が向かったところで、お前が死ぬだけなんだよ。俺としてもそれは困る。お前はせっかくこのギルドの光になるかもしれないってのに」
今まさにこの場で戦いそうな二人をソルドは気まずそうに止める。
ここで仲間割れなどしている暇がないことくらいこの二人も知っている。
ジンは二人の説得は無理と判断し、二人を抜くと、そのジンの肩を女性が引き留める。
「待て。行くなと言っただろう」
「放してください」
ジンが肩の手の上にさらに手を置いて引きはがそうとするが、女性の手はビクともしない。
「お前は死ぬ気か?」
「死ぬ気はありませんよ」
「私にはそうは見えないが」
「なら! 仲間を見捨てろって言うんですか!?」
「そうじゃない!」
初めて女性がイライラした様子で声を張り上げた。
イライラしているのはお前だけじゃない。
なぜそれがわからない?
「少し待てと言っているだろう」
「待てませんよ」
こうしている間にも仲間達の命が危険にさらされているのかもしれないのだから。
目の前で仲間を見殺しにしているのと同じだ。
「逆に聞きますが、なぜすぐ助けに行かないのですか」
「お前は少し頭を冷やせ」
「そんなのとっくに」
「冷やせ、と言っているんだ」
そのとき、ギルドの中全体が急に冷えたのを感じた。
それが女性の発した殺気によるものだと気付くのに、ジンは数コンマかかった。
これがランク『A』の本気というものだろうか。
「さっきもソルドが言っていただろう? 一人は危険だと」
女性は助けに行かないとは言っていない。
むしろちゃんとした作戦を考えてある。
むやみにジンが一人で突っ走るのをやめろ、とそう言いたかったのだ。
「今お前一人が行ったところで何になる? 相手は少なくとも二人いるはずだ。でなければ、捕らえられた仲間を誰が見る?」
首謀者を倒そうとしたところで、攫われた仲間達を人質にされることだって考えられる。
危害だって加えられるかもしれない。
何人かの冒険者達が殺されて、それで事件が解決したとして。
それは本当に救ったのだと言えるのだろうか。
「……っ」
「だから、いっぺんに両方同時にこなそうと言っているんだ」
確かに自分は冷静さを失っていたかもしれない、とジンは反省する。
女性は指を二本立てると、
「班を二つに分ける。首謀者の捕縛班と仲間の救出班の二つに、だ」
「けど、それでは人手が足りなくないですか?」
ソルドが女性にそう尋ねると、女性はコクリと頷いた。
「冒険者だけではな。だが、私達には雇える仲間がいるだろう?」
「え、まさか?」
冒険者達が揃ってギルドの向かいに建っている建物を見た。
ほんの数日前に建てられた大きな建物。
その中にいるのは、変わった奴らだ。
アイツらに頼むのか? と、不安そうな冒険者達だが、女性は心配するな、とばかりに笑みを浮かべる。
「彼らだって、ここで問題を起こせばどうなるかわかっているはずだ」
彼らの目の前に冒険者ギルドがあるのもそれが理由の一つ。
下手なことをさせないためのブレーキ役をこのギルドは担っている。
「君たちも無理はしなくていい。先日の件で、まだ傷も癒えていない者も無理しなくていい」
そう言われて、すぐに立って参加の意を表明する者もいれば、面倒くさいと帰る人もいる。
この空気の中で気まずそうに帰る人達もいた。
しかし、女性はそれを止めることはせず、やる気のある者達にだけ告げた。
「残ってくれた者には感謝する。それじゃ、作戦について説明するが――」
ジンが黙って作戦を聞いていると、その横に誰かが立った。
ミーシャだ。
「……わたしはジンを一人にはしないよ」
それは自分一人でも助けに行く、と言ったときのことだろう。
「……ジンが守りたいものはわたしの守りたいものでもあるから」
だから。
「……一人で行くなんて言わないで」
この少女はきっと、そのことが何よりもショックだったのだろう。
自分が少年の仲間だと思われていないと思ってしまったから。
自分は全然冷静ではなかったのだ、と改めて思い直した。
「ごめん、ミーシャ」
「……ううん」
一人では何にもできない。
それは魂を武器に戦う自分が一番知っていなきゃいけないことなのに。
今回はどこにエリクがいたのでしょうか?
2018/03/08 改稿




