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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
霜花編
210/410

188 青薔薇と花言葉

役員との個人デートスタートです!

※読み返したときに芽榴ちゃんが食べながら歩けないことを思い出し、食べ歩きシーンをちょっと訂正しました!

 クリスマスの次の日は風雅とのお出かけ日。


 時間帯はお昼前。

 パーティーのときに風雅と決めた待ち合わせ場所、駅前のビルへと芽榴はやってきた。


 待ち合わせ場所に到着して約10分。ちなみに待ち合わせ時間の20分前だ。

 待たせるより待つ派であるため、待つことは全然苦じゃない芽榴だが、先ほどから周囲からの視線が痛く、時間が経つにつれてどんどん表情が強張っていく。


「変じゃない、よね……」


 今日は重治と真理子からクリスマスプレゼントでもらった可愛らしいモスグリーンのワンピースに、圭からもらった紺色のベレー帽を被っている。芽榴なりに頑張ってオシャレをしたのだ。もちろん昨日と同じように少しだけ化粧もして真理子にも圭にもバッチリといわれたのだが、実は似合っていないのではないかと不安になってくる。


 そんなことを考えながら溜息を吐く芽榴のところに、同年代くらいの数人の男子がやってきた。


「ねぇ、キミ。1人?」

「俺らと遊ばない?」


 見た目からしてかなり軽そうな男子たちが芽榴に声をかけた。所謂いわゆるナンパだ。

 その現場自体は度々目にしたこともあるが、自分が道端で経験するのは初めてであるため、芽榴は硬直した。


「え……あー、1人じゃないデス」

「えぇ、でも今は1人じゃん? すっぽかされてんじゃね?」

「俺らと遊ぼうよ」


 集団の中の1人が芽榴の腕に触れる。瞬間、近くで聞き慣れた声が響き渡った。


「うわぁーーっ! その子に触んないで!」


 茶色いサングラスにベージュのニット帽を被った風雅がダッシュで芽榴のところへと向かってきた。

 風雅の姿を確認すると、芽榴の表情が一気に柔らかくなる。


「は? もしかしてツレってあいつ……?」

「離してください」


 ナンパ男たちが風雅から遠ざけるように、芽榴の腕を引くため、芽榴は優しく言って彼らの腕を逆に掴み直した。芽榴の不審な行動にナンパ男たちの眉がマヌケに上がる。


「え?」

「だーかーらー……」


 芽榴はニコリと笑って、男の腕を捻りあげた。


「い、いててててててっ!! 離せ、離してくれっ!」

「はい、喜んでー」


 男の願いを受け入れ、芽榴はそのままパッと男から手を離した。あまりの痛さにナンパ男は涙目になり、仲間を連れて逃げて行く。「怪力女!」と捨て台詞を吐いていなくなった男どもを見送り、芽榴はそのまま視線を動かして風雅へと向けた。


「おはよー、蓮月くん。初っ端からお騒がせしてごめんねー」


 そんなふうに言ってヘラッと笑う芽榴に、風雅は苦笑しながら駆け寄った。


「おはよ。ていうか……オレが芽榴ちゃんのこと、助けたかったのに……」

「自分でやっつけちゃったー」


 カッコイイところを見せれるチャンスだったのに、またもや芽榴のほうがカッコイイことをしてしまい、風雅は泣き目で溜息を吐く。

 芽榴は風雅らしい反応を見て微笑み、すぐにキョロキョロと辺りを見回した。


「どうしたの?」

「珍しく女の子に囲まれてないねー」


 芽榴がキョトンとした顔で言うと、風雅は「あー」と言って今かけている薄色のサングラスを指差した。


「これつけてニット帽も被ってるから、あんまり顔とかわかんないみたいで今のところはそんなに話しかけられてないんだ。おかげで待ち合わせには間に合って……ほんとよかったぁ」


 風雅はそう言って、嬉しそうに笑う。確かに今の風雅は近くで見ないと目元は全然分からない。けれど雰囲気からすでにイケメンオーラが放たれているため、声はかけられてしまう。「そんなに」と言葉を濁したが、おそらく一般的に多いとされる人数には声をかけられているはずだ。


