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前編

前に投稿した短編を編集してまとめる事にしました。前のは削除してしまい、お手数かけました。すみません。

 




 私には兄がいる。



 歳は一つしか離れていない、年子だ。その事を友人らなんかに言えば、口々に羨望を言葉にしてくる。

 皆歳の近い兄弟は仲の良いイメージがあるのだろう。


 まあそのイメージを裏切らず、幼い頃から私達は一般的な兄弟達より仲が良かったと思う。



 なにより兄は綺麗な人だ。


 癖っ毛一つないサラサラの髪、くっきりとした二重の瞼、大きな茶色の瞳、高い鼻、薄くも潤いのある唇、そこらの女子顔負けの白い肌。


 どこか儚げで人形じみた顔立ちは、いつも周りの人達を魅了していた。私の友人らも瞬殺だった。



 おまけに頭脳明晰、運動神経も抜群。眉目秀麗、文武両道、王子、神、エトセトラetc……最後らへんのはどうかと思うが、人から兄に関して口にする言葉は全てが全て褒め称えるものしかなかった。


 当然、女どもがほっとくわけがない。



 友人らは秒で悟った。さすがだ。



 しかしそんな兄はおモテになるのを鼻に掛けず、仕事で家を留守にする両親の代わりに私達の世話をしてくれた。

 因みに私の下にももう一人兄弟がいる。こちらも年子だ。両親の精力には脱帽である。



 ……下世話な話に脱線した。

 それはともかくその頃は小学生、兄も遊び盛りな年頃だった。

 実際兄が友人らしき子達(8割女子)に誘われる場面に何度も何度も何度も遭遇している。てか何故かほぼ私が居る時。


 その度に兄は申し訳なさそうな顔で丁寧に謝っていた。本当に小学生かと我が目を疑うくらいそれはもう見事に相手を丸め込んで。


 それから女子が去った後、兄は笑顔で言った。




「ごめんね耳障りだったよね」と。




 この時私は兄の強かさもとい腹黒さを垣間見た。うんまあ優しいだけじゃこの世は生きてけないよねこのくらい当たり前だよね多分。


 今だに兄の友人達は断られても幸せそうにしていたのか理解不能だ知りたくもない。




 まあ兎にも角にも、兄はまさに絵に描いたような完璧な人間だった。


 強くて優しくてかっこいい我が良き兄弟。私もそんな兄をとても誇らしく思う








 と、そんな時期もありました。



 


「…兄さん」


「なんだい我が麗しの妹よ」


「…これ、何でしょうか」


「何って…はははそんなこともわからないのか我が崇拝なる妹は?仕方がない奴だな…」


「その『我がなんちゃら妹』ってやつヤメろ今すぐヤメろ吐く」


「盗聴器に決まってるだろ?」


「あんたオカシイよ」


「…おお?それはもしや最新型?!駄目じゃないか我が愛しの妹よ!今すぐ兄ちゃんに貸しなさい!

 ダッシュでお前の部屋に取り付け直してくるから!」


「あんた腐ってんよ」




 今やただの変態ストーカーである。





 なにを血迷った、兄よ。




 *********




 私の朝は早い。


 ま家族全員分の朝ご飯を作るのと並行し、私と兄の弁当を作らなくてはいけないからだ。


 両親は食べない日もあるがまあ一応。

 弟は只今遠方の全寮制の中学で頑張ってるので家に帰らない為いらない。




 だかしかし。

 その前に一つ、起きて直ぐ様しなければならない日課がある。


 それはある『機械』を使って行われていた。場所は私の部屋。




 ______さあ今日も始めようじゃあないか。




 人知れず気合を入れ、私は今日も身を屈めながら歩く。


 そして隈無く自分の部屋にその『機械』を翳していくのだ。不意に悲しくなるのはもう慣れた。



 そして



 __________ビービービービービービー……




 …やはりか。


 静かな朝に響く不吉な音。

『機械』が報せる、その場所は…



 …ベットの近くの、コンセント。


 無言で懐から取り出すのはマイ工具セット一式。その中から小さめのドライバーを手に取る。


 念のために軍手を手にはめ、プラグを抜き、ドライバーを回しコンセントの四方にある螺子を一本一本外していく。


 最後の一本を外し終われば、ゆっくりプラスチックの蓋部分を外し床に置く。


 現れるのは四角い穴に、その奥の良くわからない多彩なコードと小さな金属の部品らしき物多数。

 床に這いつくばるように身を屈め、その穴を覗き込んだ。端から見ればかなり正気を疑う体勢だ。この時ばかりはノミ程度のプライドをも捨て、隅から隅までじっくり視線を走らす。


