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転生記  作者: 剣友会
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獅子奮迅

第一話です。!

西暦2156年4月12日 午後6時12分32秒

北緯34度 東経135度

日本国兵庫県明石市津名丘陵付近


 

今、千を越える数の魔獣を相手に極東、日本の軍隊は交戦していた。

人々は京都・兵庫を中心に巨大な(半径約50キロ)円形城壁、10枚のドーム状結界(城壁から1キロ置きに1枚)を張りその中で大部分の人々が生活していた。

この日の交戦地点は城壁から数えて8枚目の結界地点『第8防衛地点』付近である。術師達の役目の大部分は、不定期に、こうして人を狙って襲撃し、結界を破り侵入してくる魔獣、異族達の討伐(数が百を超える大規模な襲撃は極東では1ヶ月に1回あるかないか)にあった。


鈴木一誠少尉は今年で36歳を迎える。軍に所属したのは20歳の時、今年で士官して実に16年目を数える。中肉中背の平凡な外見を持つ日本人で、風貌にこれといった特徴はない。

当初は何処に属さない抵抗組織として、国土回復と聖戦を謳い自ら軍に志願したのは、国を守りたいという愛国心、また、当初は僅かなヒロイズムもあったかもしれない。そんな歴戦の猛者でも未だこの瞬間には慣れない、魔獣との戦闘は。

「たっ、助けて、がっ--!」

 目の前で今年配属したての若い兵士が助けを求めた直後、背後から迫った狂爪に掛かり真っ二つになる。断末魔を上げ崩れ落ちる兵士。

「おい!術師部隊はまだ来ないのか?このままでは第3小隊は全滅しちまうぞ!」

「無理です中佐!国家術師の大半は東京移住区画へ回されています。九州移住区画でも波状攻撃を受けているため

 その時、それは乱入した。

「邪魔だ」

巨躯と豪腕を備え持つ男が気合一発、唯の打撃で一瞬にして十数匹の魔獣を肉塊へと変貌させる。機関銃、RPGでも歯が立たぬ相手を拳で一蹴である。その常軌を逸した膂力に、誰もが唖然呆然としていた。

鈴木一誠はこの時思った。彼は人ではない当に兵器、化物だと。

「すまんなぁ、悪いけど死んでもらうで」

億劫気に吐かれた台詞と共に先程の巨漢の横に立った別の男が懐より取り出した9枚の呪符に己の鮮血を捧げる。

次の瞬間、大気を切り裂き地を震わせ現せしは八匹の竜。難陀竜王・跋難陀竜王・娑伽羅竜王・和修吉竜王・徳叉迦竜王・阿那婆達多竜王・摩那斯竜王・優鉢羅竜王と称される八竜が空を駆ける。

元は法華経の会座に列した護法の龍神達が極東術師界の頂点に君臨する陰陽寮の副当主〝四十九院・A(蘆屋道満)・帝″の最強式神として虚空を割らんばかりの咆哮と伴に上空から顕現した。

「踊れ、千の雷」

 打って変わり冷徹さに満ちたその一声により眼下に広がる魔獣の群れに無数の雷撃が降り注いだ。それは宛ら瀑布の如く轟音を立て地殻変動か直下型地震のように激震を走らせる。

霧の都と称された倫敦の霧に比肩する砂埃が消え去った後には焼け焦げた魔獣の死体が積み重なっていた。

辺りに漂うのは血と肉の焼ける臭い。相当凄惨な光景だが肩を並べて立つ二人の男性は、眉一つ動かさず眼下に転がるつい先程まで一個体として生命活動を続けていた物体に目を落とした。

 歓声が湧いた。僅か数十秒の間に軍が一刻以上交戦しても殲滅不可能だった魔獣郡を壊滅させたのだ。

「安心しぃ、僕ら極東陰陽寮のもんや、政府から増援の要請を受けて参上っつぅわけや」

「負傷者が多いな。おい、君の名は何という?」

「はっ、鈴木一誠少尉であります!」

「そう改まらなくてもいい、俺は軍人ではないからな。では鈴木一誠少尉、一つ進言させてもらおう。見たところ部隊の被害が大きいようだ、上官に連絡して下げさせ給え」

「はっ、了解であります!御堂殿!」

「・・・改まらなくてもいいんだが」

 半ば灰塵と化した魔獣を眺めながら右側に立つ男性が嘆息と伴に言葉を吐く。その僅かに陰った表情は悲しみを湛えているようにも見えた。

嘗ては大勢の人民が生活を営んでいたであろう此処日本の一地域も今や樹海に覆われ--と、いう程ではないが旧時代の活気は残滓すら残っていない(実際一般人は一人住んでいない)

