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麗龍学園生徒会  作者: 穂兎ここあ
文化祭編
130/410

116 お披露目と鬼ごっこ

 役員が去ってもF組は大盛況。

 甘いものを提供するお店であるため本来女性客のほうが多いはずなのだが、功利が訪れた時以上に男性客がたくさんやって来る。その理由はずばり――。


「ありがとうございましたー」


 現在美少女と化した芽榴である。


「ねぇねぇ、お姉さん」


 お客様をお見送りした芽榴に中で食事をしている男性客が声をかける。芽榴は「はーい」と言ってのんびりとした様子でそちらに向かった。


「ご注文ですかー?」

「お姉さん、彼氏いんの?」


 役員が去って一時間。もうすでに5回目となる質問に芽榴は半目になる。「いません」と答えるといろいろと面倒になるのはさすがによく理解したため、芽榴は返答に困ってしまった。


「えっとー……」

「こいつはダメです」


 誤魔化そうとした芽榴を庇うように立ったのは滝本だった。


「あ? お前、彼氏?」


 そう問われて滝本は「うっ」と言葉を詰まらせる。

 少し離れたところで舞子を含む数人のクラスメートがブッと吹き出した。


「……」

「ねぇ、こんなやつより俺らのほうがいいってー」


 絶句する滝本を無視して男性客が芽榴の腕を掴み、自分たちのほうに引き寄せようとする。芽榴はあからさまに顔を引きつらせた。


「ちょっと、触らないでくだ」

「あーーーーー! もう触んな! 見んな! 喋りかけんな!!!」


 そう言って滝本が芽榴のもう片方の腕を掴んで男性客から引き剥がし、舞子たち女子組のほうに突き飛ばした。


「いたた……ごめん、舞子ちゃん」


 舞子に支えられ、芽榴は少し申し訳なさそうに謝る。そして荒れ狂う滝本を困った顔で見つめた。


「滝本、落ち着けって」

「くっそーー! 楠原は顔じゃねーんだよ! あーもうあいつ表に出すなっつの! ふざけんなーーー!」


 男子組が暴れ出す滝本を必死に止め、急いで滝本を別の場所へと連れて行った。


「恥ずかしいくらいの公然告白ね」

「うん、死にたくなるよね」

「これで売上に支障があったら滝本くんは処刑ですね」


 芽榴と舞子、そして委員長は呆れるようにため息を吐いた。









 そして時は過ぎる。

 3日目の出店時間は13時まで。

 14時からは文化祭ナンバーワンの特大イベント、生徒会鬼ごっこがあるのだ。


 出店終了のチャイムが鳴り、少し空気がざわつく。

 生徒たちはそそくさと体育館に向かい、外部の方々はみんな校庭に設置されたビジョンの前へと足を進めた。


「芽榴、頑張ってね」

「うん。ま、ベストは尽くすよー」


 芽榴と舞子もそう言って別れる。

 役員と一般生徒、向かう先はそれぞれ別の場所だ。


 今、校舎に残っているのは役員だけ。


 芽榴は約束の13時に生徒会室へと向かう。扉の前に立って深呼吸をする。

 このイベントが文化祭最後と思うと、少しだけ寂しい気がした。それでもやはり楽しみなのは事実で、芽榴はゆっくりとその扉を開けた。


「失礼しまー……」

「柊! ふざけるな!」


 中に入るや否や、芽榴は聞こえた翔太郎の怒鳴り声に目を丸くする。緊張が走ったが、その光景を目にした瞬間芽榴は口に手を当ててなんとか吹き出すのを堪えた。


「あはは! 翔ちゃん、似合うじゃない!」


 そう笑う来羅は魔女っ子のコスプレをしていた。大きな真っ黒トンガリ帽子から綺麗な金色の髪が流れるように伸びていて、まさに《美少女魔女》だ。


 他の役員もすでにコスプレ衣装に着替えていた。


「ああ。翔太郎にピッタリだと思うよ」


 そう言う颯は翔太郎から目を逸らし、口元に拳を当てて失笑している。衣装は吸血鬼なのだろう。西洋映画のヴァンパイアが来そうな黒いマントに中は執事のようなタキシード、口には牙のようなものをつけていた。


