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206.5 職員室と大討論

シリアスモードから一変

コメディタッチの幕間です。

 三が日も終わり、社会人は仕事が始まる。冬休みなんて幸せな休暇期間のある学生たちをうらやましいなどと思いながら、麗龍学園の教師陣も例外なく冬休み明けのテスト作成やら授業準備のために学園へと赴いていた。


「もうすぐ彼らも3年生――受験生ですか」


 そしてここ麗龍学園高等部、2学年棟の職員室はとある話で盛り上がっていた。


「今年は大学合格率が楽しみですなぁ」


 優秀な生徒会役員の在籍している現2年生は、学園の希望に等しい。今年の受験生もそれなりにいい結果を出してくるだろうが、教師陣の思考は今受験を目前としている3年生よりも受験を来年に控えた2年生――特に生徒会役員に向かっていた。


「役員の中でも蓮月は心配ですけどねぇ。新藤先生」


 颯のいるA組担任、中井先生が風雅のいるB組担任、新藤先生に困ったような視線を向ける。するとB組担任の新藤先生は頭を抱えて机に頭を伏せた。


「けど、最近は結構頑張っているみたいじゃないですか」

「役員が勉強を見てるとか……いい傾向ですねぇ」


 C組担任、D組担任もそんなふうに言って「うんうん」と頷いている。彼らの前の机にいるE組担任の三浦先生は背後で鼻歌を歌いながらテストを作成しているF組担任の松田先生へと視線を向けた。


「蓮月といえば、日本史の点数が最近右肩上がりって聞きましたよ。松田先生」

「え? ああ、そうですね」


 松田先生は急に話をふられ、慌ててそんなふうに返事をする。キィーッと壊れそうな音をだしながら椅子を回転させて、学年の担任たちの会話にまざった。


「私もそれが気になりまして、聞いてみたところ、日本史はうちの楠原が教えてるらしいです」


 誇らしげに松田先生が鼻を高くして芽榴の名前を出す。芽榴の教え方が上手いからだと言うことで、暗にその担任である自分の凄さをアピールしてみる松田先生だが、他の担任たちは松田先生の言葉で別のことに納得してしまうのだ。


「うちの蓮月は単純ですからね。楠原が教えてるから勉強への気合いも違うでしょうよ」

「いっそ楠原さんが全教科見てあげるのが効果的なんじゃないですか?」


 B組担任の的確な風雅分析を耳にし、学年唯一の女性担任であるC組の鈴木先生が笑い声をあげた。


「楠原といえば、あいつは役員の誰と付き合ってるんですかね」


 そしてついに職員室を大討論会にしてしまう議題を投げつけたのは、有利の所属するD組担任、佐藤先生だ。

 佐藤先生の投げかけた疑問に真っ先に答えたのはさすがというべきか、松田先生だった。


「誰とも付き合ってないですよ。あいつはそこのとこ恐ろしいくらい疎いみたいですからね」


 やはり松田先生は自信満々に芽榴について語るのだ。その答えを聞いたA組担任の中井先生は「今のうちだけですよ」と言ってニヤリと笑った。


「あの楠原と釣り合うのはうちの神代しかいないでしょう。分かりきった話じゃないですか。あの2人を見ているだけで信頼しあっているのがヒシヒシと伝わりますよ」


 中井先生が自分のクラスの役員、颯を芽榴の彼氏候補と推測すると、次々に学年担任たちが自らの意見をぶちまけ始めた。


「いやいや、神代じゃ面白くないですね。うちの蓮月をいい方向に導いているところからしても、楠原と蓮月がうまくいけば高め合って成長する理想的な恋人関係になりますよ」

「そんな理想論つまらないですよ、新堂先生」


 風雅を推すB組担任に、C組担任の鈴木先生が「やれやれ」と言った様子でツッコミをいれる。そして彼女は女性ならではの視点で芽榴の恋人候補は自分のクラスの来羅だと言い始めた。


