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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
修学旅行編
234/410

210 スキー場と雪玉

「うはーっ、超気持ちいいぜーっ!」


 昼食を終えて、生徒たちは宿泊施設からそう遠くないスキー場へとやってきた。

 従業員の人から軽く説明があった後、初心者以外の人は自由に滑っていいということになり、さっそくリフトに乗って上から滑り降りてきた滝本がそんなふうに叫んだ。


「滝本くん、上手だねー」

「まあ、運動神経くらいでしょ。あいつの取り柄は」


 混雑を避けるため、生徒の流れが分散するまで下で待っていることにした芽榴と舞子は上手に降りてきた滝本を見てそれぞれ呟く。以前、教室で自慢していただけあって滝本の滑り方は綺麗だった。


「植村、聞こえてんぞ!」


 滝本は舞子のほうをビシッと差して指摘する。かなりの地獄耳だ。


「だって事実じゃない? あの人たち見てみなよ」


 舞子は肩を竦めながら、詰め寄ってくる滝本に丁寧にその例を指し示して教えてあげる。

 滝本と同じように、舞子の指の先を視線で追った芽榴は「あー」と納得しつつ苦笑した。


「きゃあーっ! 神代くんが滑ってる!」


 ご丁寧に他の女子も芽榴の視線の先にいる人物が誰なのかを教えてくれている。

 芽榴の視線の先、リフトで頂上まで上がった颯が滑り降りてきていた。滝本もうまかったが、やはりイケメンがスキーを上手に滑るのとではワケが違う。


「はいはい、どうせ世の中イケメン様が一番なんだよ」


 開き直った滝本が口を尖らせながら世の中の悲しい現実を口にした。ただ滑っているだけでもイケメンならば褒め称えられる。

 そしてその象徴たる男子がもう一匹、否、もう一人、上から降りてきた。


「風雅くんだ」

「……スノボ姿も様になるなぁ」


 元風雅ファンクラブがいる手前、女子生徒は前ほど風雅を見てもうるさく騒ぐことはなくなった。けれどカッコイイものはカッコイイので、コソコソとそんなことを言いながら女生徒たちは頬を染める。


 そんな周囲の様子を感じながら、芽榴もスノーボードで雪の上を自由に動き回っている風雅に視線を移した。だいたいがスキーをしている中で、スノボをしていればただでさえ目立つのに、それが風雅となると尚更だ。


「スノボかー」

「難しそうなのに、風雅くんもすごいわ」

「風ちゃんってば、カッコつけちゃって」


 舞子とともに颯と風雅が滑り降りてくるのを見ていると、来羅が芽榴の隣に歩み寄ってきた。芽榴と舞子は自分たちの隣に並ぶ来羅に視線を向け、同じスキーウェアを着ているというのにどうしたらここまで可愛く見えるのかと半目になる。


「るーちゃん、と植村さんも上が空くの待ってる感じ?」

「うん、そんな感じー」

「じゃあ、私も一緒に待たせて?」


 ニコリと可愛らしい笑みで言われ、芽榴は「これが男子なら悩殺されること間違いなしだ」などと心の中で思いながら「いいよー」と返事をした。

 けれど芽榴と来羅の隣にいる舞子はその場に居づらいことこの上ない状況なわけで。


「あ、芽榴」

「んー?」


 芽榴がキョトンとした顔で舞子のことを見る。舞子がここにいるのが当然というような顔を見て、舞子は困ったように肩を竦めた。


「私は滝本にスキー教えてもらうから、柊さんと一緒に待ってな」


 舞子はもっともらしい言い訳を口にする。舞子がそう言えば、芽榴に疑う余地はない。好きな人と一緒にいたいと思うのが恋する乙女の心境だと真理子からも聞いているため、ここで引き留めるのは野暮だと芽榴は判断した。だから芽榴は笑顔プラス両手ガッツポーズで舞子を送り出した。


