アリーセ大尉の最期
鮮やかな日光を浴びながら各機が離陸し始め私も操縦桿を握り、うっすらと見える敵の黒い機影向かって高度を上げていった。
BF109の自慢は上昇性能と速度が連合機よりあることだ。後ろを振り向いて基地を見ればもう小さな模型の様な姿になっている。
『敵機は爆撃連合だ。気を抜くな、いいな』
中隊長の声に未だなれない空戦の緊張が襲い掛かりすっきりと気持ちの良い日じゃない気分だ。天候は良い天気だけど、内心、曇りである。
飛行機雲を伸ばして大編隊を組む、銀胴体の敵四発爆撃隊がすぐ真下に飛んでいるのを見て、戦闘機の群れは餌を見つけた鷹のように突っ込んでいく。それに続き私も操縦桿を操り急降下し、狙える爆撃機をすぐさま補足し機銃発射機を指にかけた。
イギリス軍のボーイングB-17だ!
先輩から散々言われてきた噂の4発大型機。しょっちゅう偵察に来てたしクレタの戦いでも見た代物だ。でも私自身戦ったことがない、今ここで落とさなきゃ!
着任しての弱気はもはや消えていて、湧き上がる気合が代わりとなり不思議と楽しい気分で怖い気持ちも少しはあった。
鯨の様に大きい敵のB17は近づき、照準がいっぱいになったところで私は機銃を倒した。白線が無数に描かれる硝煙が敵機の胴体に繋がって行き、小さな黒煙がパッと噴かれそのまま直線に落下するとゴゴゴと落雷の前兆の様な銃声が耳に入った。引っ張った操縦桿を握り、敵を睨み機首を上げた。
しかし思うようには照準に入らず諦めて、私はB17の後部下方に張り付いて距離を縮めスロットルを調整した。敵の撃つ機銃から白煙がのぼりこちらに撃ってきているのはわかっていた。それに来る緊張感はやっぱりやってきた。
照準いっぱいになった所、連続して炸裂する機銃と機関砲が一斉に発射されていき、敵の後部銃座が風穴だらけに無残な姿になると私は罪悪感と、安心感の混じった心を抱きながら、再び敵との距離を狭まっていった。
敵の肉がくっきり見えたのに耐えられず私は現実から逃げるように目を逸らし、爆撃機の主翼付け根の間に同じ様に弾丸を撃ち込むと今度は黒いオイルを尾を引っ張りはじめ、「チャンス!」と思ったところ機関砲を数発ほど銃撃する。スーと只飛んでいく黄色い延べ棒が突如付け根に飲んだと同時に火の玉なって爆発!B17は逆錐揉みになって落下していく。
『スピットファイア直下』
『RAFのロイヤルチームの連中だ!』
慌しくなった戦闘機隊に、敵のロイヤルチーム、スピットファイア3機が銃撃をかまし突っ込んでいくと被弾した友軍たちがたちまち火達磨になって海面に落ちていき、私は何とも言葉が出ず、無言の胸の痛みが心に刺さった。
『奴ら12.7mmと20mm備えてるぞ、気をつけろ』
『アンネ、危ない!』
え?
アリーセ大尉の声に私は後方を向いたとき、赤い鷲のマークを機首に入れたBF109F-4が庇うかのように背中にいた。そして遠く見える2機のスピットファイアの撃つ機銃に、ボロ雑巾の様な姿に成り果て、言葉が出ない私はただ遠くから見守るしかなく、頭から血を流しこちらに笑顔でピースするアリーセ大尉の顔が最期に見た瞬間だった。
爆発と共に私は急旋回し敵の攻撃を何とか避けたが、無残に宙をから降りるアリーセ大尉の機体残骸が私の頭は真っ白に変わり、声の出ない涙を流しだした。
「そんな・・大尉・・どうして」
どうして・・なんで・・。
憎しみが心の底から沸き上がり「許さない・・!」と私はRAFのロイヤルチームのスピットファイアの後をフルスロットルの機体で追いつこうとエンジンはいつも以上の爆音を唸り鳴らした。
痛む胸に悔しさのあまりにも唇を食い千切るほどかみ締める。鉄の味がいっぱいに広がる。
込められた引き金に、機銃弾が伸びてスピットファイアは火に包まれそれでも私は撃ち続け、大尉と同様になってしまったあの機のように敵機は風穴だらけのまま海面に機首が落ちていき、私は脱出する機会を与えず7.92mm機銃でパイロット諸共蜂の巣にするとキャノピーに血跳ねた。
我に戻った時は脇は汗でぐっしょりし基地は黒雲で飲まれ、味方の対空雲だけがうっすら残っていた。
そしてもうアリーセ大尉はこの世の空で散り、翼の羽の一つとなって私達ルフトヴァッフェを支え、見守るのだろう・・。
「大尉・・!大尉!」
とてつもない不安定な感情を抱き、私は再びB17の追撃を行うと機体を旋回した。
空に散った戦友達はこれで5名となり、その中に大尉は含まれた。