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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
Route:蓮月風雅 一途な笑顔の恋物語
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#04

 次の学期末テストが近づき、風雅の補習も終わりが近くなっていた。つまりは昼休みの勉強会ももうすぐ終わるということ。


「あぁーっ、もうすぐ補習も終わりかぁ」


 風雅はうーんと伸びをする。ちょうど勉強もひと段落ついて風雅はそんなふうに叫んだ。


「補習の成果はありそー?」


 芽榴が優しく微笑みかけると、風雅はニコッと笑い返した。


「もちろん。芽榴ちゃんが教えてくれてるんだから当然!」


 その言葉の通り、風雅は昨日一昨日に終わった英語と数学の補習の最終課題も難なく終えることができていた。

 芽榴の教え方が上手だったからというのはもちろん理由としてあるけれど、今回は何より風雅の意欲が違った。


「蓮月くんが頑張ったからだよー」

「それだって芽榴ちゃんのおかげじゃん」


 風雅がそう言うと、芽榴は困ったように笑う。理由はどうあれ、風雅のプラスになっていることは確かだ。

 すると風雅がふと何かを思い出したらしく、芽榴のほうへ身を乗り出した。


「ね、芽榴ちゃん」

「んー?」

「来週からのテスト期間もさ、芽榴ちゃんに勉強教えてもらいたいんだけど……ダメかな?」


 風雅がそう尋ねてくる。テスト期間ともなれば芽榴も自分の勉強があるため、風雅は遠慮がちだ。けれども少しの手間になるだけで、芽榴の勉強法からしても風雅が分からない問題に答えるくらいの余裕は十分ある。


「うん、いーよ」


 芽榴が笑って言うと、風雅も嬉しそうに笑った。風雅が芽榴の前で幸せそうに笑うのは今始まった話ではない。


 芽榴だって前から風雅といるときは楽しげだった。けれど最近は特に、風雅といるときの芽榴は笑顔を絶やすことがない。




「楠原さん」


 ということで、芽榴と風雅が一緒にいるところをずっと見ているF組生徒にはある疑問が浮上した。


「とうとう風雅くんと付き合い始めた?」

「え?」


 昼休みが終わって風雅が教室に帰ると、F組女子が数人やってきた。F組女子からの問いかけに芽榴は驚くが、近くにいた舞子はその疑問に納得しているような感じだ。


「ううん。そんなんじゃないよー」

「え、うっそだー!」


 芽榴が否定すると、さらに否定で返された。そのため芽榴は助けを求めるように舞子のほうを見るが、舞子は困ったように眉を下げている。


「あんたも風雅くんも何も言わないから、付き合ってないのは分かるけど……普通どう見ても付き合ってるようにしか見えないわよ」


 舞子は冷静に言う。芽榴からすれば風雅との接し方に変わりはない。風雅の芽榴への接し方だって前からあんな感じだ。今さらどうしてそんなふうに思われたのか、芽榴には理解できない。


「だって楠原さん。いつも風雅くんのことあしらう感じだったのに……最近風雅くんに対して優しいっていうか、すごく楽しそうだし」


 そう言われると前はすごく風雅に対する接し方が雑だったように聞こえて芽榴は苦笑する。確かに最近はあしらうようなことはない。風雅自身が芽榴にあしらわれるようなことをしていないというのが正しいだろう。


「そうなんだぁ。てっきり付き合い始めたんだと思ってたのに」


 芽榴が風雅と付き合っていないことを知り、F組女子は自分たちの会話に戻る。みんなが去っても芽榴はまだそのことを少し考えていた。


「芽榴? どうしたの?」


 思案顔の芽榴に舞子が不思議そうな顔で聞いてくる。尋ねられた芽榴は気まずそうに笑った。


「なんていうか……蓮月くんは変わったなーって実感してて」


 出会いたての風雅と今の風雅はまるで違う。今の風雅は目標を決めて頑張っている。


 もともと芽榴が風雅をあしらっていたのは風雅が芽榴に猛烈なアタックをするときだけだった。

 でも今は良くも悪くも、風雅が芽榴に触れる回数は減った。


「私より、蓮月くんのほうが接し方は変わったよ」


 あの事件以降、近くにはいても芽榴を抱きしめることはしない。前のように抱きついてくることがなくなった。


「確かにね。前ほど公に好きって言わなくなったし」


 言わなくても見ていれば十分分かるのだが、それでもその変化は大きい。


「みんなはあーいうふうに思うのかもしれないけど……。私は前よりどんどん蓮月くんが遠くなってる気がしてるよ」


 風雅と一緒にいるのは楽しい。アメリカに行く日が近づいても、芽榴がこんなふうに笑っていられるのは風雅のおかげだ。それでもいまだ埋まりきれない溝が気になってしまう。


 他人からしたら溝でもなんでもないのかもしれない。けれど本人だからこそ分かる。風雅が意識的に芽榴に触れるのを避けてることは分かっていた。


 そのうち、手や腕にすら触らなくなるのではないのかとも思う。


 風雅の気持ちを知っていて、その気持ちに応えていないのは芽榴だ。それなのに風雅が抱きついてきていた頃を懐かしく思う。そんな自分の狡さに芽榴は苦い笑いしか出なかった。







