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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
Route:柊来羅 大逆転の恋物語
372/410

#03

前書きにして失礼します。



熊本の地震、まだ余震ともいえないほど強い揺れが続いていますね。

私も隣県に住んでおりますが、こちらの比ではないほどの揺れが多発していて、被災地の皆様におかれましては、本当に本当に夜も眠れない日が続いていることと思います。警報音や実際の揺れ、隣県で被害の少ない私も怖いですから、被災地にいらっしゃる方は、その数倍も恐怖を感じていると思います。

いち早く揺れが収まり、避難生活から解放されることを願っております。



このようなときに、とは思いましたが

長らく更新をしていませんでしたので、また更新を再開させていただきます。



穂兎ここあ









 不思議そうに見つめてくる来羅に、芽榴は苦笑した。


「来羅ちゃんこそどーしたの? 用事ー?」

「用事っていうか……そこにいる風ちゃんに」


 来羅は肩をすくめながら芽榴の背後を指差した。どうやら来羅は風雅を探してF組にやってきたらしい。楽しそうな風雅の顔を見た瞬間、来羅は眉を下げた。


「その様子じゃ、まだ携帯見てないのね」

「え?」


 来羅が困り顔で告げると、風雅が不思議そうに首を傾げる。そしてズボンのポケットに入れているスマホを手に取り、風雅は目を丸くした。


「うわっ!」

「風ちゃん、補習に引っかかったんだって? 颯が鬼のような勢いで呼び出してるわよ。るーちゃんも見て、これ」


 来羅は『神代颯』からの通知がたくさん入ったグループメッセージを芽榴に見せる。内容を要約すると『至急生徒会室に来い』だ。

 しかし、伝えたい風雅がそのメッセージをチェックしていないため、最後のメッセージには『来羅。教室にいるなら様子を見に行ってくれる?』と書いてあった。


「サイレントにしてたから、全然気づかなかった。やばい、殺される!」


 メッセージをザッと読んで、風雅は顔を青くしながら慌てて教室を出て行く。

 来羅は楽しげに笑いながら、走って飛び出す風雅に手を振っていた。


「あんなに怒られてたらいい加減慣れそうなものだけどね」

「慣れたりしたらもっと怒りそうだけど……」

「あはは、そうね」


 軽快な笑い声をあげて、来羅は再び芽榴に視線を送る。その視線は、芽榴の額付近に向かっていた。


「おでこ、どうかしたの?」

「おでこっていうか、前髪ねー。失敗したんだー」

「あら、それは大変じゃない。ちゃんと応急処置した?」


 さすが女装していただけはある。女子にとっての髪型の重要性をちゃんと理解し、来羅は本気で心配してくれていた。


「応急処置ってほどでもないけど、前髪留めてて……さっきはずしちゃったから」


 だから留め直すのだ、と芽榴が言おうとして、来羅が眉をしかめた。


「ちょっと見せて?」

「え」


 前髪を押さえる芽榴の腕を掴んで、来羅が引っ張った。解放された前髪がさらりと揺れて、不揃いな前髪が露わになる。

