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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
夏休み編
67/410

55 インターホンと自宅訪問

 夏休みが始まった。


 夏休みの初日はとにかく学期の疲れを癒そうということで特に予定は入らず、当初の予定通り、芽榴は家でゴロゴロすることになった。


「はー、久々の安らぎー」


 芽榴はそう言ってソファーにゴロンと横たわった。その様子を見て真理子はクスリと笑った。


「今日は圭も部活だし、重治さんも夕方にしか帰ってこないからゆっくりしなさい、芽榴ちゃん」

「ほーい」


 芽榴はそう言ってソファーに寝転がったまま、積み重ねた分厚い本に手をかけた。


「お母さん」


 しばらくして、ずっと本を読んでいた芽榴は本に目を向けたまま、真理子に話しかけた。

 真理子はソファーの目の前にあるテーブルでお茶を飲んでいた。


「何? 芽榴ちゃん」


 真理子は笑顔で首を傾げた。


「昔さ……私がまだここに来たばかりのとき、小学校から帰ってきて、外に出ないで勉強してたらさ……お母さん、『友達と遊ばないの?』って尋ねたよね?」


 芽榴が懐かしむようにそう言い、真理子はお茶をすすりながら頷いた。


「そしたら芽榴ちゃん。『友達なんていませんし、いりませんから』って無表情で言ったわ」


 真理子にそう言われ、芽榴は苦笑した。


「高校生になるまではその考えに異論はなかったんだけど……」


 芽榴は照れ臭そうに言った。


「今は『友達っていいなー』って思うんだー」


 芽榴の頭には生徒会のみんなや舞子や滝本、F組のクラスメートの顔が浮かぶ。


『友達』


 そう考えるだけで芽榴の全身が熱くなった。恥じらった芽榴はゴロンと寝返りをうつ。耳は少しだけ赤くなっていた。


「それはいい考えね」


 真理子はお茶を飲みながら頬を緩めた。芽榴はパラパラと本を読み進めていった。














 特に何をするでもなく、ゴロゴロしているといつの間にかお昼時になった。


「さて、お母さん。何食べたい?」


 芽榴が昼食を作ろうと、ソファーから立ち上がると真理子がそれを制した。


「今日は芽榴ちゃんは休んでないといけないの! 料理は私に任せて」


 真理子がそう口にした瞬間、芽榴の顔が真っ青になった。


「却下」


 即答し、芽榴は早足で台所に向かった。


「芽榴ちゃんってば、ひどいわ。だいたい芽榴ちゃんの料理の腕がよすぎるから私の料理がひどく見えるのよ! 一般的に見れば、私の料理も普通よ」

「へー」


 芽榴は半目で反応した。


 真理子の料理は簡単にいえば黒い。料理がすべて真っ黒なのだ。それが炒め物ならまだ分かるが、ただのサラダでさえ真っ黒で出てきたときはある意味ですごいと思ったくらいだ。