 こっちは真剣なのだ。



 そうしてやっと『例のブツ』を発見するに至る。ゆっくり手を穴に入れ、『例のブツ』を取り出した。


 最後に取り出した物を『例のブツ』だと再確認したところで、ふぅぅぅ…と息を吐く。



 それからまた『機械』を部屋の至る所に翳し続け音が鳴るのを待つ、の繰り返しだ。や、鳴らない事をいつも願ってはるが。



 そして隈無く部屋を“掃除”し終わり、無数の“ゴミ”を新聞紙を重ねた所の上に置くのだ。


 これからがお楽しみ、私が毎日楽しみにしてる瞬間。




 ___________仕上げと行きますか。



 マイ工具セットから新たに金槌を取り出した。毎日磨いてるから朝日が反射している。


 今日も最高にかっこいいぞマイハンマー!



 充分金槌の具合を鑑賞兼点検した後、手から抜けないようにしっかり握り締める。ゆっくりと挙げて……




 ガンッ


 振り下ろす。


 ガンッ


 振り下ろす。



 ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ




 憎悪をぶつけるようにただただ金槌を振り下ろす。


 鳥のさえずりが聴こえる筈の朝は、我が家では潰れる金属音が木霊する。




 あははははは愉快愉快。



 ついでに私の心の底からの乾いた歓喜の笑い声も木霊する。見事なハモりだ。




 …まあその、このように。

 ここまで無心で作業をやって溜まったストレスを発散し、朝の日課は終了するのだった。




 *********




 さてさてもうおわかりだろう。

『例のブツ』、あれは『盗聴器』である。これは人の恥ずべき発明だろう。


 それから『機械』、あれは『盗聴器発見機』である。同時に人は偉大な発明をしたものだ。



 そしてこれを仕掛けた犯人。



 言わずもがな兄である。



 てか兄以外誰がいると言うのかアレェなんだろ目から汗が




 閑話休題。




 完璧な筈だった兄。

 それが今や妹の部屋に盗聴器を仕掛けるような俗物に成り下がっていた。


 いや、私の部屋だけじゃない。

 玄関にリビング、キッチンや廊下や階段や脱衣所、その他の部屋諸々。


 家族共有スペースから個人スペースまで我が家殆どの場所に盗聴器or盗撮用録画機能搭載小型カメラが設置されているのだ。



 家族だとしても許容範囲があるだろう、プライバシーの侵害もいいとこだ。


 訴えれば確実に裁判までこぎつけられる自信がある。無い方がオカシイ。



 流石にトイレとお風呂場はなんとか説得という名の暴力で防いだ。


 そこら編はもう人としてアレだろ。変態が人としての最後の砦だろ。もう良くわからなくなってるが。



 …他にも、気を付けなければならないのが兄からの『プレゼント』だ。


 プレゼントごときと舐めちゃいけない。

 我が敵は好青年の外見にして少しばかり悪知恵の働く変態なのだ。



 例としては去年兄からお土産と表して貰った、小さくて可愛らしい猫がモチーフのペンダントの事件をあげよう。


 アレにしてはセンスの良い代物だったのでその日私は機嫌が良く、早速ペンダントを着けて外へ出掛けた。


 この世でたった一人の兄。過度なストーカー行為があれど嫌いになり切れないのだ彼のことは。



 _______しかし甘かった。



 私はまたまだトロットロの甘々だった。大鍋いっぱいでグツグツ煮込んだザラメより甘かった。



 待ち合わせていた友人の一言で私は我に返る。



「へぇカワイイーじゃん、なんか小物とか中に入りそうな大きさね。ロケットみたいなヤツ?」



 ピキーンと身体が硬直し、少しばかり浮かれて気分は世界の彼方へ吹き飛び消滅した。