 来羅はその前髪をジッと見つめ、そして芽榴の手にしたヘアピンを奪って、留め直してくれた。


「え、あ……ありが」

「よしっ、とりあえずヘアピンで留めて。ついてきて、るーちゃん」


 来羅は掴んだままの芽榴の腕を引っ張る。

 芽榴はワケがわからず、来羅の力に抵抗した。


「なんで?」

「前髪、切り直してあげる。今の状態なら私でもうまく整えられるから」


 来羅は「まかせて」とでも言うように、ばちんとウインクをした。女装姿の来羅がすると、ただただ可愛いウインクも、今の来羅がするととても綺麗だ。

 的外れに感嘆していると、また来羅に腕を引かれる。


「いや、いいよ。来羅ちゃん。そのうち伸びるし」

「やだ、るーちゃん。かわいいんだから、しっかり前髪にも気を配って」


 来羅から言われる「かわいい」に複雑な感情を覚えながら、芽榴は半目でハハハと笑った。


「でもほら、前髪で留めれば分かんないし」

「……それでも変じゃないけど。ゆったりしたるーちゃんの印象に、ぴったり前髪はなんだか合わないもの。だーかーら、ついてきて」


 そこまで言われれば、抵抗する気もなくなる。芽榴は小さく息を吐いて、来羅についていくことを決めた。


「じゃあ、植村さん。るーちゃん、借りるね」

「はいはい。かわいくしてあげてね」


 舞子は「いいわねぇ」とでも言いたそうなにっこり笑顔で、ひらひら手を振りながら芽榴を見送っていた。






 さすがに廊下に出ると、来羅は芽榴の手を離した。

 芽榴は来羅の後ろをついていき、二学年棟から本棟に移って生徒会室にやってきた。


「……生徒会室?」

「そう。髪切る道具とか、ある程度私物を置いてるからね」

「……でも、たしか……」


 芽榴がそれを言い終わる前に、来羅が生徒会室の扉を開けるが、開けた瞬間に再び扉を閉めた。

 一瞬開いた部屋の中からは真っ黒なオーラがむんむんともれてきていた。


「さっき風ちゃんに生徒会室に行けって言ったの……忘れてた」


 来羅はアハハと頬をかいて笑っている。

 扉の向こうから聞こえる風雅の奇声じみた謝罪に、芽榴も苦笑していた。


「ここじゃ落ち着いて切れないから。隣の会議室を使いましょ。私は道具取ってくるから、るーちゃん先に入ってて」


 来羅はそう言って、一人で不穏な生徒会室の中へ特攻する。


「ぎゃぁぁぁあああああ! ほんとにごめんなさい! 次がんばるから! だから、だからそれだけは、芽榴ちゃんには言わないで!」

「じゃあ、消せばいい?」

「もっとダメダメダメ! オ、オレのコレクション!」


 開いた扉からは風雅の声がしっかり聞こえる。颯が風雅にどういうお説教をしているのか芽榴には分からない。自分の名前が出てくることに疑問を抱きつつ、芽榴はため息を吐いた。





 芽榴が先に会議室で来羅を待っていると、そう時間も経たずに来羅が部屋へ入ってきた。


「お待たせ」

「大丈夫だったー?」

「無関係の人にとばっちりするほど、颯も見境なしには怒らないよ。むしろ風ちゃんを呼びに行ったことへの感謝と、生徒会室を占領してる謝罪をしてくれたくらい」


 それだけ冷静でいながら恐ろしいお説教をしているのかと思うと、やはり颯は怖い人だ。

 

