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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
体育祭編
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20 素と魔性

 風雅の演舞が始まると、カメラのシャッター音が先ほどの颯と同等かその上を行くほどの勢いで鳴り響いていた。


「すごい……」


 芽榴が感嘆の声をあげる。それはシャッター音の凄まじさに対してではなく、風雅の演舞の優美さに対してだ。


「るーちゃんにそう言ってもらえれば風ちゃんも本望よね。アレかなり練習したのよ」


 芽榴と来羅は線引きした場所でちょうど始まった風雅のエール交換の演舞に見入っていた。


 長い手足がスラリと伸び、乱れた髪から垣間見える瞳は美しく、見るものを虜にしている。


 前に古典で光源氏の舞の美しさについて読んだことがあるが、まさに今の光景はそれと類似するものだろうと思うほどの美しい演舞だ。

 真面目な顔の風雅はまるで自分の知らない人間のようにさえ芽榴には思えた。


「何か、蓮月くんが遠く感じるー」


 芽榴が呟くと来羅はクスッと笑った。


「それ風ちゃんに言ってあげたら喜ぶわよ?」


 芽榴に笑いかける来羅を見て、芽榴は少しドキッとした。いつものように近距離で話す来羅。普段はその容姿から気にしたことなどなかったのだが、今の来羅はどうみても男の子なのでやはり緊張してしまう。


「あ、もしかしてるーちゃん。意識してる?」


 来羅はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。芽榴は気恥ずかしくなって他所を向いた。


「え、るーちゃ……」

「芽榴!」


 来羅が芽榴の顔を覗こうとした瞬間、来羅の背後で芽榴を呼ぶ声がする。

 芽榴は来羅越しにその人物を見て目を細めた。


「お父さん……」

「え?」


 芽榴がため息混じりに言うと、来羅も反応して振り返る。見れば、人の良さそうな男性と可愛らしい雰囲気の女性が立っていた。


「もしかしてるーちゃんのご両親?」


 来羅が尋ねると、芽榴は頷いた。


「お父さん、お母さん。生徒と教師以外はここ立入禁止区域だよー。せっかく線引きしたのに意味ないじゃん」


 芽榴が困ったように言うと、重治は「すまんすまん」とゲラゲラ笑った。


「芽榴ちゃん。お隣の美少年はどちら様?」


 芽榴に駆け寄った真理子は目をキラキラさせながら問う。真理子はその若い見た目だが、年相応に韓流ドラマにハマるミーハーで「イケメンは国宝」がキャッチフレーズだ。


「生徒会役員の柊来羅くん」


 芽榴が片手で来羅を指し示すと、来羅は重治と真理子にペコリと頭を下げた。


「はじめまして。芽榴さんにはいつもお世話になってます」


 礼儀正しく挨拶する来羅に真理子は目をハートにし、重治は「圭がいなくてよかったなぁ」などと苦笑していた。


「ちなみにお母さんのタイプであろう男子が……ほら、演舞してるよー。ここはダメだからあっちへ急いだらー?」

「あら、本当。急いで見に行きましょ!」


 真理子は一層目を輝かせ、芽榴の指差した方向にスキップで向かった。


「お父さん。早く行かないとはぐれるよー」

「あんなハイテンションな真理子は見つけなくとも見つかるさ」

「確かに」


 それから重治は芽榴の出場する種目を改めて確認し、少し来羅と世間話をした。


「じゃあ、芽榴。仕事頑張れよ。柊くん、芽榴を頼んだ」


 来羅はもう一度頭を下げ、芽榴はヒラヒラと手を振る。重治は人混みに紛れて見えなくなった。


「わざわざ見に来てくれるなんて優しいご両親ね」

「今年が初めてだけどね。来羅ちゃんはー?」


 芽榴が尋ね返すと、来羅は少し罰が悪そうな顔をした。


「去年は来たけど……。この格好だし、今年は来ないかな。ウィッグつけてたら来てくれるかもだけど」

「……?」


 芽榴が首を傾げるが、対する来羅はニコッと笑うだけ。芽榴は少しの違和感を覚えるが、来羅の態度がいつもと何一つ変わらないため、芽榴はその違和感を頭の隅に追いやった。


「それにしてもるーちゃんのご両親はるーちゃんが大好きなのね。ヒシヒシと伝わって来たわ」

「そうー?」

「うん。幸せな家庭で育ったんだなぁってるーちゃんとご両親見て納得」


 来羅が言うと、芽榴は目を見張り、来羅の腕を引っ張った。間近にある芽榴の瞳はキラキラしていた。


「ほんと?」

「うん……?」

「やったー」


 芽榴は来羅の腕を離し、前を向いて微笑んでいた。来羅にはよく分からないが、芽榴の嬉しそうな顔を見ていたら自分まで嬉しい気持ちになっていた。


「るーちゃんはある意味魔性ね」

「え?」


 芽榴が来羅に視線を向けると、背後で声がした。


「あ、いたいた。芽榴!」


 振り返れば、舞子が走ってくるのが見える。


「舞子ちゃん。どしたのー?」

「百メートルの召集かかったわよ」


 舞子が言うと、芽榴は遠くに見える時計に目をやった。思ったより長居していたのだなと思いながら、芽榴は来羅に視線を戻した。


「というわけで、それではー」

「うん。応援してるわ」


 芽榴は来羅をおいて、舞子に駆け寄って編成場所へと歩きだした。


 舞子はチラッと後ろを振り返り、芽榴に耳打ちする。


「芽榴。あの人誰? 同じ学年にいたっけ? あんな人。一度見たら忘れなさそうな顔だけど……」


 芽榴は来羅がさっき言っていたことを思い出した。本当に気づかないものなのか、と芽榴は少し驚いた。


「あれ、来羅ちゃん男バージョン」

「え!? あれ柊来羅なの?」


 舞子が背後に視線をやれば、芽榴も同じように視線を向ける。


「男の姿も様になるのねぇ」

「ねー」


 来羅はすでに数人の女子に囲まれている状態だった。いつもは男子に囲まれているところしか見ないため、それはそれで新鮮な光景だが、来羅はあまり嬉しそうな顔ではなかった。


「さっきまでとは一変して冷酷なお顔ねぇ」

「へ?」


 芽榴が自分の顔を押さえると、舞子は「あんたじゃないわよ」と呆れぎみに否定した。


「柊来羅もちゃんと男だったって話」

「……?」


 芽榴は舞子のセリフの意味が分かったようで分からなかった。

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