「滝本ー、スキー教えて」

「いいけど、俺厳しいぜ?」


 最近では舞子と滝本もいい雰囲気になりつつある。といっても、何かあればすぐに口論が始まってしまうところは相変わらずなのだが。

 そんな2人の様子を芽榴が微笑んで見つめていると、隣に立つ来羅が少しだけ罰の悪そうな顔をした。


「あらら、植村さんに気を遣わせちゃったかなぁ」

「え?」


 芽榴は来羅の顔を見る。すると、来羅はクスリと笑って芽榴の鼻にチョンッと触れた。


「鼻赤くなってる」

「あー、寒いからかな?」


 来羅に指摘され、芽榴は自分の鼻を押さえる。温めようとするも手につけているグローブ自体が冷たくて意味がなかった。

 無駄だと知り、芽榴が再び顔から手を離すと、後ろのほうから「楠原」と芽榴を呼ぶ声が響いた。


「はいー……うがっ」


 声のほうを振り返った芽榴はそんな変な声を出してしまう。それも仕方のないことで鼻と口に何かを押し付けられているのだ。


「ぷはっ。あ、カイロだー」


 相手の手が退き、芽榴は自分の顔面に残されたカイロをキャッチする。そして、そのカイロの持ち主である長身の男に目を向けた。


「葛城くん、貸してくれるのー?」


 芽榴がそんなふうに尋ねると、目の前にいる翔太郎は他所を向いて「俺は寒くないからな」とぶっきらぼうに言った。


「うわぁ、翔ちゃんが紳士になってる。びっくり」

「貴様は余計なことを言うな」


 来羅が目を細めて笑い、翔太郎はうんざりしたような顔でそんな来羅のことを睨み返す。

 そんな感じでいつものように喋っていると、芽榴たちのところに有利がやってきた。


「みなさん、まだ滑ってないんですか?」


 有利はすでに女子の黄色い声を浴びながら一度滑り降りた後らしい。芽榴はさっき来羅にしたのと同じ説明を有利にもしてあげる。


「でもそろそろ人もばらけて、上も空いてきてるみたいですよ。一緒に滑りません?」

「あ、賛成。るーちゃんと翔ちゃんも行きましょ?」


 有利の誘いに来羅が賛成し、誘われた芽榴と翔太郎も頷いた。

 そうして4人でリフトに向かっていると有利が少し歩みを遅くして芽榴の隣に並んだ。


「楠原さん」

「んー?」

「さっきの件、今日明日は先約があるから無理ですけど、他の日なら大丈夫そうです」


 コソッとそう耳打ちされ、芽榴は有利の言う「さっきの件」が枕投げの件だと理解した。さっそく班の人に聞いてくれた有利に、芽榴は「ありがとー」と笑顔を返す。


「なになに? るーちゃんと有ちゃん、内緒話?」

「え、あー……」

「内緒話です」


 もともと芽榴の隣を歩いている来羅が詮索するも、有利がそんなふうに隠すことなく内緒宣言をしてしまい、来羅は「ずるいなぁ」と苦笑した。


「楠原はスキーもできるのか?」

「たぶん、人並みにはー」


 顔だけ振り返って翔太郎が尋ねてくる。芽榴はそんなふうに答えるが、もちろん彼女の運動神経から考えてスキーも人並み以上の腕前だろう。


「長野にいたころ、圭に連れられて行った以来だけどねー。葛城くんは?」

「俺も前に父親と行った以来だからな……人並みに滑れるかも怪しいくらいだ」

「とかいって難なく滑ってそうだけどねー」


 そんなふうに会話をしながら4人でリフトまでやってくると、後ろからザッザッと勢いよく雪を踏む音がどんどん近づいてきた。


「芽榴ちゃーんっ」


 芽榴の名を叫びながら、風雅がスノボ片手にただでさえ歩きにくい雪場を走ってきた。


「風ちゃん、転けるわよ?」

「子ども扱いしないでよ!」


 来羅の忠告に、風雅が唇を尖らせながら文句を言う。そうして風雅は4人の元にたどりついた。


「みんなで滑るの? だったらオレも混ぜて!」

「いいけど、私たち蓮月くんみたいにスイスイ滑らないよー?」


 芽榴は優しい声音で風雅に伝える。ついさっき翔太郎と「久しぶりだからゆっくり滑ろう」と話していたところだったため、翔太郎も芽榴の意見に頷いていた。

 けれど、風雅は彼らしく芽榴の意見をまったく違う角度で捉えているのだ。


「スイスイって……。芽榴ちゃん、オレの滑り見ててくれたんだ!? どうだった? 上手く滑れてた?」


 目を輝かせながら風雅が芽榴に近寄ってくる。そのまま芽榴の肩に手を乗せようとした風雅だが、次の瞬間、雪玉が彼の顔面に直撃した。


「いった! ぶはっ!? 有利クン!?」

「いえ、僕じゃないです」


 雪玉が飛んできた方向にいるのは有利だ。けれど有利は彼自身その雪玉がどこから飛んできたのか不思議そうな顔をしている。その顔が嘘じゃないと分かるため、風雅は不思議そうな顔をしながら自分の顔についた雪を払った。すると、風雅の後ろから静かで恐ろしい声が響く。


「北海道に着いてから……何か、嫌な空気を感じるんだよね」


 そんなふうに言って若干不機嫌な様子の颯も芽榴たちのところへやってきた。颯の視線は有利――詳しくは有利の後ろに広がる林の中に向いていた。


「嫌な空気?」


 合流して早々、謎めいたことを言う颯に来羅は首を傾げる。他のメンバーもはてなマークを頭に掲げるが、ただ一人芽榴だけは颯の言いたいことが分かってしまった。


「あー……」

「貴様は心当たりがあるのか?」


 心当たりというべきかは分からないが、北海道に着いたときに芽榴がなんとなく誰かに見られているような感覚を気にしたのは確かだ。


「でも気のせいってことも……」

「ないよ」


 即答されて芽榴がハハハと笑うと、今度は颯に向かって雪玉が飛んできた。もちろん風雅とは違って、颯がそんなものに当たるはずもない。

 自分のほうへと飛んできた雪玉を片手で受け止めた颯は大きなため息を吐いた。


「……いい加減出てきたらどうだい?」


 颯は雪玉が飛んできた木の陰に向かってそう告げる。


 颯の声に導かれるまま、芽榴たちが恐る恐るそちらに視線を向けると、林の中から芽榴の予想通りの人物たちが現れた。

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