若鷲
「1名独断専行、命令無視。B-17に体当たりし戦死しました」
指揮所前に集められたパイロットたちは僅か半数。ほとんどが負傷によって病院に運ばれ私は今後どうなるんだろうと少し心配になった。
この日の空戦で1名が戦死。沈黙する中で指揮官は
「アリーセ大尉の戦死が彼らの士気と精神にかなり関わてるな・・何とかして心のケアをしなければ」
と、手を顎につけ悩んだ顔をしながら言う。
「それにJG22に配属されるパイロット達の殆どが技術不足です。防空に出すなんてとてもじゃない・・」
私は疑問になって手を上げて、「どうして彼ら達の技術が向上しないんですか?」と問うとある男性パイロットが振り向いて、「俺らみたいに腕の良い見習いは皆飛ぶから学ぼうにも学べないんだ」と言い私は深く納得した。特に"落ちこぼれ部隊のJG22"と言われる理由に。
「ま、しょうがないよ。JG22のスツーカ隊は人材で技術が豊富だからいいんだけど。戦闘機パイロット達は基礎飛行を習得しても耐久がないからなあ」
ロイヤルチームが出ているぐらいなので育成は大事なので出来る限り私も教官の務めとして最低限は教えていきたいとは思っていた。
夜の空襲もなく、温かい日差しに起された私は本日待機と言うことなので飛行服、バンド、ベルトを着用しながら宿舎を出て食舎という軍の炊事兵が食事を作る施設に向かうと、朝から人が溢れるくらいに行列が出来ている。高射砲を勤める陸軍の軍人らも並んで、それに見かねた野戦炊事班がパンの配給を行った。
しかし青い制服の女性パイロット、男性パイロットを見てみれば少尉以下の階級が多く育成には時間がかかりそうだなと心の中でつぶやいた。
食事を済ませ滑走路に足を踏み入れる。
BF109E-4が何十機と所狭しに並べられ、それを見ながら近寄ってくる指揮官に姿勢よく敬礼。「今日は頼んだぞ」と一言。「がんばります」と答え、訓練兵を待った。
凍える風が吹く中で予定時間にしっかりやってきた訓練兵の顔はどこかと眩しくいい表情をしていて、彼ら達も私と同じパイロットを歩むんだ!私以上に成長させなければ!と教え意気が沸いた。
「基礎訓練は出来ていたと聞いていたので・・あ、まず名前から。私はアンネ・H・ヘルミーネ。アンネって呼んでください」
「えっと・・その、まずは突然だけど格闘訓練からあ・・できる・・かな?」
教える立場になってみるとすごく緊張して言う途端に頭が真っ白・・。落ちつかなきゃ。
「少尉殿、あの・・僕達戦闘機パイロットの資格は一応持ってるんですけど、ただどうしても心配なことがあって」
「心配なこと?」
「皆、心配で・・。死ぬんじゃないかって」
あ・・。技術面で上がらないのは訓練兵たちの心の問題か・・。
戦闘機パイロットの資格は持っていても訓練兵扱いなのは少し残念だけど、何とかして一人前にさせないと。
「うん、私も1年前そんな感じだったの。でもね恐怖に勝てばそんな事気にしなくなる。とにかく生きて、勝って、勝って勝ち抜くって言う勢いで私は今ここにいるんだ」
何話してんだろう・・。
とにかく色々心の問題を克服するためにもより実践に近い訓練を行わせなきゃと思い訓練兵、私を含むパイロット達は戦闘機に乗り込みエンジンを始動、そして滑走する自機に訓練機達が発進した。
上空2、3旋回し高度は3000m。
広々とした訓練場は無限に広がる空に雛鳥たちが群を作っていた。
『レーダー部隊から敵がこちらに接近してるのを確認した』
突然の地上無線に私は心臓が一瞬ジャンプ、驚いてしまいこの訓練兵たちを一旦着陸させるか考えたが現在飛んでいるのは私達だけ。離陸しても今更遅いので、
