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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
Route:蓮月風雅 一途な笑顔の恋物語
291/410

#02

 その日の放課後、生徒会室ではいつかと同じように、にこやかに笑う皇帝様の目の前に青ざめた顔の犬が正座していた。


「で、風雅。また補習に引っかかったんだって?」


 英語の補習から帰ってきた風雅に、颯が笑顔で尋ねる。目が全然笑っていないのだから、余計に怖さが倍増だ。曜日ごとに補習科目が決まっており、今日の月曜日は英語の補習だったのだ。


「うわー……予想どおり」


 書類にペンを滑らせながら、2人の様子に目を向けて芽榴は呟いた。昼に予想していた通りの展開に芽榴は苦笑し、目の前の翔太郎と有利は慣れたものでただただ呆れ顔だ。


「で、でも本当に引っかかったのは英語だけ……」

「引っかかってるんだから、数なんか関係ないよ」


 言い訳しようとする風雅に、颯は冷静に言葉を吐く。言い終わる前に言葉を切り返され、風雅はヒーッと心の中で叫んだ。けれど風雅の言いかけの言葉に反応した来羅がパソコンから視線を逸らした。


「あ、それ聞きたかったのよね。勉強嫌いの風ちゃんがどうして全教科補習受けることにしたの?」


 今や学年中の疑問となっていることを来羅が尋ねる。以前までは意地でも補習を回避しようと、あらゆる手段を駆使していた風雅が珍しい。役員も同じことを思っていた。


「なんで、って……頭良くなりたいから!」

「明日は槍が降るな」


 風雅の発言にすかさず翔太郎が言葉を挿む。すると風雅が「なんで!」と泣き目で翔太郎のことを睨んだ。


 確かに翔太郎の言い方に問題はあるが、彼の言ってることは正しい。どうしていきなりかつ今さら、風雅がそんなことを思ったのか。それが現在の生徒会の議題だ。


「それは、その……」


 そう言って、風雅は芽榴に視線を向ける。芽榴が首を傾げると役員全員が「ああ……」と同じような反応をして納得した。


「え、何?」


 その反応が気になって芽榴が眉を寄せると、有利が「何でもないですよ」と薄く笑いかけてきた。逆に気になるのだが、そのまま有利が言葉を続けてしまい、芽榴は疑問を口にできない。


「でも今回に関してはいい傾向になりそうですし、お説教は1ヶ月後のテスト結果が出るまで待つことにしたらどうですか? 神代くん」


 有利がそう提案し、風雅は目を輝かせる。対する颯は困ったように息を吐いて「そうだね」と肩を竦めた。


「はあぁ……。有利クン、ほんとありがとう!」


 自分の席に戻って、風雅が斜め前の有利にそう告げる。すると有利は「別にたいしたことは言ってませんよ」と困り顔をしていた。


「安心してる場合ではないだろう。次回のテストで結果が出せなければ今度こそ半殺……逆鱗に触れるぞ」


 翔太郎は険しい顔で風雅に忠告する。途中物騒な言葉が聞こえて芽榴は苦笑していた。けれど芽榴の隣に座っている風雅は、翔太郎の忠告に対して自信満々に鼻を鳴らした。


「次は絶対大丈夫!」

「あら、相当な自信ね?」


 Vサインで答える風雅に、来羅が楽しげに問いかけた。すると風雅は「だって……」と言葉を切り出して芽榴の手を握る。


「昼休みに芽榴ちゃんから勉強教えてもらうし!」


 風雅は自慢げに言った。風雅に手を掲げられ、芽榴は困り顔をするものの風雅の笑顔につられるようにして笑った。

 風雅の発言で、その場にいる全員が「次のテストの補習は逃れるだろう」と確信する。


「でも芽榴1人で見るのは負担だろう? 僕も何か見よ……」

「は、颯クンが!?」


 芽榴を気遣って、颯がそんな提案をすると風雅が青ざめた顔で叫ぶ。その叫び声で主に会長席あたりの空気が凍りつき、来羅は楽しげな笑い声をあげた。


「風雅。それは……何? 僕に教えられるのは嫌ってこと?」

「決してそんなことはございません!!」


 真っ黒なオーラを背景にして問いかけてくる颯に、風雅は言い訳することなくとりあえず謝罪の言葉を述べる。その様子を見て翔太郎は呆れるように額に手をつき、有利は溜息を吐いた。