 ある『可能性』を思い付いたからである。


 それから私の行動は速かった。



 パリーン



 呆然する友人を端に、その場でペンダントの硝子の猫を思い切り割った。


 ああ…猫ちゃんには罪はないのこれで違ってたらゴメンね兄に治させるから待っててね。


 疑われるのは日頃の行いの所為なのだから。



  だがその必要はなさそうだ。

 粉々に砕け散った硝子の破片と共に転がる黒い物体。大きさ約1センチ。かなり薄い四角形の物体だった。



 …また怪しげな所に特注でもしたのか?何がともあれ問い詰めなければ。



  その日家に帰って兄に全てを吐かせた。どうやらあの黒い物体はGPSだったらしい。

 勿論金槌で硝子諸共処理させて頂いた。




  兄はその日の夕食をニボシだけにした。猫ちゃん、仇はとったからね。




 それからと言うもの、私は無闇に兄から物を受け取らなくなった。


 断る度、兄はとっても物凄く泣きそうな顔をする。今だ受け取ってもらえると思える貴方は大物だよ本当にぶぁーか。




 これが数年前の出来事だ。

 つまり、なんと私と兄の攻防は数年間続いてるのだ。



 *********




 マジてキモい。

 マジてマジてマジてキショい。

 マジてマジてマジてマジてマジてマジて畜生が切り落としてやろうかあいつのいちも………失礼。女子にあるまじき心は成敗成敗。



 最近、いや近年の私の頭の中ははしたない言葉でいっぱいだ。お蔭で言葉遣いも随分と荒々しくなってしまった。


 表に出さないように終始努力はしているものの、やはり兄の前となるとその理性がプッツン。あーもういいやーである。



 朝の登校、高校までの道のりは兄と二人での時間だ。キツい色んな意味でキツいぞ兄(変態)よ。


 そして私はいつも不思議に思うことがある。兄と一緒に行動(不本意な事に)する時、兄はいつも私の後ろを歩く。何故かは知らないがとても居心地が悪い。ジロジロ見られてるからか単に存在に嫌悪を抱いてるのかわからないけど兎に角嫌なのだ。



「…兄さん」


「なんだい我が秀麗なる妹よ」


「…なんでいつも後ろ歩くの。隣来なよ落ち着かない」


「はぅん…!い、妹が…俺を、心配してくれた…だ…と…!

 兄ちゃん感激!記念写真記念撮影」


「その顔仕舞えきめぇよ醜い音出すな変態」


「カメラ〜カメラ〜………はっ!ない!一眼レフない!盗撮用しかない!しまったあああ我が妹の部屋に忘れたああああ今から兄ちゃん泣くわ」


「じゃあ私先行ってるね!」


「そうだ…兄たるもの、護るべき妹に涙なんぞ見せられん…。済まなかった我が高潔の妹よ。

 さあ行くとするか、俺らの愛の巣へと!」


「行くの学校だけど」



 駄目だコイツ話が通じねえ。理由聞き出すのはは諦めた方が良さそうだ無駄な体力使いそうだから。


 一人なんかの決めボーズ(ダサいが悔しいことに絵になる。美形は得と言うことだ)を道端でかます兄(仮)。すぐさま他人の振りをするべく距離を取る。


 直ぐに追いつかれる。チッ。



 やっぱり後ろを歩く兄の頭の頂でちょこんと結ばれた髪が揺れる。


 猫のキャラクターの幼稚な髪ゴムで結ばれたちょんまげは人形じみた綺麗な兄にひどく不釣り合い。

 傍にいる私もそうだけど。


 マジ似合わない。いつだったか、それを指摘すると「これで良いんだ」とはにかみながら笑った。


 …美形スマイルはやさぐれ捻くれた私の目には眩しすぎる。通りすがりのお姉様方が頬を染めて振り返る顔から無言で視線を外したのはイイ思い出だ。


 取り敢えず兄はかなり前からこのスタイルだ。



 そういえば、兄はいつからあんな髪形してたかな?