 見た目が悪くても味がよければいいのだが、見た目同様、味もひどい。


 そして何より真理子が使ったあとの台所は爆破事件の犯行現場のような有様になるのだ。後片付けだけでかなりの体力を費やすことになるだろう。


 初めて芽榴が真理子の料理を見たとき、芽榴は絶句し、自分が料理を作ることを約束した。

 そしてそれを何より喜んだのが圭と重治だったのだ。二人は芽榴が来るまで、真理子のために真理子が作った料理を残さず食べていたのだ。


「芽榴ちゃんがうちの食卓を預かるようになってもう十年かー。長いような短いような……」


 居間で何杯目かのお茶を飲みながら真理子はつぶやいた。

 芽榴はエプロンをつけながら「そうだね」と笑う。


 できあがった冷やし中華を芽榴と真理子は二人で仲良く食べた。




 ピーンポーン


 そんな穏やかな空気漂う楠原家のインターホンが鳴った。

 真理子はスキップで玄関に行く。

 セールスか何かだろうと特に興味のない芽榴は食器を洗っていた。そんな芽榴の耳に玄関口での会話が聞こえた。


「あら、あなたたち……」

「はじめまして。オレ、あ、ボク、蓮月風雅って言います! お義母さん、よろしくお願いします!!」


 芽榴はその声を聞いた瞬間、洗いかけの食器をおいて玄関へと駆けた。


「……どしたの?」


 芽榴は目を丸くして玄関の前で仁王立ちになった。


「るーちゃん、遊びに来たわ」


 玄関にいる来羅が芽榴に手を振りながらそう言う。

 エプロン姿の芽榴を見た瞬間、真理子に握手を求めていた風雅が目を輝かせた。

 悪い予感しかしない芽榴はとっさにエプロンを外した。


「なんで抜いじゃったの!? 写真撮ろうと思ったのに!」

「おー。じゃあ、私の考えは正解だねー、うん」


 芽榴は遠くを見ながら言った。そんな芽榴を見て真理子は苦笑した。


「こんなイケメンくんがわざわざ会いに来てくれてるのに、芽榴ちゃんクールすぎよ」

「そこがるーちゃんのいいとこなんですけどね」


 来羅がそう言って笑うと、真理子は来羅の全身を見てパアッと明るい顔をした。


「来羅くん、ね? うわあ、本当に女装似合うわね! 体育祭の時の学ランも似合うけど、こっちもすっごくいいわ!」


 真理子の反応に来羅は目を丸くした。

 今の来羅は金色の長い髪を揺らし、白いレースを基調としたワンピースを着ている。体育祭で真理子に挨拶をしたときは男の、来羅の本来の姿だった。


「よく分かりましたね」

「全然分からなかったわよ? でも、芽榴ちゃんから来羅くんは女装が似合うって聞いてたから」


 真理子はそう言って笑った。

 来羅は芽榴の家に来るまで、どう挨拶しようか迷っていた。一度男姿であっているのだから反応が気になっていた。普通は怪訝に思うだろう。口ではいいと言っても露骨に顔に出るものだ。

