モブ、真実を知る
「……ソルドさん! ソルドさん!!」
誰かの叫び声に目を開けた。
体がもう限界なので、首だけで動かしてみると、そこには倒れているソルドを必死に呼びかけているジンの姿があった。
「うっせぇなぁ」
静かにしてくれ。一番の功労者がここにいるってのに。
あれからどうやら気絶していたようで、空も真っ暗になっていた。
大体、七時くらいといったところか。
さらに、かなりの疲労がたまっているのだろう。目を覚ましてからも、何かしたいと考えることができなかった。まぁ、考えれたところで、この体じゃ無理だけどな。
ピクリとも動きやしない。
「ソルドさんっ! 起きてください!」
まだやっていたのか。早く目を覚ましやがれ。
すると、俺の願いが届いたのか、ソルドが目を開けたようだ。
「んん? 誰だ?」
「よかった……。ソルドさん」
ソルドはジンの隣にいる少女を見ると、
「おう、ジン。愛しの彼女を守れたのか?」
と、ニカッと笑った……んだと思う。俺の角度からはよく見えん。
「はい、なんとか。それと、彼女じゃないよ」
「……ははっ、そうか。とりあえず無事みたいだな」
「ソルドさん達の方がボロボロですよ」
「それもそうだな。やられたときはどうなることかと思ったが、どうやらその前にお前が助けてくれたようだな」
…………は?
「俺がこうして無事ってことは、なかなか早かったじゃねぇのか?」
はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
遅すぎるっての! お前ふざけんなよ!? お前が無事な代わりに、俺がこんな目に遭ったのテメェは知らねぇけどなぁ! 殺してやろうかぁ!?
心がそう叫びたがっているが、体がいうことを聞いてくれない。
「ソルドさん達が無事で安心しました」
無事じゃねぇから。
「あの、その……」
ジンの後に金髪の娘――ミーシャが、俺達に頭を下げた。
「私のために、ありがとうございました」
いっちゃ悪いが、まったくだ。もっと感謝してほしいくらいだ。
なのに、ソルドの野郎。
「俺達はなんもしてねぇよ。アンタを助けるために動いたのはジンだけだ。俺達はただ討伐クエストをやっていただけだ」
……あ? んなわけねぇだろ。これだけの体にされて、ただの討伐クエストなわけあるか。
「さて、帰るとするか! 俺達のギルドに! 動けない者はいるか?」
はい。
手を挙げると、ソルドは俺に駆け寄り、
「なんだよ、まったく。男なのに、だらしねぇなぁ」
マジでぶっ殺してやろうか!! いや、絶対殺す!!
冗談でも今の言葉は許されねぇ。そもそもテメェがもっときちんとしていればこうなってはいなかったんだ。お前本当にランク『A』か?
ソルドは俺の肩を背負うと、笑顔を見せた。正直、男の笑顔を間近で見せられても気持ち悪いだけだが。
「よく頑張ったな。疲れただろ? 俺もクタクタだ」
テメェごときが疲れてんなら俺は一体何なの? 死んでるの?
不完全な【アーマーソルジャー】にすら負けやがったテメェが、俺にどの口聞いてんの?
そんな中、隣で。
「ジン。改めて言うけど約束。守ってくれてありがとう。……私を助けてくれて、ありがとう」
「それは違うぞミーシャ。約束だから守るんじゃねぇ。俺が、お前を守りたかった。それだけだ」
「……うん!」
どいつもこいつも脳内お花畑しかいねぇのか。今回の危険度をまったく理解していねぇ。
主人公様はミーシャを助けたことで舞い上がっているし、他の冒険者達もそのお手伝いができたことへの達成感しか感じてねぇな。
結果的にこうなっただけで、もし、俺がいなくて、ミーシャも助けられなかったら、俺達どころか世界が滅ぼされていたのかもしれなかったからな?
それを最小限にくい止めたのは主人公以上に俺だってことを誰もわかっちゃくれてねぇ。
俺の苦労と疲労をなんだと思っているのだろうか。
知らなかった、だけの話じゃねぇんだからな?
