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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第一章 ~モブのお仕事~
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本編という名の裏の裏話Ⅰ

『任せとけ!』



 少年の頼みに力強い返事を返した冒険者達は武器を構えると、少年を守るように取り囲んだ。



 指一本触れさせてたまるか。



 それほどの思いを託されていることに少年は、力が湧いてくる思いだった。



 やっぱすげぇな、ソルドさん達は。



 これが冒険者としてのキャリアとも言うべきものか。



 実力では少年より確かに劣っている者もいるが、その覚悟は自分よりもよっぽど強い、と少年は思う。



「俺達が道を作ってやる。それでも一瞬しかねぇからな。覚悟しとけよ」

「わかりました」



 冒険者達のリーダーであるソルドが少年――ジンに軽い打ち合わせを行うと、ジンはコクリと頷いた。



 ソルドはそれを見て安心したあと、大きく息を吸い込んだ。



「行くぞ、テメェらぁぁああああ!」

『うおおおおおおおお!!』



 ソルドの雄叫びともいえる合図で、冒険者達が一斉に飛び出していった。



 敵対するは【アーマーソルジャー】



 国の戦闘兵器と言われている召喚用の魔物。推定ランク『A』



 普通に戦っても勝てる相手ではない。



 しかし、ジンをこの先に向かわせるためには冒険者達が犠牲にならなければいけない。



「一瞬だけでいい! 押さえ込め!」



 ソルドが冒険者達に叫ぶ。



「気を付けてください! そいつらは斬られても立ち上がってきます!」



 ジンがソルドの次にそう言うと、冒険者達に僅かな動揺が走ってしまった。



  (――今言うタイミング) (じゃねぇよ)



 その一瞬の動揺すらも今回の敵にはしてはいけない。



 何体かの【アーマーソルジャー】が冒険者達の横を通り抜け、走って抜けようとするジンの下へと向かってくる。



 ジンが腰の剣に手をかけようとしたとき、大剣が彼らに立ちふさがる。



 ソルドだ。



「言っただろうが! ここは俺達でなんとかする!」



 テメェはさっさと先に行け!



 そう言うようにソルドの大剣が【アーマーソルジャー】を吹き飛ばしていく。



「すみません!」



 今はとにかくこの群れを抜けること。



 それがこの少年の使命だ。



 余計なことは考えてはいけない。仲間の冒険者達を信じるしかない。



「ぶっ飛びやがれぇぇぇぇぇぇ!!」



 ソルドが暴れる音がする。



  (――バカ野郎、飛ばし) (すぎだ。やるならちゃ) (んと倒せよ)



 ソルドが飛ばした何体かがゆっくりと起き上がり、標的をジンからソルドへと変更する。



 しかし、何体かは地面からうまく起き上がることができず、バタバタと手足を懸命に動かしている。



 一体何が?



 ジンは走りながらその理由を探っていると、答えは簡単なものだった。



 鎧が溶けている?



 頑丈な鎧がまるでスライムのように溶け、地面に粘りついていた。



 あれでは確かに動けない。



 そうか、倒せないのなら動けなくすればいいのか。



 倒し方がわからず、ただただ剣を振るっていたジンとは違い、ちゃんと考えている。



 さすが、ソルドさんってところか。



 トリックはわからないが、あの大剣は熱を操るものなのだろう。



 一瞬にしてあの鎧を溶かしたのだ。



 それを操るソルドも十分にすごい。



 だがそれだけで勝てる相手でもなさそうだ。



 この数を相手にするには、やはり攻略法が少ない気がする。



 そのとき、ソルドの大剣によって、敵の一体が大破された。



 あの強大な一撃を食らいすぎたが故に、鎧の限界が来たのだろう。



「跡形もなく壊しちまえば、こいつらは復活できねぇぞ!」



 ソルドが冒険者達にそう言うと、冒険者達の顔に僅かに笑みが生まれた。



 相手は不死身ではない。



 それがわかっただけでも、心の助けにはなる。



「ジン、そのまま突っ走れよ!」

「は、はい!」



 ソルドは前方にいるジンにそう叫ぶと、大剣に魔力を注ぎ込んだ。



 力強い一発が来る。



 そう予感ができるほどにソルドの魔力が高まっているのがわかる。



  (――おいおい、無) (駄な魔力まで注い) (でんじゃねぇか)



 ソルドを信じて、ジンは前だけを見て走る速度を速める。



 ジンをこの先に行かせてたまるか、と【アーマーソルジャー】達がジンを止めようと動く。



「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



【アーマーソルジャー】がジンを仕留めようと、全方位を取り囲んだその時、ソルドの咆哮がジンの耳に届いた。



 そしてすぐに、耳元を風が過ぎ去ったと思ったときには、ジンの周りの空気だけが曲がっていた。



 あまりの強力な攻撃に空気が曲がったのだと気付くのに数秒かかった。



  (――あ~あ。空気が) (曲がっちまって) (んじゃねぇか。無駄) (が多すぎなんだよ)



「行ってこい!」



 空気のトンネルが保もつのはほんの数十秒といったところだが、その時間があれば通り抜けられる!



「ありがとうございます!」



 背中を押されるような声に、ジンは全速力でトンネルの中を走って行く。



 もう振り向かない。そんな時間もない。信じるしかない。



 トンネルの外側から【アーマーソルジャー】が何とか中に入っていこうとするが、空気の層が厚く侵入を阻む。



  (――やっぱりな。無駄) (な魔力のせいで) (もうじき切れるな) (、あれ)



 このまま走り抜けれるか!?



 そう思った途端に、空気のゆがみがぼやけ始める。



「やべぇ! もう限界か!?」



  (――そりゃ、そう) (だろうよ)



 ソルドの焦った声に、一瞬だけジンも気を抜いてしまった。



 あれだけ信じろ、と自分に言い聞かせていたにもかかわらず。



 最後の最後で信じ切れなかった。



「しまっ……!」



 トンネルの外側を【アーマーソルジャー】の一体が突き破り、剣を光らせる。



 ジンの剣は腰の鞘に収まったまま。



 今から剣を抜いても間に合わない。



 躱すといっても、まだトンネルは完全に消えていない。下手に避ければ空気の壁でダメージをくらう恐れもある。



 ジンを守るはずだったトンネルが、今は逆に、ジンの動きを阻害していた。



  (――ったく! しっ) (かりしろよ!)



 そのとき、突如その【アーマーソルジャー】の前に人影が現れた。



 他の【アーマーソルジャー】に吹き飛ばされたのであろう冒険者の姿だ。



「お前! ナイスタイミング!」



 吹き飛ばされているにもかかわらず、目の前の【アーマーソルジャー】に驚いたのか、偶然にもその冒険者は【アーマーソルジャー】の攻撃を鮮やかに躱し、蹴りが腹部分へと入った。



「すげぇ! お前、運がいいな!」



 助かった!



 その冒険者には悪いが、よく吹き飛んできてくれたと思う。



 心の中でお礼の言葉を口にしたジンは、そこから無我夢中で走り抜けた。



【アーマーソルジャー】らも、もう追いつけないと諦めたのか、ジンを見送る。



 そして、冒険者達を完全に敵と認定した。



  (――何がナイスタ) (イミングだ! あ) (と、運じゃね) (ぇからな!)



 ここからは冒険者達と【アーマーソルジャー】達の白兵戦。



 勝とうが負けようが、結果は彼らではなく一人の少年に託された。




2018/03/08 割り込み

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