「柊さんの楠原さんを見る視線は絶対に男の目ですよ。女装してるだけあって柊さんとは楠原さんもよく一緒にいますし! 絶対お似合いですよ」

「でも柊は女装してますからないでしょう。というか女装をしていてほしいです」


 鈴木先生の意見に対し、個人的な意見を織り交ぜて突っ込んできたのはD組担任の佐藤先生。そしてもちろん、彼は自分のクラスの有利を推し始めるのだ。


「いいですか? 男は強さが一番の魅力ですよ。藍堂より強い男なんていますか? 絶対に守ってくれるだろうし、楠原も幸せですよ」

「肉体的強さは今時需要あるんですかねぇ」


 続いて佐藤先生の話に突っ込むのはE組担任、三浦先生だ。もうここまでくれば彼が誰を推薦するかは言うまでもない。


「客観的に考えてみてもですよ。葛城は女嫌いで、今のところ楠原以外無理じゃないですか? 役員のあの仲のよさからしても楠原くらい葛城に譲ってあげようってなりそうじゃありません?」

「何バカなこと言ってるんですか、三浦先生。恋は戦争ですよ!」


 熱くなったC組担任鈴木先生が三浦先生の甘い考えに喝をとばす。そんな感じで職員室では芽榴の恋人候補に関する大討論会が始まってしまったのだ。

 それぞれが理由と意見を述べ、自分のクラスの役員こそ芽榴にふさわしいと言い始める。この状況を簡潔的に言うと「余計なお世話」の一言に尽きるだろう。


 ポツンと置いてけぼりになった松田先生はその様子を半目で眺め、若干いじけ始めていた。


「松田先生!」


 そろそろ唇まで尖り始めるのではないか、と危惧された瞬間、やっと松田先生に話が回ってきた。


「「「「「松田先生は誰がぴったりだと思いますか!?」」」」」


 各々自分の意見を通すため、職員室内には現在同じ意見の人がいない。というわけで味方作りをしようと学年担任たちは松田先生に話をふってきたというわけだ。


「そうですねぇ……」


 特にたいした考えがあるわけでもないくせに、松田先生はそんなふうに言ってもったいぶる。そして学年担任たちがゴクリと唾を飲んだのを確認すると、松田先生はゆっくり口を開いた。


「楠原はあえて役員とはくっつかない、なんていう案も……」

「「「「「ないない」」」」」


 自分を優位に立たせる意見ではないと分かった瞬間、先生たちは松田先生の意見を切り捨てる。まだ言い終わらないうちに話を打ち切られてしまい、松田先生は「ぬぉーっ」とハンカチを噛んで悔しがる。が、ふといい案を思いついた松田先生はハンカチをポケットへと直して再び討論中の先生たちの会話に戻った。


「先生方……そんなに楠原の恋路が気になるなら学年担任全員で賭けてみましょうよ」


 どこでどんなときでも松田先生は芽榴で遊ぶのが好きなようで、そんなことを駄目元で提案してみるのだが、意外なことに担任たちの反応がいい。


「いいですね。私は神代に賭けますよ!」

「蓮月に!」

「柊さん!」

「藍堂でしょ!」

「葛城で!」


 学年担任たちがそれぞれ自分の推測する人物の名前をあげて賭けにエントリーする。もちろん主催者である松田先生も誰かに賭けないといけない。というわけでさっきの発言もあり、松田先生は「役員以外」に賭けることになった。


「絶対勝ってみせますぞ!!」


 余計なお世話もここまでくると逆にツッコミづらい。


 芽榴を賭けた争いは役員たちの中だけで留まらず、新年の職員室でも勃発してしまうのだった。

もしこんな生徒たちがいたら先生方も気になるのかな、と思ってツラツラと書いた次第です。

連日のシリアス話からの能天気話。

ちょっと別のときに差し込もうかとは思ったのですが、手が止まりませんでした!!


賭けに勝つのはどの先生でしょう!!といらない予告を毎度のことながら突きつけて失礼させていただきます。


穂兎ここあ

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