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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
ラ・ファウスト学園編
63/410

53 カスミソウと帰還

ラ・ファウスト学園編、最終回です!

どうぞお楽しみください。

 ガッ


 外に通じる扉をふさぐ男たちが有利の一突きで、扉を壊すような勢いで飛んで行った。

 芽榴は有利に手を引かれ、扉の外に出た。


「脱出成功ー」


 芽榴は有利から手を離し、のんきに手をパチパチ鳴らしながら言う。

 格好はどうあれ、芽榴は芽榴なのだ。


「楠原さん」


 そんな芽榴の反応を見て、有利が困ったように頭を押さえる。すると、背後から忙しない足音が響いた。


「有ちゃん!……と、るーちゃん?」


 聞き知った声に芽榴はすぐに後ろを振り向く。

 するとすぐに金色の髪が芽榴の体にサラリと触れた。


「無事でよかったわ! るーちゃん!」


 来羅は涙声でそう言い、芽榴をギュッと抱きしめた。


「大袈裟だなー」


 芽榴が苦笑すると、来羅はグスンと鼻をすすって改めて芽榴を見た。


「るーちゃん……すっごくカワイイ」


 しみじみとそう来羅が言う。芽榴からしてみれば、来羅よりカワイイ人などいないのだから、その彼女に言われてもどう反応していいか分からない。

 来羅の隣にやってきた翔太郎は眼鏡を押し上げながらまじまじと芽榴を見る。


「楠原、か? 馬子にも衣装だな」

「おー。褒められているのやら貶されているのやらー」


 芽榴はハハハと笑った。


「で、来羅ちゃんと葛城くんは何してたのー?」

「馬鹿を探しに行っていた」

「じゃあ、そのお馬鹿さんは?」

「お嬢さま方に囲まれちゃって……。有ちゃんがここにいるって確認できたから合流するように言って2人で逃げてきたの」


『馬鹿』で話が通じてしまっていることに芽榴は苦笑した。お嬢さまであろうと、やはり風雅のような男子生徒がいれば話しかけてみたいという女心を持ち合わせているのだ。


 翔太郎は風雅を連れ戻そうとして、自分まで女生徒に囲まれてしまったことを思い出してひどく青ざめていた。


「来羅ちゃんは男子に囲まれたんじゃなーい?」

「まあ少しね」


 芽榴の問いに、来羅は苦笑いで返した。おそらく少しではないのだろう。


 しばらく見ないと、改めて実感する。

 翔太郎も有利も来羅も本当に美形だ。



 そんなことを芽榴が思っていると、有利が芽榴の後ろを見て、薄く微笑んだ。


「みなさん、一番大変だった人が帰ってきましたよ」


 有利の言葉に、芽榴はゆっくりと振り返った。


「芽榴……ちゃん?」


 風雅は瞠目して固まっていた。


「はーい。お久しぶりー」


 芽榴はニコリと笑ってひらひらと手を振る。

 風雅は芽榴のもとにゆっくり、ゆっくりと近づいてその手を掴んだ。


「芽榴ちゃん、だ」


 すごく安心したようにそう言って、風雅は芽榴の手を握ったまましゃがみこむ。

 そんな風雅を見て芽榴は微笑んだ。


「まったく貴様は勝手なことをして!!」

「るーちゃんのこととなると、颯の言うことさえ聞かないんだから」


 翔太郎と来羅はそれぞれ風雅の頭を叩いた。風雅はそれに「痛いよ!」と嘆いていた。

 その様子を見て楽しげに笑う芽榴の隣で有利も薄く笑った。


「それでも、蓮月くんが先手を切ってくれたから無事に楠原さんを連れ戻せたんですよ」


 有利の言葉に風雅は何かを思い出したようにポケットをあさりだした。


「これ……芽榴ちゃんの正式な編入届け。もらってきたよ」


 風雅は慎からもらったそれを翔太郎に渡す。


「貴様にしてはいい仕事をしたな」


 翔太郎は本当に感心したようにそう言い、何の惜しげもなくそれをビリビリと破った。


「わーお、もったいなーい」

「必要ないでしょ? るーちゃんの居場所はラ・ファウストじゃないわ」


 来羅が笑顔でそう言い、芽榴は「そだねー」と笑う。そして芽榴は俯いたままの風雅を見つめた。


「蓮月くん、いつまでもおとなしいのは不気味だよ」


 芽榴はそう言って風雅の手を振り払うことなく自分もしゃがみこんだ。


「いつもみたいにこっちが嫌になるくらい元気でいてくれないと……」

「飴だけじゃ、ダメなんだ」

「へ」


 芽榴は風雅の返事がよく分からず、首を傾げた。


「どんなに美味しい飴でも、芽榴ちゃんがいなきゃ味なんて分からないよ……。不味い飴でも、芽榴ちゃんがいてくれるなら何個だって食べる。だから……」


 風雅は両手で芽榴の手をギュッと握った。


「芽榴ちゃん、何も言わずにいなくなったりしないで」


 風雅の手は少しだけ震えている。

 その震えは芽榴がいなくなったことへの不安を表していた。風雅がそれほどまでに芽榴の存在を大切に思ってくれていたことが、不謹慎かもしれないけれど芽榴は嬉しくて、思わず笑みを浮かべてしまっていた。