「さっき、私の名前が出てた気がするんだけど」

「ああ、あれね。……あははっ、風ちゃんがるーちゃんの一挙一動、大好きってこと」


 来羅がにこりと笑って答えてくれるが、いまいちピンとこない。

 今度風雅に聞けばいいか、と思いながら芽榴は来羅と向かい合って、席に座った。

 来羅がヘアピンを取り去ると、芽榴の不恰好な前髪がまた来羅の目にさらされる。


「本当に、ここだけ見事にザックリいったんだね」


 ひときわ短くなっている前髪を一房つまんで、来羅はふむふむと頷いている。


「でもまあ、この長さなら……いっそもうそろえれたほうがいいよ」

「え、やだ。似合わないよ」

「まかせてってば。絶対るーちゃんに似合うようにするから」


 来羅が自信満々に言って、ポーチの中からクシとハサミを取り出す。

 そのポーチの中には、かつて来羅が使っていたのであろう様々な女子力の高い小道具が入っていた。


「来羅ちゃんって、すごいよね」

「ん? ああ……まあ地毛はずっと自分で切ってるから。切るのには慣れてるからね」

「いや、そーじゃなくて……それもそうなんだけど」


 芽榴の放った「すごい」の意味は、来羅の受け取った意味とは違う。芽榴が否定すると、来羅が首を傾げた。

 来羅の綺麗な短い髪が窓から入る光に反射して、キラキラしている。


「女装だって、誰よりもかわいかったのに……男の子の格好もすごく似合うから」


 修学旅行の後半から今に至るまで、来羅はずっと男子の格好をしたままでいる。

 来羅のその姿は度々見ていたが、これほど長く見続けるのは今がはじめてだ。

 そうしてずっと見ていれば見ているほど、実感する。男子の格好も、まったくもって指摘のしようがないほど似合うのだ。

 かっこいいというより、もはや綺麗という印象が近い。


「そう?」

「うん」


 来羅の指が芽榴の前髪を優しくすくう。微かに額に触れる来羅の指が滑らかで、心地よくて、芽榴はそのくすぐったさに片目を閉じた。


「クラスの人にも言われてるでしょー?」

「……まあ、言い合ってるのかな」


 来羅はわずかに視線をそらして、芽榴の質問に答えた。その答えから伝わるのは、来羅に直接言ってくるというより、周囲で噂をしている例が多い、ということだろう。


「でも、みんながそう思ってるってことだよー」


 曇る来羅の表情とは対照的に、芽榴は笑顔だ。

 来羅がハサミを動かす音と、芽榴の笑い声が程よく調和する。


「私は、るーちゃんに思ってもらえれば……それでいいよ」


 来羅の返事に、芽榴は困り顔をする。

 芽榴の意見は特別、そう言ってしまいそうな来羅の言葉がむずがゆくて、芽榴は嬉しいような、困るような、複雑な感情を抱いた。


「……でも、私もそう思うし、みんなもそう思うなら、それは一番いいことだよ」


 抱えたゴミ袋の中に、芽榴の前髪がはらりはらりと落ちていく。


「そんな来羅ちゃんに、仲良くしてもらえて……私は幸せな人間だね」


 短くなった前髪が、芽榴の笑顔を隠すことなく映し出す。

 嬉しそうに笑う芽榴を見て、来羅は目を細めて口をきつく閉じた。

 そうして来羅は机の上にハサミを置き、芽榴に鏡を渡す。切り終わった前髪を見て、芽榴はなんとも言えない顔をした。


「……短い」

「でも、かわいいよ。すごく似合ってる」

「そーかな……?」

「すっごく」


 今までしたことのない長さであるため、違和感と不安が残る。ヘアピンを留めることもままならない長さだ。開放された額が少しだけ肌寒い。


「でも、来羅ちゃんが言うなら……変じゃ、ないのかな」


 芽榴が気恥ずかしそうに前髪を触る。すると、来羅が前髪をいじる芽榴の手を掴んだ。


「……るーちゃん、かわいい」


 来羅の声が、どこかふわふわして聞こえる。さっきの「かわいい」とは少しだけ意味が違うように聞こえた。

 前髪に向けていた視線をわずかに下へ向ける。目の前、来羅の顔が近くにあった。


「え……」


 来羅の顔が、さらに近づいてくるような気がして、芽榴は目を丸くして腕に力を込めた。


「来羅ちゃ……」

「悪いね。今、風雅の説教が終わった――よ」


 ガラッと開いた会議室の扉。

 生徒会室を使っていい、と言いに来たのだろう。颯が二人を見つめて立っていた。

 その声と、その音に反応して、来羅はハッとしたような顔をする。そうしてすぐににこりと笑顔を携えた。


「はいはぁーい。でも、もうるーちゃんの前髪も完成!」


 来羅はいつもと変わらない笑顔のまま、芽榴を颯に見せてあげる。「どう?」と来羅が告げると、颯は目を瞬かせた。


「ああ……すごく、似合っているよ」


 やはり褒められるのは気恥ずかしくて、芽榴は視線をさまよわせる。そうしていると、来羅がまた「かわいい」とはしゃぎ声で言ってくれた。


 軽く室内を片づけて、ゴミを処理して、芽榴は再びF組へと帰る。


「来羅ちゃん、ありがと」

「いえいえ」


 来羅にお礼を言って、芽榴は慣れない短めの前髪を気にしながら、会議室を出て行った。


 会議室を出て、芽榴はピタリと立ち止まる。

 さっきの来羅のことを――目の前にあった、真剣な来羅の顔を思い出して、少しだけ胸が高鳴った。


「……びっくり、したなー」


 あのまま颯が来なかったら、どうなっていたんだろう。そんなことを少し考えて、芽榴は頭を横に振った。

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