掃除のサボり方
「なぁ」
「どうした?」
俺は今町中を歩いていた。俺の隣にはベルンハルドも歩いていて、俺達の片方の手には長いものが握られていた。さらに、もう片方の手にもバサバサと音を立てているものがあった。
「これって絶対おかしくね?」
「確かに。なんでこんな面倒くさいことを……」
俺としては面倒くさいとかそういうのではなく、単純に俺達がこんなことをしているのかがわからなかった。オルウェンに頼まれた仕事がまさか……
ゴミ拾いだとは誰が思うだろう……。
「君はこっちの班で、君はあっちの班だ。ヘイゲルさん達はこの場所の警護を」
「了解シタ」
俺達『蒼い烏』討伐部隊は城の大広間で国の警備網について話し合っていた。そして二人以外の配置が決まった。そして余った二人が俺とベルンハルドだった。ミレアは気付けばいなくなっていた。ホントに忍者になれると思う。
他の冒険者達は各自の班に集まったあと、大広間から離れて、部屋で会議を行うようだ。つまり今大広間に残っているのは俺とベルンハルドとオルウェンだけだった。ジンはレギンと行動するようだ。
「オルウェン、俺達は何をすればいいんだ?」
「あぁ、君たちはね……」
オルウェンは俺達を思い出したように見た。
つうか、ひどくね? なんで忘れてんだよ……。一応俺とベルンハルドは他の奴らよりもお前と関わっているじゃねぇか。
「君たちには重要な任務を任せたいんだ」
オルウェンの言葉に俺は真剣な表情をしたが、すぐに気付くべきだった。重要な任務というわりには俺達の存在を忘れていたことだ。
オルウェンは真剣な表情で言った。
「君たちにはゴミ拾いをしてほしいんだ」
というわけで俺達はゴミ拾いしていた。皆は城から出て来ず、未だに会議を行っているのだろう。ちなみにゴミ拾いの理由を聞いたらオルウェンはひどい言葉を俺達に投げかけた。
「だって、君たち作戦会議とかしても、作戦通りに行動してくれないし、一人の方が君たち動けているでしょ?」
「はぁ? 待て待て、俺はちゃんと……」
「私が君に興味を持ったのは私の作戦通り動かなかったこともあるんですよ?」
だから、俺がいつお前の命令を―――! あっ、あったわ。うん、そういえばそうだった。
俺が言っているのは二年前の時の『蒼い烏』討伐時のことだ。オルウェンが退却命令を出している中、俺は無理に特攻したときがあった。結果的に俺は無事だったが、帰ってきたときオルウェンにめちゃくちゃ怒られた。どうやら、その退却命令もオルウェンの作戦の内で、退却しておけばもっと楽に倒せていた。
「あのときは悪かったよ。でも、今回は……」
「私の【危険察知】もそう反応しているのですが?」
「わかったよ、まったく……」
ということだった。ベルンハルドは初めて十分で腰を下げるのが面倒くさくなり、魔法でゴミを拾っていた。【念動力】とは実に羨ましい魔法だ。俺の魔法では排気ガスを出すだけだ。下手したら有毒なガスが出る可能性もある。
俺が腰の上げ下げで腰が痛くなっているところにぞろぞろと他の討伐部隊が城から出てきた。
「俺達もそろそろ止めようぜ。疲れたし、飽きた」
「そうだな。やめるか」
「させませんよ? 君たち二人は自由行動にしてあげているのですから」
俺達の後ろから暗い声で言ったのは、オルウェンだった。
「何が自由行動だ。掃除させて自由なはずがない」
「そうだ、そうだ」
ベルンハルドの言い分に俺は同調した。オルウェンは俺達に対してため息をつくと、頭に手を当てた。
「王国誕生祭は自由じゃないですか。それの代わりです」
「とか言って、王国誕生祭も働かせる気だろ」
「少しくらい我慢してください。ホントに君たちは命令を聞いてくれないんですね」
「「当たり前だ」」
「開き直らないでください」
結局、俺達は王国誕生祭もゴミ拾いすることになり、二人でうんざりした顔をした。
それから、俺達はオルウェンがいなくなった後、二人で作戦会議を始めていた。
「これから、どうやったらサボれるか会議を始める」
「ああ」
「まず、思いっきりサボると、オルウェンとかにバレてしまう」
「となると、働いているように見せるしかないな」
俺達は互いに意見を出し合った。
案①
知り合いに見られているときだけ作業する。
それだと、完全にサボれない。もっとサボる方法を。
案②
隠れる。
バレる。
案③
何もしない。
もっと面倒くさいことが起きる。
それじゃ……
案④
「そもそも掃除しなくてもいいような国にする」
「それだ!」
というわけで俺達二人の案はこうなった。
『王国誕生祭までに掃除を必要としないレベルで国をきれいにする』
「これだったら、王国誕生祭は完全に自由だな」
「それなら、早速……」
そう言って俺達は自分たちの持てる限りの力で王国の掃除を始めた。
それが本末転倒であることは二人は最後まで気付かなかった。
ちなみにそれを一部始終見ていたレギンは笑いが止まらなくなっていた。




