モブの初めて
要するにオルウェンは俺に森の中から火柱を上げさせて、どこかにいるレギン達に王国の場所を教えようとしているのだ。さらにその王国の周りはミレアの結界により、結界があると認知しても『蒼い烏』は来れないようになっているわけだ。
「大体作戦はわかったが、やはり腑に落ちない点が一つだけある」
「何でしょうか?」
「ミレアさ、馬車でここまで来たわりには早すぎない? 仮にも王国一周だぞ」
いくら馬車を使ったってさすがに馬にも疲労というものはある。俺の予想では最低でも三十分はかかるはずなのだ。
「そんなの簡単ですよ」
「? なぜ?」
「私のもう一つの魔法を使ったんですよ」
もう一つの魔法? 【吸収】で一体……。あっ、まさか……
「はい。馬の疲労を吸収しました。これで十五分で来れました」
「ミレア……、ホントに便利な魔法だな」
「エリク様のためになら違う用途にも使いますよ」
「やめてくれ」
俺はミレアの発言をすぐ否定したが、それはミレアの言っていることがすぐ理解したということだ。まさかミレアの考えを読み取ってしまうことが来てしまうなんて……。
「それなら……」
「作戦に移ろうか」
このやりとりはこれで何回目だろうか。もう数えるのもバカらしくなってきた。
そんなことを考えながら森に入っているとミレアが思い出したように言った。
「そういえばエリク様。今回私は『蒼い烏』討伐のお手伝いしたことになりましたよね」
まぁ、そりゃそうだろ。そのためだけに馬車を出して、さらに魔法も使ったわけだしな。
俺はミレアが何を言いたいのかわからなかった。ミレアが報酬をもらう奴ではないことは間違いないのだが。
「いや、まさか、報酬として俺を……」
「エリク様。エリク様は約束を忘れる方でもなければ、約束を破る方でもありません」
ますます何が言いたいのかわからなくなってきた。いきなり俺を褒め始めたがどういうことだろう。ミレアが俺をまともに褒めることなんて滅多にないはずだ。
俺は不思議に思ってミレアを見ると、ミレアはなぜか顔が赤かった。なにかヤバいことが起きそうなことは間違いないが、その原因がわからない。
俺はなにか重大なことを忘れているのではないかと、自分の記憶を探そうとした。しかしその前にミレアが口を開いた。
「『蒼い烏』の討伐に加わったら既成事実を作る話です」
「……。そんな話はない」
「いえ、ありました」
そんな話をいつしたんだよ! 俺にはそんな記憶は……
「私が『蒼い烏』に狙われてはいけないので、エリク様の後ろで守られます」
……その言葉どこかで聞いたことがあるようなないような。うん、あった気がしなくもないが、やっぱりないな! あってはならない!
「エリク様は約束を破られるお方ではありませんよ」
「誰でも初めて破ることはあるだろう?」
「それは私の『ピーーー』のことですか?」
おかしいでしょ? なんで女性が自分の体のことをこんなにも平然と言えるの? コイツ本当に女? というか人間? 【アーマーソルジャー】じゃないよね?
「ミレアのその部分は置いといてだな……」
「それではここをご所望ですか?」
ミレアはそう言い、自分の胸を掴んだ。コイツはマジでイカレていると思います。
「いい加減にしろ。俺が言っているのは約束を初めて破ることはあるって話だ。それが……、今でしょ!」
「今からですか? 少し待っていてください」
もう助けて……。俺、約束を破るって言ったよね? もうついていけないよ。もとからついていけなかったけど。
「エリク様は冗談と現実がわからないのですか?」
「普段はわかるけど、ミレアに言われるとどれも現実に聞こえちまうんだよな」
結構真面目に話している間に、森の中心部に着いた。俺はミレアを離れさせると目を閉じた。
しかし、そこで嫌な予感がして後ろへ飛んだ。
目を開けると、そこには下がらせたばっかのミレアが顔を上に上げていた。俺が下がらなかったら俺の初めてを奪われるところだった。
「ねぇ、今緊急事態ってわかってる?」
「私達の初めてでしたのに」
会話が通じない。会話の通じない相手にどうすれば会話ができますか? 俺はその答えを最近知りました。
「これ以上俺の邪魔をするようなら、一生無視してやるからな」
その人物が本気で嫌がっていることを言えばいいだけだ。ちなみにそれを言った後はそれを実行すること。
「申し訳ございません。最近はそれも良いかなと思い始めました」
あらゆる属性を付けすぎてませんか? あなたは何を目指しているんですか?
「エリク様に決まっているではありませんか」
過程はぶれても目標だけはぶれないことは素直にすごいと思いました。
「ミレア、今回はマジでシャレにならないから」
「……わかりました」
ミレアはやっと諦めてくれたらしく、俺から距離を取った。
俺は再度目を閉じ、手のひらを上に向けた。
手に魔力を押さえ込み、そこから縦に伸ばすような感覚で……
そして森から巨大な火柱が昇った。その火柱は十キロ離れた場所からでもよく見えた。その火柱がエリクが予想もしなかった逆転の一手となる。