 *********




 学校での兄は大人しくなる…まあまあ。

 だが過度なスキンシップはしない。変質者の表情をしない、だいぶマシになる。

 昔の完璧な兄…少なくとも私の見得る限りでは。



 つまり猫被ってるのである。流石ハイスペック兄。お蔭でストーカー行為もハイスペックだぞ無駄に。


 顔良し性格良し成績も優秀で主席の兄はこの高校(私と兄は同じ高校)では兄は『王子』で通ってる。お う じ(笑)。あはははは恥ネームうけるうけるワロチワロチ。



 しかし…。

 昼休み弁当を食べてからトイレに行く途中、偶然女子の群生に囲まれる兄を見かけた私はふと思う。



 兄はどうして私に構ってくるのか。



 今更な感じはする。

 兄は今は部活動に入っていないが遊びに行くなんてこともせず、真っ直ぐ家に帰る。


 ていうか毎日登下校は私と一緒だ。高校生にもなって毎日妹と学校の行き帰りを供にする兄ってどうなんだ、見たことも聞いたこともないぞ。友達だっている筈なのに。女っ気だってない。



  だけど頭の良い兄のコトだからまあ、やることはやってるとは思うけど。



 バチンと人に埋もれる兄と思い切り目が合う。


 ぅげえ…瞳が輝いてやがる。いや比喩だけども。てかここ一年の階。何故居るんだあんたは。



 手をブンブン振って駆け寄る幼稚な変人から逃げ出したい衝動に駆られるが、あやつは地の果てまで追ってくるから諦める。既に経験済みの実話だ。


 皆の衆、あれがこの学校の主席だ。しかと目に焼き付けておけ。そして早く現実を見ろ。



「我が凛然とした妹よ!トイレだろ?ついて行こう!」


「はっ倒すぞ」



  ごめん全っ然通常運転だったわ。発言もどうにかならんのかこいつは。


 しかも何故トイレってわかった?怒り通り越して怖いわ。



 その後も続くマシンガントーク。げんなりしつつ聞き流していると、ちらりとさっきまで兄が居た人の群れが視界に入った。




 ……何故、微笑ましげにこっちを眺めてるのだろうか。



 そこには男女関係無しに温かい目で兄と私のやりとり(兄の一方通行な会話だが)を見守る野次馬。


 …なんかさっきより増えて…?男子はわかるとして女子は何故静観してるのだろう?



 _____女子とは『嫉妬に生きる生き物』だと母は言っていた。


『特に男を取り合う時の修羅場と言ったら正に生き地獄、女の世界は獣のように秩序の無い醜悪な弱肉強食なのよ』と。


 中学の時は母の言葉通り弱肉強食の世界に巻き込まれる体験をしたのだが、この高校の女子は私にあんな暗くドロドロした醜い視線を向けてこない。



 …………?



 ツキン、頭の奥が痛んだ。


 高校に上がってからと言うもの、そのことが妙に気になっているのだった。




 兄に視線を戻す。

 私が話を全く聞いていないなど露知らず、愛も変わらず話し続ける兄。途中私が暴言を吐いたとしても、心の底から楽しそうに、嬉しそうに。




 いつから、こんな風になったかな…………?





 *********





 あれから数日、私はずっと頭を抱えている。


 いや兄の奇行にもここら数年ずっと頭抱えてるけど、それもあるけども!

 正確に言えば今の『環境』についてだ。




 時々私は今の生活に『違和感』を感じてた。そしてそんな時に限って頭痛がする。


 まるで誰かが「考えなくてもいい」と囁くように。



 でも私はそれじゃ駄目だと、なぜかそんな気持ちがするのだ。



 数日前その気持ちが大きく膨らんだ。

 少しずつ少しずつ、ウザったいのを避けながら時間をつくって考えに考えた。



 一体、いつから………。



 今までを振り返って振り返って………




 そして、ハッと顔を上げる。






 記憶がない。





 *********




残酷描写とシリアスは後編で。

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