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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
体育祭編
33/410

25 有利の祖父と花嫁候補

 午前の種目はすべて終了した。


 有利と芽榴は来賓の方に頭を下げ、仕事を切り上げることにした。


「えっと、どこで昼食とるのー?」

「屋上ですね。去年もそこでしたから」

「解放されてたっけ?」

「いえ、されていません」


 有利は平然とした顔で否定する。芽榴が聞き返すと「葛城くんの力です」と有利は言った。教師から鍵を奪い取ることも翔太郎の能力をもってすれば簡単なことだ。


 生徒会のファンはこの体育祭という解放的なイベントにおいて学園の生徒にプラスして増えている。落ち着いた食事をとるためには解放予定のない場所、つまり屋上が最適だったのだろう。


 芽榴が納得すると、有利は薄く微笑んだ。


「それにしても、楠原さんのお弁当が楽しみです」

「あまりハードルあげられても困りますー」


 芽榴の弁当は役員用テントにあるため、芽榴と有利はそっちへと向かう。


 その途中、芽榴は後ろをふと振り返る。


「……どうかしましたか?」

「ん? あー、気のせい」


 背後に気配を感じ、振り向いたのだが誰もいなかった。芽榴は首を傾げながら有利の隣に並ぶ。


 すると、前方から猛スピードで犬が走ってくるではないか。芽榴は即座に逃げの姿勢に入るが、右足に思ったより力が入らず逃亡は失敗に終わった。


「芽榴ちゃん! 愛妻弁当だけを楽しみにオレ頑張ったよ!」

「あー、どこの愛妻の弁当を楽しみにしているのやらー。量が多すぎて数えきれないー」


 芽榴がグラウンドを見渡しながら言えば、「芽榴ちゃんのことだよ!」と風雅は拗ねてるのか泣いてるのかよく分からない声を出した。


「有ちゃん、るーちゃん。お疲れ」


 そんな風雅の後ろから来羅が顔を出す。有利も来羅の姿は初めてではないため驚かない。


「柊さん。お疲れ様です。あなたの上司が暴走していますが……」


 いつも以上にハートマークをとばす風雅を見て有利が言う。


「うん。まぁ、今日くらいは仕方ないんじゃないかしら」

「あ、来羅ちゃん。危ないからちょっとこっち来てー」


 風雅に文句を言い続けていた芽榴がピタリとそれをやめ、来羅を手招きする。来羅には芽榴の言う『危ない』の意味が分からない。来羅が首を傾げながら一歩踏み出すと、有利の目がカッと開いた。


