第一話 山田
いったい誰がわたしのメッセージを書き換えたのだろうか?
山田・・・?
そんなはずは無い。『女に興味はねー』と書いたのは山田だ。この学校では、音楽の授業は各クラスに週一度あるだけ。火曜日に里奈ちゃんのメッセージに気付いて、木曜日の放課後に新たなメッセージがあったという事は、火曜日の午後から木曜日までの間に山田のクラスの授業があるということになる。わたしの書き換えたメッセージに気付いて書き換えることが出来るのは、金曜と月曜に音楽の授業があるクラスだけだ。つまり山田ではない。
では誰だ?
そいつは私が書き換える前の里奈ちゃんのメッセージの事を知っていたのだろうか?そうでなければ返事は書けないはずだ。しかし音楽の授業は週に一度。少なくとも二度はこの部屋を出入りする人でなければこんなことは出来ない。そんなことが出来るのは・・・。
吹奏楽部だ。吹奏楽部の生徒なら毎日放課後に音楽室に来る。私のメッセージを書き換えたのはきっと吹奏楽部に間違いない。
しかしそうなると、あの『女に興味はねー』も山田ではなく吹奏楽部の仕業かもしれない。
(ややこしい)
頭がくらくらしてきた。
とにかく、このままでは『女に興味はねー』と書いた人物に里奈ちゃんの丁寧な返事を見られてしまう。これを書いたのが山田だとしたら、つじつまが合わないことに気づかれてしまう。私は消しゴムを握り締めた。
里奈ちゃんの字を綺麗に消し、里奈ちゃんの字の真似をして文字を書き換える。
『そうですか。わかりました。あきらめます』
(木曜日にまたこの机を見よう)
そう考えて音楽室を出た。
放課後、けだるい脚を引きずってクラブに向かう。文化祭に出すため、今週中に完成させないといけない絵がある。テキパキと塗っていかなければならないのだが、クラブ中も里奈ちゃんのことをちらちら見てしまう。これは山田に嫉妬しているということだろうか?そんな感じがする。校内でもカワイイと噂される里奈ちゃんは、少し絵の上手い私に絵を描くコツを聞いてきたり、絵をほしいと言ってくる。そんな里奈ちゃんが山田などというどこの馬の骨とも分からない男に取られるのは腹が立つ。・・・私は変態だな。
「・・・気持ち悪」
ため息混じりに愚痴がこぼれた。
次の日、英語の教員が出席表を持ち去り忘れたので、こっそり中をのぞく。三年のクラスも載っていた。三年生、一組から七組までにいる山田という男を探す。
居た。確かに居た。三人も。
(どいつだよ?)
何で日本には山田がこんなにいるのだろう?目星を付けるのは諦めることにした。
木曜日。放課後、音楽室の掃除に向かう。
机の文字がまた変わっていた。
『このやり取りを続けてくれる人へ
ボクはこのやり取りがおもしろい。
つじつまは合ってないけど、もう少しやってみない?
山田』
私に話しかけている。また山田は私を混乱させてくる。
思っていた通り、つじつまは合ってなかったようだ。それどころか今は、そのつじつまの合っていないやり取りを続けてほしいと言ってくるではないか。こんな訳のわからないことを続けるなんて御免だ。
私は文字を消し、『NO』と書いた。
(こんな事していないで早く掃除を片付けよう)
掃除をしていてじわじわと腹が立ってくる。
誰があんなことを続けるというのだろう。面白がられて続ける人が居るとは思えない。
掃除を終えて美術室へ向かった。
今日で私も絵を完成させたいところだ。早くこの樹の絵を終わらせたい。
五時ごろにもなると、この時期はもう暗くなり始める。窓の外の、哀愁を感じさせる空のまどろみを、わたしは何気なく見つめていた。
「できたー!」
里奈ちゃんが歓喜の声を上げた。あの花の絵が完成したらしい。
「おつかれー。おお、上手くできたね」
「つかれたー」
私は里奈ちゃんの完成した絵を眺めた。
多種類の花に埋もれる女性の絵だ。なかなかの物になっている。
「タイトルとかは?前にある紙にクラスと名前とタイトル書けって先生言ってたよ」
「ああ、あれもう書いたよ」
里奈ちゃんが見せてくれた紙にはもう記入することはすべて書かれていた。
『二年五組 山下里奈
秘密の園に抱かれて』
(ん?)
「里奈ちゃんこれ誰に書いてもらったの?」
「自分で書いたに決まってるじゃん」
「うそぅ。里奈ちゃんこんなに字上手かった?」
音楽室の机にあった落書きの文字と違いすぎる。音楽室に有った字はこんな、止め、跳ね、掃いのしっかりした字ではなかった。普段はこういう字を使わないのだろうか。
「私小学校のころお習字ならってたから字には自信あるんスヨ」
と言って、里奈ちゃんは自分の歴史のノートをばっと広げて見せてくれた。達筆だらけでクラクラしてくる。
(マジかよ)
そして今週の火曜日、音楽室の自分の席には何も書かれていなかった。私はもうやりたくなかったメッセージのやり取りをまた始めた。
『誰が山田という人に手紙を書いたの?』
そして今日。音楽室の机にはこう書かれていた。
『誰が書いたかはハッキリしないけど、俺に宛てて書かれたものじゃないと思うよ。
掃除がすんだ後、もう少し待ってて。教えに行くから』
(私のことを知っている・・・・・・・・・・どうしよう)
山田が来る。逃げ出してしまおうかと思ったが待つことにした。なんと言おうか、山田に会いたいと思えたからだ。
しばらくたって音楽室の扉が開いた。入ってきたのは、音楽の山田先生だ。
(まさか・・・・)
「ん?山元ここでなにしてる」
(何してるって、待ってんだよぅ。山田ってのを)
「人を待ってます」
「どうでもいいけど、そこは指定席だから他のとこにしといてあげろよ」
「・・・?」
言われるままに席を隣に変える。どうやら先生が書いたのではないらしい。
「ちわー」
ぬけた声と共に男子生徒が入ってきた。そいてスッと私の方をみる。どうやらコイツらしい。
上履きの色が三年生の青だ。肩には楽器を持っている。
「山元さん?」
「山田・・・?」
私は一つうなづいて聞き返した。
「うん。その席のやり取りを見てて、続けてほしいって言った山田。君は二年の山本さんだね」
私は山田を見たまま鳥肌が立った。山田は私のことを何でも知っているように感じられたからだ。まるでストーカー。互いの認知が一方的過ぎる様な気がして、それが恐かった。それと同時に、どうして私のことを知っているのか知りたいと思った。
私は何も言い出せずに、ただ山田を睨み付けていた。
やっぱり文章が変です・・・
がんばります・・・




