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掌編「幼馴染」

作者: かさのきず

書いたはいいけど、今まで書いてきたやつよりこう、手ごたえみたいのが弱いです。

うーん、たぶん駄作?

私程度の基準だと、そこまで悪いやつを書いた気はしないけど、決して良くはないなぁって感じです。

「宏ー、あーそーぼー」

 窓の向こうで美咲が叫んでいた。

「おう、今行く!」

 僕は窓から顔を出して答えた。

 幼馴染の橋戸美咲。

 彼女の事はちょっとだけ苦手だけど、それ以上に幼馴染っていうのは強い。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になる。

 だから僕はいつも彼女の傍にいる。

「今日は何して遊ぶ?」

 僕が聞くと、彼女はほとんど悩まずに言った。

「おままごと!」

 美咲に聞いたのが間違いだった。

 もう小学生になって数か月。女の子に混ざっておままごとなんて恥ずかしくてやってらんない。

「別のがいい」

 当然、僕はそう言う。

「どーしようかなー?」

 こういう時の決定権はいつも美咲にあるから、僕がそんなこと言っても意味がないってわかっていた。

「どーしようかなー?」

 美咲がまた言う。

 これは無言の……ではないけど圧力だ。ほら、だんだん目が釣りあがってきて、最後には我慢できなくなった美咲に殴られる。

 だからその前に僕のほうが折れなきゃいけない。

 幼馴染だからこそわかる。美咲はそう言った時は絶対折れない。



 そこそこ大きな繁華街のある駅前はやはり人が多くて紛れ込みやすい。ましてや、待ち合わせ場所の定番となっているモニュメント辺りは、一人で立っていても全く不自然な感じがしなくてとても楽だ。

 あまり見すぎるのもばれそうなので、ちらちらと幼馴染の橋戸美咲を見る。

 彼氏を待っているのであろう、そわそわとした様子で、時計をちらちらと見ている彼女を見ていると軽い罪悪感が込み上げてくる。

 時刻は午前九時三十分。

 待ち合わせは十時って聞いていたから、これから三十分近く待つことになる。

 少し嫌気がさしたが、それ以上に三十分以上も見張っていてばれないか心配だ。

 思わず空を仰ぎ見る。

 何をやってるんだろうか、僕は。

 そう心の中で呟く。

 一応誤解のないように言えば、僕は美咲のことが好きってわけではない。あくまで美咲は幼馴染だ。それ以上でもそれ以下の関係でもない。いや、それ以下はあり得るかもしれないけど、それ以上ってのはない。うん。

 それがどうしてこんなストーカーまがいの行為に及んでいるのかといえば……。

「まだかなあ、拓真くん」

 たぶん、美咲はそう言ったのだろう。口の動きからなんとなくわかる。

 その拓真ってやつがどうも怪しいのだ。

 僕のクラスメイトではあるんだけど、あまり話したことはなく、成績優秀なうえバスケ部で毎年レギュラー入りして県大会優勝。などなど、女にモテそうな要素を持っていて実際にモテる。

 それを僻んでいるわけじゃない。いや、そんなやつがどうして美咲なんかを……って信じられない気持ちはあったけど、それは置いておく。

 聞いてしまったのだ。彼と、バスケ部の部員らしき一員たちが教室で楽しそうに話をしているところを。



「あの女、いつ股を開くと思う?」

 拓真が聞くと、彼らは下卑た笑いを浮かべながら答えた。

「今週中」「いや、五日もかからないだろう?」「っていうか、もうヤったんじゃね?」

「いやいや、意外とガードかてえからあいつ。でも、そんなにはかからないだろうな」

「さすが拓真さん、女の敵!」

「褒めんなよ」

「いや実際、もう何人食べてきたんですか? いつも通り俺らにも味見させてくださいよ?」

「慌てんなよ。今週末デートするから、その日決めようと思ってる。お前らも来るか?」

「もちろんっすよ」「いよっしゃ」「くぅ、橋戸とヤれるなんてついてるぜ!」

 反吐が出そうな会話だった。

 というか、そんなことを幼馴染の僕がいる横で話すなよ。

 別に好きでも何でもないんだ。

 知らなければ、ふーんよかったね。で済んでいた話なんだ。

 本当に、幼馴染ってのは面倒だ。



 時計を見る。十時三十分。

 拓真はまだ来てない。

 さすがに不安になったのだろうか、美咲は携帯でなにやらメールしていた。

 不安そうに携帯をじっと見ているが、すぐに返信が来たのだろう。美咲はなにやらほっとした顔をしている。

 拓真ってのはひどいやつだな。わかってたけど、仮にも彼女を待たすなよ。

 苛立ち紛れに近くの壁を蹴飛ばしてやりたくなるが、そんなことをしたら目立ってしまう。我慢だ。

 というか、いまさらながらに疑問がわいてくる。

 こうして尾行をしたところで僕に何ができるんだ? 今の美咲を説得することなんて、ただの幼馴染の僕にできる気はしないし、喧嘩もしたこともなければ何か武術を習っているわけでもない僕があからさまに喧嘩なれしてそうな拓真たちに敵うわけもない。