 必死な様子で謝る風雅は見ていて楽しいが、あまり怒られては風雅がかわいそうだ。ということで、芽榴は肩を竦めながら颯に声をかけた。


「神代くん。別に私の負担にはならないから、大丈夫だよー」

「確かに。補習の課題レベルなら、るーちゃん寝てても解けるだろうし」

「……それはないよー」


 来羅の発言は大げさではあるが、補習レベルの問題を教えることが芽榴にとって負担にならない程度のものであるのは事実だ。


「でも、楠原さん……」


 ただ役員の心配は、残り少ない芽榴の時間を風雅の補習の手伝いで潰させてしまっていいのかということだ。芽榴もなんとなくそれを察して、みんなに優しく微笑んだ。


「時間をなんとなくで過ごすよりは、意味あるほうが楽しいから。私にとってはいい話かなって」


 芽榴は思案顔の有利に向かって「ね?」と首をかしげる。芽榴にそうやって笑顔を向けられれば、有利もそれ以上は何も言わない。困った顔をしつつ、納得してくれた。


「風雅。芽榴だって暇じゃないんだから……デレデレしてないでちゃんと勉強しなよ?」


 颯が保護者のような立ち位置で、風雅に念押しの忠告をしていた。それに対して風雅は「もちろんだよ!」とやる気満々に返事をする。


 そうして話は終わる、はずだったのだが。


「でーも、それだと風ちゃんばっかりるーちゃん独占しちゃってズルイわ」


 来羅がボソッとそんなことを口にする。芽榴と風雅が「え?」と声をあげるのと、颯と有利が「確かに」と頷くのはほぼ同時だった。


「貴様らはガキか……」


 翔太郎は呆れ顔で呟く。するといつかと同じように3人が翔太郎を見てニヤリと笑った。


「ってことは、るーちゃんを送って帰るの、風ちゃん以外でローテしようと思ったけど翔ちゃんも除いていいわよね?」


 来羅が悪戯っぽく笑って問いかける。するとそれに反応するのは翔太郎だけではない。


「それとこれとは話が別だろう!」

「ちょ、待って! なんでオレが除かれてんの!?」


 風雅と翔太郎がほぼ同時に叫んだ。その様子を見て、颯はクスクスと楽しげに笑っている。


「妥当じゃないですか。僕たちだって楠原さんとできるだけ一緒にいたいですから、時間を均等に分けて……葛城くんはさっきの発言があるので減らして……」

「おかしいだろう」

「オレは補習があるんだよ!?」


 有利の説明に2人して反論するが、有利は2人の言い分を華麗にスルーしてしまう。

 翔太郎に至っては不用意な言葉で、また来羅たちに遊ばれてしまい、機嫌がどんどん悪くなっていた。


「別に、私は1人でも帰れるよー?」

「却下」


 空気を読んで芽榴はそんなふうに言ってみたのだが、即座に颯に断られる。


「暗くなるし、危ないだろう?」

「まあー……そうなんだけど」


 颯の意見は正しい。だから芽榴も否定はできないのだが、自分の横方向の状況を見ると苦笑いが浮かんでしまう。

 芽榴の隣では、ついに風雅と翔太郎の喧嘩が始まってしまったのだ。2人で有利と来羅に抗議していたはずなのだが、いつのまにか2人の口論になっていた。


「だいたい貴様が補習に引っかかるから悪いんだろう!」

「引っかかったんじゃなくて、自主的に受けるの!」

「どちらもたいして変わりないだろうが!」


 見慣れた口論に、役員の誰も慌てた様子を見せない。それどころか颯も来羅も2人の口論を楽しげに見ているのだ。


「みんな、ひどいよ! オレを応援する気ないの!?」

「してるしてる」

「来羅は軽い!」


 最終的に風雅が「芽榴ちゃーん」と泣きついてくる。その光景を見て、みんな微笑んでいた。


 みんなの笑顔の中心にはいつも風雅がいる。


「ほんと、すごいなぁー……」

「え?」


 芽榴の呟きに、風雅は泣き目で首を傾げる。けれど芽榴は「なんでもないよ」と言って、みんなと同じように笑った。


 別れの日は遠いようで近い。寂しい思いは募るけれど、楽しい気持ちが先行するのは風雅のおかげだろう。そう、芽榴は実感していた。

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