「女子が寄り付かなくていいじゃないですか」


 さすがというべきか有利は真顔だ。この状況で笑わないのはすごいと思うが、指で自分の太腿あたりをかなり強く抓っていた。そんな有利はこれまた真っ黒なフード付きのマントに身を包み、中は真っ黒の和装。手には死神のように玩具の鎌槍を持っている。


「まぁまぁ翔太郎クン落ち着い……待って待って!」


 翔太郎に首を絞められる風雅は犬の耳のようなものを頭につけている。アラビアンなゆったりしたズボンのお尻の方には狼の尻尾のようなモフモフしたものがついていた。さらしを胸元に巻き、その上から茶色のチョッキを羽織り、そこから少し筋肉のついた腕が見えていてファンが喜ぶことこの上ない格好だ。


「地味にとは言ったが、これはギャグだろうが!」


 そう叫ぶ翔太郎はと言うと、着ているものは普段来ている制服なのだが、全身に包帯をグルグルと巻かれていた。顔面まで包帯で巻かれて目しか分からない。所謂ゾンビだ。


「葛城くん、蓮月くんが死んじゃうよー」


 そんな会話を聞いて、芽榴がやっと声を出した。

 みんなその声に振り返り、それぞれ「お疲れ」と声をかけてくれた。翔太郎は渋々風雅の首を解放し、風雅は「芽榴ちゃーん」と芽榴に泣きついてきた。


「離れようかー」


 芽榴は自分に抱きつく風雅を引き剥がす。いつもと違い、胸元をさらしで覆っているとはいえ、風雅は上半身は露出がかなり激しい。さすがにその格好で抱きつかれるのは抵抗があった。