 しかし、そんな心配も杞憂に終わった。


「美形に性別はないって本当ね。その姿もとっても似合うわ」


 真理子はそう言って「どの店の服?」などと呑気な質問をしていた。

 来羅はそんな真理子の反応にプッと笑った。


「どうしたの?」

「るーちゃんはこの遺伝なんですね」


 来羅の言葉に真理子は少し困ったように笑った。


「私の能天気が芽榴ちゃんに移っちゃったのは確かかもしれないわ」


 そう言って真理子は来羅を居間にあげた。


「芽榴ちゃん、お部屋どこ?」

「えっとねー。玄関を出て曲がり角を右に行ってー」

「外に出てるじゃん!!」

「あ、ごめん。本屋さんを聞いてるのかと思ったー」


 芽榴は風雅で遊びながら、真理子と来羅に続いた。


「二人だけで来たのー?」


 芽榴は風雅と来羅にお茶を出しながら、そう尋ねた。


「うん。風ちゃんって女の子に囲まれちゃうから私と風ちゃんがペアで来たの」

「あ、カップルと思わせて敬遠させようって作戦ね」


 真理子がなるほどと手をうつ。


「でもベストカップルがどうとかで写真撮られたりとか足留めくらっちゃって……お昼過ぎになっちゃったんすよ」

「他のメンバーのほうが先に来てると思ったんだけどね」


 風雅と来羅の話を聞いていた芽榴は眉を顰めた。


「ちょっと待ってー。……ってことは、さ……」


 芽榴が思い至ったその考えを発表しようとすると、


 ピーンポーン


 再びインターホンが鳴る。

 なんとなく分かっていた芽榴は急いで玄関に向かった。

 そんな芽榴の後を真理子は楽しげに着いていった。


「邪魔するぞ、楠原」


 ドアを開け、芽榴は顔を少し上にあげた。


「やあ、葛城くんに藍堂くん。アポなし訪問ご苦労さまー」


 少しの嫌みを交えて芽榴は二人を出迎えた。


「すみません。急に決まったもので」

「どこのあいだで決まった話なんだろーね」

「芽榴ちゃん、そう言わずにイケメンは大歓迎!」


 目を細める芽榴に対して、真理子がそんなことを言う。

 その声で真理子の存在に気づいた翔太郎と有利は真理子に頭を下げた。


「葛城翔太郎です。麗龍学園高等部二年E組、生徒会副会長の任についてい…」

「藍堂有利です。これ、僕と彼からの菓子折です」

「藍堂! 貴様、俺がまだ挨拶をしているだろう!」

「ありがとー、藍堂くん」


 翔太郎が有利に説教を始めようとするのを遮るように芽榴は有利から菓子箱を受け取った。


「葛城くんもありがとー」

「ついでのような言い方だな」


 翔太郎が拗ねたように言い、芽榴は改めてお礼を言い直した。

 そして二人を居間に通した。


「翔太郎クン、有利クン、遅かったね」


 二人が来るなり、風雅がそう言った。

 芽榴は後から来た二人にお茶をだしながらその会話に耳を傾けた。

 風雅の問いに、翔太郎は苦々しい顔をし、有利は溜息をはいた。


「何があったのよ?」


 来羅が困り顔で尋ねると、有利が口を開いた。


「葛城くんと菓子折を選びにお店に寄ったのですが、数人の女性に声をかけられまして……そしたら、葛城くんが例のごとく失礼なことを言ってしまってお詫びをしていたら遅くなりました」


 有利の声音からその苦労が見て取れた。


「うわー、お疲れだったね。藍堂くん」


 芽榴は半目で翔太郎のことを見た。芽榴にそんな目を向けられ、翔太郎は眉間にシワを寄せた。


「仕方ないだろう。俺にも苦手なものはある」

「るーちゃんは大丈夫なのにね」

「ねー」


 芽榴と来羅は顔を見合わせて頷いた。


「お詫びって何したの?」


 風雅が有利にそう尋ねると、有利は芽榴が注いだ緑茶を口にして言った。


「菓子選びは葛城くんに任せ、僕がその女性たちと少しお茶をしてきました」

「さすが、有利クン」

「僕は蓮月くんのように会話が得意ではないですから少し困りました」


 有利は思い出してまた溜息を吐いていた。


「有ちゃんだからお茶だけで済んだかもね。風ちゃんだったら今ごろショッピングにまで付き合わせられてたわよ」


 来羅の言葉に芽榴も頷いた。


「結論、葛城くんがどうしようもない人で藍堂くんが犠牲になって遅れたってことねー」

「そうですね」

「違うだろう」


 そんなことを話してると、再びインターホンが鳴った。


 もう驚くこともせず、芽榴はゆっくりと立ち上がって玄関に向かった。


「はい、神代くん。こんにちはー」


 芽榴はドアを開けるや否や、そう言った。

 そんな芽榴を見て颯は苦笑した。


「アポをとらなかったこと、怒ってるのかい?」

「いーや、別に。驚いたけど」

「それはよかった」

「でも留守だったらどーするの?」

「帰ってくるまで玄関で待ってるかもしれないね」


 そう笑顔で言われ、芽榴はちゃんと家にいてよかったと思うのだった。


「あら、颯くん、でしょ? こんにちは!」


 居間からパタパタと駆けてきた真理子が颯に手を振る。


「こんにちは。会うのは初めてですね、真理子さん」


 颯は真理子に和かな笑顔をもって頭を下げた。


「颯くん? 真理子さん?」


 二人は初対面のはずなのにすごく親しげだ。芽榴はその事実に少し驚いていた。


「颯くんとは電話友達だもの」

「は?」


 芽榴が颯を見ると、颯は薄く笑った。

 親を味方につけるとはさすがだ。芽榴は素直に感心するのだった。


「お邪魔するよ」

「どーぞ」


 芽榴は困ったように、でもどこか嬉しそうに笑って颯を家の中へ導いた。

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