モブ紹介する
「「自由だ~~~~~!!」」
俺とベルンハルドは王国の中心で思いの丈を叫んだ。いや、中心ではないか。ここは……うん。俺達にとっての中心で叫んだ。
俺達はゴミ拾いを昨日すべて終わらせた。あまりの速さにオルウェンどころかレギンも驚いていた。アイツらは俺達のことを舐めすぎなのだ。俺達は休みためなら不可能を可能にする男だ。
「ベルンハルドはこれからどうすんだ?」
「家で寝ようかと」
さすがになかなかわかっている。こういう暇なときこそ家で納得する気まで寝たくなるもんだよな。しかも、起きた後なぜかわからないけどまだ寝れる、とか思って無理にでも寝ようとするのだ。え? 普通……だよな?
ベルンハルドと同じく俺も寝ようとしたところで懐かしい匂いがした。
「ベルンハルドっ、待て!」
「……どうした?」
「この匂い……まさか……」
「匂い……? 俺は何もしないが」
いや、これは幻覚ではない。間違いなくこれは……
「【ホーンラビット】だ……」
「【ホーンラビット】? 魔物がどうした?」
俺はベルンハルドの問いに答えず、匂いのする方向へ歩いて行った。ベルンハルドは訝しげな顔をしながらも俺についてきた。
……しかもこの匂いは懐かしい匂いだ。もう食えることはないと思っていたが……!
俺はある店の前に止まるとその店の店主を見た。
「久し振りだな、おっちゃん!」
「んあ? 兄ちゃん、どこかで……」
「おい、エリクこの人は……」
俺は改めてベルンハルドに紹介した。
「この人は元冒険者で俺が前に言った『エレスタ』で【ホーンラビット】を食わせてくれた人だ。【ホーンラビット】が神だから、この人はその上の神だ。創造神だな」
「おお!? まさか兄ちゃん、あのときのか!?」
店主はやっと思い出したかのように俺を見た。俺は創造神に覚えられていただけで満足です。
「おっちゃん、【ホーンラビット】をとりあえず二本くれ」
「まだ、開店しちゃいねぇが仕方ねぇ。ほらよ」
創造神は俺に【ホーンラビット】の串焼きを二本渡してくれた。俺は忘れないうちにまず、二本の代金を払おうとした。しかし創造神は首を横に振るばかりで受け取ってくれなかった。
「どうしたんですか?」
「お前なぁ、言っただろ? 今はまだ開店前だって」
? 一体どういうことだろう? 開店前? それってまさか……
「神様~~~~!! やっぱりあなたは神様ですよ!」
「止めろって、照れるじゃねぇか……!」
普段ならたかがおっさんの照れた顔なんて見たくもないが、この人の顔はいくら見ても飽きないぜ! あっ、でも俺はそっち系の人ではないからな。
「エリク、気持ち悪いぞ」
「あ、悪い。とにかくこれ食べてみろよ」
俺はそう言ってベルンハルドに一本を渡して、ベルンハルドの反応を伺った。ベルンハルドは俺に見られている所為か少し、居心地が悪そうに食べた。口に入れた瞬間、普段はあまり開くことがない目が大きく開いた。
「美味すぎる……。悪い、もう一本くれ。金はちゃんと払う」
「だろ! やっぱりこれが一番……!」
俺は口に入れた瞬間涙が出てきた。
「に、兄ちゃん!? どうした! もしかして不味かったか!?」
「いや、そのはずは……。一体何が……?」
「ち、違うんだ……! 自分の行いにショックを受けていたんだ」
その二人は何のことかわからないようだが無理はない。
俺は前にも言ったが、不味い料理を食べても何も感じなくなっていた。美味い料理は美味い料理で文句を言っていた。だが、今この料理を食べたことで正気に戻った。
そうだよな……。ダメなものはダメって言わないとダメだよな……。さすが、創造神、それをわかってて俺に……! くっ! 俺はなんてダメな奴なんだ!
「ありがとうございました! おかげで自分の弱さに気付きました!」
「お、おう……。よくわからないが頑張れよ……」
「はい!」
俺は一度もしたことがない正しいお辞儀をした。二人は俺の行動に戸惑っていたが、俺は清々しい気分でいっぱいだった。
「エリクはよくわからないが、【ホーンラビット】を残り十本ほどくれ」
「さすがに、それをただでやる気はねぇな。赤字になっちまう」
「それなら金を払う」
「だから、今は開店していないんだ」
創造神がそう言うと、俺とベルンハルドは肩を落とした。やはり一本では足りないのだ。明日まで待つ気は毛頭なかった。創造神はそんな俺達を見ると笑った。
「あ~あ! 今から【ホーンラビット】を狩ってきた奴らには俺が作ってやろうかな!」
「「……!」」
それを聞いて俺達は顔を見合わせた。お互いに頷くと森へと走って行った。創造神はそれを見ながら、楽しそうに笑った。
いきなり門に向かう俺達を見たオルウェンが必死に何かを叫んでいたが、俺達は止まらない。今もし、『蒼い烏』が現れたとしたなら、俺達は全力で潰していたかもしれない。すべては【ホ-ンラビット】のために。
森に着いた俺達は全力で【ホーンラビット】を狩っていた。ベルンハルドは【ホーンラビット】を生きたまま捕まえていて、俺は【ホーンラビット】を傷つけないように峰打ちで倒していた。
昼頃になると俺達は急いで創造神のもとへ帰ってきた。
「【ホーンラビット】を狩ってきました。その数は三十です」
「それは助かるな。それじゃ、二人には二十本やるよ」
「「……!」」
俺達は従順な犬、いや狼の様であった。
店の前で跪いている俺達二人を見て、オルウェンとレギンが頭を抱えていたのは別の話。
やはり、俺達は団体行動が合わないようである。オルウェンの言っていることは間違っていないと改めて理解した。
やっとおっちゃんを出せた……