 帰ってしまおうか。

 そう思っていたら、やっと拓真が来るのが見えた。

 十一時ちょっとすぎ。一時間以上遅刻しやがった。

 ぼうっと見ていると、拓真は美咲と腕を組んで歩いていく。

 帰りたい。そう思いながらも人ごみに紛れて僕は歩き出していた。

 べつに美咲がどうなろうと関係ない。

 けれど今日は別に予定もないし、家にいてもゲームをするか、滅多にやらないけど授業の復習をするぐらいしかやることがないから、たまには幼馴染に付き合ってやるのもいいだろう。

 美咲が拓真を見て笑う。

 あんな顔、初めて見たな。

 美咲のことなんてなにも思っていないのに、そのことに僕は少しへこんだ。



 すっかり日は暮れてしまった。しかし、街灯や通り沿いのお店が発する明かりで通りはまるで昼間のように明るい。

 映画を見終わった美咲と拓真を視界に入れながら、僕はため息を吐いた。

 結局今まで特に何もなかった。

 もしかしたら彼らが教室で話していたのは冗談だったのかもしれない。だってそうだろ、普通あんな話は誰が聞いているのかもわからない教室でするものじゃないし、下卑た笑いだって僕がそう感じただけで冗談で笑っていただけかもしれない。

「ごめんな、俺が遅刻しちゃったせいで、映画一本ずらしちゃって」

「ううん、気にしないで。その代わりに教えてくれたお店も面白かったし、それに……私は拓真くんのちゃんと恋人なんだって気分が味わえてちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかった」

「もちろんだよ。色々悪い噂を聞いているかもしれないけど、俺は美咲のことだけは大事にする。好きだよ」

「うん、わかってるよ。私も拓真くんのこと好き」

 そのあと、二人は何も言わない。恥ずかしながらも心地よい空気だけが流れる。

 さっきからずっとそんな感じなのだ。

 もう、いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃと……やかましいわ。

 そんな空気を味わう度に、休日をわざわざ潰してまで何をしているんだ。と空虚感を味わっていた僕は、さすがにもうこれ以上尾行するのは辛くなってきた。

「ねえ、美咲。キス、しようか?」

「え、こんなところで?」

「大丈夫。誰もこっちに注目してないよ」

 一人注目してます。

 しかし、バカらしくなってきた僕は、あえて視線を逸らす。

 幼馴染とあまり好きじゃないクラスメイトのキスシーンなんて見たくはなかった。

「お幸せに」

 なんて呟いて、僕はそっと彼女たちに背を向けた。

 さっきも考えたけど、きっと僕が教室で聞いた言葉は別の話だったんだろう。

 拓真は、本当はちゃんとしたやつで。美咲はそれを知って彼のことを好きになった。それで僕は彼らを尾行して見守っていたけど、もう彼らを見守る必要はないと悟って静かに去る。