 それでも風雅の努力の結果、女子に囲まれるような事態にはなっていないため、芽榴はホッと肩をなでおろす。


「じゃあ、今日は安心して遊べるねー」


 芽榴が風雅に笑いかけると、風雅の頬が赤く染まる。同時に周囲を歩いている男性陣も芽榴のことを振り返っては頬を薄く染め始めるため、風雅は慌てて芽榴の腕を引っ張った。


「蓮月くん? えっと、どこ行くの?」

「芽榴ちゃん! オレとちょっとだけお話!」

「はい?」


 風雅の意味不明な発言に芽榴は首を傾げる。風雅に手を引かれるまま、さっきまで立っていた駅前のビルとその隣のビルのあいだの細い道に連れ込まれた。


「芽榴ちゃん」


 芽榴がキョロキョロしていると、風雅が芽榴の肩に手を乗せ、屈んで自分の背丈を芽榴の背丈に合わせる。真剣な顔をする風雅に、少し驚きつつ芽榴は「はい」と返事をした。


「いつもは確かにオレのほうが囲まれて芽榴ちゃんに迷惑かけちゃってるけど、今日は逆だから!」

「逆……?」


 芽榴が眉を顰めると、風雅は「そう!」と大きな声を出し、芽榴はビクッと肩を揺らした。


「さっき芽榴ちゃんがちょっと笑っただけで、みーんな芽榴ちゃんのこと振り向くんだよ! もう本当に困る! 芽榴ちゃんが可愛くなるの大賛成だけど、これは大反対!!」

「それは……どっちなの?」


 目の前で喚く風雅に、芽榴は苦笑しながら答える。自分でも言っていることが分からなくなった風雅は、一旦深呼吸をして精神を落ち着かせた。そして冷静になってもう一度真剣な顔で芽榴と向き合う。対する芽榴はゴクリと唾を飲んだ。


「だからね、芽榴ちゃん。みんなが見てるようなところで笑っちゃダメ!」

「それじゃあ、どこ行っても笑えないじゃん」

「う……っ」


 芽榴のもっともな意見に、風雅の声が詰まる。外を歩いていたら少なからず誰かの目には入ってしまうわけで、そうなると芽榴は笑うことができない。つまり風雅は芽榴に笑うなと言っているに等しい。でも風雅は芽榴の笑顔が見たくないわけではない。どちらかといえば終始見ていたいくらいだ。