「ごめんね、蓮月くん。ありがとう」


 芽榴がそう告げると、風雅の震えは止まり、安心したように風雅はその顔をあげて芽榴のことを見据える。

 しかし、穏やかだった顔はすぐに真っ赤になって、風雅は再び頭を下げた。


「いや、ダメ! 落ち着け! オレ!」


 いきなり大きな声でそんなことを言い出す風雅に、嫌な予感を覚える芽榴は目を細めた。


「蓮月く」

「あー! もう! 芽榴ちゃん、なんでそんなに可愛くなってんのさ!!」


 風雅はそう叫んで、堪えきれないというように芽榴に抱きついた。


 久々の感触に芽榴は少しホッとしてしまった。しかし、次の瞬間にはいつもの冷静さを取り戻した。


「蓮月くーん。離そうかー」

「もう無理。ていうか、今の芽榴ちゃんのことを真正面から見たらオレ、芽榴ちゃん襲っちゃう」

「……」


 無言の芽榴の代わりに翔太郎と来羅、そして有利が風雅の頭を叩いた。その拳にはさっきよりも力が入っており、風雅は芽榴から崩れ落ちるように、涙目で頭を抱えてしゃがみこんだ。


「せっかくいいことを言っていたのに台無しですよ、蓮月くん」

「調子取り戻すの早すぎよ、風ちゃん」

「先ほどまでのほうがまだマシだったぞ。楠原、責任をとれ」

「うわー。でたよ、葛城くんの無茶振りー」


 それぞれ輪になって話す。

 いつもの日常が戻ってきていた。


「芽榴ちゃん!」

「いやー」

「なんで!? いつものオレがいいって言ったじゃん!」

「寝言だったんじゃないかなー」

「芽榴ちゃ……! うわっ」


 芽榴が風雅を自分から引き剥がそうとすると、風雅の頭に遠くからものすごい速さでUSBが飛んできた。


「え、何これ……って……は、ははは颯クン」


 風雅はラ・ファウストの玄関のところにいる颯を確認し、サーッと顔を青くした。

 おそらくそのUSBには風雅のサボリのツケ――つまり大量の仕事が詰まっているのだ。


 風雅はわーんと泣きながら有利にしがみつき、やはり有利はそれを慰めてあげるのだ。


 そうして颯が徐々に芽榴に近づく。


「神代く……」


 芽榴が颯を呼ぼうとすると、颯が突如制服の黒いYシャツを脱いだ。そして、それをドレスの上から芽榴に羽織らせた。


「「「「「え」」」」」


 芽榴と役員の声が重なった。


 Tシャツ姿の颯など初めて見る。

 そう考えるのも束の間、颯は手に持っていたコットンで芽榴の顔を思い切り拭いた。


「うぐっ! ちょっと、神代くん! ぐおっ!」


 とても女子とは思えない声を出しながら芽榴は颯にされるがまま顔を拭かれた。

 そして黒い長髪のウィッグもあっさり取られ、いつもの芽榴が現れた。


「僕はこっちのほうが好きだよ」


 芽榴のことを見て颯はニヤリと笑う。


「な……!」


 不意打ちのようにそんなことを言われ、芽榴は顔を赤くした。


「颯、キザ過ぎ……」

「颯クン……かっこよすぎ」

「しかし、少しもったいない気もするな」

「すごく綺麗でしたからね」


 それぞれがそんなことを言う中、颯は芽榴を背にして役員へ向かってニコリと笑った。


「あのお坊っちゃまに施されたものを芽榴にいつまでもさせておくわけないだろう? 素の芽榴が一番いいに決まっている」


 颯はそう言って早々と学園を去る。


「もうここに用はないよ、帰ろう」


 颯の声かけを受け、皆その後をついて行く。

 芽榴もついて行こうと歩き出すのだが、風雅が芽榴の腕を掴んでそれをしばし制した。


「ん? 何?」


 芽榴は首を傾げながら風雅のことを横目に見る。芽榴の腕を掴む風雅はかなり真剣な顔つきだ。


「簑原クンに怪我させられた?」


 いきなりの質問に芽榴は目を丸くする。身に覚えがないため、芽榴は首を横に振った。


「ううん、なんで?」

「これ、簑原クンが」


 風雅はそう言って先ほど慎から預かったものを渡した。

 渡されたものを見て芽榴は目を見開いた。


 一枚の絆創膏と、その後ろに貼り付けられたカスミソウ。


 カスミソウの花言葉は感謝――。


 芽榴はクスリと笑った。


「天邪鬼だねー」

「え?」


 聞き返す風雅を放って芽榴は学園の門を出て行く。

 学園の門から一歩外へ踏み出し、振り返った芽榴は満面の笑みで言った。


「帰ろー」

「うん。行こう」


 風雅は嬉しそうに笑って芽榴の横に並ぶ。

 芽榴は風雅と共に先を行く颯たちを追いかけた。

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