 放課後の生徒会室は芽榴と颯の2人きりだった。風雅は補習に行き、有利と翔太郎は委員会で抜けている。そして来羅も事務室のパソコンの具合を確認に行ったため、芽榴は颯と2人で業務をこなしていた。


「芽榴、こっちの書類も目を通してくれる?」

「りょーかい」


 2人だというのに、てきぱきと業務をこなす。さすがは学年首位同士といったところか。

 芽榴は颯から書類を受け取り、早速書類に目を通す。そして必要なところを用紙に書き写してまとめ始めた。


「芽榴が生徒会に入ってから、仕事の進みがよくて助かるよ」

「そー?」

「ああ。前まで、風雅が提出する用紙は漢字ミスが多くて最終確認しなきゃいけなかったけど……今じゃ風雅が用紙に文字を書いてる段階で、誰かさんが指摘してるからね」


 颯はそう言って芽榴に笑いかける。その間もペンは書類の上を走っていて、芽榴はその様子を見て薄く笑った。


「隣で仕事してるから、目に入るだけだよー」

「たまに不備書類探すのも手伝ってるしね」


 颯はそう付け加えた。よく見ているものだな、と芽榴は思わず感心してしまう。


「でも最近は、蓮月くんのミスも減ったから私が指摘する回数も減ったよー」

「勉強も頑張ってるみたいだし、その影響だろうね」


 颯は頬杖をついて書類に目を向けながらクスリと笑った。


「結局のところ、芽榴のおかげだね」


 颯はそう告げる。みんなも風雅自身もそうだと言う。

 風雅が変わったのは、風雅が頑張ってるのは、全部芽榴のおかげだと。確かにそうだけど、そうではないと芽榴は思うのだ。


「確かにきっかけは私なのかもしれないけど……」


 芽榴は空いている風雅の席を見つめ、優しく微笑んだ。風雅のことを考えると、自然と笑みがこぼれる。風雅との思い出はいいものばかりではないけれど、即座に思い出すのはいつも楽しいものだ。


「頑張ろうって思ったのは蓮月くんで、変わったのは蓮月くんが頑張ったからで……結局全部、蓮月くんが自分で前に進んでるんだよ」


 それに、変わったのは風雅だけではない。芽榴だって風雅のおかげで変われたのだ。みんなと仲良くなれたのも今の自分があるのもきっかけは全部風雅だ。


「私も、蓮月くんのおかげで前に進めたよ」


 みんなのおかげで前を進めた。けれどやはり元をたどれば風雅のおかげになるのだろう。


「今だって、みんなと離れるって実感ないの。きっと蓮月くんがそんなこと思わせないようにしてくれてるからだって、分かるから……」

「確かに、ここのところ芽榴はよく笑ってるね」


 修学旅行前は無理やりに笑っていることが多かった。でもみんなに別れを告げた今、芽榴は毎日楽しそうに笑っている。別れを感じさせない笑顔を見せている。


「まあ、芽榴を笑顔にするのがあいつの特技だからね」

「そーかも」


 芽榴がそう相槌をうって、颯は「そこだけは完敗だよ」と肩を竦めた。冗談っぽく言った颯に、芽榴はカラカラと笑って応える。


 風雅には芽榴が必要だ。芽榴がいるから風雅はいい方向に進んでる。そう、みんなは言う。

 でも同じくらい、芽榴にも風雅が必要なのだ。


「楽しいこと考えるのは、私の苦手分野だから」


 芽榴が絶対にできないこと、持っていないものを風雅は持っている。


 それを聞いて、颯は少しだけ困り顔で笑っていた。


「悔しいけど、風雅と一緒にいるときの芽榴が一番可愛いよ」

「……何言ってるの」


 芽榴は半目で答える。どうあっても自分が可愛く見えることはないだろうと、芽榴は表情で告げた。けれどやっぱり颯は苦笑したまま。


「一緒にいた時間からしても……それが自然な流れかな」


 最後にそう言って、颯はもうじき帰ってくるみんなの分の書類を整理し始めた。


 颯の言葉は意味深だ。芽榴は颯の言葉を追求しようとしたけれど、その後すぐに生徒会室に帰ってきた風雅の「化学と物理の補習終わったよー!」という嬉しそうな声に意識を向けて、すっかり頭から抜け落ちていた。

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