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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
修学旅行編
235/410

210 スキー場と雪玉《林の中side》

 それは芽榴たちがスキー場について従業員から説明を受けている頃に遡る。スキー場の一角――人一人を隠せるくらいの太い幹の木の下に彼らはそれぞれスタンバイしていた。


「何が楽しくてスキー場に来て林の中に隠れなきゃいけないんだよ? 聖夜」


 幹に背を預けて座る慎は笑いながらそんなふうに愚痴ってみせる。わざわざスキー場までやってきたならスキーがしたいというのは慎に限らず普通一般的な意見ではある。けれど隣の幹に隠れている主人はそんなことを気にすることなく背後に広がる雪場の様子を伺っていた。


「我慢せぇよ。ヤツらが気抜かしとるん見計らって、さらうっちゅう作戦なんやから仕方ないやろ」

「何が仕方ないんだよ。最初、麗龍の修学旅行についていくって聞いたときはマジで笑ったぜ?」


 慎がそう言うと、聖夜はプイッと他所を向く。麗龍の修学旅行に潜入するため少しばかり休暇をとれるよう、昨日までに全仕事を終わらせてきた聖夜の頑張りなど知っているのはおそらく慎くらいだ。


「まあ、頑張った分の褒美は欲しいよなぁ? 聖夜ちゃん」

「その呼び方やめろ言うとるやろ。……てかお前は何を作っとんのや?」


 聖夜は自分をからかう相棒を睨みつけるが、すぐにその視線は彼の手元に向かう。現在慎はおにぎりを作る要領で一人せっせと雪玉を作っているのだ。おかげで彼の前には雪玉の山ができている。


「なんつーか、馬鹿男くんもいるってことは、聖夜が楠原ちゃん奪取すんの待ってる間にイライラすること間違いなしじゃん? だからイラッときたら投げ散らかしてやろうと思って」


 そう言って慎は作りたての雪玉を聖夜へと投げる。もちろん軽く投げたため、聖夜が反応してそれをかわすのは簡単だった。


「アホ。誰に投げとんねん」

「いいじゃん。聖夜の暇に付き合ってやってんだからさ?」


 慎がケラケラと笑い、聖夜は木の幹に深く背を預けて白い息を吐き出した。


「お前振り回すんは申し訳ない思うけど……今回は許せや」


 珍しく聖夜が素直に謝るため、慎は面食らった顔をする。けれどすぐにその言葉の意味が分かって、慎は薄い笑みをこぼした。


「らしくねぇこと言うなよ。聖夜のわがままに付き合えんのは俺くらいなんだからさ」


 慎はそう言って再び雪を集めて雪玉作りを再開した。



 そんなふうにして暇を弄びながら、芽榴たちが来るのを待つこと数十分。待ちくたびれた頃に、やっと芽榴を含む4人組が聖夜たちの潜む林の近くのリフトまでやってきた。


「有ちゃん、おいてかないでよ?」

「もちろんです。というか、別に僕は滑るの速くないですよ」


 カップルのような会話をしながら来羅と有利が現れ、慎は有利のことを羨ましく思いながらどストライクな顔の来羅を拝んだ。


「かぁー、今日も可愛いねぇ〜」

「静かにせぇよ」


 そう言って聖夜は慎から譲り受けたいくつかの雪玉のうちの一つを慎に投げつける。聖夜は本気で投げるが、やはり慎には当たらない。


「おいおい、俺が作った雪玉無駄使いすんなって〜。その調子だと肝心なときに無くなるぜ?」

「いらんわ、こんなん」


 聖夜はそう吐き捨てて、木の幹から慎重に顔を出す。すると、来羅と有利の背後から待ち人である芽榴が見えた。隣に翔太郎の姿もあり、一瞬雪玉を掴む聖夜だが、まだ芽榴に触れていないからという理由で踏みとどまった。


