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遥かなる翼  作者: j
battle of britain
2/15

バトルオブブリテン

「よし、本日の出撃にアンネ少尉は第3中隊長のアリーセ・アルベルタ大尉の列機につけ」

 今月初めての出撃だ・・!

 緊張と震えが止まらない。

 いつでも発進できる戦闘機はすでにプロペラが回って、唸り鳴くエンジンは私達を呼びつける。


「よろしくねー。ルーキー」

「は、はい・・!よろしくお願いします」

 なんでだろう・・。私はやりたい気持ちなのに戦意が高まらない・・。

 そう思っている間に各自が戦闘機に乗り込みはじめ、私も震える脚を動かそうとするが身体が言うことを利かない。


「ほほう・・?お前、何かトラウマがあるんじゃないか」

 先ほどのアリーセ大尉がニヤ笑いして近づき、私の顔を覗く。

「ふふん?士官学校を出たルーキーでも慣れない戦いはあるさ。さあ深呼吸」


 彼女に背中を押されるまま、鳴り上げる愛機のBF109F-4の前に立つと過去から蘇る事故、不注意が沸き立ち乗る気にもなれない。でも一人前になるにもこれくらい・・!

 座席に座り、整備士がバンド、ベルトを着用し震えた腕を気力で持ち上げ、冷えた航空ゴーグルを着用し開いたキャノピーを閉じた。


 エルロン、ラダー、エレベーター問題なし・・。計器異常なし、油圧よし・・。

 F109F-4は少ない期間だったけどクレタ島の戦いでも私と一緒だった戦闘機で、嫌な思いでもいい思いでも詰まってる。

 武装は7.92mm機関銃が機首に2門、MG151/20の20mm機関砲が1門だけエンジンの中に搭載さえている。


 心の準備ができてないままに荒鷲達は滑走路を走りぬけ、伸ばした灰翼を輝かせ大空の彼方まで飛び出していった。

 私の番になり、BF109の速度計は徐々に回り始め速度190km/hになったところをゆっくり操縦桿を引っ張り、先に飛んだ隊長機の後をつく。


 離陸はできて一安心、ほっと肩の力がほぐれた様な気持ちがした。


 無数の光の粒が輝くドーバー海峡。雲だけがゆっくり浮いていて、本当に戦争をしているのかなと言うくらい静かで何もない感じ。ただ戦闘機達のエンジンだけが轟いていた。

御父さんと一緒に釣したのを思い出すなあ・・。

 よく使い人とお父様と一緒に海岸まで行って、吊り上げた魚は持ち帰って夕飯にしたり楽しかった。


 急降下爆撃機の編隊が突如機首を下ろして緑の大地に突っ込んでいく。なんだろうと?私は眺めていると、今までに聞いたことのない独特のダイブ音に私は「ヒッ!」と声を上げてビックリしてしまった。

 まるで空を引き裂くような、悪魔の様な音だ・・。


『敵機確認』

 アリーセ大尉の声に私に震えが走った。

 とてつもない緊張と恐怖が私を襲い掛かる!

 正面に無数のゴマが浮かび、徐々に大きくなっていく。そして爆撃隊から撃たれる自衛機銃が火を吐かれ、私達戦闘機隊は鷲のように敵戦闘機の攻撃を開始した。


 急反転した隊長機を後に、怖さに頂点に涙で塗れたゴーグルを内側からふき取りながら操縦桿を切りかえしアリーセ大尉機の後に続いていく。

 私の視界奥に吸い込まれていく金の薬莢と白い硝煙、隊長機に狙われた敵機は火達磨となり、青のドーバー海に吸い込まれていく。

 隊長のすごい運動に私は追いつけず、とうとう空戦の渦に孤立してしまった。


「あっ」

 緑と薄茶色の胴体をしたスピットファイアが私の後ろにやってきた。

 やだ・・!嫌・・!

 届かぬ声にスピットファイアの翼から機関銃が発火し、黄色い弾丸が私の機体に向かってくる。

 蘇る戦闘のトラウマに頭の中は真っ白に混乱、死という恐怖を目前に涙で見えなくなった敵戦闘機はぼやけて見えた。

「誰か・・!助けて!」

 

 何度も響く金属の音。削られていく109に私も生きれる生命が減っていく。

 ああ、もう駄目なのかな・・。

 そう思った時だ。

 突如、スピットファイアが空中で爆発し火の玉となった時、黒く速い物体がすぐ真後ろを直下し私の隣に添うかの様に近づいてきた。アリーセ大尉のBF109とその2番機。

『大丈夫か!?』

「は、はい。うっ・・うえーん」

 もう死んでしまうのかなって、私は安心のあまりにその場で大泣きしてしまうも「戦場だから泣いても駄目だ、生き残らなきゃ」と自分自身に言い伝えた。

 

 高度の冷却によって冷えたハンカチを取り、生暖かい涙を拭きまた隊長機の後に続く。

 

 油断し、巡航に飛ぶ敵戦闘機が1機、私達の小隊が餌を見つけた鷹のように真上から襲い掛かると『アンネ撃て』と言われた途端「えっ!?」となりどうすればいいのか分からなくなり、再び混乱してしまう。

 ロクデナシ、半人前のパイロット・・。

 聞こえてくる幻聴に私は引き金に指をかけ「も、もうロクデナシのパイロットと言わせないぞ!」と腹から声を出し、力いっぱい押された7.92mm機銃、そして20mm機関砲が光学照準機越しに見えるスピットファイアに向かれ、銃火が吐く曳光弾が伸びていった。


 翼を根元から折られ、錐揉みのように落ちるスピットファイアはたちまち火の玉となり落下していく。落下傘の姿はなかった。

 緊張なのか全力疾走をし終えたかのように疲れがたまり、呼吸が荒くなっていた。


 でもなぜなのか射撃と攻撃に対しての拒否感は少しばかりあったけど難なくいけた。

 しかしそう思っているうちにも隊長機はウサギのように飛び回り、それを捕まえるかのように追う私達小隊機。



 すると隊長機を狙うホーカーハリケーンと言う頑丈なゆっくりと私の前に現れる。

 照準機いっぱいにはみ出ている敵戦闘機、私は撃つか、撃たないか判断を決めていた。

 隊長機翼を振って、敵の銃撃を難なく簡単に避けている。

 自身こんなに近いことはあんまり無かった。でも・・。

 固唾を飲んで、私は20mm機関砲を撃ちはなった。

 

 大きな白い線を引っ張った硝煙が私とつながり、ホーカーハリケーンは胴体を真っ二つに折り、木の葉のようにゆっくり残骸が落ちていく。

 徹甲弾が引き裂いたんだなあ・・。

 空中戦は一通り終わり、英国本土の方角へ振り向いた時だ。


 遥かなる広い空間の中火柱と、黒雲だけが盛んに昇り炎上していた。

 今日も明日も誰かが死ぬんだ・・。明日は我が身かもしれない・・。

 戦地で起こる不信はいつやってくるかわからない。

 私は汗で冷たくなった身体と、シャツ、そして空の戦友達と共に基地へ戻ろうとした。

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