 再び問題に直面した風雅は「うあーーっ」と泣き叫ぶ。


「蓮月くん、落ち着こーか」

「落ち着けないよ! どうしたらいいんだろう!」

「蓮月くん」


 一人で慌てふためき叫び倒す風雅に、今度は芽榴が冷静な声音で呼びかけた。芽榴の声を聞くと、自然と静かになるところは変わらず風雅の可愛らしいところだ。


「蓮月くんは私に笑いかけるとき、誰見てる?」

「え、そりゃあ、芽榴ちゃんを見てるけど」


 当然のことを聞く芽榴に、風雅は不思議そうな顔をするが、対する芽榴はその答えを聞いて「でしょ?」と肩を竦めた。


「私も同じ。蓮月くんに笑いかけてるときは蓮月くんしか見てないんだから、他の人なんて関係ないよ」


 その言葉に風雅が瞠目すると、芽榴は風雅のことだけを見て微笑んだ。その顔の可愛さと言ったら、少なくとも風雅の知る語彙では表現できない。


「あぁ……もう、芽榴ちゃんヤバイ」


 風雅は目を閉じてそう呟き、芽榴の手を引きながら細い道を出て行く。冷たい手で一生懸命顔を冷やす風雅がやはり可愛くて、芽榴はカラカラと笑った。






 そうして芽榴と風雅のデートが始まったのだが――。


「イヤ」

「なんで!?」


 先ほどからこの会話を幾度となく繰り返している。


 とりあえず風雅とは駅の近くにある人気のデパートでウィンドーショッピングや食べ歩きをすることに決まったのだが、この食べ歩きに際して問題が多発しているのだ。


 まず最初の問題は美味しいジェラートを食べるときに起きた。


 芽榴たちのいるデパートの地下に、美味しいと評判のジェラート店があるらしく、まずそこに向かったのだが、そこは女子が好きそうなとても可愛らしい造りのお店だった。


「芽榴ちゃん」

「何ー?」

「ここは姉ちゃんにオススメって言われただけで、オレもここに来るのは芽榴ちゃんが初めてだからね!」


 唐突に風雅がそんなことを言い出し、対する芽榴は少し驚いていた。何を隠そう、芽榴は今まさに「彼女と来たんだろーね」などとなんとなく考えていたからだ。


「読心術?」

「違う、けど……夏に時計塔の前で待ち合わせたらそんなこと言ってたから……。あー! もうやっぱり思ってたんじゃん。芽榴ちゃん、ヒドイよ!」

「ヒドイっていうか……そう思っても仕方ないよねー」

「う……っ」


 という口論を注文前に始める。はっきり言って周りから見たら美男美女の痴話喧嘩でしかないため「はいはい、ごちそうさま」という感じなのだが、その話は一旦置いて、問題というのはその口論のことではないのだ。


「芽榴ちゃん、何にする?」

「うーん……このブルーベリーのにしよっかなー」

「ふんふん。あとは?」

「あと……?」

「もう一つ選んで」


 風雅の発言に嫌な予感しかしないため、芽榴は目を細める。しかし風雅はとても楽しげなので、芽榴は仕方なくその店オススメの濃厚ミルクを指差した。


「すみません。ブルーベリーとミルクください!」


 芽榴が答えた瞬間に風雅が注文をして、店員さんはそんな風雅にデレデレしながら、やけに時間をかけて盛ったジェラートを彼に手渡す。


「はい、芽榴ちゃん!」


 とりあえず先に選んだブルーベリーを芽榴に渡し、ミルクのほうは風雅が持った。

 食べ歩きといっても芽榴が食べながら歩けないため、一応その辺りにあるデパートの休憩スポットの椅子に座って食べることになるのだが、そこで事件勃発。


「芽榴ちゃん、おいしい?」

「うん、おいしー」


 芽榴がスプーンを口から離してそう答えると、風雅が「オレもそれ食べたい」と言い出した。それは予想済みなため、芽榴はカップごと渡すが、風雅は受け取らない。


「蓮月くん……」

「あーんってして」


 予想に難くない発言がとんできて、芽榴はもちろん即答する。


「イヤ」

「なんで!?」


 風雅の「なんで!?」に対して逆に芽榴が「なんで」と聞き返したいくらいだ。風雅に芽榴が手ずから食べさせてあげる義理はない。


「蓮月くん、絶対食べさせたりしないから」

「一回だけでいいから!」

「手元狂って、鼻に食べさせちゃうかもしれないよー」

「それでもいいから!」

「よくないよねー」


 そんな口論を始めると、どんどんジェラートが溶けていく。せっかく美味しいのだから美味しいうちに食べたい。というわけで芽榴は渋々、ブルーベリーのジェラートを掬って風雅の口の中に突っ込んだ。

 それでも風雅は嬉しそうで、芽榴は困り顔でもう一度ジェラートに口をつけた。


「芽榴ちゃん、芽榴ちゃん」

「はいはー……っ!」


 何も考えずに顔をあげると、風雅がミルク味のジェラートが乗ったスプーンを芽榴にくわえさせる。唖然とする芽榴に対し、風雅は満足げにスプーンを芽榴の唇から離した。


「れ、蓮月くん!」

「ミルクもおいしいっしょ?」


 悪戯に成功した子どものように笑って、風雅は芽榴に尋ねる。芽榴は楽しげな風雅の笑顔に怒る気も無くして、困り顔で肩を竦めた。




 次の事件は美味しいタピオカドリンクがあるお店で起きた。風雅の誘導により、これまた可愛らしいお店にやってきたのだが、どうやらここは前の彼女と来て、美味しいと知ったらしい。


「へー」

「でも、オレが好きなのは芽」

「すみません、オススメどれですかー?」

「芽榴ちゃん、聞いてよ!」


 風雅が暴走して恥ずかしいことを言い出す前に、芽榴は注文を始めることにした。スルーされて泣き目の風雅はいじけ始めるが、芽榴が謝って「これオススメだって」と話しかけるとすぐに笑顔に戻った。