「彼ら達を率いて迎撃に入ります!」
『敵の敵、B-17が5機、敵戦闘機10機です』
ベテランがいたら・・!もう考えている暇はない。
「編隊は作れる!?」
『何とか!』
「了解!フルスロットル、高度6000まで各機上昇せよ!」
数える限り30機の大編隊の訓練兵の生命を背負い、迎撃に付く任務にこれまでにないプレッシャーがかけられ今にも心臓が爆発するくらいに成り立て、脈拍、血液が熱く走る。
私は15機ほどを9000m程まで上昇待機させ、残りは私の命令に従いながら戦う。この場合ほぼ自殺行為に過ぎないことは私は承知していた。中にも列機に自信のある人間がいたので彼に従うように伝えた。
そして噂に聞いていた20mm機銃を備えた新鋭スピットファイアとホーカーハリケーンの混合部隊を下方に確認。鮮やかな銀のジュラルミンのB-17が単縦陣の編隊で鈍く飛行している。
有利な位置に飛んでいた私達は機体を滑らせ、敵戦闘機に向かって真っ先に突撃を開始。訓練兵達を乗せたBF109-E4型の機銃弾が真黄色を照らしながら、垂直に飛んでいくも海面に向かっていくだけであり、命中はしなかった。
続いて教官の私はお手本を見せるかのように数発ほど7.92mm機銃を射撃。すーっと線がドーバー海峡に飲まれ、ラダーペダルを踏み込んで照準を修正。降下と共に機体が大きくなったスピットファイアに20mm機関砲の火が吐き、強烈な砲弾が敵機の翼を撃ち折りたちまち錐揉みの様に落ちていった。
「機首上げてもう一度!狙った敵機、撃ち損ねた敵は狙わない!」
『了解!』
重たい操縦桿に思わず計器に足をかけて体重を使い引っ張る!眼球が締め付けられ、周囲が黒くなるも何のこれしき。
敵も急な攻撃に私達の追尾をするも間合いがいっぱいなり、同じ様に一撃的攻撃を訓練兵にやらせてみようと上空で待機する。こうしてみると本当に鷹の様に一直線に獲物を捕らえる姿に「翼あるもの皆は鳥なんだなあ」と心の中で思ってしまった。
連発して敵に向かう曳光弾にスピットファイア、ホーカーハリケーンは不自然な挙動をして海峡目掛けて撃墜され、一瞬サーカスなんじゃないかと思わずびっくりするもB-17はこうしている間にも進んでいる。待機中の機体は高度限界だったのか少しばかり低下はしていた。「全機突撃!」の命令に、大群となった戦闘機達はB-17に向かい襲い掛かる。
しかしこの大群、どこかと戦法を知っていて私と同じ技を使っている。
もう少し様子を見てみようと遠くで見て、それを眺めていれば編隊を組んだB-17が突如崩れて逃げ腰、パイロットキルされたのか背面になってそのまま海に機首を向いた機を目に「やったやった!」と大喜び。もう少し積めば立派な戦闘機乗りになれると確信した。
青い空の下、遥か先に見える翼が一つだけあった。
じっと見てみるとそのままイギリス本土に向けて去ってしまう。敵の偵察機だったんだろうか。
地上に降り、戦闘機から身を出した時。
「アンネさん!私やりました!」
とある訓練兵の声と一緒に地上は歓喜の声に包まれて、私はどこかと嬉しかった。
「みんな・・頑張ったね・・。戦法は誰から教えてもらった?」
「あ、その・・。エレーナ大尉から・・」
エレーナ大尉・・。
「そう・・。うん、でもエレーナ大尉のおかげだね。皆・・きっと見守ってるから」
嬉しいようで、悲しいようで、複雑な気分の日。
でも今日は訓練兵大戦果記念にジュースやお菓子、美味しいものが振舞われ、私を含む同年代の士気が格段と向上したような気がした。
東部戦線、アフリカ戦線、地中海戦線と人材不足を補って私が育成したパイロットも時期にいなくなるんだろうかと寂しい気持ちが襲われる。




