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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
生徒会動乱編
177/410

157 総選挙と証明

『……今しがた楠原さんが発表した通り、この場でさっさと選挙を済ませます』


 芽榴の後、ステージ上に立った颯は全校生徒の前で選挙について説明している。言葉の節々から颯の不機嫌は表れていて、颯はそれを隠す気がないらしい。


「『さっさと』……って」


 ステージの下で颯以外の役員と合流した芽榴は颯の発言に苦笑する。有利と翔太郎も芽榴と同じ表情をしていた。


「完全にキレていますからね」

「まあ、神代の気持ちも分からなくはないが……」


 翔太郎は溜息混じりに呟く。公の場でさえ不機嫌なままの颯など貴重だ。


「はあ……オレたちがいるの分かってても、芽榴ちゃんに文句言うなんて……。オレのせいって分かってるけど……あれはないよ。うん、ない」


 さっき選挙について文句を言っていた女生徒たちを思い出し、風雅はかなり苦い顔をしていた。


「風ちゃん、自問自答気持ち悪いわよ」

「そうだ。それに、この際好きに言わせておけばいい」

「その分、後が面白くなりますしね」


 有利の言葉に、みんな「そうそう」と頷く。芽榴だけがその言葉の意味がよく分からない。


「……?」


 首を傾げる芽榴にその解説はない。

 そして、同時にステージ上の颯の選挙説明も終わりを迎えていた。


『今から配る白い紙に自分が役員にふさわしいと思う人物の名前を書いてください。それをクラス分集めて各クラスの委員長が前に持ってきてください。この際、自身の名前でも友人の名前でも構いません。それから予め文句がないように言っておきますが、役員に投票権はありません。役員が投票したから、なんて後から難癖をつけることはやめるようお願いします』


 選挙が終わった後、必ず出てくるであろう文句を予め防ぐ。かなりの嫌味をもって颯はステージを下りた。


 そして、役員が各クラスの列に白い紙の束を渡しに行く。高等部生全員にその紙が回ったことを合図に選挙が始まった。


 周囲の人たちに頼んで自分の名前を書くようにお願いしている人もいれば、慌てたようにスマホを取り出してメールを作成する人もいて、誰とも相談せずにさっさと名前を書き上げる人もいる。


 そうして、全員が名前を書き上げた。


 クラス委員が前に行き、風雅の持っている白い箱の中に紙をすべて入れる。クラス委員がクラスの列に戻れば投票終了。


『それではこのまま開票に移ります。今この場で僕と葛城翔太郎と柊来羅の3人で票を整理します』


 壇上に翔太郎と来羅が白い箱を持ってあがる。


『それでは開票します』


 静かな体育館に颯の声がマイクを通して、鮮明に響き渡る。


 そして、芽榴は目を閉じた。


 颯が一枚ずつ白い紙を取り出し、それを見て翔太郎が出てきた名前と票数を正の字でカウントし、メモをとる。そのメモから、来羅が正式な結果をノートパソコンに打ちこんだ。


 その作業が繰り返され、10分ほど時間が経過する。依然、体育館は静かなまま。


 そして、千人近い生徒によって書きあげられた名前を全てチェックし終えた颯は壇上で一息吐く。


 その隣で来羅が翔太郎のメモから最終的な投票結果をまとめた文書を印刷し、颯に渡した。


 それを見た颯は、目を丸くする。


「颯クン……?」


 颯の反応に、風雅の顔が険しくなった。まさかの事態が起きたのかと壇下にいる芽榴と有利は動揺してしまう。


「……っ」

『それでは投票結果を発表します』


 颯の静かな落ち着いた声が再び館内に響く。それと同時に来羅が小型ビデオカメラをアダプターに接続して体育館の大型スクリーンに颯の手元をしっかり映した。


 全員が唾を飲み込む。そして颯の口から紡がれた結果に自然と口が開いていく。

 スクリーンに映し出された、颯が持っている紙に書かれている文はこうだ。


『102票、高等部2年楠原芽榴 当選』


 2年F組の列が一気に喜びの声をあげた。その声は伝染し、一気に体育館に騒がしさが戻る。喜びの声も残念がる声も不服そうな声もすべてが生徒たちの口からもれていく。


「102票……」


 映し出された文字を見て、役員は薄く笑い、芽榴は目を丸くしていた。








『私、生徒会を辞めるよ』


 早朝、F組で芽榴はみんなにそう告げた。もちろんそう言った瞬間、役員は血相を変えて芽榴の考えに反対意見を述べ始めた。


『違う違う。名目上、役員ファンの言う通り辞めるって話』

『どういう意味?』


 風雅はかなり複雑そうな顔をしていた。自分のせいで芽榴が辞めるなど、信じたくもなかったのだ。


『私がみんなみたいに最初から手を抜かずにいろいろやってたら、役員になったことに反論する人はいなかったんじゃないかって思ったんだ。もちろん、ファンクラブの人たちにとってはそんなの関係なかったかもしれないけど……。でもみんなが役員でいることに誰も反論しないのはそれだけの力量があるって認められてるからでしょ?』


