スツーカガンナー
格闘戦の良いスピットファイアにホーカーハリケーン・・!
左手でスロットルレバーをフルオープン、そして着陸フラップを利用し旋回性を高めさせ少しでも格闘戦が出来るように設定した私は、先ほど攻撃してきたスピットファイアがエリーナ機の後に近づいてきた所をを真後ろから20mm機関砲を発射した。
敵機は青炎を鮮やかに炎上しながら黒煙を引っ張り墜落していく。
3番機の援護もあってか、雛を襲うカラスの敵機達は皆ガソリンをを漏らし白い線が空中に浮かび上がった。そして『中尉を助けろ』と言う無線の声に、敵の頭上から機銃の雨を降らす友軍機のBF109が次々と敵を撃墜していく。私はあまりの嬉しさに「やった!」と涙交じりの声を出したあと溢れかえる雫を垂らしながらエレーナ機に近づいた。
風防越しに見えるあの険しい顔もなくなっていたエレーナ中尉。嬉しそうな顔である。
しかし任務終了後と同時に私達小隊はこっ酷く叱られ、次回の飛行は私は1回限りの飛行停止命令がだされ、爆撃機の銃座を任せられることになってしまった。
「アンネ少尉、ありがとう・・」
紅色の空の下、ハンガー前を通りかかるエレーナ中尉にお礼を言われて「わ、私は・・ただ・・」とまごまごする口調で言うが中々上手く言葉が思い浮かばない。アリーセ大尉が「私は戦死するのが見たくないってさ」と返した。
夕日がくれる前の出来事で、エレーナ中尉は普段仲間思いの人間だったが先ほど言ったとおり、3名のうちの1人が彼女の運命を左右した戦死で私が来るまでは自暴自棄になっていた。
きっとこの笑顔が中尉の本当の顔なんだろう・・。
私は少し嬉しい気分だった。
そしてまた数日後過ぎ、あの事以来からのリベンジで再び英国を爆撃することとなりスツーカと言う機体に私は銃手として搭乗することとなる。しかしこの事、誰もが私に対して笑う。きっと戦闘機に乗れないうえに爆撃機の銃手と言うファイターの人間からしてみればとてつもない屈辱であった。
エンジン高鳴る発進前。初めて座る銃座は狭く、何だか気分が落ち着かない。黒光りするmg15機関銃とドラムマガジンだけが搭載されているだけで思わず「こんな貧弱な武装で守るの・・」と思わず口溢してしまうと男性パイロットが「貧弱で悪かったなお嬢さん」と言われてしまい少し縮んでしまう。
銃座の中で見る変わらない青天白日の景色はどこかといつも以上に美しく、輝いていて別の意味で格別な世界に入ったというような感じがし「銃座員はこんな綺麗な青い空を独り占めしてみてたんだな」と少し羨ましい感じと悔しさが感じた。戦闘気乗りは空なんて見る余裕はあるけどゆっくりは眺めないのだ。機銃員の見張りはする。でも見るのはいつも後ろだけで死角なんてない。
風防越し、青のドーバー海峡を飛行すればもう英国本土が見える。『敵機発見』の声に身体が一瞬大きく震え上がった。
敵機か!
手袋越し握るグリップに隙間風が流れ込み手が冷たくなる。右肩に機銃のストックをあて、左手で銃本体を支えた。すると機銃の銃声が鳴り響きグワーっとすぐ真横を通ったホーカーハリケーンの大きな緑の機体が視界に入った!
機関銃のコッキングレバーを引っ張る。手で感じる弾丸が発射室に入り、引き金には指をかけいつでも撃てるように私は構える。
「敵機後部上方!くるぞー!」
その声に私は機銃を上向き引き金を倒した!
電動ノコギリの様に連発して撃たれるMG15は機内以上に凄まじい連射力と銃火の音に私は驚く暇もなく、ただただ十字照準に敵を定めて闇雲に撃ちまくった。
敵機が私を狙うと思うと怖くて仕方がない。
正面からハリケーンが次第に大きくなり、銃撃と共に白光する弾丸がくっきり見えスツーカの後部胴体に何発か吸い込まれていき、降下した敵機は機体の真下に隠れてしまった。
「どこ・・!」
いた!
機首は違うけどスピットファイアが目と鼻の先まで、突然現れ私はとっさに機銃を発射し伸びる黄色い曳光弾が私と敵機とつながり、たちまちエンジンから煙を噴出してその場から離れ去っていく。追撃にMG17を操作し撃ちまくった。
編隊の中に飛び込んだ敵機はスツーカの後部機銃の集中砲火にあまり近づかない、でも一番後ろを飛ぶ友軍機が次々と火を引っ張りながら墜落していくのを見ていられず、私は目を足元に逸らしていた。
「アンネ少尉!余所見をするな!また来るぞ!」
後方のスツーカはもうやられており、狙われるのは私達の番になっていた。
大きく近づいていく2機の黒ゴマが大きくなり私は再び火砲を開こうとした時、弾が出ないことに気づくと慌ててドラム弾倉を取り外すと敵機の銃弾がこちらに飛び、スツーカの装甲を削っていく。
襲い掛かる今までに無い恐怖に弾がいっぱい詰まった弾倉を震えた手で装填し、銃を撃とうとした時だ。
金きりの様な音がした途端、左肩が熱く痛み思わず手に触れると真っ赤な鮮血が手袋いっぱいに広がって、言葉が出ずにいた。
ああ、私死んじゃうのかな。
でも生きてる、まだここで死んだわけじゃないんだ!
自分に言い聞かせ、必死に私は機関銃を操り、細かい振動が伝わり共に吐き出す炎と黄色い延べ棒が敵機に向かっていき、たちまち黒煙に包まれながら下へと落下していくのを目視した。
「落ちて!」
近くなる・・!スピットファイアが!
照準いっぱいに近づいた敵機が今そこに、すぐ50mぐらいの距離まで近づいたが機銃を撃たない。
今だと思い、銃火を放つと風穴だらけになりつつスピットファイアが操り人形の糸を切ったかのように、ガクっと機首を落としそのままドーバー海峡に落ちていった。
「アンネ少尉大丈夫か!?」
「え、ええ!」
「機体は大丈夫だな、急降下にはいる」
視界がぐらぐら横や上下に揺れると、耳を切裂くような独特の急効果音を鳴らしていく。増した速度に、背中が押されるようなGが伝わってくる。たまったものじゃない!
そして機首があがったのだろうか。視界いっぱいに紅蓮の炎が立ち上る敵の飛行場が見え、青い制服の男達が逃げ惑うかのように見えていた。
「よし離脱する」
この声に少しふっと一息、でも私から流れる血液は止まらず安心が出来なかった。