 僕は休日を駄目にしたけど、不安を一つ解消できて、彼らは幸せなハッピーエンド。良い感じじゃないか。

 なのに。

 どうしてお前らがここにいるんだよ。

「ちわーっす」「よう拓真」「橋戸さんもご一緒? お熱いねえ」

 教室で話していたバスケ部員たちが僕の横を通り過ぎていった。

「え……?」

 美咲が不安そうに拓真を見る。

 そんな美咲を逃がさないように肩を抱く拓真。

 僕にはそんな風に見えた。

「ここじゃアレだから、あっちのほうへ行こうぜ」

「でも、そっちは暗いよ」

「ああ、向こうに良い感じのカフェがあるんだよ」

 そんなものない。僕は知っていた。

 美咲は、嫌なものでも感じたのか、拓真から逃げようとする。

「大丈夫。俺が守るからさ」

 拓真はそんな美咲を安心させるように笑いかけて、美咲も彼を見て引きつりながらも笑顔を見せた。

「よし、行こうぜ」

 そのまま美咲を引っ張っていく。

 そんな一連の行動を見ながら、僕は立ち尽くしていた。

 どうすればいい。

 どうしよう。

 わからない。

 僕にできることはあるんだろうか。僕には何もできないんじゃないだろうか。

 わからなくなっていた。

 だから、美咲の手を掴んだ。

「美咲、こっちだ」

 拓真の手が伸びてきたので振り払う。

 いきなり現れてきた僕は完全に計算外だったのか、咄嗟の行動ができないでいるように見える拓真を置き去りにして僕は走り出した。

「宏、どう……したの?」

 息を切らせながら美咲が聞いてくる。

 答えてやりたかったけどその暇はなかった。後ろから拓真たちが追いかけてくる足音が聞こえる。

「逃げるな、美咲っ!」

 拓真の怒鳴り声にびくっと美咲が震えたのが、繋いでいた手から伝わってくる。

「大丈夫」

 だから僕は一言だけ言って、彼女の手を強く握った。

 美咲がこちらを見る。

 迷っている目。

 嬉しいのやら悲しいのやら、それとも悔しいのやらわからない。迷いなく拓真を選ぶと思っていたのに、美咲は迷っていた。

 それだけでも十分に嬉しい気はするけど、今はそれだけじゃ駄目なんだ。

「信じて」

 言うと、美咲は頷いた。

 僕は駆け出す。

 手を繋いだままの美咲は、引っ張られることなくついてきた。

 離したほうが走りやすいと思って、手を緩めたけど、そのまま絡めとられてしまう。

 美咲が僕を見て微笑んだ。

 なんで美咲はこんなに余裕があるんだ? ふと疑問に思ったけど、その疑問を解決している暇はなさそうだ。

 後ろで拓真が何かを投げるのが見えた。

 手を思いっきり振って、美咲を背にかばう。

 痛みは想像していたよりはなかった。この異様な状況でアドレナリンとかが出ているおかげかもしれない。

 それでも、衝撃には耐えきれずに、二歩ほどよろめくと前を歩いていた美咲に引っ張られる。

 手の先には美咲がいた。引っ張られるままに再び走り出す。

 走るのって本当に苦しんだな。肺が悲鳴を上げるように空気を求めるし、足はだんだん痺れるように感覚がなくなってくる。

 それでも僕は走る。

 守りたい。美咲を見て思った。

 幼馴染なんだから、それ以下ではあってもそれ以上ではないのだから、これ以上は関わらないと線を引いていた。

 でも、もうちょっと近寄りたいと思った。

 だからというわけではないけど、僕は走る。

 いつの間にか、拓真たちの姿は見えなくなっていた。

「それで」

 思わず倒れ込んだ僕の上に美咲が乗ってきた。馬乗りってやつだ。

 周りに人影はない。だから大丈夫だと思っているのだろうけど、この体勢はどうにもやばい。

「ちょっ、降りろ」

「私の質問に答えてからね」

「こんなところ誰かに見られたら……」

「別に幼馴染なんだから問題ないでしょ」

 幼馴染ってそんなもんだっけ? そんなツッコミを心の中でしていると、美咲は顔に笑みを浮かべて僕に聞いた。

「どうしてデートの邪魔をしたの?」

 顔は笑顔だけど目は笑っていなかった。

 明らかに怒ってる。

「話せば長くなるんだけど」

「簡潔にまとめて」

「拓真のやつが悪い」

「まとめすぎ」

「まとめろって言ったの美咲だろうが!」

「じゃあゆっくり聞くからちゃんと話して」

 僕は事情を説明した。

 教室で聞いたあのひどい話も全部話したのに、美咲は顔色一つ変えなかった。

「嘘じゃないぞ」

 そんな美咲の様子に不安になって僕は付け加えた。

「だよねー、こういうことで嘘つかないもんねー」

 すると、明らかにだらけた様子で美咲は言って、僕の胸に顔をうずめる。

「おい!」

 僕は思わず叫ぶ。幼馴染になんてことをするんだ。誤解するだろう。

「幼馴染だからいいじゃん」

 震える声で美咲は言った。

 僕と彼女で幼馴染が定義が違う気がする。

 でも、今この時だけは、彼女の考える幼馴染でいようと思った。

「冷静に考えると、幼馴染にこれはない気がする」

 それなのに、彼女は顔を上げて言った。ちょっと目が赤いが、口元はニヤニヤしている。

「てめえ、せっかくこっちが気を遣おうとしていたのに!」

 さすがの僕も怒ったが、美咲は全然聞かない。

「だってさー、結局幼馴染って他人じゃん?」

「当たり前だろう」

 だから恋人があんなやつでも、正面から彼女に言わなかったわけで。

「今日のは特別だ。もうあんな男に引っかかっても助けてやらないからな」

「えー、助けてくれてもいいじゃん」

「い・や・だ。全く、本当に幼馴染ってのは面倒だ」

「なによそれ、幼馴染じゃないほうがいいって言うの?」

 美咲の言葉に僕は頷く。

 当たり前だ。美咲が幼馴染じゃなかったらこんな大変な休日を過ごすこともなかっただろう。ここまでやっといて、僕に対する報酬なんてないんだぞ。本当に疲れた。

 でも美咲はそんな僕の言葉に勘違いしたのか、とんでもないことを言いだした。

「じゃあさ、恋人だったら助けてくれるんでしょ?」

「はあ?」

「付き合おうよ」

 そう言って、再び美咲は僕の胸に顔をうずめる。

「恋人だったらこれはありだし」

 泣き声が辺りに響く。

 僕と美咲は幼馴染だ。それ以上でもそれ以下でもない。そう思っていたけれど、大変不本意ながら、それ以上になりそうだ。

「美咲」

「なに?」

「今日だけな」

「どーしようかなー?」

 だって、幼馴染だからこそわかる。美咲はそう言った時は絶対折れない。

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[気になる点] 頭が足りない女が他の男とのデートを邪魔するなって言ってくるならそれで良いと思う 何かあっても自業自得だし
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