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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
夏休み編
69/410

57 海水浴と水飛沫

 青い海。

 広がる美しい砂浜。

 水着姿の人々――。


「とうちゃーく!」


 風雅がはしゃぎ声をあげる。


 生徒会役員御一行は海水浴にやってきた。


「暑いー……」


 芽榴は団扇でパタパタと自分を扇ぎながら呟いた。

 麦わら帽子をかぶっているのに陽が眩しくてしょうがない。

 完全な海日和だ。


 暑さが気になる芽榴と翔太郎を置いて、風雅、来羅、有利、そして颯は海水浴の喜びを顔に出していた。


「きゃああああああ! あそこにイケメンがいるー!」


 役員の登場で海水浴場はもっと暑さを増す。今日は来羅も男バージョンだからいつもより男子の声が減少するものの、女子の声がパワーアップしてしまう。

 芽榴は役員たちから一歩引こうとしたが、早々と颯に捕まえられてしまうのだった。


「せっかく来たんだ。楽しみなよ」


 颯が有無を言わさぬ笑みを向ける。芽榴はアハハハハと笑った。


「芽榴ちゃん、もちろん水着着るよね!?」

「着ないけどー」


 芽榴の即答に風雅は呆然とした。


「なんで!?」

「あんな下着同然の格好、恥ずかしくて無理ー」

「まったくだ」


 芽榴は目を細めながら言い、翔太郎もそれに賛同する。


 今、芽榴は麦わら帽子にパーカー、ショートパンツ、そしてビーチサンダルという格好だ。

 翔太郎もサングラスにTシャツ、短パン、スリッパと両者ともに完全に見学スタイルなのだ。


「翔太郎クンは予想してたけど! 芽榴ちゃんは水着着ないとダメ!」

「海でそんなにガチで泳がないでしょー? だったらこれでいいじゃん」


 風雅が芽榴に抱きつきながらそう言い、芽榴は彼から逃れようと努力しながら返事する。


 どちらにせよ、イケメンが集団でいて、その中で最もイケメンと称されている男がこんな大声で一人の平凡な女子に抱きついているのだ。かなりの注目を浴びている。


 芽榴が諦めて、風雅に抱きつかれたままでいると、颯が風雅のTシャツを背後から掴んで芽榴から引き剥がした。


「いい加減にしなよ、風雅。それに芽榴はその格好でいい」


 予想外に颯から許可がおりてしまい、芽榴はキョトンとしていた。


「颯クン! なんで!」

「耳元で騒がないでくれるかい?」


 颯が風雅を睨み、風雅はヒーッと青ざめる。

 その様子を見て来羅はクスクス笑った。


「どうしたんですか? 柊さん」

「颯もカワイイとこあるなあって思って」


 来羅の発言に有利は意味が分からず、首を傾げた。


「不参加のるーちゃん、翔ちゃん、それから青春真っ只中の颯と風ちゃんは放って、先に遊んでおきましょ、有ちゃん!」


 来羅は楽しそうに笑って着ていたシャツをガバッと脱いだ。有利もそれに倣って海パンだけになり、2人で海に向かった。


「あ! 来羅、有利クン! ずるいよ!」

「お前がくだらないことを言っているからだろう。ほら行くよ」


 颯と風雅も上に着ていたものを脱ぎ、来羅と有利を追いかけて海に向かった。


「みんな、楽しそーだね」


 翔太郎と2人取り残された芽榴は4人の後姿を見ながら呟いた。


「特に来羅ちゃんがノリノリなのは意外」


 芽榴は上半身裸で楽しそうに風雅に水をかけている来羅を見ていた。

 普段は女装をしている来羅がそんな格好に抵抗を感じていないことにも、さほど日焼けを気にしないことにも驚いた。

 来羅のことだから絶対に日焼けをしない日焼け止めクリームを開発していそうな気もするが――。


 そんなことを考えている芽榴を見て、翔太郎は小さく息を吐いた。


「柊はもともと、あのように生きるはずだったからな」


 翔太郎の言葉には少し含んでいるものがあった。

 芽榴は何も反応できなかった。翔太郎の言葉の意味をいまいち推し量れない。詳しい説明を求めることはできるが、そうするべきではないとなんとなくそう思った。

 何も言わない芽榴を見て翔太郎は薄く笑った。


「俺は今の柊のほうが奴らしくて好きだが、貴様はどうだ?」


 翔太郎の問いに芽榴は間髪入れずに答えた。


「私は来羅ちゃんが好きだよ」

「どちらかといえばの話だ」

「何それ。どんな格好でもどっちも来羅ちゃんなんだからそれで十分な答えでしょー」


 芽榴の面倒そうな声音に翔太郎は薄く笑った。


「さすがだな」

「何がー?」

「何でもない」

「るーちゃん! 翔ちゃん!」


 来羅が二人に手を振っている。


「その格好でいいから早くおいでよ! 気持ちいいわよ!」


 来羅は楽しそうに笑っている。それはいつもの可愛らしい来羅の笑顔と何一つ変わらないのだ。


「冷たー!」


 芽榴はビーチサンダルを脱いで海水に足をつけた。


「るーちゃん、こっち」


 来羅が手を差しのべ、芽榴は来羅へと手を伸ばす。すると、少し大きな波が二人の足に絡みついた。


「「わーっ!」」


 ザブンと二人は海に倒れた。

 来羅を下敷きにして倒れたため、芽榴は足の太腿や二の腕まで濡れるくらいで済んだが、来羅は背中から倒れて全身ずぶ濡れだ。


「きゃー、冷たいわ」


 来羅は片目に海水が入り、片目だけ瞑りながら起き上がった。

 その来羅が少し色っぽくて芽榴は頬を染めた。


「るーちゃん、仕返し!」


 そんな芽榴に気づかず、来羅は芽榴の顔に海水をかけた。


「ぷはっ! うわー」


 芽榴は顔をブンブンと横に振って水気を飛ばす。


 二人は顔を見合わせて笑った。


「来羅! なに、芽榴ちゃんと二人で遊んでんの!?」


 そこに風雅が参戦する。来羅は芽榴を自分のほうに引き寄せ、グッと抱きしめた。


「今は私がるーちゃんとラブラブしてるの。邪魔しないでよね」


 来羅はペロッと舌を出した。風雅はそれにブーブー文句を言って、足をばたつかせた。すると、風雅のたてた水飛沫が辺りに飛び散る。


「へえ。僕に水をかけるなんていい度胸だね、風雅」


 風雅の背後にいた颯が満面の笑みでそう言い、風雅を海の中に押し倒した。


「わー! 颯クン! ごめん!」

「神代くん、加勢します」


 颯と海に足をつっこんで筋トレのようにビーチバレーをしていた有利も、風雅に邪魔されたため、風雅いじめに参加する。


「貴様ら、水飛沫を飛ばすな! 服が濡れる!」

「海なんだから当たり前でしょ、翔ちゃん」

「葛城くんもビショビショになっちゃえー」


 みんなで海の中でじゃれあう。水中に倒れたり水をかけあったり、笑い声が飛び交う。

 

 芽榴も翔太郎も、もう服がビショビショになることを気にしなかった。


 綺麗な海を背景に楽しむ美形集団。その中にたった一人、普通の女の子が混ざっている。

 六人は海水浴場の注目の的になっていた。

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