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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第一章 ~モブのお仕事~
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本編という名の裏の裏話Ⅲ

 一方的な展開へともつれ込んでいた。



 大量の植物の攻撃を必死に避けるだけでも、今のジンには精一杯だった。



 リズムを奏でるかのように打ち下ろされる巨大な植物だけではない。



 空間をまっさらにするかごとくの横になぎ払う巨大植物。



 自らを鋭く尖った木くずへと分解して、マシンガンのようにはじき出される木の弾。



 枝先には紫色の花が咲いており、その花から垂れる液体は地面を溶かすような音を立てる。



 それがすべて同時に行われるのだから、攻撃する暇なんてあるわけがない。



 それどころか近づくことすらままならない。



「逃げて何になる、少年?」

「クソ……!」



 アデラントもときどき魔方陣を書いては攻撃を加える。



 魔力の節約をしているのか、それとも遊んでいるのか。



「ぐっ……!」



 飛んできた木弾が頬をかすめる。



 いくら傷を回復したからといって、疲労までもが回復するわけではない。



【アーマーソルジャー】で受けた体が重く感じ始める。



「なんだ、もう終わりか?」

「まだだ!」



 それでも必死に体を動かしてミーシャの攻撃を躱し続ける。



 だが、それも時間の問題だ。



 このままでは負ける。



 であれば。



「憑依!」



 ジンは懐からケースに入ったアメ玉を取り出すと、歯でかみ砕く。



 すると、ジンの周りが不自然に光り始め、それと同時にジンの速度が一段速まった。



「……ほう?」

「【キラーマンティス】!」



 ジンが腕を横に払うと、その腕からカマイタチが発生する。



 腕だけではない。



 手足すべてに斬撃が付与されている。



「面白い魔法だな」



 ジンの魔法は魂霊化と憑依。



 倒した魔物の魂をアメ玉サイズにし、それをかみ砕くことでその魔物の特徴を自分にも付与することができる。



「うおぉぉぉぉぉぉ!!」



 腕や足を何度も払うことで、植物を切り裂いていく。



 しかし。



「それだけか?」



 アデラントがそう言うと、ジンの横から植物が襲いかかる。



「はぁっ! ……ぐっ!?」



 それを切り裂こうと腕を振るったが、その植物はビクともせずジンの横っ腹を強く叩いた。



 転がるジンを上から新たに植物が倒れ込んでくる。



「【キャットラビット】!」



 その前にジンは新たな魂をかみ砕き、猫のような瞬発力とウサギのようなジャンプ力で上からの植物を避ける。



 空中で体勢を整えると、腕をアデラントへ振るうが巨大な植物がそれを阻む壁となる。



 だが、これで一瞬だけだがアデラントからジンの姿は見えなくなった。



「【エアホース】」



 空気を蹴って素早くアデラントを守った植物へと近づく。



 植物を伝って懐に潜ろうという算段だ。



「舐めるな、若造」



 アデラントの声と同時に守っていた植物がジンを迎え撃つ。



「がっ……!?」



 自ら車に当たりにいくようなものだ。



 倍近くのダメージがジンの体全体を駆け巡る。



「私が召喚した者のすべての目が、私と同調しているのだよ」



 アデラントから見えなくても、ミーシャから丸見えになっていれば意味がない。



 さらに、アデラントとミーシャの位置取りはまさに完璧と言っていい。



 互いが、互いの死角をカバーできる立ち位置にいる。



 さすがは召喚魔法師といったところだ。



 己の弱点とその克服法をきちんと身につけているようだ。



「はぁ……はぁ……」

「さすがに、今のは答えたようだな」



 土まみれの体を必死に立ち上がらせるジンを、アデラントは、飽きた、というように冷たい目で見る。



 試運転はもう終わった。



 あとは殺すだけ、といったところか。



「何度やっても、何をやっても結果は変わらんよ」

「そう言われて諦めるとでも?」

「思ってはいないが、事実だろう?」



