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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
ラ・ファウスト学園編
57/410

47 誤解と思惑

「乗馬……」


 芽榴は次の授業の名を口にし、感嘆する。さすがは日本一のリッチ学校。学園の敷地内に乗馬コースまで存在するのだ。ここまでくればその肩書も本物だ。

 乗馬の授業は一般の学校でいう体育に分類されるため、男女が別だ。つまり、聖夜も慎も近くにいない。


 芽榴は一人ポツンと馬小屋の前で一番後ろに並んだ。


 ボーっと自分の馬が与えられるのを待っていると、前から伝言がまわってきた。


「馬の数があわないそうですの。あちらの馬小屋に一頭いるみたいですわ」


 取りに行け、ということだ。芽榴は適当な返事をして教えてもらった馬小屋に向かった。




 少し離れた馬小屋に入ると、そこには本当に馬がたった一頭だけ縄でつながれて存在した。

 中には飼育員も誰もおらず、どうしようかと考えながら馬に近づくと、その馬が芽榴の存在に気付いた。そして――。


「うっわ!」


 芽榴を見た瞬間、馬は異常な興奮状態に陥り、芽榴に襲い掛かろうとしたのだ。

 間一髪、馬の足蹴りを避けた芽榴だが、直撃したら大けがを負っていただろう。芽榴はしりもちをつきながら興奮状態の馬を見て数度瞬きをする。

 すると、飼育員が馬小屋に帰ってきた。飼育員は芽榴の姿を見るなり、驚愕していた。


「どうして生徒の方がこんなところにおられるのですか!? お怪我はありませんか!? これは見知らぬ人を見ると、興奮してしまう暴れ馬でして……生徒の方にここには近づかないよう連絡を頼んでおいたんですが……」

「え?」


 芽榴は受け取った伝言と話が違うことに不思議な顔をした。しかし、すぐに納得して溜息をついた。


「琴蔵さんか……」


 自分のいない授業でも嫌がらせをしたいのか、と芽榴は呆れていた。













 乗馬の授業が終わり、芽榴は音楽の授業へ向かう。その途中で聖夜の後姿を見つけた芽榴はそれを追いかけた。


「琴蔵さん」


 芽榴が隣に並ぶと聖夜は満足げにニヤリと笑った。


「なんや、ちょっと離れとっただけで俺が恋しくなったんか?」

「すごいですねー。琴蔵さん歩きながら寝れるんですねー」


 寝言は寝て言えと暗に言った芽榴は聖夜を半目で睨んだ。


「それより、さすがにあの馬は危ないですよー。頭蹴られるかと思いました」

「なんの話や?」

「へ?」


 聖夜は本当に何も知らなそうな顔をする。しかし、聖夜以外に芽榴にあんなことを仕掛けそうな人間といえば慎くらいだが、彼が動くのは聖夜に命令されたときだ。どちらにしろ、聖夜が関わっていることに疑いの余地がない。芽榴はこれも聖夜の演技かということで納得した。



 そうして音楽の授業が始まった。


 今日はヴァイオリンの演奏を鑑賞するという授業だった。「誰か弾いてくれる人はいないか」と先生が問えば、聖夜がいつものように芽榴を指名する。


「私、ヴァイオリン持ってませーん」

「予備が向こうの部屋にあったはずですわ」


 先生にそう言われ、聖夜はどうだと言わんばかりの笑顔を見せ、芽榴は渋々ヴァイオリンを取りに行った。



 ヴァイオリンを取りに行くと、そこにはたった一つだけヴァイオリンがあった。さっきの馬といい、一つというのはかなり不自然だ。


 芽榴は少し奇妙に思いながらヴァイオリンを手にとった。

 一応少し弾いてみるか、と弦に触れようとして芽榴はすぐにその手を止めた。


 弦の一本に細い針がくっついていた。


 分かりにくいわけではない。しかし、気づかずに触っていたら指に思いきり刺さっていただろう。


「あっぶなー」


 芽榴はそう言って針を取りさり、音を出してみる。すると、予想はしていたがチューニングがあっていない。直そうとネジのほうに手を伸ばすが、弦を絞るネジが接着剤で固定されてしまっているのだ。


「これまた手のこんだ……」


 芽榴は呆れながら瞬きを繰り返した。



 ヴァイオリンを持ってきた芽榴は誰に文句を言うでもなく、先生の指定した曲を何の問題もなく弾き終えた。

 チューニングのずれた音をすべて聞き取り、別の音に変えて弾いたのだ。


 芽榴は聖夜の元に行き、半目で言った。


「馬の次はあんなヴァイオリン準備するなんて本当暇ですねー」

「なんやと?」


 聖夜は眉を寄せた。


「チューニングあってないし、あわせられないし、まんまと琴蔵さんの思い通りになっちゃうとこでしたー」


 芽榴はそう言ってヴァイオリンを戻しに行った。


 残された聖夜は先ほどからの芽榴の言葉を思い返し、すぐに立ち上がった。

 そして後ろのほうの席で女子といちゃつく慎の元に行く。


「聖夜、どした? 混ざる?」


 慎はそんなふうに冗談を言ってのける。しかし、聖夜の視線は鋭く、そばにいた女生徒は空気を読んで席を移動した。


 慎はそんな聖夜を見ても動じずに笑いかけた。


「ご機嫌斜めみてぇだけど、何?」

「お前、何した?」


 聖夜の声は酷く冷たい。


「何って何?」

「とぼけんなや。今回は許すけど、また勝手なことするんやったらお前かて許さんぞ」


 聖夜はそう言い放って自分の席へ帰っていった。


 慎は聖夜の後姿を眺めながら頬杖をついた。


「おかしいのは聖夜のほうじゃん」


 慎は笑いながらそう呟いた。









「慎様! お許しください!」


 図書室で、慎は春日の頭を壁に押し付けていた。


「何が? 本当つまんねーことしてくれるよね?なんでもっとうまくやれねーかな?」


 慎は笑顔で言い、春日の頭を掴む手に力をこめた。


「慎様。でも慎様が……!」

「へー。俺のせい? ウケること言うねー」


 慎は楽しげに笑い、春日の頭から手を離した。


「もういーよ。あんた用無し。じゃあね」


 慎はそう言い捨て図書室を出て行く。


「本当つまんねぇ……」


 慎は閉めた扉に背を預け、呟いた。



「楠原、芽榴……許しませんわ」


 図書室に残された春日は拳を握りしめた。

 

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