モブとレギンの炎
俺の出したその火柱は十キロ離れた場所からでもよく見えるほど高く舞い上がった。
それが俺の想像以上に早く、逆転の一手になることは俺は予想もしてなかった。
しかし、それも当然だろう。なぜなら……
「森が! 森が燃えている~!」
「エリク様が自ら燃やしたのでございませんか」
俺の周りは炎に包まれていた。俺だけならまだなんとかなるかもしれないが今はミレアがいる。走って逃げることは出来ない。
くそっ! オルウェンの野郎っ、このことに気付いていながら俺に命令したな! 前にヘイゲルとオルウェンに注意されてたのを忘れている俺が言うのもおかしいが……
「森の中心で炎を出すな~~~!」
「だからエリク様が燃やしたのでございましょう?」
なんでこいつはこんなにも冷静でいられんだよっ。こいつ死ぬことを怖れていないのか……!
「エリク様が助けてくれると信じてますので」
いつも俺がやっていることだが、他力本願はいけないと思います。
そんなことを考えている内に炎はどんどん森を侵食し、俺ですら耐えられるかどうかわからないくらい炎の海となっていた。
そこでミレアが追い討ちをかけるように俺に言ってきた。
「エリク様、ここはミーシャ様にとって大事な森だと聞きましたが、燃やして大丈夫でしょうか?」
「それを早く言ってもらえませんでしたかね!?」
「言ってもエリク様に何ができますか?」
「……」
こいつたまに俺に優しいようで、毒舌を入れてくるよな……。ホントは俺のこと嫌いだったりして。むしろ嫌いでいてくれないかな。
「愛の鞭ですよ」
「俺は馬になりたくないです」
「だったら私が下になって犯りましょうか」
なんで今日のミレアはこんなにグイグイ下ネタを言うの? どちらかというと前の方が俺的にはいいんだが……。って、そんなことより!
「それより、早くこの火をなんとかしねぇと! ミレアの【吸収】でなんとかならないか!?」
「森に引火してすぐでしたら出来ましたが、さすがに今は……」
「なんで出来るときにしないの!?」
そんなことを言っている間にも火は刻々と森や俺達に迫ってきていた。火の葉を付けた木が倒れはじめ、ついに俺達に向かって倒れ始めたその瞬間……
「まったく……、オルウェンもひどいことを考えますね」
白い炎が森全体を包み込むように上から落ちてきた。
「……は?」
俺は思わず火の耐性を俺とミレアの二人にかけたが、いっこうに熱さはやってこない。
恐る恐る目を開けると、そこには確かに白い炎が森を燃やしていた。いや、燃やしているのは俺が出したオレンジの炎だ。
「このまま呆けている時間もありません。早く移動しましょう」
そう言って上から落ちてきたのは【双焔】―――レギンだった。
「……あ?」
俺は今の状況が分からず、再度疑問の意を浮かべた。するとレギンは苦笑いしながら簡潔に今の状況を説明した。
「今『蒼い烏』に追われています。早く逃げないと死にますよ」
「は?」
頭が完全に思考停止したとき、十人を超える声がした。
「「「「「不幸という幸せを!」」」」」
「はあああああああああああ!?」
さすがの俺もそこでさっき以上にピンチに陥っていることはわかった。俺達三人は一目散に逃げた。
「おい、レギン! これはどういうことだ!?」
「あなた達を助けに来たんですよ。その代わり、『蒼い烏』を連れてきてしまいましたが」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それから走りながら話を聞いて、要約するとこういうことだ。
まず、俺の火柱を見てレギン達強制転移組はレギンの魔法で作った白い鳥に乗ってここまで来る。王都でレギン以外のAランカーを下ろし、森の消化のためレギンだけがこっちに来る。『蒼い烏』はミレアの【結界】で王都の中には入れず、仕方なくレギンを追ってくる。そして俺との再会。俺も狙われる。
「あぁ……、終わった……。つまり今俺達を追っているのは『蒼い烏』の奴らでその数が」
「うん、約三十人」
希望の希の字もないとはこのことだ。三十人相手にどうやって逃げたらよいのか見当も付かなかった。しかし、さすがレギン逃げる方法はきちんとあるらしい。
「王都まで行けば彼らは入って来れませんので」
……。だから、その王都まで行く方法を俺は聞いたつもりなんですが。
「そこは気合いです」
根性論を持ち出す奴は大抵面倒くさい奴と相場が決まっている。俺がキレ気味にレギンに反論しようとしたところで、ミレアが提案した。
「私がこの森を縦断できれば【結界】を張れますよ」
「そうか、その手があった! それで行こう!」
ミレアはレギンですら気づけないほどの隠密行動ができる。それこそ、俺を誰にも知られずに森へ運んだように。つまり相手に気づかれずに森を横断して、【結界】を張ることが出来る。
俺が全面的に賛成したところで、ミレアから俺に条件があると言った。
「この戦いが終わった後……」
「さっさと行ってこい……」
言わせねぇよ! 条件なんて知るか! 今は俺達を助けることに集中しろよ!
俺がミレアの背中を押すと、ミレアは表情が変わり言った。
「どんな条件でも覚悟しています、ということですね」
そんなことひとかけらほども思ってもいないが、助かるなら今はどうでもいいです。
そんなことを考えながら、俺とレギンはミレアを見送った。