 ジンの魔法も多種多様な技を使うことができる魔法だが、それ以上にミーシャの魔法も強すぎる。



 今はまだ本気にされていないのだとわかってしまえるくらいに強い。



 本気になれば、世界を滅ぼすほどの魔法だ。この程度で終わるものではないはずだ。



 技の種類だって実際は無限にあるはずだ。



 魂の種類がジンの攻撃手段とすれば、ミーシャは自ら創り出すことが出来る。



 ジンがこの戦いで魂を使うに使えないのはそこが何よりも問題になっている。



 一度見せた魂は次の一手で攻略されてしまうかもしれない。



 そうなれば、勝ち目はどんどん薄くなる。



「使うなら一度きりが勝負、か」



 まだ本気にされていない今がチャンスだとはわかってはいるのだが、それでも攻略法が足りない。



 例えミーシャかアデラントの下にたどり着いたとして、ミーシャの助け方がわからなければ状況が悪化するだけだ。



「さっきから、考えてはいるんだが」



 答えが見つからない。



 早く助けなければどんどん助ける可能性がなくなるという焦りが生まれてきている。



 それに加え、後ろから聞こえてくるソルド達の戦闘音も余計に焦らせる。



「どうしたもんか」



 いったん落ち着こう……。



 今一度状況を再確認するべきだ。



 相手はアデラントとミーシャの二人。



 アデラントは魔法でミーシャの援護をしている。



 あの男は召喚魔法師だ。



 召喚魔法を使わないのはなぜだ?



 召喚の材料がないのか、魔力がないのか、節約か。



 召喚魔法を極めた故か魔法におざなりの部分がある。



 召喚した魔物の目と同調できる。



 ミーシャはどうだろう?



 本当に太刀打ちできるすべはないのか?



 そんなはずはない。きっとあるはずだ。



 例えば何だ?



 技を防げるか? ……いや、無理だ。【アイアンタートル】でも難しいだろう。



 攻撃を躱せるか? いや、それも無理そうだ。



 植物を思い切って燃やしていてはどうか。



 ……これも燃えない植物を創られてしまえば終わりだ。



 ミーシャとアデラント。



 どちらを先に倒すべきか。



 アデラント? いや、ミーシャだ。ミーシャを助けてしまえば、アデラントはどうにでもなりそうだ。



 では、どうやって助ける?



 魂を探す? そもそもミーシャの魂はどこに行ったのか?



 魂を扱う自分ならまだしも、アデラントが魂を操作できるだろうか?



 考える。考える……。



 一度落ち着いた頭で必死に策を張り巡らせる。



 見落としているものはないかと必死に記憶を探る。



「……見つけた(・・・・)



 たった一つの弱点とミーシャを助ける方法。



 考えてみればそう難しくもない。



 弱点はアデラントが最初に言っていた。



「……三つじゃ、足りないか。仕方ない」



 せっかくだ。やれることはすべてやる。



 たった一回のチャンス。無駄にするわけにはいかない。



 危険な賭けだが、成功する確率もその分高い。



「よし!」

「今度は何をする気だ?」

「気合い、とでも言ってやるよ」



 そう言ってジンは魂を四つ取りだした。



「憑依!」



 まずは同じ色の魂を三つ。



「【ウルフェンロード】!」



 同時にかみ砕く。



 アデラントが召喚した魔物だ。



 粉になる前に魂霊化することができたのか、とアデラントは素直に感心した。



 そんなアデラントを放って、ジンの周りが強烈な光を放つ。



 だが、ジンの顔もなかなか苦しそうでもある。



 憑依するにもやはり限界というものがあるのだろう。



「まだだ! 憑依!」



 最後の一つを口にする。



「【キングオーガー】!」



【キングオーガー】



 巨大な体を持つ、王国近くの森の主としても知られている魔物だ。



 その腕によって、何人もの犠牲者が現れ、その魔物を見たらとにかく逃げろと言われるほどだ。



 推定ランクは当然『A』



 だが、少なくても五人の『A』ランクでないと倒せないと言われている。



 まさに化け物。



 それを一人で倒した者は、現在知られている中では、城下ギルド最強の冒険者のみ。



  (……実は知られ) (ていないだけで、) (もう一人いるのだが) (。門前ギルドに)