……まったく。
俺だって一人の人間だ。
モブのことをもうちょっと知っている奴はいねぇのかよ、この世には。
王都に着いて、真っ先に俺を含めた重傷者がギルドの医務室に運ばれた。
ソルドは軽傷者扱いだった。
よくそれでクタクタとか言いやがったな、あの野郎。
それに対して当然、俺が最重傷者だった。
「エリクさん! 大丈夫ですか!? ひどいケガですよ!!」
言われなくてもわかってるから、シルヴィ。
「さすがに今回は死んだと思った。いや、ホント。冗談抜きで……」
俺がそう言うと、シルヴィは顔を真っ青にして「は、話さないでください! 傷に障ります!」と言ってくれた。
シルヴィだけだよ、こんなにも俺を心配してくれるのは。
できることなら、俺が嫁にもらいたい気分だが、そういうわけにもいかないしな。
「だが、それにしても」
「エリクさん! ダメですって!」
「いやいや。逆にこうして紛らわしてないと痛みで意識が飛びそうなんだよ」
そう言うと、シルヴィはギョッとして、
「それって、かなりマズいじゃないですか!」
そう言って、回復道具を持ってきてくれた。
あぁ、一生看病されたい気分にもなってきたぞ。
……意外と元気じゃね? 俺。
シルヴィの保ってきた回復道具を傷口に塗った後、俺は先ほどの話を続けた。
「それにしても、ソルドっていう奴。アイツって本当にランク『A』? あれでギルド最強とか、いくらなんでもこのギルド、レベルが低すぎねぇか?」
すると、シルヴィは不思議そうな顔で俺を見た。
「え? あの……エリクさん?」
「あ、いや、すまん。シルヴィに言っても仕方ねぇよな、こんなこと」
「えっ、いや、そうではなくて」
シルヴィは手を横に振ると、気まずそうな表情を浮かべた。
一体どうしたというのだろうか?
「あ、あのですね。エリクさん」
「ど、どうした?」
その気まずそうな意味がよくわからず、俺も緊張していると、シルヴィが覚悟を決めたように顔を上げた。
「こ、このギルドには、Aランカーは一人しかいませんよ?」
「……は?」
ひ、一人?
「ですから、Aランカーはエリクさんの一人だけで、つまり、エリクさんがこのギルド最強ってことになるんですけど……」
「……………………」
あ、ダメだ。
どうやらあまりの痛みに涙が出そうだ。
「あ、あの……エリクさん?」
ごめん、シルヴィ。今はそっとしてくれないか。
つまり……あれか?
俺は自分より弱い奴をリーダーだと思っちゃって。
さらにこのギルドで一番強いのに誰にも知られず。
まさかの主人公のお助けキャラ的位置にいると?
あははははははははははははははははははははははははは!
「ふっざけんじゃねぇぞ、こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おい、患者の一人が発狂したぞ! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です! 気にしないでください! はい!」
何だ、この展開!? 意味わかんない! バカじゃねーのっ!
ふざけんなよ!? なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇの!?
俺以外にランク『A』がいないって!?
そりゃ、俺ばっかりに緊急クエストが回ってくるわ!
他に誰もいねぇんだもんな!
いくら緊急クエストがランク『B』以上しか受けられないっていっても、大抵推定ランク『A』しかねぇもんな! そりゃ、俺が全部受けることになるわ!
ソルドのクソ野郎も弱いに決まってるわ! だって、ランク『B』しかねぇもんな!
「はぁ、はぁ……。クソが……」
ひとしきりぶち切れたが、すっきりするわけねぇだろ。
けど、まぁ。いいや。
どうせヒロインになる女性もいねぇし、俺はどうせこの程度の男だよ。
「はぁ~。いつからこんなことになってしまったんだか」
もう、いいよ。
このクソみたいな仕事にしかできねぇことがあるってもんだ。
それが俺ってやつか。
これで、まず第一章はこれで終わりです。
次は第二章! 設定はあらかた決まっています。
ぜひ、次章も見てください!
2018/02/23 改稿