「ほらな、さっそく使いそうになっただろ?」


 自分の作った雪玉を使いそうになった聖夜を見て、慎は満足げに笑みを浮かべる。その顔にイラっときて聖夜は翔太郎に投げるはずだった雪玉をもう一度慎に向かって投げた。けれどやはり結果は変わらない。


「あのな、聖夜。こういうのにはちゃんと使い道があるんだって」

「誰に投げても一緒やろ」

「いやいやスッキリ感がだいぶ違うぜ?」


 慎がそう言って笑顔で目の前の雪玉を一つ掴む。すると芽榴たちのいる方から「芽榴ちゃーん」と慎の宿敵の声が響いた。


「あぁーきたきた。カッコつけ馬鹿が」


 そんなふうに言って慎はリフト組に合流した風雅を睨む。慎も得意とするスノボを持っているところが慎の苛立ちをアップさせたらしい。


「芽榴のやつ、クラスの女子とおればええものを。どないして役員とおらなあかんねん。周り男ばっかやないか」

「聖夜、それ彼氏のセリフだぜ? それもかなり束縛激しいやつな」


 リフトのそばにいる5人の様子をうかがいながら、慎は聖夜の発言に軽いツッコミをいれる。すると聖夜は言葉に詰まり、恨めしげに慎のことを睨んだ。

 しかし、そんな聖夜の反応そっちのけで、慎はリフト組に意識を集中させ、雪玉を片手に楽しげな笑みを浮かべた。


「芽榴ちゃん、オレの滑り見ててくれたんだ!? どうだった? 上手く滑れてた?」


 慎の目当ての相手がそんなふうに言って、芽榴へと近づいていく。その手が芽榴に触れようとした瞬間、慎は持っていた雪玉を勢いよく投げた。そしてその雪玉は見事に彼、風雅の顔へとヒットする。


「さすがナイスコントロール、俺」


 慎は楽しそうに笑いながら、山積みになっている雪玉をもう一つ掴む。


「ガキか、お前は」


 そんな慎を呆れるように見つめる聖夜だが、次に聞こえてきた声に彼は敏感に反応した。


「北海道に着いてから……何か、嫌な空気を感じるんだよね」


 聖夜はその声を聞いて、彼らに姿が見えないよう気を配りながらリフト組へと視線を向ける。すると、そこには彼の予想していたとおり神代颯が追加されてしまっていた。それもどうやらこちらの様子に気づいてしまっているようで、聖夜にとってこれ以上面白くない話はない。


「なんであいつまで来るんや。慎、お前が雪投げて目立つからや、アホ!」

「八つ当たりすんなって。つか、あの様子じゃ会長さん最初から気づいてたんじゃん?」

「んなわけあるか! ……って、あいつ何芽榴に触っとんねん、クソ!」


 慎に八つ当たりして聖夜が視線をそらしているうちに、颯が芽榴の腕に触れていた。一気に思考がフル回転した聖夜は慎が嬉しそうに笑っていることにも気づかずに、慎からもらった最後の雪玉を苛々の的に向かって投げつけていた。


 けれど颯は聖夜の投げた雪玉をあしらうように片手ではらってしまう。その仕草にイラっときた聖夜は隣でニヤニヤしている慎を睨みつけた。


「何もスッキリせんやないか! 苛立ち増したで、アホ!」

「会長さんが避けるのうまいからじゃん? あるいは聖夜の投げ方がへ」

「その先言ったら許さんぞ……」


 ついにはそんな仲間割れが始まる。しかし同時に向こう側でも話は進んでおり、颯から「いい加減出てきたらどうだい?」と言葉がでてくると、聖夜と慎は口論をやめて顔を見合わせた。


「ま、要は楠原ちゃんをゲットできればいいんしょ?」

「できんかったら破門や」


 役員に気づかれずして芽榴を攫う予定だったが、作戦変更。初詣同様に真正面から役員とぶつかって芽榴を奪うことにした聖夜と慎は、颯の言葉に導かれるようにしてゆっくりと腰を上げるのだった。

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