「じゃあ、このココナッツミルクください! ラブラブバージョンで!」

「はい、かしこまりました」

「は?」


 風雅と店員さんのやりとりに芽榴の顔が固まる。「ラブラブバージョン」という明らかに問題しかないようなサービスを付け加えられ、呆然としていると、にこやかな店員さんに〝ラブラブバージョン〟のタピオカドリンクをもらい、芽榴の目が死んだ。


「ここね、タピオカ用のストローが有名なんだって。カワイイっしょ?」

「アハハハハ、カワイーネ」


 1つしか頼まなかった時点でなんとなく想像はしていたが、芽榴の想像を超えるくらいラブラブ感溢れるカップルストローが突き刺さっているのだ。


「芽榴ちゃん、一緒に飲も」

「1人ずつ飲もうかー」


 風雅が言い終わる前に芽榴が告げる。すると風雅がまた「なんで!?」と涙目になった。


「飲み口せっかく2つあるのに!」

「ほら、距離が……」

「オレが芽榴ちゃんのほうに近づくから!」

「そういう問題じゃないよねー」


 結局、風雅の押しに負けた芽榴が一緒に飲んで事態は収集する。そのせいで顔を真っ赤にした芽榴を風雅が写真に収めようとしたが、それは芽榴が本気で「やめろ」と言ったため渋々諦めていた。





 そんな感じで完全に意味不明な会話を繰り広げながら食べ歩きが進んでいく。





「はー、お腹いっぱい」


 芽榴がそんなふうに言ったとき、時刻は夜の7時。そろそろ帰る時間だ。


「楽しかったね、芽榴ちゃん」

「ほんとにー」


 風雅の言葉に、芽榴はカラカラと笑って同意する。すると風雅は少し驚いた顔をして、次の瞬間には照れ臭そうにフニャンとだらしない笑みを浮かべた。


「芽榴ちゃん」


 次に風雅がそう呼びかけたとき、そこはまだ片付けられていない大きなクリスマスツリーの前。デパートの中心に飾られたクリスマスツリーは店内の明かりを煌びやかなデコレーションが反射してキラキラしていた。


「1日遅れのメリークリスマス」


 風雅は地面に片膝をつけて、芽榴の前に両手サイズの箱に入った一輪の青い薔薇の花を差し出した。


「枯れるのが嫌だったから……プリザーブドフラワーにしたんだ」


 風雅はそう言って幸せそうに笑う。一度は絶対に渡すことのできないと思ったクリスマスプレゼントを風雅は今、芽榴に渡せたのだ。


 そんな風雅の笑顔に、芽榴も笑顔を返す。

 そして芽榴は青い薔薇を受け取り、ふわりと風雅の前にしゃがみこんだ。


「蓮月くん、青い薔薇の花言葉って知ってる?」

「え……何?」

「不可能」


 芽榴がそう言うと、風雅の顔が一気に絶望的なものになる。


「赤いのに変えてくる!」


 風雅は芽榴の手からそれを取り返そうとするが、芽榴はヒョイと自分の後ろに隠して「続き聞いてよ」と笑った。


「青い薔薇はね、絶対に自然では生まれないって言われてたから昔の花言葉はそうだったんだけど……。でも今は青い薔薇もちゃんとできるようになって花言葉は変わったの」

「今の、花言葉は?」


 不安げに風雅が尋ね、芽榴は優しく微笑みながら青い薔薇の本当の花言葉を教えてあげる。


「奇跡」


 その言葉を聞いて、なぜか風雅の目から涙が落ちた。


「わ、ちょ、待って……」


 芽榴以上に風雅は自分でビックリして、サングラスを外して両目を覆った。


「大丈夫? ハンカチ……」


 芽榴が風雅にハンカチを渡すが、風雅は芽榴のハンカチではなく芽榴の手をギュッと握りしめる。


「蓮月くん?」

「ほんと……芽榴ちゃんは、オレにとっての奇跡みたいな子だから……」


 涙でくぐもった声で告げられる言葉に、芽榴は目を見開いた。


「出会って、こんなに好きになって……芽榴ちゃんのこと傷つけてばっかのオレなのに、それでも芽榴ちゃんは……そばにいてくれて……」


 風雅にとって、芽榴は本当に青い薔薇のような存在だった。欲しくて欲しくて探してやっと見つけた女の子。欲を言えば尽きない。でも本当に欲しかったものは手に入ったから――。


