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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
Route:琴蔵聖夜 世界一幸せな恋物語
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#06

 朝の会話が尾を引いて、颯と芽榴のあいだには気まずい空気が漂っていた。

 昨日の出来事と颯と芽榴の様子を照らし合わせれば、原因は簡単に思いつく。


「じゃあ、僕は職員室に行ってくるから……翔太郎、あとをよろしく」


 颯は祭事の件で、職員室に呼び出されているらしく、生徒会の仕事に少しだけ手をつけた後、颯は仕事を割り振って生徒会室を出て行った。


「ふわぁ、息が詰まっちゃうとこだったわ」


 扉が閉まったのを確認して、来羅が盛大なため息を吐く。コポコポと音を立てながら紅茶を淹れ、休憩を始めた。


「るーちゃんも疲れたでしょ? 紅茶でもどう?」


 颯の不機嫌の原因である芽榴を気づかって、来羅が笑顔で尋ねてくる。

 芽榴は差し出された紅茶を受け取って、「ありがと」と小さく返事をした。


「風ちゃんがいたら、颯の逆鱗に触れまくって散々なことになってただろうし。今日ばかりは風ちゃんが補習でラッキーって感じだけど」


 来羅は芽榴の隣の空席を見つめ、肩を竦める。いつもその席に座っている風雅は、現在補習で不在だ。

 もし風雅がいたなら、昨日の夜のことを芽榴に聞いて騒いで、来羅の言う通り、颯の逆鱗に触れていたことだろう。

 来羅の意見にうなずきながら、有利も気まずそうに口を開いた。


「琴蔵さんが出会ったときとは変わったってことは分かるんですけどね」

「それが分かっていても、嫌いなものは嫌いなんだろう」


 翔太郎は淡々と言いながら、颯に預けられている仕事をこなしていく。

 翔太郎の冷静な意見に、芽榴は苦笑しながら紅茶を一口飲んだ。


 それから颯の機嫌が直ることなく、生徒会の時間は過ぎていく。

 来羅の予想していたとおり、補習から帰ってきた風雅が芽榴を心配して昨日の件を掘り返し、見事に颯の負のオーラが増したのだった。








「はあ……」


 帰り道、今日は隣に翔太郎がいる。

 当然というか、いつもより疲れているため、彼の口から何度かため息がもれた。


「ごめんね。余計に疲れさせちゃって」

「……別に」


 無愛想に返事をして、翔太郎は横目に芽榴を見下ろした。


「……なに?」

「琴蔵聖夜に電話したくらいで、神代もあんなに怒らないだろう。いや、怒るかもしれないか……」


 問いかけながら翔太郎は思案する。

 颯はもし電話だけで済んでいたとしても、きっと怒っていただろう。ただ、今回みたいに引きずるほど怒りはしなかったとも思う。


「電話して……そのあと会ったんだ、琴蔵さんと」


 本当のことを、口にした。

 誤魔化すことはできるけれど、翔太郎に事実を隠しても意味がない気がして、芽榴は翔太郎に昨日のことをちゃんと説明する。


「あの琴蔵聖夜がわざわざ来るなんて、とてつもなく執心されてるな」

「執心とは、違うよ。ただの息抜きっていうか……」


 芽榴がそんな返事をすると、翔太郎はやれやれといった様子で首を振った。


「それで神代があんなに怒っているわけか」

「それもだけど……」

「『も』?」


 芽榴の発した不吉な言葉に、翔太郎の眉根が寄る。芽榴は苦笑しながら、颯の機嫌を悪くした1番の原因を伝えた。


「神代くんにね、もう琴蔵さんに会わないでって言われたんだけど……私、それはできないって答えちゃったんだ」


 芽榴は翔太郎から視線をそらして、外灯に照らされた地面を見つめた。

