モブとベルンハルド
「このままだとジンは死ぬぞ」
俺がそう言うとオルウェンは鼻の上にシワを寄せた。オルウェンが考えているとまた大きな爆発が起きた。
「今ジンが戦っているのはゴーギャンだ。あいつは……」
「わかっています」
ゴーギャン―――そいつは俺が戦ったフラン同等の強さを持ち合わせていて、『蒼い烏』の中で五本指の強さである。
俺はゴーギャンの対処を考える前に現在の状況を聞くことにした。
「俺に現在の状況を教えてくれ。気絶から目が覚めたら、こんな状況になっているんだぞ」
俺がそう言うとオルウェンは現在の状況を詳しく教えてくれた。
どうやら俺が気絶した後、ミレアとベルンハルドが俺の家まで運んだようだ。俺の家をどうやって開けたかはわからないが、間違いなくミレアに違いない。
俺がベッドで気絶していると、『蒼い烏』が王国を襲撃してきたそうで、俺の家が崩壊したようだ。それで俺が家に押しつぶされていたわけだ。
「大体わかった。それで今戦闘が行っているのは誰だ?」
「現在わかっているのは相手の数は四人です」
四人か……。それならAランカー全員で対処すれば……
「エリクの考えていることはできません」
俺は目線だけで理由を問いた。オルウェンの深刻そうな顔を見ただけで何かあったのはわかったが、Aランカー達が簡単にピンチになるとは思えなかった。
「今になって思えば私もレギンも考えが甘かった」
「二人を手玉に取るとはさすが【死神】だな」
俺は口では感心していたが、心の中では焦っていた。二人がこうも手玉に取られることは二年前はなかったからだ。
「エリクは知っていますよね? ラルカという名前と彼女の魔法を」
さすがにもう忘れるわけなかった。そいつの所為で『蒼い烏』が再起したからだ。そこで俺は一つの可能性を導いた。それならAランカーがいない理由も納得できる。
「Aランカーを転移させたのか! だが、それなら……!」
そう、彼女の魔法は【転移】。確かに可能であるが、彼女の魔法は転移陣を使うものである。監獄にいるラルカがどうやって王国に転移陣を書いたのか。そこが問題だ。
「……まさか」
「そのまさかですよ」
オルウェンは一呼吸置いてから言った。
「彼女が前の事件を起こしたのは『蒼い烏』を脱獄させるためだけではありません。すべては今日のための布石だったんです」
「くそっ!」
俺は思わず机を叩いた。その音に周りの救護の人達が驚いたが、オルウェンが手を振ると自分たちの仕事に戻った。
「物にあたらないでください。それより私達にはやることがあります」
オルウェンが言う前に俺は医療テントを出た。もちろん、ジンやベルンハルドの援護に行くつもりだ。そこでオルウェンが俺の肩を掴んだ。
「どこに行くつもりですか」
「どこにって……、ジン達のところに」
「焦らないでください。あなたが見つかったことで私にも勝機が見えました」
オルウェンはそう言うと初めて笑った。その笑みはどう見ても余裕の笑みであった。
「勝機だと? どうすればいい?」
「私の【危険察知】によれば、皆はここから二キロほど離れている山にいます」
なるほど。そこに行けばいいってことか。だが、それだと時間がかかりすぎてしまうぞ。
俺がそう考えることをわかっていたらしく、オルウェンはとにかく俺が今やるべきことを言った。
「まず森に行ってください」
……。
「……はい?」
「だから、森に行ってください」
ごめん、いつもお前の言うことは言われてから納得するが、今回だけはマジで意味わからないんだけど……。
「細かい話は後です。とにかく今あなたがするのは森に行くことです。ほら、早く」
「は!? お、おい!」
俺の驚きを無視してオルウェンは俺の背中を押した。
「森に行ったら上に向かって思いっきり炎をあげてください」
そう言って俺はテントを出され、オルウェンはジンの元へ行ってしまった。
焦るなって……、お前も焦ってるんじゃねぇか……。
オルウェンの慌てようを見て、俺は逆に落ち着いた。
俺は首の後ろに手を回すと呟いた。
「はぁ、めんどくせぇ……」
時間はエリクとオルウェンがテントから出る三十分前。
ベルンハルドはため息をついた。
「なんで今回に限ってお前がいるんだよ……。俺、お前のこと嫌いって言ったじゃん」
「うぇ~い! 何々それってツンデレか~い! 俺っちはお前に会いたかったぜ~!」
「うぜぇ……」
ベルンハルドの因縁の相手はキュルシャル。通称【うざい罪人】(ベルンハルド命名)。キュルシャルの魔法は【増殖】―――生き物以外の物質を増やすことができる魔法だ。
そしてたった一回の発言でもわかるが超うざい。
「俺っちは~、お前をこ・ろ・す、ために~脱獄したんだよう!」
「だからうぜぇって……」
ベルンハルドはキュルシャルが大嫌いだ。『蒼い烏』以前に生理的に受け付けないのだ。二年前にベルンハルドが倒した理由もそれが一番の理由だった。
それに対してキュルシャルはベルンハルドがそこまで嫌いでなく、むしろ自分を嫌っている分好きな方だ。
「ま、と・に・か・く! お互いに殺し合おう!」
「いやだよ、面倒くさい」
そう言いながらベルンハルドは大量の手裏剣を回転させた。
それを見たキュルシャルも短剣を増殖させ、手の隙間で持った。
それからはすさまじい戦いだった。キュルシャルは自分に向かってくる手裏剣に向かって短剣を投げ相殺させ、反対にベルンハルドは飛んでくる無数の短剣を手裏剣で相殺していた。
「ハハッ! 楽しいよね~!」
「なら死ね」
「ひどいな~。やっぱりツンデレだね~!」
「はぁ」
その後もすさまじい戦いが続き、周りの家は破壊尽くされていた。違う場所で爆発や家が破壊された音が響いていたが、この二人の高速戦闘の前では集中力が必要とされる。音にかまっている余裕はなかった。
「最っ高~! ベルンハルド君、君の今の調子はどうだい?」
キュルシャルの問いにベルンハルドは
「はぁ、めんどくせぇ……」
これが奇跡的にどこかの人とかぶった言葉だった。