 芽榴の意見にみんな口を閉じる。芽榴がトランプ大会で優勝したとき、芽榴は本当に何をしても平均的な女の子だった。だから学園中が芽榴をインチキだと言ったのだ。


『だから、そういう誤解の中で勝ち取った役員の座を1回返上する。そしたら、ある程度の人は納得してくれるだろうから』


 今の芽榴には敵が多すぎた。すべてを1からやり直すことで、その敵はだいぶ減るはずなのだ。


『そして、もう1回ちゃんと役員の1枠にふさわしい人物をみんなで選ぶ』

『選挙する、ということか』

『うん。それにキングの特権使ったんだー』


 芽榴が言うと、来羅は肩をすくめる。そんなことのために特権を使ってしまった芽榴を理事長同様来羅も無欲だと思っていた。選挙をして決まったことには、さすがに反論も少ないかもしれない。しかし、有利は眉を顰めた。


『でも……みんな自分に投票したり、それこそ信者たちはいろいろ手を回して票稼ぎをしてしまうんじゃ……』

『それでも票を稼げたら〝本物〟……そういうことかい?』


 颯の意見に、芽榴は頷いて肯定する。


『努力した分だけ認めてもらえるわけじゃないけど……私はみんなと出会って、ちゃんと変わったから』


 トランプ大会でみんなの隣に並んだ楠原芽榴には何もなかった。あのとき行われていたのがトランプ大会でなく、選挙だったなら確実に今芽榴はこの立場にいない。


 けれど今の楠原芽榴は努力の証明を確かに持っている。トランプ大会でも選挙でも、どんな手段を使っても、もう1度役員になれるだけの努力と証があるはず。そしてそれを知っている人は確かにいるはずなのだ。


『頑張った私を、私は信じてる』








 あのとき芽榴はそう役員に告げ、役員も芽榴のその言葉を否定しなかった。それを否定することは、芽榴の努力を否定することになるからだ。だから、成功するかは分からないまま、選挙を行った。


 そして芽榴は賭けに勝った。

 否、正確にはそうではない。芽榴の予想はこんな結果ではなかった。芽榴の努力を認めてくれている人がいたとしても自身が役員になる可能性を秘めた票を芽榴のために使う人はF組のクラスメートくらいだと思っていた。芽榴の凄さを目の当たりにしてきた彼らならきっと、何人かは芽榴にいれてくれる。


 F組の人数は50人。全員が投票したとしても芽榴を抜いて49票。53票は確実に役員でもF組の生徒でもない誰かがいれた票なのだ。


 芽榴が予想していたよりも、芽榴を認めてくれていた人がいた何よりの証拠――。


「楠原さん!」


 有利がスクリーンから目をそらして、芽榴のほうを振り向く。そんな有利の顔は芽榴よりも嬉しそうだった。


「へへっ。大大大成功だー!」


 芽榴はそんなふうに言って有利と拳を突き合わせる。ふざけた言い方だが、声も表情も芽榴は喜びで溢れていた。


「芽榴ちゃん……」


 嬉しそうな芽榴を見て、風雅は何とも言えない顔で笑った。芽榴が当選すると信じていたけれど、不安のほうが大きかった。結果発表寸前の颯の顔を見たとき、心臓が潰れるかと思ったくらいだ。


「本当に、よかった……」


 風雅はそう吐息混じりに呟いた。


 壇上の3人は、さすがに全校生徒の前で両手をあげて喜ぶわけにもいかず、静かに喜びを味わう。


「選挙してよかったかもね。いい結果が見られた」

「ふっ……もっと票が入ってもおかしくないだろう。俺はやはり不服だが」


 来羅の言葉にそうは言っても、翔太郎は嬉しそうだった。


「さて……次は何と言ってくるんだろうね」


 そんな2人を背に、颯は全校生徒を見下ろす。ポツポツと点在する、ものすごい顔をしている女生徒を冷笑を浮かべて見つめていた。

 まるで文句を言ってくることを待っているような言い草だ。


 颯の言葉に来羅と翔太郎は嬉しそうな顔から一変、颯と同じく悪い顔をして同じ方向に視線を向ける。


 そしてまるで3人の願いを受け入れたかのように、点在する愚かな信者の一人が口を開いた。


中途半端なところですが、長くなるので一旦ここで区切ります!

次話、生徒会動乱編最終回です!

VS信者――いよいよ決着です!!


芽榴ちゃんの獲得票数を少し増やしました。3/16

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