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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
エピローグ
410/410

265 おかえりとただいま

 日本では3月1日の朝の時間。

 H大学の女子寮前には、本日何人目か分からない男子学生の訪問があった。


『おばば、メルはいる?』


 男子学生が問いかけた先には、童話に出てくる魔女のような顔立ちの老婆がいる。通称[おばば]の寮母は、聞き飽きた質問に、本日100回ほど口にしたのではないかと思う返事をした。


『もう寮を出たよ。今頃、日本さ』


 そう答えると、前の男子学生と同じように『早すぎないか?!』と喚き始めた。皆、同じ反応すぎて一周回って楽しくなり始める。

 そうして、ひとしきり『メル』がいないことに文句を述べたのち、男子学生は薔薇の花束を手にしたまま、その場を去っていった。


『おばば、どうしたの? またメルに面会者?』


 そんな老婆のもとに、今度は美女が現れる。

 このH大学で一番の美女とうたわれる、エマが綺麗な白銀の髪を揺らして、呆れ顔をした。


『そうだよ。今日何人目かねぇ。まったく、あの子も[パーティーが終わったら、その足で日本に帰るので、告白は早めにね!]っていうチラシを配っておけばよかったんだよ』

『あの子がそんなことしないって分かってるでしょ? ウルトラスーパー鈍感女なんだから』

『まったくその通りだよ』


 老婆とエマが『メル』について話していると、そこへ新たな男子学生が現れる。

 けれどその男子学生は、今までの男子とは違う。

 ブロンド碧眼の美少年。彼は、メルが唯一学内で親しくしていた男子だ。


『あら、ヴァンも告白しそびれたの?』

『まさか。ボクはメルに告白なんてしないよ。負けの分かった勝負はしない主義だから』


 ヴァンは強気に答える。

 けれど、ヴァンは『メル』のことがずっと好きだった。

 ただ『メル』には彼氏がいて、『メル』がその彼氏のことをとても大事に思っていることを知っていたから、彼は彼女に告白をしなかった。

 だからこそ、皮肉にも彼は『メル』と仲良くなることができたのだ。


『でも、少しはボクと離れることを名残惜しく思ってほしかったんだけど。さっさと彼氏のもとへ行っちゃうなんて、薄情な子だよ』

『しかたないでしょ。一年間会えてないんだから』


 エマの知る限り、『メル』は彼氏と一年間一度も会っていなかった。会ったら帰りたくなるから、と彼女は笑って言っていた。

 きっと、寂しかったのだろう。

 彼女は彼氏と、日本にいる大切な友人たちに会うために、一生懸命勉強した。

 彼女の成績を安易に羨ましく思うことさえできなくなるほど、懸命に。


『彼氏の話をするメルは、一番かわいかったわ』

『メルはいつでもかわいかったよ。あれだけ人の目を引く容姿なのに、エマと違って気取ってもないしね』


 ヴァンの余計な一言を聞いて、エマはヴァンのことを睨んだ。

 するとおばばが咳払いを挟んで、エマとヴァンに可愛らしい袋を手渡した。


『なぁに? おばば』

『おばばにしては、かわいい袋のチョイスだね』

『余計なお世話だよ、ヴァン。メルが、あんたたち2人に渡してくれって置いていったんだよ』


 それが『メル』からのプレゼントだと分かると、エマもヴァンもすぐに袋を開封した。

 エマの袋からは、小さなノートが。

 ヴァンの袋からは、貝殻の入った小瓶がでてきた。


『2人には本当にお世話になったからってさ。本当は直接渡したかったみたいだけど、時間がない上にお前たちはバイトや用事で捕まらなかったみたいだからね』


 おばばがそう説明してくれるけれど、2人にはおばばの声が聞こえていない。


 エマが手にする小さなノートには、『メル』の字で事細かにお菓子やメイン料理のレシピが書かれていた。

 以前『メル』がエマのために料理を振舞ってくれた時、エマも料理ができるようになりたいと駄々をこねた。

 そのときのことを、『メル』は覚えていたのだろう。


『出会ったとき、エマはメルのことが大嫌いだったってのにねぇ』


 おばばがしみじみと呟く。

 エマは『メル』が嫌いだった。理由はいろいろ。

 でも一番の理由は、エマが一番じゃないと嫌だったから。

 それなのに『メル』はエマから一番を奪っていった。

 だから嫌いだったのに、そんなエマにも『メル』は優しくしてくれた。こんな性格だから友達の少なかったエマに、初めてできた親友だった。

 ノートの最後には小さなメモが挟まっていて。


[また、遊びに来るね。エマと友達になれて私はすっごく嬉しいよ。エマはなんでもできる人だから、少しやれば絶対料理も上手になる。次会うときはエマの料理食べさせてね。楽しみにしてるよ]

 

 とても綺麗な字で、エマへのメッセージが書かれていた。


『本当に、どこまでも優しい子ね。……ヴァンは? なにそれ、貝殻?』


 エマがヴァンに視線を向けると、ヴァンはエマに背を向けた。

 ヴァンが『メル』からもらったプレゼントは、ただの貝殻。プレゼントとも言えないようなもの。けれど、その貝殻はヴァンにとって大切な思い出の品だった。

 夏に、ヴァンと『メル』は一度だけ海に行った。もちろん2人きりではなくて、同じ講義を受けている友人たちとともに。

 そのときヴァンは、綺麗な貝殻を見つけて『メル』にそれをプレゼントしていた。


 袋の中に入った手紙には『メル』の愛らしい字が記されている。


[この貝殻は夏に一緒に海に行った時に、見つけたものだよ。覚えてるかな……ヴァンはいろんな人と遊びに行くから忘れてそうだけど。ヴァンがくれた貝殻のほうが綺麗だったから渡せなかったんだー。でも、やっぱり渡すね。いろんな話をしてくれて、私の相談に乗ってくれてありがとう]


