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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
霜花編
219/410

197 新年と全員集合

 役員御一行と合流した芽榴と圭は、とりあえず屋台巡りに向かおうとする。


「あれ。でも芽榴ちゃん、食べ歩き大丈夫?」


 ふと思い出したように風雅が声を上げた。夏祭りとクリスマスデートで芽榴が食べ歩きが苦手なことを知っている風雅はそんなふうに尋ねる。

 それを聞いた芽榴は風雅らしい気配りだなと思いながら、彼に笑いかけた。


「りんご飴くらいなら食べれそーだよねって圭と話してたとこ」

「あ、そうなんだ? ならよかった」


 風雅はそう言って安堵するようにニッと笑みを返す。そんな2人の隣では圭が興奮ぎみに憧れの有利と話をしていた。


「圭くんは武芸に興味があるんですね」

「武芸っていうか、スポーツ関連のことは全部好きなんすよ」


 そう言って圭は頭を掻く。実際問題、あまり剣道系は得意ではないのだが、観る分には好きなのだ。自分ができない分、できる人への尊敬も大きい。


「藍堂流の免許持ってる人がこのあいだテレビに出てたっすけど、もしかして知り合いとかだったりするんですか?」

「どうですかね。道場大会で手合わせをしたことはあるかもしれないですけど」

「マジっすか!?」


 藍堂流の免許持ちの人のほとんどと手合わせをしたことがあると有利が教えると、圭の興奮状態に拍車がかかる。


 そしてはしゃぐ圭と冷静な有利の前方では、来羅と翔太郎、そして颯がいつものように彼ららしい会話を繰り広げていた。


「翔ちゃん、おみくじ大吉だったのに初っ端から災難ね」

「まあ……『御籤みくじなんて、何が出ようと所詮たいした効果はない』なんて罰当たりなことを言ってしまったんだから、仕方ないと思うよ」


 新年早々女子に囲まれるという翔太郎にしては珍しい災難について、2人それぞれ意見を述べる。そのどの意見に対しても翔太郎は不機嫌そうにして眼鏡を押し上げた。


「事実、効果はないだろう。神代、貴様も大吉のようだがすぐに災難が降りかかるぞ」

「それはなかなか面白い予言だね」


 翔太郎の不吉な予言を颯は楽しげに笑って受け流す。一方、来羅は颯に起きる災難といえばどんなものがあるだろうと少しずれた考えに至った。


「颯に災難、ねぇ」


 そんなふうに言って、なんとなく来羅は頭を動かす。そして鳥居のほうが騒がしくなり始めていることに彼はいち早く気づいた。


「……。颯、と風ちゃん!」


 来羅は隣にいる颯の腕を引き、後方で芽榴と幸せそうに話している風雅に声をかけた。


「来羅?」

「オレ、何もしてないよ?」


 颯と風雅は不思議そうな顔で来羅を見るが、次の瞬間ほぼ同時に表情を険しくした。

 いまだ状況をのみこめていない芽榴たちは不審に思いながら辺りを少し見回す。そして来羅と同じように鳥居のほうを見て苦笑いをこぼした。



 鳥居の下は騒がしい。詳しくは鳥居の下にいる2人の人物プラス黒服のガードマン数名に視線を向ける庶民たちが騒がしい、というところだが。


「うっへ〜。こんな階段上ったの久々。いつも行く神社は石段ねぇのに」


 姿形言動すべてから軽いイメージが漂うその男は少しの嫌味を交えて隣の主人を横目で見る。


「しゃあないやろ。あいつが隣町の神社に来るわけないんやから」


 この神社に会いたい人がいるらしい関西弁の男は相棒に向かってそんなふうに言い訳をし、すぐ近くにいるガードマンの1人に声をかけた。


「おい。あいつ見つけたら俺に知らせろ。んでもって、俺が来るまで絶対その場から動かすな。一歩でも動かしたらお前クビやで」


 そんなふうに念押しをして命令する。本気でクビにするつもりはないが、それくらい真剣に探せということだ。


「ははっ、こんな場所で暴君なこと言ってっと罰当たるぜ〜?」

「うっさいわ。はよう参拝して、俺らもあいつ探すで」

「へいへい」


 そんな適当な相槌を最後に、2人は鳥居の内側に足を踏み入れた。

 さっきまで役員にのみ注がれていた熱視線がたちまちその2人――聖夜と慎にも分散する。彼らの場合はその容姿だけでなく、引き連れているガードマンも人の目を引いているのだ。