「芽榴ちゃんは、芽榴ちゃんの存在が、オレにとって人生最高のプレゼントだよ……」


 風雅は握りしめた芽榴の手に自分の額をのせた。


「芽榴ちゃんに出会えて……よかった」


 風雅の涙は芽榴の手に滴り落ちる。それでも芽榴にはそれを拭うことができない。風雅の言葉は芽榴にとっても嬉しすぎて、下手に声を出したら芽榴も泣いてしまいそうだった。


「蓮月くん」


 芽榴は深く息を吐いてバッグの中から風雅へのプレゼントを取り出した。


「これ、私からのプレゼント」


 風雅は芽榴から渡されたプレゼントに驚いて、涙が少し止まる。頬に涙の跡を残したまま、風雅はそのプレゼントを開けた。


 ラッピングされた袋の中から出てきたのは、風雅が愛用している練り香水。

 それを見て、風雅は目を丸くした。


「……よく、分かったね。この香りまで……」


 練り香水は普通の液体状の香水に比べて香りが薄い。自分だけが嗜む程度にしか香らないのが特徴で、だからこそ芽榴が香りまでピンポイントで当ててきたことに驚いた。


 風雅の問いかけに、芽榴は少しぎこちなく笑って頬をかいた。


「蓮月くん、前はよく抱きついてたでしょ?……いい香りだったから頭に残ってて。ちょうど見つけたから」


 芽榴の〝前は〟という単語に、風雅の表情が曇る。あの事件以降、風雅は芽榴に触れても抱きつくことをしなくなった。

 きっとそれは風雅が意識していることなのだと芽榴は察していた。


「蓮月くん」


 俯く風雅に、芽榴は明るく笑いかけた。芽榴は風雅のことを責めるつもりなんてまったくない。芽榴はただ、風雅に笑ってほしいだけだった。


「私にとってもね、蓮月くんは奇跡みたいな人だよ」


 そう言うと、風雅は即座に顔をあげる。いつ泣き出してもおかしくないくらい切なく歪む顔を、芽榴は優しい瞳で見つめた。


「蓮月くんに出会えてよかったって、心からそう思ってる」


 風雅の瞳からはやっぱり涙が零れ落ちた。芽榴になら泣き虫と言われても否定できないくらい、風雅はいつも泣いている。他の子の前ではカッコつけてばかりなのに、カッコつけたい芽榴の前では、情けないところしか見せられない。


「芽榴ちゃん……」


 それでも受け止めてくれる芽榴だからこそ――。


「好きだよ……芽榴ちゃん、大好きだ」


 風雅からそう言われるのはもう何度目かも分からない。けれど風雅は絶対に返事を求めない。拒絶の返事は聞きたくないから、いつか芽榴が「好き」と返してくれたとき、それが風雅の告白への返事になる。


 たとえその日が一生来なくても、この想いがどんな形に変わっても、風雅はきっと芽榴と出会えたことだけは後悔しない。


「蓮月くん、ありがとう」


 一輪の薔薇は「一目惚れ」を意味する。風雅が一目見て芽榴に選んだクリスマスプレゼントは本当に風雅らしいプレゼントだ。


「メリークリスマス」


 風雅にその言葉を返して、芽榴は柔らかく笑みを浮かべる。すると、風雅も芽榴の見たかった笑顔をやっと見せてくれた。



 ツリーの前にしゃがみこんで泣き笑う美男美女に、いつのまにか視線は集まっていて、芽榴と風雅は顔を見合わせて吹き出してしまう。



 名残惜しむように帰り道をゆっくり歩いた、楽しいデートだった。

甘くしたかったのに最後は切なくなったという……いかがだったでしょうか!

風雅くん、カワイイですね。それ以上に芽榴ちゃんがカワイイですけどね!!


体育祭編と文化祭編のイメージイラストも更新しましたー。


次回のデートは誰でしょう!というクエスチョンを残して執筆に戻ります。


穂兎ここあ

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