「もう慣れたやろ。御堂君、見た目怖すぎなんやて」

両手を袖に締まったままケタケタと人形染みた笑い声に対し、志衛と呼ばれた大柄の男性は否定も肯定もせず親友の顔を一瞥した。

 陰陽寮現当主である御堂志衛と陰陽寮現副当主にして〝処刑人″の異名を持つ四十九院帝、その格好は二人共紺と黒の和服だがその体格は著しく対照的だった。

御堂は見る者を圧倒する筋骨隆々とした巌の如き巨躯を誇る。短く刈り込まれた黒髪と猛禽類のように鋭く炯々爛々と輝く漆黒の双眼。鍛え上げた鋼の筋肉は古傷が覆っている。

その威風堂々とした出で立ちは低く地鳴りを思わせる声と相余って宛ら古の戦神を彷彿させる。

対して、四十九院帝は長身痩躯、やはり肉体は鍛え抜かれてあるが、その皮膚には切り傷一つない。

整った容貌、伸ばした茶髪に右耳で揺れるピアス、猫のように細い目に顔には常に能面を貼り付けたような笑みが浮かんでいる。この二人が肩を並べると、とても同じ年(38)には見えない(四十九院が若く見える)

「そもそも、お前一人でも十分だったのでは?」

「ほら、かのナポレオンも言うたやんか。〝一匹の狼に率いられた百匹に羊は、一匹の羊に率いられた百匹の狼の群れに勝る〟って。それに志衛君が今でも現役であることをたまには若い者にみせたらんとな。そのほうが士気も上がるし」

残り十数匹となった魔獣と奮闘を続ける若い術師たちを一瞥し、御堂は小さく頷いた。

「存外博識なんだな」

「・・・今のは傷いたで」

 露骨に隣の男の笑い顔が悲しそうな表情に変貌する。

「冗談だ。気を使わせたな。四十九院」

 仏頂面で淡々と返す謝辞に四十九院は直様何時もの表情に戻り、細い眼と口を半月型に引き絞り再び笑い声を上げた。

「気にせんでええよ、僕らの仲やろ。まぁ、腕が訛ってないのはよう解ったわ。流石、陰陽道の頂点ってとこやな。君の式神〝天竜八部衆〟〝十二神将〟〝二十八部衆〟を使用せんでこの強さは正直反則モノやで」

「煽てても何も出んぞ」

「やれやれ、ホンマつれんやっちゃなー。っと、どうやらお客様みたいや」

 気配を悟り視線を前方へ傾けるとそこには、三匹の魔獣が此方へ接近してくる姿が映った。

「--〝窮奇″か」

体高は三m程か、数は三匹、其の身は雄牛、頭部は猛犬の顔に捻くれた禍々しい双角、背から生えるのは針鼠を彷彿される鋭利な剛毛。

〝窮奇″とは、古代中国の文献、地理書『山海経』に登場する怪物である。捻くれた性格の持ち主であり、人が喧嘩をしていれば正しい方を食べ、悪人がいれば獣を捕えて贈り物にするという。その伝承に酷似する外見から、その名がつけられた。

こちらに目を向け、襲い掛かかろうか躊躇うように威嚇し、低く唸りながら前足で地を何度も擦る。一般軍人ならば3匹の魔獣相手でも10倍の兵力を投資したところで勝敗の行方は定かではない。

だが正直、御堂志衛、四十九院帝にとってはこの程度の魔獣が幾ら集まろうが所詮有象無象でしかない。手のひと振りで、指一本で消し飛ばす事は造作もない。

暗雲立ち込め、見上げるだけで陰鬱となる虚空を煽ぎ、再び御堂は深々と嘆息を洩らした。引き連れて来た二十人の陰陽寮部下達のチーム(基本的に戦闘は四人一組で行う)もほぼ魔獣を狩り終えている。これ以上、無駄に戦闘を長引かせることもあるまい。

そう黙考し、先手必勝とばかりに〝窮奇〟討伐に動こうとした御堂を四十九院が手で制した。

「なんだ?」

 制止の理由が分からず訝しげな声で御堂は問うた。

「見てみい。どうやら僕たちの出番はなさそうやで」

「何?」

 彼の指差す方向に御堂は目線を移動させる。

 そこに居たのは一人の女性。眉目秀麗と言っても差し支えない整った容姿、鍛えられてはいるが過肉厚ではなく、かと言って華奢でもないスレンダーな肉体に紺のスーツを着込んでいる。

夜空を思わせるのは、漆黒の黒髪。大和撫子、和風美人のいう言葉が見事に当てはまる淑女だった。だが、百戦錬磨の二人は肌で感じていた、この女性の持つ一流の術師としての実力と戦士としての覚悟を。

 この場からあの魔獣まで距離は目測で70m、彼女が立つのはその丁度半分の距離、35mの位置である。既に〝窮奇〟の攻撃目標は既に突如出現した女術師に変更済み。

3匹が取り囲むように移動し円陣を組んだ。退路なし、四面楚歌とはこのことだ。魔獣の顔には勝ち誇ったような嗜虐的な笑が浮かべられているように見えた。そして、雄叫び一つ。双角を突き出し、同時に突進を開始した。

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