シルヴィの過去
そう、あれは『蒼い烏』の討伐が終わってから少しした頃だった。その時はミレアにも普通の対応をしていた。あの頃が実に懐かしい。
話が逸れたな。とにかく『蒼い烏』との激戦を終えてすぐの日々はそりゃもう、まったりしていた。ギルドにも行かず、家でぐーたらの生活を送る。
あれ? 今になって思えばあの頃の俺ってもしかしてヒモか?
ある日俺はいつものように食材の調達をしに出かけた。あのときの俺はまだ外食をしたこともないからな。
そして……
シルヴィは田舎者というわけではないが、あまり有名でないところの出身者だった。
しかし、シルヴィには夢があった。それはギルドの職員になることだ。
別に昔誰かに助けられたとかあこがれとかそういうたいそうな理由ではない。むしろ逆だ。ギルドの職員の収入は安定していて、普通に生活する分には困らないからだ。それに人見知りを治すため、という理由を加えただけでシルヴィがギルドで働きたいという願いが出来上がる。
「けど、まさか一発合格するとは思っていませんでした」
そう、シルヴィは自分でも驚くくらいあっさりと合格したのだ。
もちろん、手を抜いたわけではない。だが、それでもこんなに簡単に決まるとは思っていなかったのだ。
「この子、人と話すのが苦手なのにどうして?」
シルヴィの母親はシルヴィにそう言ったがそれはシルヴィもだ。面接の時も噛み噛みだったし、合格なんてありえないと家族で話題になったほどだ。
シルヴィ達が知らないことだが、シルヴィが合格した理由は実に簡単で、くだらないものである。
容姿がいいから。
城近くのギルドはそうではないのだが、シルヴィの受けた門前ギルドは八割方容姿で決めている。理由は言わずもがな。
華やかさを出すため。
「でも、本当に私で大丈夫でしょうか?」
ギルドの中で正式に契約書を書いたシルヴィは目の前に座っているフミという女性職員に思わず訊いてしまった。
「全然大丈夫! なんだったら午前だけでもいいよ!」
フミという職員はシルヴィと同じ歳だという。しかし、シルヴィより三年も長くこの門前ギルドで働いているらしい。
「業務は慣れていけばただのベルトコンベアーだから! たまにナンパしてくる人もいるけどそこは頑張って!」
「そ、そこをどうにかしてほしいですが……」
シルヴィはその容姿ゆえにもとの場所でも人気があった。シルヴィはそれに気付いていたが、どうにもできなかった。
「え~……、でも頑張ってとしか言いようがないしな~」
「そうですか……」
「とにかく明日から頑張ってね」
「えっ、明日からですか!?」
「あれっ、面接の時言ってなかったっけ?」
「はい……」
シルヴィがそう言うとフミは額に手を当てた。
「う~ん……。でも頑張って!」
「え~……」
結局明日から仕事させられることになったシルヴィは不安のままギルドを出た。
(明日から大丈夫かな~……。全然できる気がしない……)
そこでシルヴィは周りの目線に気付いた。
「おいっ、超可愛くね?」
「お前声かけてみろよ」
「誰かと付き合ってんのかな?」
その目を見てシルヴィは目が滲んできた。
(~~~~~! やっぱり無理だよ~~~!)
すぐさまシルヴィは鞄からタオルを出して自分の顔を隠した。そのときタオルに引っかかっていた印鑑が地面に落ちた。
「あの……」
「!?」
「って、あれ!?」
いきなり話しかけられたシルヴィは一目散に走って行った。もちろんそんなことをした張本人はたくさんの男達に囲まれ、
「てめぇ! 何してやがんだ!」
「殺してやる!」
「へ? えっ、ちょ、なに!? ぎゃ~~~~~~~!」
「おい! こんな奴なんて放っといてさっきの人を探そうぜ!」
「おう! そうだな!」
そう言ってたくさんの男共がシルヴィを探し始めた。そのとき地面に倒された人はたくさんの男達に踏まれて泥だけとなっていた。
「……久々に外出したらこれだよ。俺が何をしたんだよ……」
シルヴィは面接に来たとき以外を除いてこの王国は来たことがない。つまり自分がどこにいるのかもわからないまま走っていた。途中で男達に見つかる度に方向転換し、ひたすら自分を探している男達から逃げていた。
もちろん、その中には……
「はぁ、はぁ。やっと見つけた。おいあんた……」
「ひっ!」
「悲鳴!? って、お願い! 逃げないでって、ぎゃ~~~~~~~~!」
またしてもシルヴィの後ろで悲鳴が聞こえた。これで三回目だ。逃げ回るシルヴィを三回も見つけるのはすごいことなのだが、シルヴィは逃げるのに必死でそんなことを考えている暇もなかった。
王国の中をどれくらい走ったのだろう。気が付けばシルヴィはギルドから出てから三時間も逃げ回っていた。そして後ろから悲鳴をあげている人との遭遇回数が約十回。途中からその人も男達から逃げ回っていた。
シルヴィは結局男達から逃げ切ることができたのだがそこで問題が起きていた。
先ほども言った通りシルヴィはこの国の土地勘がない。そんな中三時間走り続けていれば自分がどこにいるのかわかるはずがない。人に訊こうとしてもそれができたら男達から逃げるわけがない。
「ど、どうしよう……!」
心細くて道路の端で泣きそうになっているシルヴィの腕を誰かが掴んだ。
「ひっ!」
「こっちが悲鳴をあげたいんですけど……」
「……え?」
そこにいたのはボロボロの人物だった。服はたくさん人に踏まれたのだろうか靴の跡がびっしりと付いていて、顔には泥が付いていた。
「これを渡したいだけなのに……」
そう言ってシルヴィに渡したのは最初に落とした印鑑だった。シルヴィに印鑑を渡したその人物はそこから立ち去ろうとした。だが、シルヴィの顔を見て立ち止まった。
「もしかして迷ったのか?」
「え、あ、はい……」
「えっと、家はどこかわかるか?」
「ギルドからであれば……」
「わかった。こっちだよ」
「え、は、はい!」
それがエリクとシルヴィの関係の始まりだった。