 芽榴の答えを聞いた颯の顔を思い出すと、胸が締めつけられる気持ちになる。胸に軽く手を当てて、芽榴は深呼吸をした。


「……琴蔵聖夜のことが、好きなのか?」


 少しだけ心が落ち着いたと思ったら、直球の質問が投げられた。それを尋ねるのが翔太郎だからこそ、余計に芽榴は驚いてしまう。


「好きか嫌いかで聞かれたら、好きって答えるよ」


 当たり障りない返答をする。おそらく翔太郎が聞きたかったのはそういう答えではない。翔太郎が不服そうな顔をしているのは、そのせいだろう。

 そう察していても、今の芽榴にはこれ以外の回答はできなかった。


「琴蔵さんには、あまりにも味方が少ないから」

「……むしろ、たくさんいるだろう? ラ・ファウスト学園には琴蔵聖夜を支持する人間しかいないはずだ」

「それは、上辺の味方だよ。私が言いたいのは、本当の味方。……葛城くんには生徒会のみんながいるでしょー? 私にも葛城くんが、みんながいる」


 芽榴には信頼できる生徒会のみんながいて、優しい家族がいて、舞子や滝本、楽しい友達がいて、慎も、聖夜もいる。

 だからこそ、今の芽榴がいる。


 けれど聖夜には、彼を本当に支える人は慎しかいない。

 その慎さえも、今は彼にずっと付き従ってあげることはできない。


「私は今、とっても幸せ。もうすぐ留学するって……それはすごく寂しいけど、それだってみんながくれたチャンスだって思える。絶対私1人じゃ、こんな幸せは掴み取れなかったって思うよ」


 照れくさい真面目な話をして、芽榴は頬をかく。

 けれどそれが真実。大切な友達が、芽榴に幸福をくれた。


「みんなに幸福をもらったんだよ」


 他人の幸福の先に、芽榴の幸せがあった。

 みんなが芽榴の幸せを願ってくれて、それが叶った結果が『今』。そう考えると、すごく納得できた。


「だから、私はね……もし私の願いが少しでも叶うなら、琴蔵さんの幸せを願ってあげたいなって、思うの」


 1人ですべて抱え込んでしまう人だから、きっと彼は欲に満ちた周囲の幸福の手を全部振り払ってしまうだろう。

 けれどもしそれが芽榴の手なら、握ってくれるかもしれない。自惚れかもしれないけれど、そう芽榴は思った。


 素直に話すと頭の中がスッキリして、芽榴は自然に笑顔をこぼした。


「あはは、なんか真剣に話すとくすぐったいね」


 笑いながら翔太郎を見上げると、彼の表情がさっきより少しだけ柔らかくなっているように感じた。


「なら俺は、貴様と神代が仲直りできるように、貴様の代わりに祈っといてやる」

「え……」

「なんだ、不満か」


 翔太郎はふんっと他所を向いて、早歩きで芽榴の前を歩き始める。

 ぽかんと口を開けて立ち止まっていると、少し先を行った翔太郎がため息まじりに芽榴のことを振り返った。


「何してる。さっさと帰るぞ」


 翔太郎らしい言葉。けれど気恥ずかしいのか、顔は少し背けていて、それがなんとなくおかしくて。

 芽榴はカラカラと笑いながら、翔太郎の隣に小走りで駆け寄った。


「ありがとー、葛城くん」

「……何の話だ」


 そんな翔太郎の返しに、芽榴はやっぱり笑ってしまうのだった。




長らくお待たせしておりましてすみません!!

感想も読ませてもらってます。お返事も書けずにいて、本当に申し訳ないです。

お詫びの気持ちでいっぱいなのですが、それよりさっさと更新しろって感じですよね、ほんとにもう!

こんな作者がやっていけるのも、寛容な読者様のおかげですので、作者のことは嫌いになっても、作品のことは嫌いにならないでください(……既視感)。

ふざけた後書きですみません。

最後にもう一度、本当にすみません。がんばります。


穂兎ここあ

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