オルウェンの策
「楽しいな~! 楽しいな~!」
いい加減キュルトスの言葉に反応するのも面倒くさくなってきたベルンハルドは攻撃のスピードを上げた。
ベルンハルドは弾かれた手裏剣をそのまま回転させ、キュルトスへと向かわせた。キュルトスもそれに伴い自信の手に短剣を大量に増殖させては投げていた。
「いや~、さすがに魔力切れを狙うのは無謀すぎだよね~! それなら、そろそろ行きますか!」
キュルトスは不敵に笑うと家の屋根から飛び降りた。家の陰に隠れるとベルンハルドは警戒してとりあえず高く上へと移動した。
(これなら俺の位置までは来れないはず。だが、一体何を考えている?)
するとそこで驚くべきことが起きた。相手の短剣は相手が投げる以上一方向からしか来ないはず。しかし、今その短剣が四方八方から飛んできた。
「くっ……!」
「おや~! 初めて苦しい声を出しましたね~!」
キュルトスの声が同じく四方八方から聞こえてまるで自分の数を増やしたようだった。
(増えることはあり得ないはず! アイツの魔法は強力だがルールまで変えることは絶対ない!)
ベルンハルドは手裏剣を駆使して防御に徹したが、相手の位置もわからず、それどころか攻撃の隙がなかった。
ベルンハルドの体に傷ができ始めたとき、その瞬間さらに異変が起きた。ベルンハルドの視界がぐらついたのだ。
「毒か……!」
「正解だよ~! といっても空中でその毒が飛んじゃってあまり効果は見られないけどね~!」
それでも何回も受ければ少しずつ毒が積み重なっていくものだ。特にベルンハルドの魔法は視界が悪くなるだけで大きな影響を及ぼす。ぐらついた視界の中でぐらついた動きをするのだ。
「さぁ! 君の本当の力を見せてくれよ~! 二年前は一瞬でやられてしまったけど今回は勝ってみせるからさ~!」
「舐めやがって……!」
ベルンハルドはそう言うとさらに高い位置まで上った。
「無理無理~! 俺っちの新魔法に高さは通じないよ~!」
「何……!」
そうキュルトスが言った通り本来届くはずがない位置まで短剣が飛んできた。ベルンハルドはぐらつく視界の中で短剣を弾き続けた。
(どうやら毒の効果は短いようで視界がだんだん回復してはいるが、このままだとじり貧だ!)
そんなときだった。赤い円柱がまっすぐ上に突き出たのは。
それがベルンハルドの起死回生の一手となる。
時間は数十分前と遡る。
「たくっ……。なんでこんな緊急事態に逃げるように森に行かなきゃいけないんだよ」
俺は森に走っていた。馬車でもあれば十分程度で着くのだが、こんななか馬を走らせている奴はいない。仕方なく俺は走っている。
俺は走った。親友のために全力で。走れ俺!
とまぁ、全力で走るにも限界はあるので、途中からは歩いていた。足下で爆発を起こして、ターボエンジン的なものでもやればいいのではないかと思うかもしれないが、そんなものに魔法を使ったら、いざというときに使えない。
ちゃんと、俺のいざってときがあるのを俺は信じてるよ。大丈夫だよな、オルウェン?
魔力は消費しなかったが、体力は完全消費した俺はやっと森に着いた。
「つ、疲れた~!」
「はい、エリク様」
「ミレア、お前最近出番多すぎね?」
もはや、急な登場に驚かなくなってきた俺である。
俺はミレアからタオルを貰うと、汗を拭いた。それをミレアには渡さず、自分で持った。
ミレアに渡すと嗅ぐぞ。すぐ嗅ぐぞ。絶対嗅ぐぞ。ほら嗅ぐぞ。
思った通り俺の手元からタオルを奪って嗅ごうとした。だが俺がそんなことを許すわけがない。
「……! やってくれますね、エリク様」
「だんだんお前の対応に慣れてきた俺がこわい」
俺はミレアのタオルを燃やすことで変態行為を止めさせた。できれば変態好意も止めてほしい。
「それで俺の後ろにずっといたわけないはずだが、どうやってここに来た?」
「ここでずっとエリク様を待っていたのです」
待っていた……? どういうことだ?
「オルウェン様から連絡が入り、急いでここまで来たのです」
「連絡はいつ?」
「エリク様が馬車を探している間にです」
速すぎね? そりゃ俺はここに来るまで何回か歩いたけど、俺はこれでもAランカーだぞ。俺よりどうして速くここに来れたんだよ……。また何かの魔法か?
「馬車を使いました」
「それなら俺を乗せてくれても良かったんじゃないですかね~!」
「エリク様は頑張っている姿が一番かっこいいですよ」
「俺は頑張りたくねぇんだよ!」
いくら慣れてもミレアの対応は疲れるので俺は早速森の中に入っていった。
「それで、オルウェンから何を言われたんだ?」
「今ここには結界が張られています」
結界? それってミレアの魔法のことか? つまり俺以外の生き物をここに来させないための結界を張っているってことか?
「エリク様は結界をどこまでご存じですか?」
「どこまでって……。中に入れないんだろ?」
「どういう範囲だと思いますか?」
範囲? え、つまり結界の範囲はどうなっているかってことか? そりゃ、四角い立体的な……
「違います。結界に範囲というものはありません。ただの線ですよ」
「線?」
「線から魔法を使ったときの自分がいる方向が結界に守られていることになります。私がここに来る最中に馬車を使ったのはエリク様より速く来るためだけではありません」
そこまで言われて初めてエリクは気付いた。
「私は王国をグルリと回るように馬車で走ってきてからここに来ました」
そこで俺はやっとオルウェンの狙いがわかった。
オルウェンは王国の場所をレギンに伝えるために俺を使う気である。
あれ? それって結局、俺戦闘に必要とされてなくね?