 あの日の思い出を手にして、ヴァンは複雑そうに笑った。


『覚えてるに決まってるよ……メル』


 何度も好きと言おうとした。そのタイミングもたくさんあった。

 でも『メル』はヴァンに心を許せば許すほど、楽しそうに彼氏の話を聞かせてくれた。

 そしてそんな『メル』の姿が、ヴァンは一番好きだった。


『今頃、会えているのかな』


 エマとヴァンは空を見上げる。

 この空で繋がった、遠く離れた場所で、今彼女はどんな顔をしているのだろう。

 泣いているかもしれない。でもきっとそれは、笑顔の末の涙だろう。


 彼女の幸せを思うと、自然と2人の顔にも笑顔が浮かんだ。








 麗龍学園の高校三年生は、その日卒業式を迎える。

 今の三年生は、学園史上最も優秀な生徒がいる。

 神代颯を筆頭に、学園のアイドル的存在として君臨していた生徒会役員も、今日で卒業。


「風雅先輩、写真撮ってくれるかなぁ」

「風雅先輩は撮ってくれるでしょ。問題は葛城先輩だよぉ」


 下級生は、もう会えなくなる生徒会役員たちと最後にどう接触しようか悩んでいる最中だ。


 さらに異例なことに、今回の麗龍学園の卒業式には、琴蔵家、簑原家のご子息も参加しているという。

 彼らもまた卒業の身であるが、ラ・ファウスト学園は一足先に卒業式は終わっているようだ。


 そしてそんな彼らは現在、卒業式の会場ではなく、生徒会室にいるとのこと。

 生徒会役員の卒業を祝福しに来たのだと噂されている。


 あわよくば、生徒会役員と良家のご子息に近づきたい。

 どうすればよいかと、女子生徒たちは夢中で思案する。


 けれどその思考さえも途切れさせて、女子生徒たちの関心は、校舎を歩く見慣れない女子の姿に奪われた。


 長い黒髪を揺らして、目を奪うほど愛らしい顔をした、美少女が学園の制服を着て歩いていた。


「あんな生徒、いたか?」


 もちろん男子生徒たちは、その女子に興味津々。

 話しかけようと足を動かしている生徒はたくさんいるが、その女子は目的の場所に向けて脇目も振らずに歩いて行く。


 声をかけられても、笑顔で「ちょっと急いでるのでー」とのんびりした声音で答えていた。

 すると、ざわつく生徒たちをかき分けて、卒業生が喧嘩をしながら現れた。


「もう! 芽榴が来てるの! 早くしてよ!」

「早くって……お前がネクタイ曲がってるだのなんだのうるせぇからだろ! っておい!」


 植村舞子と滝本浩だ。

 もはや学園名物にでもなりそうなほど見慣れた喧嘩である。

 先日とうとう付き合い始めたという噂も流れているが、付き合っていても付き合っていなくても、彼らの関係は「喧嘩するほど仲がいい」という言葉に尽きる。


 そして、生徒たちは舞子の口にした「芽榴」という名前で、思い出した。


「もしかして……あれ、楠原先輩!?」


 一年前、留学をしてこの学園から去った女子生徒。

 生徒会役員の最も近くにいた女子生徒。

 たった一年、生徒会役員として彼らの隣に肩を並べた、唯一の女子生徒だ。


 みんなの忘れていた記憶が呼び起こされる。

 けれど、みんなが知る平凡な容姿の楠原芽榴はもういない。

 平凡少女は、もういない。