「なんであの人たち、わざわざ隣町まで来てるんだろーね」

「理由は簡単ですけど」


 半笑いで芽榴が呟くと、有利が冷静な声で言った。


 聖夜と慎の会話は、遠くにいる芽榴たちにはもちろん聞こえない。が、基本隣町にいる2人がわざわざ特に有名でもないこの神社に来る理由など、一つしかないことは分かりきっている。


「あれって……あーっ、琴蔵財ばふほひほはっ!?」

「圭くん、ごめんね」


 圭が彼らの名前を口にするより先に、来羅が圭の口を塞ぐ。しかし、来羅の策も虚しく颯と風雅は半目になっていた。


「へぇ……翔太郎の予言は当たるものだね。お前は占い師にでもなったほうがいいんじゃないか?」

「神代。奴らが来たのは俺のせいではない」


 隣で真っ黒な笑みを浮かべる颯に、翔太郎は恐れしか感じない。自分のせいではないと言っても、先ほど颯に向けた「災難が降りかかる」という発言を撤回したいと切実に思っているくらいだ。


「芽榴ちゃん、逃げようっ!」

「どこに?」

「あいつに見つからない場所っ!!」


 風雅が芽榴の顔を見つめて真剣に叫ぶ。そんな大声を出したら逆に気づかれてしまうのでは、と芽榴が危惧していると、その予感は現実となった。


「あ〜、よかった。あんたが今年も変わらずの馬鹿で」


 セレブの特権なのか、行列を飛び越えてさっさと参拝を済ませた慎が風雅の声に導かれるようにして芽榴たちの前に現れる。


「な、っ!」

「楠原ちゃん、あけおめ〜。その他も一応あけおめ」


 風雅の反応は無視して、慎はヒラヒラと手を振る。しかしそんなふうに戯けた態度を崩さない慎の頭を背後から現れた聖夜が叩いた。


「ってぇよ、聖夜」

「なんでお前のほうが先に挨拶しとんのや……」


 痛そうに頭を摩る慎を一瞥し、聖夜は目の前にいる芽榴を視界に入れて表情を柔くした。


「今年もよろしく頼むで」


 聖夜はそう言って、芽榴をこちら側に連れていこうと芽榴の腕に手を伸ばす。しかし聖夜が芽榴の腕を掴む前に、颯が芽榴の腕を引いて自分たちのほうに引き寄せた。


「すみません、琴蔵様。芽榴は僕たちと回る約束をしているので」


 颯はそのまま芽榴を翔太郎に引き渡し、芽榴を聖夜から隠すようにして自分が前に出た。

 その様子を見て、聖夜は他所を向いて舌打ちをする。しかしすぐに颯に負けず劣らずのにこやかな笑みを浮かべて口を開いた。


「これはこれは、神代会長ともあろう方が心の狭いことをおっしゃる。会いたい時にいつでも会えるあなたたちとは違い、僕は多忙で、今日くらいしか会いに来れない。良心的な方なら僕に彼女を譲ってくれると思うのですが?」