「え、有ちゃ……きゃ!」


 来羅は急いで芽榴のほうに飛びついた。

 有利がいきなり木刀を取り出して手に持つのだ。目つきは確実にブラック有利モードに入っている。

 しかし、芽榴はそれよりも有利の目の前にいる人物に気を取られた。


「ふぉっふぉっふぉっ! 有利、後ろをとられるようではまだまだじゃのぉ!」


 和服を来た70代くらいに見える老人が有利と同じく木刀を持って立っているのだ。


「うっせぇんだよ、ジジイが……。後ろから狙うなんてのは武道を志す者の風上にも置けネェッてんだよ!!」


 有利は地を蹴り、その老人に木刀を振り下ろした。

 芽榴はヤバイと目を瞑るが、驚くことに藍堂家の天才、有利の太刀をその老人は防いだのだ。


「……あのおじいちゃん、誰ー?」


 芽榴は目の前の来羅の学ランの裾を引っ張った。


「あぁ。有ちゃんのおじいちゃんよ」

「え」


 芽榴はもう一度二人を見る。確かにどこか似ている気がする。


「有利! その壊れた二重人格はどうにかせにゃあならんなぁ! わしはそっちのお前も好きじゃが!」

「呑気に喋ってっと殺すぞ!」


 有利の太刀の勢いからしてその言葉は本気なのかもしれない。芽榴は二人の様子にハラハラするのだが、風雅も来羅も楽しそうにそれを眺めていた。


「止めなくていいの? 祖父孫喧嘩」

「アレ、喧嘩じゃないよ。藍堂流の作法その1、挨拶は手合わせなりの原則」


 風雅の言葉を解釈するに、挨拶代わりに手合わせをするのが藍堂流の作法なのだそうだ。凄まじい武道魂だ。


「喧嘩じゃないと言っても止めるべきだろう」


 芽榴たちの後ろから翔太郎が現れた。有利たちの様子を見て翔太郎は渋い顔をしている。


「誰が止めるのー?」


 芽榴が聞けば、翔太郎は言葉に詰まる。結局、藍堂流の作法を見届けることになるのだった。



 それから数分後、決着がついたのか二人は互いに礼をしあった。


「有ちゃんのおじいちゃん。お久しぶりです」


 二人の挨拶が済んだのを確認して来羅は有利の祖父に微笑んだ。


「おぉ! 美少女……と言いたいところじゃが、今日は美少年じゃなぁ。じぃはちょっとばかし寂しいのぉ」


 有利の祖父は本当に残念そうな顔をする。来羅が少し困ったように笑うと、有利が急いで来羅に謝った。


「すみません、柊さん。おじいさん、失礼ですよ」


 さっきとはまったく正反対の有利の様子には芽榴だけでなく、皆肩の力が抜けるらしい。


「そういう貴様がさっきまで一番失礼なことをしていたが……」


 翔太郎が眼鏡のブリッジを押し上げながら呟くと、有利の祖父は視線を来羅から翔太郎へと移した。


「おぉ、催眠眼鏡。相も変わらずむさ苦しいオーラを出しよって」


 有利の祖父はどうやら翔太郎に変なあだ名をつけているようだ。いつもなら翔太郎がすぐに文句を言いそうなところだが、翔太郎はため息をつくだけだった。


「藍堂のじいさん。ここは学校で、流儀を披露するようなところではない」

「いちいち細かいのぉ。そんなんじゃからおなごが寄ってこんのじゃろ?」

「寄ってこないではなく寄ってこさせないの間違いだ!」

「女嫌いなんぞ、強がりも見苦しいのぉ」

「……もういい」


 ふぉっふぉっふぉっと笑う有利の祖父に翔太郎は弁解する気力を無くしてしまったようだ。翔太郎が颯以外の人間に口で負けるなど珍しい。


「にしても、有利クンのじいちゃん、相変わらず強いね!」


 風雅が声をかけると「あぁ、色ボケ男か」と有利の祖父がそっけなく返すので風雅は芽榴に泣きついた。そんな祖父に有利がまた説教する。有利の祖父はそれさえも楽しげだった。


「それより、お前さん」


 続いて、有利の祖父は来羅と風雅のあいだにいる芽榴に目を向けた。芽榴は慌ててお辞儀をする。


「申し遅れてしまい、すみません。楠原芽榴です。有利くんにはいつもお世話になってます」


 礼儀正しい芽榴の姿に有利の祖父は満足げに頷く。そして芽榴の肩にポンっとふれ、一言。


「お前さん、有利の嫁にどうじゃ?」


 芽榴だけではない。風雅も来羅も翔太郎も、そして有利も固まった。有利の祖父はニコニコしたまま、もう一度「どうじゃ?」と聞き返す。


「いや、どうって……」

「有利クンのじいちゃん! それは駄目! 芽榴ちゃんはオレのお嫁さん!」

「蓮月! 寝言は寝て言え!」

「お、おじいさん。何を言ってるんですか! 楠原さん、気にしないでくださいね!」


 風雅が有利の祖父の肩を揺らし、翔太郎も声を荒げる。いつもはおとなしい有利も珍しく取り乱していた。その様子が余程楽しいらしく有利の祖父はまたあの独特の笑いをこぼした。


「と言っても、わしはやっぱり美少女の顔が好みなんじゃが……」

「ありがとうございます」


 来羅がニコリと笑うと、有利の祖父は鼻の下を伸ばす。来羅の容姿がかなりお気に入りのようだ。でも、有利の祖父の言いたいことはそれではないらしく、話を続けた。


「顔は十人並みじゃが、なかなかにいい嗅覚を持っておる」


 有利の祖父は芽榴を見てニヤリと笑う。芽榴には彼の言いたいことが分かるが、他の4人にはそれが伝わらず、目に見えるほどたくさんのはてなマークが浮かんでいた。


「有利を背後から襲うためにわしは気配を消して近づいたはずなんじゃが、有利でさえ気づかんかったのにこの娘は気づいたんじゃ。一度目は偶然と言えても二度気づかれたということは確かじゃろう」


 他の4人はそれに驚いているようだが、芽榴はそこまですごいことをした自覚がないため、どう反応すればいいか困ってしまう。


「武道に通ずる者。すなわち、有利にふさわしいおなごじゃ」

「いくら有利のおじいさんと言えど、それは少々強引すぎますよ」


 透き通るような声に有利の祖父の目が光る。有利の祖父はすぐに振り返った。


「完璧少年、久々じゃのぉ」

「お久しぶりです。相変わらずお元気そうで」


 颯はニコリと笑った。しかし、颯は有利の祖父に頭を下げながらも歩みを止めない。有利の祖父と芽榴のあいだに立ち、颯はすぐさま芽榴の手を引っ張って抱き寄せた。


「彼女はそう簡単に譲れませんよ」


 颯の言葉に、そこにいた役員4人がそれぞれ反応を示した。


「神代くんは私の保護者ですかー?」

「そのポジションは狙ってないよ」


 抱きとめられる必要性が理解できない芽榴はとりあえずそんな風に尋ねる。雰囲気も何もない芽榴の発言に颯は苦笑した。


 一連の様子を見て、有利の祖父は楽しそうに笑った。


「もっと有利の嫁にしたくなったわい」


 有利の祖父が零した一言により再び口論が始まる。


 芽榴が昼食にありつくまでまだ時間がかかりそうだ。

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