 あの頃とは一変した芽榴の姿に、学園の生徒の思考が停止した。





「あー……なんだか緊張する」


 アメリカから急いで帰って来て、家族に迎えてもらった。

 芽榴は久しぶりの制服に袖を通し、この学園に足を踏み入れた。


 約束通り、一年で戻って来た。

 この、卒業式に参加するために。


 生徒会室の扉が目の前にある。

 この扉の向こうには大切な仲間と大好きな人がいる。


 一年ぶりの再会。

 みんなは芽榴を見て、何を思うだろう。

 少しは大人になったと思ってほしい。褒めてほしい。


 でもやっぱり、一番最初に言ってほしい言葉はひとつ。


 深呼吸をして、ノックをする。

 そして一年ぶりに、芽榴は生徒会室の扉を開けた。


 会長席で、颯が微笑んでいる。

 こちらを振り返って、風雅が目を輝かせて。

 有利が小さく首を傾けながら笑いかけてくれて。

 来羅がかわいらしく、万歳をして。

 翔太郎が鼻を鳴らしながら眼鏡を押し上げていた。


 視線を少しそらせば、別の制服を着た2人。

 慎が「よぉ」と笑いながら手を挙げて。

 聖夜が優しい顔で芽榴の名を呼んでくれた。


「おかえり」


 大切な仲間が、大好きな人が、芽榴の求めていた言葉を言ってくれた。

 芽榴のことを待っていたと、笑ってくれる男の子たちがいる。

 

 だから、芽榴は笑顔で言った。


「ただいま」




【END】


と、いうことで完結です!

とても長いお話。長い間書かせていただけて幸せでした。更新が停滞することも多々ある中、待ってくださった読者の皆さま、本当にありがとうございました。


さて、ストーリーはいかがだったでしょうか。

私には聞こえます。彼のルートはないのか、と。聞こえます(幻聴)。


ここで明言します。あと1人残された彼のルートは書きます。

なぜ完結にしたのかというと、400話超えたあたりから、重くて開きにくくなっていまして。とりあえずキリがいいので、完結にします。


楠原圭のルートは、実際ほぼ不可能なルートですので【麗龍学園生徒会extra story】としてまた後日新作扱いで始めたいと思います。(こんな私ですので、いつ始まるかは分からないですが。)そのときはまた活動報告などでおしらせしますので、気にかけてくださる方はぜひ読んでみてください!


それでは、長くなりましたが、

この作品を応援してくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。

感想も毎回読ませてもらうたび嬉しくて、元気をもらってます。


後日談も【麗龍学園生徒会after story】のほうで順次あげていく予定です。

できればそちらで芽榴の留学のときの話も書きたいと思っています。(個人的にヴァンが好きだった)


活動報告でもいろいろ告知していきますので、お暇があるときは穂兎ここあを気にかけてくださいませ。


それでは、また別の作品でお会いしましょう!


ありがとうございました!


穂兎ここあ




追記:extra story始まりました。シリーズから飛べますのでどうぞ!

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