勝負の前に……
本当にすいません!
真剣勝負の予定でしたが思ったより話が長引いてしまいまして、できませんでした。
本当にすいません!
城下ギルドの地下には俺達のギルドの闘技場とは比べものにはならないほど本格的な、そして大きい闘技場があった。さらに言うなら待合室まであってここはコロシアムなのかと思ったくらいだ。
そんな待合室の中で俺は黙って座っていた。いや座っているというよりかは座らされているという表現の方が正しいだろう。俺は椅子に縛り付けられていた。しかも監視役がついてだ。
「エリクさん、どうして最初から本気でやらなかったんですか……」
「本っ当にごめん! シルヴィを待たせることになるとは思ってなかったんだ!」
「いえ、それは別にいいんですが」
俺はシルヴィという最強の監視をつけられていた。シルヴィの前では逃げることなどできない。ましてやシルヴィを置いて。
くそぉ……。こんなことなら最初からアイツについていかなきゃよかった。カタリヌめ。恩を仇で返すとは許すまじ。もう絶対協力してやらねぇ。いや、協力してもジンは百パーおとせないけど。
俺はカタリヌを心底憎みながら開始の合図を待っていた。
《一方別室では》
「今度こそちゃんと戦ってくれるだろうか」
「大丈夫だと思うよ。シルヴィさんの前で無様な行為はできないはずだからね」
カタリヌはレギンと戦闘の準備が終わった後二人で話をしていた。現在闘技場の清掃で時間があるのだ。それが終わり次第シルヴィがエリクを連れてくる予定になっている。
カタリヌは今か今かと待っているとレギンが真剣な目でカタリヌに言った。
「それにしてもエリクがあんなことができるなんて思っていなかったね」
「? どんなことですか?」
「気付いてないのかい? まぁ、大したことでもないからしょうがないけどさ」
「?」
カタリヌはまったく気付いていないようなのでレギンは試合が始まる前に教えることにした。
「君は殺気を出せるよね」
「ええ。それが?」
「それじゃ僕が今から殺気を出してみるよ」
「は、はあ……」
レギンは剣の柄を握るとそれだけでいかにも人を殺せるような殺気を放った。カタリヌはすさまじい殺気だと感知しながら必死に理性を保っていた。
レギンが殺気を解くと辺りは先ほどよりも静かになったように感じた。
「レ、レギンさん。今の意味は?」
「まだだよ。それじゃもう一回出してみるね」
「え、待ってください!」
カタリヌの言い分も聞かずにレギンは殺気を放った。
「っ……?」
カタリヌは違和感を感じた。さっきと同じくらいの殺気であるのにかかわらず、どこか違う。殺気のようで殺気でない。そんな違和感を感じた。
「どうだい?」
「これはどういうことですか?」
「今回とさっきので違うところはこれだよ。カタリヌ」
レギンはそう言うと自分の剣を叩いた。
「最初の方では剣の柄に触ったけど後の方は触ってないんだ」
「……どういうことですか?」
「簡単に言うとね、後の方は偽物なんだ」
「偽物?」
「そう。殺気ではあるが本当に殺す気はない。だから偽物。それは仕方のないことなんだ」
「……?」
レギンが何を言いたいのかカタリヌにはよくわかっていない様子だった。レギンはニッと笑うと
「自分の武器がないんだ。だから殺す以前に殺せないよね。もちろん自分よりもはるかに弱い相手には武器がなくても殺せるから最初と同じような殺気を出せるけど、同格の相手には無理だよね」
「……あ!」
「どうやら気付いたようだね」
そう先ほどエリクが殺気を出したときエリクは剣なんて持ってなかった。それどころか剣を遠い場所に置いていたのだ。それにもかかわらずエリクは本物の殺気を放った。つまりそれは……
「私に素手でも勝てると?」
「そっちにいっちゃったか~」
「違うのですか?」
「違うよ。だって彼は殺す気がなかったんだから。つまり彼は殺す気がないのに本物の殺気を放った。しかも僕を欺くほどに」
「……!」
エリクは本物の殺気を自由に出せる。確かに大したことではない。殺気であって本当に相手を殺せるかどうかはわからないのだから。でもそれは確かにすごいことだろう。
「レギンさんは、レギンさんはできますか?」
「さっきやって無理だったよね。あれができるのは間違いなくエリクだけだろうね」
「……やはりエリクは他とは違う何かを持っているんですね」
カタリヌは薄々感づいてはいた。エリクが周りの人達よりも違うと。実力ではない何かが。
カタリヌの言葉にレギンは軽く頷いた。
「僕とオルウェンの結論は同じなんだ」
「結論……ですか?」
「彼はね本当に残念な人なんだ」
「性格的にですね」
「はははは! うん、それもあるね!」
「では何が残念なんですか?」
カタリヌの問いにレギンは闘技場の方を見てから言った。
「彼はね。彼が皆と同じように独特の魔法を持って、皆と同じように二個以上魔法を持っていたらね」
「彼は間違いなく最強のAランカーだったんだ。軽く僕を倒せるほどに」
「な……!」
カタリヌは絶句しかできなかった。言葉にならない。最強のAランカーであるレギンが自分が負けることを堂々と宣言したのだ。レギンと言えば誰が相手でも必ず勝てるほどの実力者だ。そんな彼が負けると言い張ったのだ。
「彼と剣だけで戦ったら誰も勝てないよ。魔力操作に関しても彼ほど優れている人物はここにも『蒼い烏』にも存在しない。だから残念なんだ」
「そういうことですか」
「そう、彼は本当に不幸な人だよ。魔法さえ強かったら最強だったのに、その魔法が炎を操るごくごく一般的なものだったんだから」
そのときレギンは本当に悲しそうな目をした。これだけは世界の残酷さを恨むしかなかった。
「考えてみてくれ。魔法が一つだけで、しかも普通の炎を操れるだけでAランカーになったんだよ? 異常だよ、これは。だけど彼は誰からも祝福されないんだ」
「……っ」
そんなとき始まりの合図が鳴った。カタリヌはレギンを見たが、レギンはただ笑ってカタリヌの背中を押した。
「暗い話はここまでだね。それじゃカタリヌ、遠慮なくぶつかってきな」
「……はい!」
今の話を聞いたからこそカタリヌは余計に燃えた。世界最強のAランカーになれた可能性があるエリクとの勝負は自身を進化させると、カタリヌはなぜかそう思えた。
次こそは真剣勝負しますよ!