 外向き用の癇に障る標準語でもっともらしいことを語る聖夜に、慎は笑いを堪えて肩を震わせている。


「僕も相手が良心的な方なら、そのような遠慮もいたしますが」

「それはつまり僕が良心を持ち合わせていないと?」


 颯と聖夜は笑顔を絶やさない。しかし、2人のあいだには触れたら感電死してしまうのではないかと思うほどバチバチとした電気やら火花やらが飛んでいた。


「聖夜。人前だからって、んなことペラペラ喋っててもその会長さんには勝てねぇよ」


 終わりのない見せかけだけの交渉を始めようとする聖夜を止めようと慎が足を動かす。


「こういうときは力づくで……」

「冗談でもやめてよね」


 芽榴のそばに行こうとする慎の前に風雅が立ち塞がった。けれどそれも最初から予想済みだったようで、慎は楽しげにケラケラと笑う。


「へぇ〜俺から楠原ちゃん守ろうって? 賢明だけどあんた程度じゃ無理だろ」

「やって見なきゃわかんないよ」


 挑発するように慎は目を眇め、対する風雅は表情を険しくした。


「なんだなんだ……?」

「イケメンが固まってるー!」


 今にも喧嘩を始めそうな修羅場状態にあるイケメンたちに周囲の好奇は募っていく。


「有ちゃん、颯のほうよろしく。一応言っとくけど有ちゃんまで暴走しないでよ?」

「分かってます。柊さんは蓮月くんのほうを」


 合図を送り、有利と来羅がそれぞれ動きだした。有利は颯と聖夜のあいだに、来羅は圭のことを手放して風雅と慎のあいだに割って入る。


「ひ、柊先輩っ、俺も手伝います!」


 自分だけボーッとしてるわけにはいかないと思ったらしく、圭は来羅の後ろについて今にも喧嘩を始めそうな2人の元に行った。


「圭っ! 私も……っ」


 自分のせいで大変な事態になりかけているため、芽榴も止めに入ろうとする。しかし芽榴のことを任されている男子がそれを許さなかった。


「葛城くん、離して……って、ちょっと!」

「貴様がここにいても話がややこしくなるだけだ。来い」


 そう言って翔太郎は芽榴の言うことも聞かず、走り出す。

 事実、翔太郎の言うとおり、この事態は芽榴がいればこそヒートアップするのだ。


「ちっ」

「いい判断だよ、翔太郎」


 芽榴を連れていかれ、聖夜は舌打ちをする。走り去る靴音を聞きながら、颯は薄く笑った。


「あちゃ〜。だから言ったじゃん、聖夜」


 慎はそう言って聖夜と慎の後ろで構えている黒服に声をかける。


「聖夜のことなら俺がそばにいるから任せろ。それより、さっきの子追いかけてくんない?」


 冷静に指令を出して慎は目の前で暴れる風雅と、それを止める来羅と圭に目を向けた。


「来羅、圭クン! 離してっ! オレが簑原クンにギャフンと言わせてやるっ!」

「風ちゃん、落ち着いて」

「蓮月先輩、芽榴姉なら葛城先輩が連れて行きましたから!」


 風雅に声をかける圭を見て、慎の目が細くなる。


「楠原ちゃんの弟くん、か〜」


 圭と直接顔を合わせるのは初めてのため、慎はしっかり「初めまして」と自己紹介を挟み、ニヤリと笑みを浮かべた。その笑顔の裏に隠された言葉を読み取り、風雅の目が大きく開く。


「風ちゃん?」

「先輩……?」


 突然、動きを止めた風雅に来羅も圭も不思議そうな顔をした。けれど、それさえも分かっていたかのように慎はヘラヘラと笑っていて、それが風雅を苛立たせた。


「簑原クンっ!」

「あ?」

「ふ、風ちゃん!」


 風雅が慎に殴りかかるが、慎はそれを身軽に避ける。


「あんたの拳に当たってやるほど俺は優しくねぇよ」

「拳はね!」


 そう言って風雅はそのまま避けた慎の肩を掴み、頭突きを入れた。


「「っっ!!」」


 ゴツッと骨にまで響くような痛い音が響き、風雅は涙目で額を押さえる。さすがの慎も捨て身の頭突きは痛かったらしく額を摩り、眉を寄せて笑っていた。


「風ちゃん、何してるの」


 突然頭突きをかました風雅に、来羅が駆け寄る。周囲の野次馬はうるさく騒いでいた。


「来羅、あとよろしく」

「え?」

「圭クン、来てっ!」

「え……蓮月先輩!?」


 言葉通り、荒れた現場を来羅に任せて風雅は圭を連れて芽榴たちを追うようにその場を走り去る。


「風ちゃん!?」

「……あいつにしては、いい頭突きじゃん?」


 慎は風雅の背中を睨みながらそう言って笑っていた。


 一方、颯は隣ですでに事件が起きてしまったのを確認し、ため息を吐く。


「神代くん」

「有利。僕は大丈夫。芽榴が捕まっていない以上は冷静だから」


 颯は自分のそばに構えている有利に静かに言葉を告げた。それはつまり、芽榴が捕まらないようにしろということを意味している。


「葛城くんは裏工作専門ですからね」


 慎の命令で聖夜と慎の用心棒が芽榴捜索に動いた。翔太郎は有利の言うとおり、裏工作専門。肉体労働派ではないため、大人十人相手に戦うようなタイプではないのだ。


「頼んだよ」

「了解です」


 有利は木刀を携えて、追われ身の芽榴と翔太郎を助ける役へと回った。


「あぁ、かったるいわ。膝詰めれば、この喋りでも周りには聞こえへんやろ」


 周囲を気にして使っていた標準語にも嫌気が差したらしく、聖夜はそう言って颯に顔を近づける。額と額が擦れあうのではないかと思うくらいの距離で2人は睨み合った。


「今年も芽榴は渡さないよ」

「それはこっちのセリフや、ボケ」


 そうして、芽榴と翔太郎、2人を追いかける有利に、風雅と圭、来羅と慎、颯と聖夜、それぞれがそれぞれの場所で違う時間を刻むこととなった。

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