「ははっ! まさか、そんな化け物の魂を持っているとはな!」

「誰が倒したのかは未だにわからないやつだが」



 ジンがミーシャと会う前に見つけた死体だった。



 殺されてから数週間経っていた様子ではあったが、魂に死体の状態は関係ない。



 だが、今問題にすべきところはそれじゃない。



「【キングオーガー】に備わる一つの魔法」

「……むっ! マズい!」



 ジンの意図に気付いたアデラントが慌てて攻撃を仕掛けようとしたところでジンは叫んだ。



「暴走!」



 その瞬間、ジンの姿が消えた。



「くっ……!」



【ウルフェンロード】三体分の速度に【キングオーガー】の暴走。



 暴走は理性をすべて失うかわりに、身体能力の限界を越える力を得る魔法。



「み、見えん!」



 アデラントは言っていた。



『私の言うことしか聞かない。私の声しか届かない』



 それはつまり、アデラントが理解できないものに対しては、何もできなくなるということ。



 だから、ジンはアデラントが目で追いつけない速度を出すことにした。



 初めてジンが魂を使ったとき、一瞬だけだがミーシャの攻撃に対処できた。



 それは、アデラントがミーシャに攻撃を切り替えるように言っていなかったから。



 アデラントがそれを理解していなかったから。



 アデラントがジンを捉え切れていないのなら、ミーシャも捉えきれない。



【ウルフェンロード】だけでは難しいと思ったが故に理性を捨てる賭けに出た。



 暴走状態のまま理性を保て、という賭けに。



「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!」



 頭の中に流れる破壊衝動を必死に抑えるジン。



 一度飲み込まれてしまったら、帰ってこられない。



 そして、あまりの速さに自分自身も追いついていない。



 視界が線のように見えている中でミーシャに近づけるだろうか。



 下手すればミーシャにぶつかって殺してしまう恐れすらある。



「ぐううううぅぅぅぅっっっ!!」



 今しかチャンスはない。



 焦るな。落ち着け。



 ミーシャは絶対に助ける。命に代えても!



 ゆっくりと暴走しかける頭で、ゆっくりと懐に手を伸ばす。



 これ以上は命の危険もあるが、何もしなければこのまま終わってしまう。



 今はやれることをすべてやる!



「憑……依!」



 魂をかみ砕く。



「【ナイトスパイダー】!」

















 ジンが姿を消してからは嵐のようだった。



 地面を揺らすほどの巨大植物が落下してくる。



 どうにかしようと思っても、アデラントには何もできなかった。



「どこだ!? どこにいる!?」

「ここだ」

「っ!?」



 声が聞こえた場所はミーシャのすぐ隣だった。



 焦った様子のアデラントだったが、すぐに平静を取り戻した。



「ふっ。その娘を助ける方法はない。殺すのか?」



 ジンがミーシャを殺せないとわかっていての発言だった。



「助ける方法なんて簡単だ」

「なっ!?」

「アンタは一つ嘘をついている」

「嘘だと?」

「魂はミーシャの中にはないと言ったが、そんなわけがない。ミーシャの中に魂を入れることはできても、取り出すことはアンタにはできないはずだ」



 ジンと同じ魔法を持っているなら話は別だが、それはこれまでの様子からありえない。



「つまり、アンタはミーシャの魂を眠らせただけ。ミーシャの魂はここにちゃんとある」



 一つの体に二つの魂があるだけ。



 今は魔物に魂の所有権を奪われているだけであって、その魔物の魂が抜ければ、当然所有権は元に戻る。



 そして、ジンの魔法を考えると――



「ミーシャに返してもらうぜ、この体!」

「や、やめろ!」



 アデラントの制止を振り切り、ジンは肘から先を光らせ、ミーシャの胸の中へと手を伸ばす。



 ミーシャの呻き声と共にジンは何かを掴み、それを引っ張り上げる。



 ジンが引っ張り上げたそれは、やがて小さくなりアメ玉サイズの魂へと変わり果てる。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 アデラントがこの世の終わりとばかり絶望する。



「なぜだ! なぜだぁぁぁぁぁぁ!?」



 何故自分ばかりがこうも失敗するのだ、とアデラントが叫ぶ中、ゆっくりとミーシャが目を開けた。



「……ジン」

「助けに来たよ、ミーシャ」

「……うん、助けられたね。また」



 二人はようやく笑みを浮かべあった。



 さて、残りの仕事はあと一つ。



【アーマーソルジャー】と戦っている彼らのためにすべきことはあと一つ。



「これで終わりだ、アデラント」

「クソガキがぁぁぁぁぁぁ!!」



 まだ憑依は続いているが、憑依を解いた。



 途端に体が重くなったが、戦えないほどではない。



 あと一発の力だけあればそれでいい。



「があぁぁぁぁぁぁっっっ!」



 やけくそに走ってくるアデラントに倣って、ジンも飛び出す。



 互いの拳が重なり合う。



 勝負は一瞬だった。



 どちらが勝ったのかなんて、言うまでもなかった。




2018/03/08 割り込み


かつて『モブヒーロー ~モブに視られる英雄譚~』でのお話を加筆修正したのが、この三話でございます。

エリクとは違う超王道の熱い戦いであったと思われたのなら幸いです。

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