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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
体育祭編
27/410

19 体育祭と美少年

「これより麗龍学園体育祭を執り行います」


 記者会見のようなフラッシュの嵐の中、颯の声で告げられた一言により、体育祭が始まった。


 開会の挨拶だけでここまでシャッター音が聞こえる体育祭などあるだろうか。

 テントの脇に立っている芽榴は半目で笑っていた。


「すごいフラッシュだねー」

「うん。少し目が痛いよ」


 困り顔で片目を瞑る颯は風雅とは違う次元で見惚れてしまう。芽榴が思うということはもちろん他人も思っていることだ。壇上を降りた颯だが、テントの外ではいまだシャッター音が鳴り響いていた。


「芸能人並みだねー」

「これでそんな例えを使ってしまったら、あいつはどういう次元になるんだい?」


 ククッと笑いながら颯が呟く。颯の視線の先を見て、芽榴は確かに、と納得した。


「きゃぁぁああああ!」

「風雅くぅん!」

「こっち見てぇぇ!」


 風雅の登場にグラウンドが騒がしくなる。


 プログラム1番は各団長によるエール交換だ。


 風雅は赤を貴重とした豪華な着物を纏い、三人の団長の中で一番その風格を漂わせていた。古代日本の貴族を思わせる格好は風雅によく似合っている。


 風雅が片手を挙げ、手を振ればテントの中の生徒はもちろん、外部からの来訪者の女性も老若問わず目をハートにさせていた。


「さすがはイケメンー」

「その発言は妬けるね」

「は?」


 芽榴が固まると、颯は「どうしたの?」と笑った。余りに颯が清々しい笑みを浮かべるため、芽榴は自分の聞き間違いだということでスルーすることにした。


「じゃあ、芽榴は次の配置に移って」

「りょーかい」


 颯の指示に頷き、芽榴は小走りでグラウンドの端へと向かった。






 芽榴の次なる仕事はグラウンドの線引きだ。先ほどの風雅で分かったように、人がトラック内に入り兼ねない状態であるから、この作業は割と重要なのだ。


「えっと……どーしよ……」


 芽榴は頬のあたりをかく。芽榴が線引きしたい場所にはちょうど風雅ファンと思しき華美な女性たちがいるのだ。体育祭というのに汗をかく気がないといわんばかりに気合の入ったメイクをしている。

 芽榴は日焼け止めを塗っただけの肌と無造作に縛った自分の髪を見て、自分の女子力の無さに愕然としてしまった。

 しかし、今はそういうことを気にしている場合ではない。


「あのー……線引きしたいんですけど…」


 芽榴は恐る恐る尋ねる。案の定、芽榴は睨まれてしまう。つけまつげで威圧感の増した女生徒は芽榴の顔を見てあからさまに嫌悪を示した。


「あぁ、あんた。何? ここが一番風雅くん見えるんだけど、邪魔って言いたいの?」


 強気で「はい、そうです」と言いたいところだが、怒気を含んだ相手の声音に芽榴はひるんだ。


「あー、少し下がってもらえればそれでいーです」


 芽榴は我ながらすごく譲歩したと思う。しかし、女生徒たちはそれすら気に入らないようで。


「は? 好きに見せてもくれないわけ? あんた、ズルして生徒会に入って風雅くんに近づいてるくせに私たちには下がれっていうの?」


 どこから訂正すればいいか分からない発言に芽榴は目を細める。


 背後ではまだ三年生の団長の演舞が行われているところで、風雅の出番は来ていない。女生徒たちのためにも今のうちに済ませたいことなのだが、このままでは事が進まない。


 芽榴は深呼吸をして口を開いた。


「これは役員の仕事なんで!」


 芽榴は風雅ファンを押しのけて線引きに取り掛かる。


「ちょっと、あんた!」

「やめなよ、みっともない」


 芽榴が女生徒に肩を掴まれると同時、それを制する声があがった。

 芽榴は聞き知った声に安堵し、振り返る。しかし、自分の予想していた姿ではないため芽榴は目を丸くした。


「仕事してるんだから文句言うのはおかしいでしょ?」


 風雅ファンに冷たい視線を送る人物は美少年という言葉がピッタリな男の子だ。

 赤いハチマキをして、学ランを着ている。つまりは同学年の応援団だ。


「あ、あの、違うのぉ、ちょっと勘違いしちゃっててぇ。あ、お仕事の邪魔してごめんねぇ」


 さっきとは一転した態度を見せる風雅ファン。その姿に美少年は一層気分を害したような顔をしてみせるが、彼女たちはそれに気づくわけもなく、最後まで媚びるような仕草を見せた後、風雅が見える別の場所へと移動した。


「……本当、あぁいうの大っ嫌い」


 美少年は自分に媚びていた女生徒たちが今では風雅のことを見て叫んでいるのを見ながらポツリと呟いた。


「ありがとー。来羅、〝ちゃん〟でいい?」


 芽榴が笑いかけると、美少年は驚いた顔をしている。


「え」

「あー、やっぱり今は〝くん〟のほうがいい? 格好的に」

「いや、どっちでもいいけど。……よく分かったね、っていうか驚かないの?」


 来羅は少し焦りぎみに返した。

 金色の長い髪は綺麗なパープルを帯びたショートヘアになっていて、普段の来羅とは全く別人だ。学ランを着て、まさに男の装いなのだから普通に考えて来羅だとは判断できない。


「うん、ちょっとビックリした。髪型変えたのー?」


 予想していたより驚かない芽榴に対し、来羅は残念な反面、少し嬉しそうだった。


「こっちが地毛。いつものはウィッグなの。今年は激しい演舞だからウィッグはつけなかったの」

「あ、なるほどー」


 芽榴がポンッと両手をうつ。


「今のところ私だって気づいたのはるーちゃんだけよ」

「え、そんなことないでしょー。髪型と格好が違うだけだからすぐ分かるよー」


 芽榴がキョトンとした顔で言うと、来羅は固まった。芽榴が「どうしたのー?」と不思議そうな顔で尋ねると、来羅はハッとして「ううん」と嬉しそうに笑う。


「風ちゃんファンって。女装のときの私には見向きもしないけど、こっちの姿だとこんなにも扱いやすいのね……。るーちゃん助けられたのはラッキーだったわ」

「本当、助かりましたー」


 芽榴は来羅に頭を下げ、線引きを始めた。

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