「離れろ、風雅」


 颯は呆れるような声で風雅に告げる。しかし風雅は離れないため、有利が風雅を抑えて来羅が芽榴の手を引いた。


「るーちゃんも衣装に着替えましょう」

「柊! 俺の話は終わっていない!」


 翔太郎がゾンビの格好のまま告げ、やはり皆失笑してしまう。そんな翔太郎が少しだけ不憫になった芽榴は翔太郎のほうを向いた。


「私、ゾンビでいーよ。代わる?」

「……楠」

「ダメ! 芽榴ちゃんがゾンビとかありえない!」


 芽榴の提案に、いち早く風雅が反応する。そして颯も困ったように芽榴を見た。


「第一に代わるってことは芽榴の格好を翔太郎がするということだろう?」

「想像しただけで気持ち悪いです」


 颯の言葉に有利がやはり真顔で言う。そんなみんなの話を楽しそうに聞いていた来羅は翔太郎を見てニヤリと笑った。


「るーちゃんにここまで言わせて……それでも衣装気に入らない?」

「……っ!」


 役員たちの軽蔑の眼差しが翔太郎に突き刺さる。翔太郎はため息を吐いて、「分かった」と告げた。


「というわけで、るーちゃんはこっち」

「え、でも……」


 芽榴は心配そうな顔をするが、そんな芽榴を来羅が隣の空き教室へと連れて行った。


 空き教室にやって来た芽榴は来羅に渡された衣装を見て驚愕する。


「来羅ちゃん。えっとこれは……」

「可愛いでしょう? でも化粧されるのは予想外だったからちょっと失敗だったなぁって思ってるの」


 来羅は本当に困ったような顔をしていて、芽榴は化粧がまずかったのかと戸惑った。


「そうじゃなくてね。たぶん……まぁ怒られるのは私ね、特に颯から」

「へ?」

「じゃあ着替えたら戻ってきて」


 来羅は芽榴を残し、笑顔で教室を出ていく。


「にしても、これ……予想以上だなー」


 一人その衣装と向き合い、芽榴は大きなため息を吐いた。




 芽榴は衣装を着て、更なる大きなため息を吐く。衣装が可愛いのは芽榴も認める。おそらく来羅の言うとおり、F組の売り子衣装よりも可愛らしい。しかし、これは可愛い子が着るときに限る話である。恐ろしいことに空き教室には鏡がなく、自分で自分の姿をチェックすることができない。何にせよ、平均平凡な自分が着たら滑稽でしかない、そう思いながらも渋々芽榴はもう一度生徒会室の扉を開けた。


「失礼しまーす……」

「芽榴ちゃん! おか、えり……」


 予想はしていたが、やはり入ってきた芽榴に役員は固まる。芽榴の衣装を知っていた来羅だけがかろうじて苦笑していた。


「じゃじゃーん、テーマは黒猫アリス! どう?」


 来羅はやけくそと言わんばかりにハハハと笑って、芽榴を部屋の中に導いた。


 芽榴は現在、風雅とは対照的に猫耳を頭につけている。丸首白ブラウスに赤い大きなリボン、その上にフリフリのエプロンつきワンピースを着ていて、まるで『不思議の国のアリス』のアリスだ。もちろんお尻の部分には猫の長い尻尾がついていた。


「来羅は文化祭明け一週間、仕事3倍」


 颯が来羅に負けないくらいの満面の笑みで告げる。来羅はそれが分かっていたらしく笑顔のまま真っ青になった。


「来羅のバカー!」

「柊さん。これはやりすぎです」

「よりにもよって鬼ごっこでこの格好か」


 颯の発言以降、来羅は役員に集中攻撃されてしまう。来羅の言った通りであった。来羅はそんな役員の反応に、文句を言わず困り顔ですべて「はい、ごめんね」と謝る。


 芽榴の格好が原因で来羅が怒られていることは事実。鬼ごっこは役員のコスプレを期待している人も多いと芽榴も聞いていた。

 芽榴が来羅に「ごめんね」と謝り、来羅が「え?」と頓狂な声を上げ、そしてすぐに半目になった。


「似合わなくてごめんなさい」

「「「「「そうじゃない」」」」です」


 俯いた芽榴に、役員全員が心底困った顔で告げるのだった。








 予定時刻になり、体育館のスクリーンとそして校庭に設置された大型ビジョンのスイッチが入る。瞬間、辺りからは悲鳴じみた叫び声があがった。


「みなさんお待たせしました」


 ビジョンには吸血鬼姿の颯が映っており、颯ファンはもちろん他の役員ファンも顔を真っ赤にする。


「生徒会鬼ごっこのルール説明を行います」


 外向き用の完璧な笑顔で画面の中の颯が喋り始めた。


「これから一時間、役員を捕まえる鬼ごっこを始めます。鬼は全校生徒です。昨年同様、役員を捕まえた生徒は50ポイント獲得、それからその役員との写真撮影等を行います」


 颯は業務連絡を告げるかのように淡々と無駄なく説明を続ける。


「そして外来のみなさんは鬼ごっこで捕まる役員を予想し、外にいる学園の先生方から予想した役員の番号札をもらってください。抽選で当たった方数名に、生徒同様役員との写真撮影等のプレゼントがあります。是非参加してみてください」


 それを言い終わると、颯しか映っていなかった画面がいくつかに分割される。そこにはそれぞれ役員の姿が映っており、お目当ての役員を見つけた観客は大興奮だ。


「現在役員はカメラの設置場所にいます。スタート同時に役員も動きますが、学園各地に設置された柊来羅特製のカメラで随時役員の居場所は把握できるようになっていますので、参考に」


 そして再び画面が颯一人を映し出す。


「それではみなさん、鬼ごっこスタート」

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